「フルオラスケミストリー」

11月 6th, 2014

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1、はじめに
フルオラスとは、「親フルオロカーボン性」の意味で、高度にフッ素化されているゆえ、水や有機溶媒とも混和せず、また、低表面エネルギー、耐熱性、光学あるいは電気的特性を有する。この性質を利用した、中間体および生成物の分離を容易にする合成(フルオラス合成)や新規材料として期待されている。本稿ではフルオラスケミストリーを最新の文献から紹介する。

2、フルオラス合成
フルオラス合成の概念図は下記の通りである。1)即ち、フルオラスタグと言われるフルオラス基を原料に導入してフルオラス分子を作製し、液相反応を行わせ、過剰な試薬を有機層に分離しながらフルオラス層に目的物のフルオラス分子を分配し、タグを切断して、有機層に目的物を分離する。蒸留などの操作なくして高純度目的物が得られる。
FT0
Zhong-Xing Jiangらは、フルオラスタグとして下記のフルオラスベンジルブロミドを用い、単分散ポリエチレングリコールを合成した。2) 
FT1
即ち、下記に示すようにHO(CH2CH2O)3CH2CH2OHをトリフェニルメチルクロリド(TrtCl)でトリフェニルメチル化後、トシレート化して9を合成、さらに6によりフルオラス化した10を合成した。そして、トリフェニルメチル基を外し11とし、9と反応させてエチレングリコール鎖を7に増大させた。その後は繰り返し操作を行い、エチレングリコール鎖19に増大させ、最後にフルオラス基を外して、単分散のポリエチレングリコールを高純度で得た。ここで、FSPEはフルオラス固相抽出、SPEは固相抽出であり、いずれも効率的に中間体および目的物を分離できた。
FT2
Pedro M. Nietoらは、下記左に示すようにグルクロン酸のカルボキシル基をC8F17基でフルオラス化し、FSPEを利用して簡便に下記右のヒアルロン酸トリサッカライドを合成できた。3)但し、収率は低かった。これはFSPE後のフルオラス中間体のロスが大きかったことによるとしている。
FT3
松儀らは、フルオラスタッグとして、下記のフルオラスFmoc試薬を合成し、アンジオテンシン(ACE)変換酵素阻害薬類似体を含む18のトリペプチド合成を行っている。4)
FT4
まずはFmoc試薬によりアラニン、フェニルアラニン、ロイシンなどのアミノ酸をフルオラスタッグ化する。その際、アラニンはRf=C3F7、フェニルアラニンはRf=C4F9、ロイシンはRf=C6F13と鎖長を変えておくので、フッ素の数でいえばアラニンの場合14(f14)Ala、フェニルアラニンは18(f18)Phe、ロイシンは26(f26)Leuとなる。次いで、縮合剤を用いて上記3つにバリンを加えた4種のアミノ酸のベンジルエステルと縮合化してジペプチド体を得る。さらに同様に4種のアミノ酸ベンジルエステルと縮合化して6グループ18種のトリペプチド誘導体とする。収率はいずれも86%から98%と高かった。こうして得たトリペプチドはRf基の鎖長の異なる3種のトリペプチドにグループ分けされており、例えば、グループAはf14-Ala-Ala-Ala-OBn、f18-Phe-Ala-Ala-OBn、f26-Leu-Ala-Ala-OBn(Bnはベンジル基)。従って、簡単にフルオラスHPLCで分離できる。その後は、ジエチルアミンで脱Fmoc反応を行い、トリペプチド体をほとんどロスすることなしに得ることができたとしている。

新規フルオラスタッグについての合成法については、水野らが下記の1~3を提案している。5) これはクロトン酸エチルから合成でき、酸に対する耐性が高い。
FT5
いずれも中央に反応性の高いOH基を有し、ターゲット分子との結合のみならずタッグのリサイクルに有用である。

TomásStrasákらは、下記の構造の新しいフルオラスタッグを提案している。ここでRf6はC6F13。そして、これを用いて、親フルオラス性シクロペンタジエニルCo錯体を合成している。6)
FT6

3、新規材料
フルオラス化合物は、触媒や無溶媒固層抽出剤などの新規機能材料として期待されている。

Chun Caiらは、下記のフルオラスビスオキサゾリンを合成し、ニトロメタンと種々のアルデヒドとの銅触媒Henry不斉反応のキラルな配位子として使用した。7)
FT7
その結果、エタノールを溶媒として使用した場合、99%のエナンチオ選択性で反応が進行することが分かった。そして、フルオラス配位子はFluoroFlashシリカゲルでフルオラス固相抽出することにより簡単に回収でき、活性もほとんど変わらず再使用することができた。

配位子の水素がフッ素に置換されたフルオラス金属-有機骨格(FMOFs)は、優れた光学的および電気的特性のみならず高耐熱性、低表面張力を有する。Ya-Jie Kongらは、ランタニド族のEuのパーフルオロ安息香酸、フェナントロリン錯体を合成し、それが、蛍光強度が大きく適度な発光量子効率を有していることを確認している。8)

Stephen Weberらは、下記右のTeflonAF-2400に左のKrytox 157FSHをドープしたフィルムを用いて、キノリンなどをその水溶液から固相ミクロ抽出法により効率よく抽出している。9)川などの水中に存在する有害有機物質のフルオラス抽出材として期待できるとしている。
FT8

4、おわりに
フルオラスという名前が登場したのは1990年代である。パーフルオロアルキル基などのフッ素コンテントの高い基を導入して、水は勿論のこと有機溶媒にも溶けない状況を作りだし、分離を簡便かつ効率よく行うことができた。最近ではポリエチレングリコール、ペプチド、糖類などに応用されるケースが多く、期待度はますます高まっている。

文献
1) 後藤浩太朗 ファインケミカル40(2011) 31-37
2) Zhong-Xing Jiang et al Tetrahedron Letters 55(2014) 2110-2113
3) Pedro M. Nieto et al Carbohydrate Research 394( 2014) 17-25
4) 松儀真人ほか 名城大学総合研究所紀要19(2014) 41-44
5) Mamoru Mizuno et al J. of Fluorine Chemistry 166(2014) 52-59
6) TomásStrasák et al J. of Fluorine Chemistry 159(2014) 15-20
7) Chun Cai et al J. of Fluorine Chemistry 156(2013) 183-186
8) Ya-Jie Kong et al J. of Fluorine Chemistry 166(2014) 122-126
9) Stephen Weber et al J. of Chromatography A 1360(2014) 17-22

「フッ素ドープ酸化スズFTO」

10月 16th, 2014

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1、はじめに
フッ素ドープした酸化スズ(FTO)は、スズをドープした酸化インジウム(ITO)に代わり安価な透明導電膜として注目されている。そして、化学的に安定で、機械的強度が高く、高温耐熱性を持ち、物理的剥離にも強く、オプトエレクロニやタッチスクリーン、色素増感型太陽電池、薄膜太陽電池、キャパシタ、省エネ窓をはじめとするさまざまな用途が考えられている。FTOの課題は光電気特性の向上、つまり導電率と光透過率の両立にある。ここでは、最近の文献からその課題解決法として提案されている、アニール処理法、複合層の形成法についての開発状況を述べる。

2、アニール処理
FTO膜は、比抵抗が10-4Ω・㎝台まで到達し、導電性の高い膜が比較的容易に得られる反面、逆に透過率の高い膜は得にくい傾向があった。これはFTO膜ではキャリア電子密度を比較的容易に増大することが低抵抗化を可能にしているのであるが、キャリア電子の増加は光学吸収を招くため光透過率は低下してしまうためである。低抵抗化のためにはアニール処理(熱処理)が広く行われている。アニール処理によりキャリア密度を高めることにより低抵抗化を図ると、光学吸収を招き、光透過率が低下してしまう。アニール処理によりキャリア電子の移動度を上げることができれば透過率を維持したまま低抵抗化が図れる。そのポイントは酸化錫の酸素の脱着にあり、アニールを500℃で行い、その後再吸着を防ぐべく280℃以下まで温度を下げることにより、光透過率と低抵抗化を両立させることなどが提案されている。

アニールは高温で長時間行われるとFTO膜が劣化するのでレーザーを用いたアニール法が開発されている。Ming Zhouらは、AZO(アルミニウムドープZnO)/FTO膜を作製し、532nmの波長をもつナノ秒レーザーを照射して、種々の導電率(シート抵抗値7.8~5.7Ω/□)と光透過率(波長380-780nm範囲で80.3~83.6%)の組合せを実現した。1) 

3、複合膜
K. Ravichandranらは、導電性と光透過率の両立のために、FTO/AZOの二重層を検討している。2)FTO/AZOの厚み600nmの比率を1/5、1/2、1/1、2/1、5/1と変えて検討している。導電率については下表の通りであり、光透過率についての波長依存性は下図の通りである。比率が5/1の時、9.141×10-3Ωcm、可視光領域では平均して85%の光線透過率であった。また吸収端がブルーシフトしていることが分かる。
FT1

F. I. Chowdhuryらは、FTO表面をエッチングして反射を抑え、光透過率を向上させる提案を行っている。3)下図に示す、表面を長方形あるいはピラミッド形にエッチングすることが試みられ、前者は1~2%(81~82%)、後者は5%(85%)向上する結果を得ている。
FT2

B. Subramanianらは、FTO膜上にZnO膜を形成させ電極とし、対極にPt薄膜をFTO上に形成させた電極を用い、色素増感型太陽電池を作製し、光電変換効率3.02%を得ている。4)

Jianjun Zhangらは、FTO表面を粗面化と同時にAZO膜を形成させて透過率を上げ、色素増感型太陽電池として、光電変換効率を2.41から2.91%に向上させた。5)

Guangwu Yangは低密度ZnOミクロロッドをFTO上に配列させることに成功した。6)また、Youfa ZhangらはZnOのナノロッドをFTO上に配列させ、表面積を増大させた。7)いずれも将来のエレクトロデバイスとして期待されるとしている。

Sang Jae Kimらは、下記に示すFTO上にTiO2ナノロッドの膜を水熱法で作製し、スーパーキャパシタに適用した。8)ナノロッド膜は核形成後成長し正方晶ルチル相のロッドとなった。膜は均一で高密度であり、キャパシタの電極性能は、5mV/secでスキャンした場合の比容量85μF/㎝、1000サイクル後に80%の容量が維持される高性能を示した。
FT3
C.D. Lokhandeらは、FTO上にポリアニリン膜を作製し、スーパーキャパシタに適用した。9)水の接触角が29度と親水性を示し、5mV/secでスキャンした場合の比容量値546F/gを得ている。

Jiang-Jun Janらは、FTO上にCoSナノチューブを配列させ、スーパーキャパシタに応用している。10)性能としては、0.5A/gで比容量値660F/ gを得ている。

4、おわりに
透明電極として使用されているITOはインジウム主体の化合物であり、コストが高い。その代替としてフッ素を数%ドープしただけのFTOが期待されている。光電気特性を向上させるべく、単独ではアニール法や表面粗面化法が開発されている。また、他の導電性化合物との複合化が盛んに行われていて、太陽電池やキャパシタへの応用展開が進行している。今後に期待したい。

文献
1) Ming Zhou et al Applied Surface Science 265(2013) 637-641
2) K. Ravichandran et al Superlattices and Microstructures 64(2013) 185-195
3) F. I. Chowdhury et al Energy Procedia 42(2013) 660-669
4) B. Subramanian et al Electrochimica Acta 137(2014) 131-137
5) Jianjun Zhang et al Materials Letters 130(2014) 75-78
6) Guangwu Yang Materials Letters 90(2013) 34-36
7) Youfa Zhang Materials Letters 131(2014) 178-181
8) Sang Jae Kim et al J. of Alloys and Compounds 561(2013) 262-267
9) C.D.Lokhande et al Chemical Engineering J. 223(2013) 572-577
10) Jiang-Jun Jan et al Applied Surface Science 311(2014) 793-798

「希土類フッ素化合物」

9月 2nd, 2014

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1、はじめに
希土類は17種類の元素からなり、いわゆる31種類のレアメタルに属する。その埋蔵量は原子によって異なり、磁石やレーザー材料に使われるネオジウムは0.0022%で亜鉛と同程度の埋蔵量である。また、ユーロピウムも0.0010%で比較的多い。1)希土類はフッ素或いはフッ素化合物と種々の錯体を形成し、有用な材料としての可能性が紹介されている。本稿では、最近の文献からその一端を紹介する。

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2、Ln(OC6F5)32)
C6F5O基はランタニド錯体の蛍光発光性を高める。錯体の合成法は下記の通りである。ベンゼンやトルエン溶媒を用いた場合は、溶媒和しない錯体が高収率で得られるが、エーテルやメタノール中では溶媒和した錯体となる。
FT1
上記(1)-(3)は140℃で、(4)-(9)は60℃で脱溶媒し、150℃で分解してLnF3になる。これはC6F5のオルト位のFと金属原子との反応が起こるからである。耐熱性を上げる試みとして、フェナントロリンを導入する方法が行われ、300℃まで分解しないことが分かった。また、ピリジンやビピリジルの導入も耐熱性を向上させた。

それらの光ルミネセンススペクトルを下表に示す。メタルイオンの発光に加えて405-415nm範囲の配位子のピークが観察された。
FT2
3、NaYF4
最近、Er+をドープしたNaYF4が最も低いフォノンエネルギーマトリックス物質であるということで注目されている。但し、アップコンバージョン発光は不十分というレベルである。Han YuらはNaYF4にErとYbをドープした物質に下表に示すSnの量を変えて導入した系においてアップコンバージョン発光を高め、減衰時間を減少させる検討をしている。3)
FT3
その結果、下記に示すようにSnが3mol%導入された系Sn3でSnのない場合に比べて7倍のアップコンバージョン発光強度が得られ、有望であるとしている。
FT4
また、Bing YanらはコドープしたNaYF4:Ln3+(Ln=Eu(2mol%)、Yb/Er(20/2mol%)、Yb/Tm(20/2mol%))を合成し、イオン液体([C6mim][Cl])中に分散させ、ゲル化しやすい中性多糖アガロースを用いて均質な発光ゲルを作製、アップおよびダウンコンバージョン発光を実現した。4)

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4、希土類含有酸化フッ化物ガラス
米沢らは新しいフッ化物イオン導電体として、二元系希土類金属酸化物フッ化物を検討し、高いイオン伝導性があることを見出した。5)そして、Nd2Eu2O3F6が定比組成でありながらイオン伝導性を示すこと、その合成プロセスの中で、ガラス状の物質を得、その分析から新規希土類酸化フッ化物ガラス系を比較的簡単なプロセスで得ることができることを見出した。しかし、LnF3-SiO2-Al2O3系では高温時での加水分解の進行、フッ酸と炉材との反応による不純物の混入などが起こり、再現性が困難であった。そこで、SiO2の代わりにGeO2を導入して解決できた。下図にNd3-AlF3-GeO2の系におけるガラス形成ダイアグラムを示す。白抜きの○がガラスで●は結晶である。
FT5
上図から広い範囲でガラス化が可能であり、最大70%のNdF3を含むガラスが可能であることが分かる。フッ化物イオンを含むバイナリアニオン系ガラスが発色性のあるNdを含むため、酸化物ガラスに比べて小さいフォノンエネルギーが期待でき、フッ化物ガラスに比して熱的に安定であるという特徴を有している。ここではさらに他の希土類系での確認やバイナリアニオン系に希土類をコドープすることにより発光強度の改善などが検討されていて、本研究をベースにして応用展開が期待されるとしている。

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5、YF3ナノ中空糸
Xiangting Dongらは、YF3:Eu3+ナノ中空糸を作製し、発光特性を調べた。6)合成は、電界紡糸により得られたポリビニルピロリドン(PVP)/[Y(NO3)3+Eu(NO3)3 ]ナノファイバーを焼成して作製したY2O3:Eu3+中空糸をNH4HF2でフッ素化して行った。下図にその工程を示す。
FT6
YF3:Eu3+ナノ中空糸は直径197±34nmの中空が中心の構造を有している。394nmUV照射下では、Eu3+イオンの5D0→7F1遷移に基づく587nm、593nmに赤色発光ピークを示した。このことはEu3+イオンがYF3結晶の中でC2対称であることを示唆している。発光強度はEu3+イオンの濃度とともに増大し、9mol%の時に最大になった。

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6、おわりに
希土類フッ素化合物について、最近の文献から紹介した。発光性を中心に興味ある性質を示しており、また多種多様な化合物の可能性が示されていた。今後重要な分野になっていくと考えている。

文献
1) 長谷川靖哉 化学工業 2014年5月号 20-25
2) A. Maleeve et al J. of Organometallic Chem., 747(2013) 126-132
3) Han Yu et al J. of Solid State Chem. 207(2013) 170-177
4) Bing Yan et al  Spectrochimica Acta. Part A :Molecular and Biomolecular Spectroscopy 121(2014) 732-736
5) 米沢晋 Electrochemistry 81(2013) 710-716
6) Xiangting Dong et al  J. of Fluorine Chem. 145(2013) 70-76

「PVDF」

8月 4th, 2014

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1、はじめに
PVDFおよびその共重合体は、誘電率が最も高く、圧電、焦電、強誘電性を含む電気活性があり、圧電材料や出力デバイスなどのエレクトロニクス分野で使われている。一方、PVDFは熱的安定性、化学的安定性が高く、機械特性に優れ、耐久性が抜群であるため分離膜の分野で使用されている。本稿では、それぞれの分野における状況、動向について、最新の総説を中心に述べる。

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2、エレクトロニクス用途1)
PVDFには、下図に示すように、α型、β型及びγ型の3種の結晶構造が存在する。その中でβ型は、電気陰性度が最高のF原子が一方に並ぶので、双極子モーメントが、単位胞当り8×10-30Cmと非常に高いが、F原子が一方と反対方向にそれぞれ同じように並ぶα型は0であり、γ型も低い。従って、圧電性、焦電性、強誘電性の高いのはβ型である。
FT1
次いで、β型の製造・加工法であるが、α型の機械的延伸、溶融結晶化、溶媒キャスト法、共重合法、フィラーとのコンポジットなどがある。

まずは、延伸法であるが、この場合、高圧、外部電場、超冷却などの条件が必要である。開発例は多くあるが、延伸においては、温度と延伸比Rが重要だとしている。温度は80℃から140℃、Rは1から5において検討され、温度は80℃から90℃、Rは4.5から5が最適であり、抗電界、残留分極、飽和分極を増大させるとβ型が増大する。但しこの方法では圧電性や耐熱性が不十分である。理由は結晶のサイズが小さいからだとしている。

次いで、高圧での溶融結晶化である。下図に示すように、温度と圧力を変えた場合、a‐a’のようにα型結晶カーブとクロスさせるような温度と圧力を選ぶとα型のみが得られ、 c-c’のような場合はβ型のみが得られる。b‐b’の場合はα型とβ型が共存する。
FT2
さらに溶媒キャスト法であるが、電界紡糸による方法が述べられている。この場合、電圧と回転コレクタの回転速度がβ型のコンテントに影響する。さらに、アセトンのような低沸点溶媒を加えるとβ型のコンテントが上がった。また、PVDFのアセトン/DMF溶液をシリコンウエハー表面にスピンコートするとβ型がメインのフィルムが得られた。その他、PVDF溶液からの沈着LB膜の作製、DMF溶液を70℃以下で結晶化させることによる多孔質なPVDFの作製とさらに温度を140-160℃に上げて孔を除く方法などがある。

また、共重合法であるが、共重合することによりPVDFとしてはβ型の方が安定であり、結果としてβ型の製造法の一つになっている。ポリ(フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン)P(VDF-TrFE)、P(VDF-CTFE)が紹介されているが、その圧電性は、いずれもPVDFと同等以上の圧電性を有していた。

最後に、フィラーとのコンポジットであるが、これもフィラーを導入することによりβ型構造が有利になり、圧電性が増大している。カーボンフィラーの場合の原理は下図に示すように水素側がカーボンと相互作用を持つためβ型が有利になる。
FT3
次いで、PVDF特にナノコンポジットを中心とした応用が取り上げられている。PVDFは圧電性や焦電性において、強誘電性セラミックには劣っているが、誘電率が低い、熱伝導度が低い、ソフトで可撓性がある、インピーダンスが高い、比較的低コストであるなどの利点を有していて、主にセンサー、アクチュエーター、電池、フィルター、化学兵器の防護、磁気電気体、最近ではバイオ医療分野で使用されている。この中で磁気電気体は、P(VDF-TrFE) にCoFe2O4のナノ粒子を分散させたものが高い磁気電気効果を有していて、磁気異方性センサーやアクチュエーターとして期待される。次いで、圧電性の向上を狙った高配向繊維状BaTiO3とPVDFのコンポジットやPZTおよびCNTとPVDFのコンポジットが紹介され、圧電性センサーやアクチュエーターとして期待されている。さらに、PVDFとLiBF4のコンポジットがリチウムポリマー電池の電解質として期待されている。また、燃料電池の水素源をNaBH4の加水分解により得る方法においてY-ZeoliteとCoCl2をドープしたPVDFナノファイバーのコンポジットが優れた触媒であることが述べられている。

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3、膜用途2)

3.1 応用
PVDFは高耐熱性、化学的安定性、膜形成能を有していて、膜蒸留、ガス分離、汚染物質除去、バイオエタノール回収、LiBのセパレータ、コンポジット膜作製の支持体などに応用されている。

まずは、水処理におけるろ過膜であるが、精密ろ過(MF)、限外ろ過(UF)、膜分離活性汚泥(MBR)がある。MFは0.05-0.1μmから10μmの粒子を分離すし、水の濁度を下げる。熱誘起相分離(TIPS)法により作製、機械的強度が高い。パイロットスケールの濁度、15分SDI値、CODにおいてRO膜に匹敵する値が得られており、低塩素濃度水での逆洗で簡単に元に戻るとの報告がある。UFは孔径が0.01‐0.1μmの膜である。水溶液などからウイルス、乳化オイル、金属水酸化物、コロイド、たん白質などを分離する。一般的には非溶媒有機相分離(NIPS)法で作製されるが、溶媒を使った作製法、中空繊維膜法、電気紡糸法などが紹介されていて、タンパク質の分離などに使用されている。MBRは通常の生物学的排水処理と膜分離とを組み合わせたもので、活性汚泥法などの代替として魅力あるものとしている。

次いで、二つの相の接触を維持させる膜接触器であるが、疎水性のPVDF膜がよく使用され、膜蒸留、酸性ガスの吸着、ホウ素や揮発性有機物の分離などの用途がある。下図に酸性ガスの吸着についての原理概念図を示す。PVDF膜接触器の孔径や気孔率により酸性ガスを分離できるとしている。
FT4
さらに、浸透気化によるバイオ燃料の回収、コンポジット膜作製時の支持体、LiBのセパレータなどの用途が紹介されている。

3.2 PVDF膜の親水化

PVDFによる水処理において汚染は課題である。これはタンパク質などが疎水性の表面に吸着しやすいからで、親水性改質剤を添加する必要があった。まずは、親水性改質剤のブレンドによる導入法がある。改質剤としては、PVA、PEGやポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマーがあるが、PVDFに対する相溶性が乏しく、機能が発揮されなかった。そこで、スチレンとPEGMAとのブロック共重合体やPVDFにポリアクリロイルモルホリンなどをグラフト重合したポリマーなどが開発されている。また、TiO2やSiO2などの無機物を添加する方法も検討されている。次いで、PVDF膜の表面改質の方法が述べられている。一つは物理的な表面改質法で、親水性ポリマーあるいは両性ポリマーのコーティングと沈着である。これにより耐汚染性は改良されたが、水分流動率の低下や膜強度の低下などの課題も生じている。二つは化学的な表面処理法である。膜表面を化学処理あるいは放射線処理して親水性モノマーをグラフト重合する。例えば、電子線照射アクリル酸のグラフト重合において、グラフト率18%で水の接触角35度を得ている。しかも共有結合しているため、持続性は永久的だが、PVDFの分解を伴うので実用化は制限されている。

3.3 PVDF膜の疎水化

PVDF膜の問題は濡れ性にあり、物質移動を妨げている。従って、表面の疎水化を強めることが行われている。即ち、PVDF表面の水の接触角は90度であるが、さらに相分離させて118.5度に、PTFEとのブレンドにより114.5度に、そして、PVDF-HFP共重合体化することにより125度まで上げた例が示されている。また、表面粗面化については、ナノSiO2あるいはTiO2のコーティング、プラズマ処理、アルカリ処理などにより、表面を粗面化して超撥水表面を得ている。

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4、おわりに

PVDFに関しては特許やその他の文献は多数報告されており、その関心の高さが伺われる。特許では主に、圧電性の向上を狙ったもの、圧電性を利用したエネルギー変換素子、光音響診断装置、積層型発電体、超音波振動子などの用途特許が目に付いた。また、文献では、グラフェンとの複合体、電気紡糸ナノファイバー、PVDF膜の孔制御、PVDF膜表面の疎水化、耐汚染性の改良、中空糸の製造法などが見られた。

文献
1) S. Lanceros-Mendez et al Progress in Polymer Science 39(2014) 683-706
2) Yi-ming Cao et al Journal of Membrane Science 463(2014) 145-165

「含フッ素液晶材料」

7月 4th, 2014

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1、はじめに
含フッ素液晶材料については、2011年1月号で取り上げた。その時の内容を概括してみると、フッ素は高速応答性、高コントラスト比、低消費電力などの機能に大きく貢献していて、その更なる高性能化を目指した開発が活発であるとしている。本稿では、このことを踏まえ、その後のフッ素系液晶材料の動向を述べる。

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2、液晶表示素子および液晶材料の概要
液晶表示素子は、パソコン、テレビなどのディスプレイに広く利用されている。この素子は、液晶性化合物の光学的異方性、誘電率異方性などを利用したものである。液晶表示素子の動作モードとしては、PC(phase change)、TN(twisted nematic)、STN(super twisted nematic)、BTN(bistable twisted nematic)、ECB(electrically controlled birefringence)、OCB(optically compensated bend)、IPS(in-plane switching)、VA(vertical alignment)、PSA(polymer sustained alignment)などが知られている。

素子の駆動方式に基づいた分類は、PM(passive matrix)とAM(active matrix)である。PMはスタティックとマルチプレックスなどに分類され、AMはTFT(thin film transistor)、MIM(metal insulator metal)などに分類される。
液晶材料は十数種類の液晶化合物の組成物である。組成物の物性が素子の特性に及ぼす効果を下表に示す。

組成物の一般特性 AM素子の一般特性

ネマチック相の温度範囲が広い 使用できる温度範囲が広い

粘度が小さい 応答速度が速い

光学異方性が適切 コントラスト比が大きい

正または負に誘電率異方性が大きい 閾値電圧が低く、消費電力が小さい
コントラスト比が大きい

比抵抗が大きい 電圧保持率が大きく、コントラスト比が大きい

紫外線および熱に安定 寿命が長い

弾性定数が適切 コントラスト比が大きい 応答時間が短い

他の液晶化合物との優れた相溶性 組成物(ミックスチャー)における調整が容易

2011年時点と比べると、弾性定数が適切であること及び他の液晶化合物との優れた相溶性が特性として加わっている。この液晶組成物はネマチック相を有する。ネマチック相の温度範囲は、素子の使用できる温度範囲に関連する。ネマチック相の好ましい上限温度は約70℃以上であり、そしてネマチック相の好ましい下限温度は約-10℃以下である。組成物の粘度は素子の応答時間に関連する。素子で動画を表示するためには短い応答時間が好ましい。従って、組成物における小さな粘度が好ましい。低い温度における小さな粘度はより好ましい。組成物の弾性定数は素子のコントラストに関連する。素子においてコントラストを上げるためには、組成物における大きな弾性定数がより好ましい。

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3、特許情報による各社の動き(2011年~)

主な液晶材料メーカーはJNC、DIC、独メルクであり、AGCセイミケミカルなどがこれに続く。最近のニュースは、独メルクが2013年末に中国でのミクスチャーの生産を開始し、シングルはドイツで生産。JNCが2014年3月に中国でミクスチャーの生産を開始、シングルは日本で生産。DICも中国での生産を開始していることなどである。

JNCは、複数のCF2O結合基を有する3あるいは4環化合物1)、あるいはフルオロビニル基あるいは2、2-ジフルオロビニルオキシ基または1、2、2-トリフルオロビニルオキシ基2)などを有するフッ素系液晶材料を提案している。上表の他の要件を満たしながら、特に前者は大きな誘電異方性を示し、後者は広いネマチック相温度を示す。例えば下記の化合物が例示されている。
FT1
DICは、フルオロナフタレン誘導体3)、フッ素化されたビシクロオクタン構造あるいはそれに類似した構造4)、誘電異方性が正のフッ素化合物5)などを提案している。前二者は、VA方式における負の誘電異方性の絶対値を大きくし、後者は、IPSモードに対応したものである。例えば下記の化合物が提案されている。
FT2
ここで、R11は炭素数1~15のアルキル基である。

独メルクは、3個以上のフッ素置換ベンゼン環が並び、連結基としてCF2Oを有する構造において、下図に示す構造が例示され、比較的高い透明点、極めて高い誘電異方性(Δε)、高い光学的異方性(Δn)および低い回転粘度を有するとしている。6)
FT3
また、tmax/Δn2が22ms以下のネマチック液晶媒体などを提案している。ここで、tmaxは電流の時間曲線が最大になる時間であり、時間が短いほど応答速度は大きくなる。Δnは複屈折率であり、この場合大きいほど好ましい。液晶媒体としては、下図に示す化合物が例示されている。7)
FT4
以上、2011年後の特許情報による各社の動きを示したが、それぞれ、それまでに開発してきたフッ素含有構造をベースにさらに発展させている感があり、より精緻で総合的な観点からの開発戦略が示されている。

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4、最新の文献情報
Zhuo Zhengらは、下式に示す3,4-ジフルオロピロールなどの含フッ素ヘテロ環を末端に有する液晶化合物を提案している。n/m-2Fの場合、耐熱性が向上し、ネマチック温度範囲も広がったとしている。8)
FT5
David O’Haganらは、下記に示すジフルオロプロピオネオキシ基を有する化合物を合成し、Δε=-7.35、ネマチック相の上限温度73℃を得ている。9)
FT6
P.K. Mandalらは、下式に示すようなフッ素化イソチアシアナトターフェニル化合物を合成し、その構造的、光学的、動力学的性質を調べている。その結果、複屈折性であり(左のモノフルオロタイプが0.373、右のジフルオロタイプが0.357)、Δnはモノフルオロが164℃まで0.3以上、ジフルオロが136℃まで0.3以上であった。また両者ともに低温での特性が優れていた。従って、高速スイッチングディスプレイのための高複屈折ネマチックミクスチャーとして有望であるとしFT7
ている。10)

5、おわりに

液晶ディスプレイの材料として含フッ素化合物が有用であることが見出されたのは1980年代であった。その後、その重要性は益々高められ、液晶材料の開発はフッ素系化合物の開発であるといっても過言ではない。その中で、2011年以来の開発状況を特許および最新文献から調べたのが本稿である。概観すると、フッ素の導入位置やその構造についてはほぼ2010年ごろまでに確立されていて、その後はそれの更なる最適化、複合化の開発が主流であることが分かった。
今後は、高品位の3D-LCDなどの開発がかなり進むと思うが、それに対応した液晶材料もやはりフッ素系化合物が主役であることは間違いないと確信している。

文献・特許
1) JNC 特開2013-221011、特開2013-14575
2) JNC 特開2012-236780、特開2014-40413
3) DIC 特開2012-25667
4) DIC 特開2012-116780、特開2012-149025
5) DIC 特開2013-170248、特開2014-62186
6) メルクパテント 特開2011-98963、特開2011-195587
7) メルクパテント 特開2014-51664
8) Zhuo Zheng et al Journal of Fluorine Chemistry 156(2013) 327-332
9) David O’Hagan et al Tetrahedron 70(2014) 4626-4630
10) P.K. Mandal et al Physica B 441(2014) 100-106

「フルオロアルコール」

6月 19th, 2014

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/webmaga/201406.html

1、はじめに

フルオロアルコールは、含フッ素アルコールやフッ素系アルコールなどとも言われ、フッ素原子を含むアルコール類のことである。フッ素を含むことにより、極性が高い、酸性度が高い、酸化されにくいなどの特徴のあるアルコールとなり、溶媒や中間体として使用されている。ここでは、フルオロアルコールの特徴と用途について概観し、最新の文献情報を紹介する。

2、フルオロアルコールの特徴と用途

フルオロアルコールの中では、CF3CH2OH(TFE)、(CF3)2CHOH(HFIP)、HCF2CF2CH2OH(TFP)、C6F13C2H4OHなどが実用化されている。
TFEは吸入麻酔剤イソフルランやデスフルランの原料として重要である。また、高い熱安定性と動力学的な特性があり、ランキンサイクル作動媒体である廃熱回収発電システムの媒体として使用されている。さらに、適当な蒸発潜熱とアミド化合物と混合すると大きな溶解熱を発生する。これを利用したケミカルポンプの開発が進んでいる。その他、ポリアミド、PMMA、アセチルセルロースなどのポリマー溶媒として使用され、メタクリレートに転換してモノマーとして光ファイバーの鞘材やコンタクトレンズなどに展開されている。1)

HFIPは、PET、ポリアミド、ポリビニルアルコールなどの溶媒として、特にGPC分析液の溶離液として使用されている。また、HFIPを導入したレジストとしても重要である。本レジストを基板に塗布した際、親水性に加え、高い透明性と基板との密着性を発現し、波長193nmのArF等を光源とする紫外線露光において、概ね、露光感度が高く、露光部がアルカリ現像液に対し可溶となり、フォトリソグラフィ法によりパターニングが可能である。

TFPは、光学記録媒体の記録層形成時に、色素を溶解させ、ポリカーボネート基板に塗布する溶剤として使用されている。基板への影響がない特性が生かされている。

C6F13C2H4OHは、リン酸エステル化して、紙用撥油剤、離型剤として使用されている。また、イソシアネートと反応させたウレタン化合物は防汚加工剤として使われている。

網井は、「フッ素系アルコールを使う不斉反応」と題して、下記に示す含フッ素イミノエステルの不斉水素化反応について述べている。2)その中で、フルオロアルコールが極性の高さ(イオン化力が大きい)、酸性度の高さ(フェノール程度の酸性度)、優れた水素結合ドナー、酸化されにくい性質などの特徴を有しているので、反応溶媒として有用だとしている。フルオロアルコールとしては、TFEやHFIPが収率99%以上、エナンチオマー(R)選択性も前者が88%、後者が69%と高かった。

FT0

3、フルオロアルコールに関する最新の文献から

Sergey Lermontovらは、HFIPなどのフルオロアルコールが超臨界乾燥の溶媒として期待されるとしている。3)多くのSiO2、Al2O3、ZrO2などを含むエアロゲルがHFIPを用いて作製され、エタノールを用いた場合に比して比表面積が2倍であった。また、超臨界乾燥温度を実質的に下げることができ、エアロゲルの表面を疎水性にできる。

Sadegh Rostamnia らは、下図に示す、ナノ多孔性シリカとTFEの組合せで、広いスペクトルの生理活性を示すIndazorophthalazinetrionesを合成し、高収率が達成できるのみならず、ナノ多孔性シリカもTFEも再処理しないで再使用できることを報告している。4)

FT1

Samad Khaksar らは、TFE中でdihydro-1H-indeno[1,2-b]pyridinesを合成している。5)反応速度が速く、高収率でシンプルなプロセスであり、TFE溶媒の特徴であることを謳っている。特に反応系からの分離が容易で再使用可能な点が優れているとしている。

FT2

Julien Legrosらは、抗リーシュマニア薬の仲間である、2-プロピルキノリンの合成を検討し、下記に示すワンポット合成に成功した。6)その際、TFEが溶媒として優れていることを述べている。

FT3

Yuliang Cao らは、Scheme1に示すように、TFMPをTFEとメチルホスホニルジクロリドから合成し、リチウムイオン電池の難燃添加剤として検討している。その結果、電池特性にほとんど影響なく高い難燃性を実現できたと報告している。7)

FT4

Chunming Xuらは、フルオロアルコールと有機超塩基をベースとする極性がスイッチ可能なイオン液体を合成し、その性質を調べている。8)合成は下図に示す。TFEあるいはTFPとの付加体はCO2をバブリングするだけで簡単に極性の高いカーボネートアニオンになり、さらに65℃2時間の熱をかければ極性の低いアルコキシアニオンになる。しかも湿気による影響はほとんどなかった。こうしたスイッチングはフルオロアルコールの特徴といえる。

FT5

K. Wnorowski らは、CO2との混合状態でのフルオロアルコールへの低エネルギー電子付着の動力学について報告している。9)下表に熱的電子付着の298°Kの速度定数、それぞれの温度範囲での活性化エネルギーを示す。フルオロアルコールはエタノールに比べると電子付着しやすいことが分かる。また、エタノールに比して複雑な分解が起こることも示された。例えば、TFEはCF3CH2O-、C2F2HO-、C2FO-、CF3-、F-に分解する。

アルコール 1k298(㎝3s-1) 1Ea(eV) 1Trange(K)
EtOH 13.2±0.2×10-13 10.37±0.008 1298-348
TFE 15.1±0.1×10-11 10.25±0.015 1298-368
CF3CF2CH2OH 11.1±0.2×10-10 10.28±0.017 1298-413
PFIP 13.0±0.3×10-10 10.20±0.007 1298-368
CH3CH(OH)CF3 2.6±0.2×10-11 0.23±0.023 298-368

畑中らは、H(CF2)6CH2OHを用いて水との2相系での動物の細胞培養を行い、H(CF2)6CH2OHが酸素の貯蔵場所となり、細胞の成長を助けていることを報告している。10)

David W. Brittらは、TFEやHFIPは強力なたん白質のαへリックスを誘発剤として知られているが、それに似た構造の(3,3,3-トリフルオロプロピル)トリメトキシシランがさらに強力な誘発剤であることを見出している。11)

4、おわりに

本稿は、ダイキン工業株式会社化学事業部ファインケミカル部からの要請で取り上げた。調べてみると改めてフルオロアルコールはユニークな特徴を有し、適切に使用され、さらに将来的にも大きな可能性を秘めていることを認識した。最後に、多彩なフルオロアルコールを展開しているダイキン工業株式会社化学事業部ファインケミカル部へのアクセス方法を下記に示す。目的に合ったフルオロアルコールを入手され、展開されることを期待している。

【フルオロアルコール問合せ先】
ダイキン工業株式会社 化学事業部 ファインケミカル部
大阪市北区中崎西二丁目4番12号
TEL:06-6373-4221 担当:松宮
Web:http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/index.html

文献・特許

1) ファインケミカル30(10) 21 2001
2) 網井秀樹 ファインケミカル40(1) 16 2011
3) Sergey Lermontov et al The Journal of Supercritical Fluid 89(2014) 28-32
4) Sadegh Rostamnia et al Tetrahedron Letters 55(2014) 2508-2512
5) Samad Khaksar et al Journal of Molecular Liquids 196(2014) 159-162
6) Julien Legros et al Journal of Fluorine Chemistry 152(2013) 94-98
7) Yuliang Cao et al Electrochimica Acta 129(2014) 300-304
8) Chunming Xu et al Chemical Engineering Science 108(2014) 176-182
9) K. Wnorowski et al Chemical Physics Letters 591(2014) 282-286
10) Kenichi Hatanaka et al Journal of Fluorine Chemistry 163(2014) 46-49
11) David W. Britt et al Colloids and Surfaces B:Biointerface 119(2014) 6-13

「フッ素系農薬」

5月 13th, 2014

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1、はじめに
フッ素系農薬は、F原子あるいはCF3基を含有するもので、フッ素のミミック効果、脂溶性、電気陰性度、C-F結合の強さなどの特徴が複合的に効いて、特異な薬効、薬剤の省資源化などにつながり、今では30%がフッ素系であるといわれる。下記に示すようにこの1年の化学工業日報記事に登場したフッ素系農薬は十数種あり、また、月刊ファインケミカル3月号の特集にも掲載されているように次々に新規なものが開発されている感がある。ここでは、新聞紙上に登場した十数種のフッ素系農薬を示し、さらにフッ素系農薬に関する最新の文献を紹介する。

2、この1年に新聞紙上に登場したフッ素系農薬と2013年日本で商品化された主要合成農薬
下記に2013年から今日までの化学工業日報に登場したフッ素系農薬とその化学構造を示す。
まずは、除草剤で最も多い。インダジフラム、ピロキサスルホン、フルミオキサジンはそれぞれ順に下記の構造を有する。
FT1
次いで、イブフェンカルバゾン、ベノキススラム、ピリミスルファンを示す。
FT2
さらに、フルセトスルフロン、ベントキサゾンを示す。
FT3
次に殺虫剤として、ピリフルキナゾン、フルベンズアミド、ビタバスタチンカルシウム、オルソスルファムロンが掲載された。それぞれ順に構造を示す。
FT4
さらに、殺菌剤としてフルチアニルが掲載されていた。構造は下図の通り。
FT5
このうち、除草剤インダジフラム、ピロキサスルホン、イブフェンカルバゾン、ベノキススラム、ベントキサゾン、殺虫剤オルソスルファムロン、殺菌剤フルチアニルはこの1年間に登録、あるいは販売開始した農薬である。

3、文献情報
月刊ファインケミカルに2013年度に日本で上市された主要合成農薬がまとめられている。その中でフッ素系農薬は、上記の除草剤インダジフラム、殺菌剤フルチアニルが掲載されていた。また、開発中の農薬としては、ピロキサスルホンなどの除草剤17種、殺菌剤12種、殺虫剤7種のフッ素系農薬が提示されていた。1)
2006年にG.Theodoridisが、含フッ素農薬についての総説を書いている。2)その中で、農薬にフッ素を導入すると、目標レセプターや酵素への結合能力、農薬分子の目標サイトへの移動性などが改善され、フッ素系農薬はこの30年間で3倍に増えたと記している。
F. R. Lerouxらは、活性な農薬成分として含フッ素ピラゾールについての総説を発表している。3)含フッ素ピラゾールは、下図に示すSDHI剤(コハク酸脱水素酵素に作用して菌の呼吸を阻害する)の原料である。
FT6
その合成法について、下図に示す多彩な原料からの合成法が述べられている。
FT7
Jun-Biao Changらは、新規な殺ダニ剤であるpyriminostrobinをさらにフッ素化して下図の7eとすると生理活性が増大し、ニセナミハダニに対して0.625mg/Lでコントロールでき、殺虫剤としての能力はpyriminostrobinより優れているとしている。4)
FT8
Bard Helge Hoffらは、フッ素化アリールエタノールをビルディングブロックとした生理活性物質についてのレビューを報告している。(下図のR1がCF3)5)
FT9
ここで、ケトンの還元でアルコール合成を行っているが、フッ素系の場合、触媒としては酵素触媒(抗利尿ホルモンADHなど)が効果的で、特に立体選択性が高いとしている。その中で、下記に示す殺虫剤XXVIや農業用抗真菌薬MA-20565 が紹介されている。
FT10
プロトポルフィリノゲン酸化酵素を抑制することは除草剤の開発につながる。Yang Guang-Fuらは、下図の化合物を26種類合成し、X=F、R=CH2COOC2H5(2e)およびX=F、R=CH(CH3)COOC2H5(2f)が最もプロトポルフィリノゲン酸化酵素の抑制効果が高いことを確認し、除草剤としては2fが最も高い活性を示したことを報告している。6)
FT11
4、おわりに
フッ素系農薬は、新聞紙上にも頻繁に紹介され、月刊ファインケミカルに紹介されていた2013年度の農薬の中で半数以上はフッ素系であった。さらに2006年の総説でも30年間に3倍に増加していることが記述されており、その後も農薬の成分である含フッ素ピラゾールの総説をはじめとして、多くの報告がなされていて、環境問題が厳しく叫ばれる中で、益々その重要性を増していることは確実のようである。

文献
1) 月刊ファインケミカル シーエムシー 2014年3月号 p
2) George Theodoridis  Advances in Fluorine Science, Volume 2, 2006, p121-175
3) Frederic R. Leroux et al Journal of Fluorine Chemistry152(2013) 2-11
4) Jun-Biao Chang et alChinese Chemical Letters 25(2014)137-140
5) Bard Helge Hoff et al Bioorganic Chemistry 51(2013) 31-47
6) Yang Guang-Fu et al Bioorganic & Medicinal Chemistry 21(2013) 3245-3253

「フッ素の表面特性の耐久性について」

4月 4th, 2014

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1、はじめに
フッ素の撥水撥油性、防汚性、反射防止性などを利用した表面処理は多彩で大きな市場を有している。しかし、油汚れや摩擦などにより性能の持続性が損なわれ、特に超撥水撥油性において本格的な実用化に結びついていないことが課題となっている。その対策として、耐摩擦性、自己修復性、セルフクリーニングなどの付与が試みられている。本稿では、この課題対策についての最新の情報を述べる。

2、超撥水撥油性の機械的強度向上
超撥水の耐久性を向上させる検討としては、エポキシシランで処理したSiO2ナノ粒子と混合したPVDFの電界紡糸やテトラメチルシクロテトラシロキサンとフルオロシロキサンの大気圧プラズマ沈着などが提案されている。

最近では、PVDFとPTFEの粒子を混合し、ホットプレシングし、サンドペーパーで擦ると超撥水性、低転落角表面が得られ、機械的強度が高いという報告や1)、ポリ(メタ-フェニレンイソフタルアミド)の電界紡糸ナノファイバーの表面をC8F17C2H4Si(OC2H5)3で処理すると高撥水撥油表面が得られ機械的強度が高いという報告がある。2) B.Bhushanらは、フルオロアクリレートポリマー(FAP)、FAP+SiO2粒子、PTFEアモルファスポリマー(Teflon AF2400)を揃え、水の接触角・転落角、ヘキサデカンの接触角・転落角を摩擦前後で測定して評価した。その結果、下表のように、それぞれ単独でコーティングしたものより、FAP+SiO2をスプレー後、TeflonAF2400あるいはFAPをディップコートしたものが摩擦後も性能を保持していることが分かった。3)

接触角・水 接触角・ヘキサデカン ヒステリシス・水 ヒステリシス・ヘキサデカン
初期 初期 摩擦後 初期 初期 摩擦後
FAP 97° 65° 66° 15° 9° 10°
PTFEAM 120° 94° 63° 9° 8° 7°
FAP+SiO2 165° 159° 144° 3° 11° 18°
FAP+SIO2/PTFEAM 159° 157° 146° 3° 9° 12°
FAP+SiO2/FAP 160° 153° 147° 9° 12° 11°
さらに、G. Polizosらはシリンダー状の珪藻土ナノ粒子をC6F13CH2CH2SICl3でフッ素化して超撥水表面を作製し、耐摩耗性が優れていることを見出した。4)

3、修復性
Z. Zhangらは、再使用性と回復性を高めるために、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)をスプレーした後に表面を超撥水処理することを検討している。5)具体的には、MWCNT処理後にC4F9C2H4SiCl3をCVD処理すると水の接触角163度、水の転落角3度の表面が得られた。また、この表面は400℃で2時間放置した後も超撥水性は変わらなかった。本表面をヘキサデカンでコートすると水の接触角は低下したが、350℃でヘキサデカンを除去すると超撥水性が回復した。また、摩擦すると表面の水の接触角は極端に低下したが、再びMWCNTのスプレー後フッ素化すると超撥水性は回復した。その模様を下の概念図で示す。

FT2

4、セルフクリーニング
J. Heらは、セルフクリーニングを伴った反射防止技術の最近の進歩についてレビューしている。6)まずは、反射防止とセルフクリーニングの原理について解説している。反射防止については、単層、多層膜についての理論的原理を紹介し、その望ましい条件として紫外から赤外までの広範囲の波長領域および全方向で機能を発揮すること、およびコーティング膜は強靭であることをあげている。セルフクリーニングについては、水の接触角に関する、Young式、Wenzelモデル、Cassieモデルについて言及し、150度以上の超撥水で接触角ヒステリシスが低いことがセルフクリーニングの条件としている。また、光触媒TiO2系によるクリーニングについても解説している。特に屋外ではUVにより汚れが分解するだけでなく、水の接触角が0度になり、雨水などによりセルフクリーニングされることが述べられている。

次いで、反射防止とセルフクリーニングを兼ね備えたコーティングの最近の進歩について述べている。様々な粒子径を有するシリコンナノ粒子のコーティング、ポーラスシリカのコーティング、フルオロシランで修飾したシリカのコーティング(水の接触角172度)、TiO2ベース粒子のコーティング、シリカナノ粒子層とPTFEライクポリマー層の2層から成る膜(水の接触角158度)などの手法が述べられている。そして、耐摩擦性を上げるためには、水熱焼成が有効だとしている。コーティング法としては、種々のウエットコーティング、CVD法、ALDなどが述べられている。

さらにスマートコーティングが取り上げられている。まずは自己回復コーティングで、フルオロアルキルシランのCVDコート膜が崩壊した後、フルオロアルキルシランが表面に移動し、修復する機構が述べられている。次いで抗菌コートでは、Ag、Cu、TiO2、ZnO、SnO2などの使用例が示されている。さらに、超撥媒性コーティングが取り上げられ、フルオロアルキルシランの存在下、ピロールの気相重合した系が水の接触角165度、ヘキサデカンの接触角154度を得た例や、テトラエチルオルトシリケートとC6F13C2H4Si(OEt)3との共縮合体を布に処理して超撥水撥油性を得た例などが紹介されている。そして、これらのセルフクリーニング技術を適用した反射防止技術について触れている。

最後に応用例が列記されている。建築用窓ガラス、太陽光集光設備と太陽電池モジュール、ディスプレイデバイス、などが紹介されている。

結論として下記の図が紹介され、今後益々有望なテーマであることを謳っている。

FT3

S. Zhouらは、超撥水コーティングを商業スケールで行うため、ワンポットコーティングを提唱しているが、さらに長期間の耐久性の付与を検討している。7)フッ素化ポリシロキサンバインダー/TiO2ナノ粒子をコーティングすると広範囲のPH領域、-20℃~200℃およびUV照射下で安定であった。さらに有機物のコンタミによる性能低下も抑制できた。これはTiO2ナノ粒子が有機物コンタミを光分解するためである。彼らはさらに下記に示す室温キュアができるフルオロシロキサンをTiO2ナノ粒子のバインダーとし、NH2C3H6Si(OC2H5)3をアルカリ触媒として室温で加水分解・縮合反応を提案している。FPU/PMPS=1/9の時、TiO2ナノ粒子の含有量を増大していくと、下図に示すように水の接触角が増大し、35%含有量以上で超撥水性を示し、転落角も5度以下に減少することがわかる。機械的強度はFPUおよびTiO2の含有量により変化するが、多すぎても少なすぎても強度は低くなる。また、耐候性および有機物(サラダオイル)による撥水性の低下もUV照射により回復できることが示されている。

FT4

5、おわりに
超撥水撥油性の耐久性向上に関する研究は、中国などで盛んに行われている。研究の方向としては、SiO2やTiO2で粗面化し、フッ素コートした表面の機械的強度を上げる、壊れた表面を修復する、さらには油などの汚れを光触媒で分解するなどがメインであるが、本格的な実用化となると技術的には不十分と言わざるを得ない。日本では1990年代にブーム到来の感があったが、少々熱が冷めた状況である。中国などの研究が再挑戦のきっかけになればと思っている。

文献
1) J.F. Ou et al  Applied Surface Science 276(2013) 397-400
2) Bin Ding et al  Applied Surface Science 276(2013) 750-755
3) Bharat Bhushan et al  Journal of Colloid and Interface 409(2013) 227-236
4) Georgios Polizos et al Applied Surface Science, 292( 2014) 563-569
5) Zhaozhu Zhang et al Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects 444(2014) 252-256
6) Junhui He et al Progress in Materials Science 61(2014)94-143
7) Shuxue Zhou et al  Progress in Organic Coatings 76(2013) 563-570

「ナトリウムイオン電池」

3月 6th, 2014

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http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201403/

1、はじめに
リチウム二次電池は、今や新エネルギーとして家電用では最も使われ、車載用としても今後の期待が大きい。しかし、原料問題、安全性の問題など課題は多い。そこで、その問題を解決し、コスト的にも優位なナトリウム電池の開発が進んでいる。本稿では最近の文献、特許からその動向およびその中でのフッ素がどのように使用されているのかを探ってみた。

2、ナトリウム電池の概要
ナトリウム電池の構造は下記の通りであり、基本的にはリチウムイオン電池のリチウムイオンをナトリウムに置き換えた構造をしている。1)但し、ナトリウムはリチウムに対し、イオン体積にして2倍高く、原子量にして3倍以上大きいので、リチウムイオン電池で用いられている負極材料黒鉛では、吸蔵放出させることが不可能である。従って、負極材料としてハードカーボンを用いるなど、ナトリウムイオン電池用に正極も含めて開発が必要であった。2)
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3、ナトリウム電池におけるフッ素
ナトリウム電池において、フッ素が使われているあるいは提案されているのは電解液と電極である。それぞれについて述べていく。

3-1、電解液
ハードカーボンはナトリウムイオンを可逆的に脱挿入可能ではあるが、サイクル安定性が不十分であるという課題があった。しかし、駒場らは電解液として、エチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)を単独あるいは1:1混合溶媒で用いると良好なサイクル特性が得られることを見出した。3)ジメチルカーボネートを使用した場合、ナトリウムアルコキシドなどの電解液分解物が多量に発生してサイクル特性を低下させていることが分かった。リチウムイオン電池においては、負極上に不動態被膜(SEI)を形成させるべく添加剤を使用しているが、ナトリウムイオン電池においても同じ手段が有効であることが分かった。

萩原らは、423Kで作用するNaCrO2を正極とするナトリウム二次電池における新電解質として、イオン液体NaTFSA(10mol%)/CsTFSA(90mol%)を検討した。4)このイオン液体の423Kでの粘度、イオン伝導度、密度、電気化学窓はそれぞれ、42.5cp、12.1mS/cm、2.29g/cm-3、4.9Vであった。本条件での充放電特性を調べ、定電流速度が10サイクル後10mA/gの場合と50サイクル後100mA/gの場合における放電容量はそれぞれ83.0mAh/g、66.4mAh/gであった。初期の数サイクルを除くとクーロン効率は99.5%以上であった。このことから、このナトリウム二次電池が423Kを中心とする373Kから473Kの温度範囲で新規二次電池として有望であるとしている。

3-2 電極
岡田らは、Na3M2(PO4)2F3[M=Ti, Fe, V]を2段階固体状態合成で合成し、ナトリウムイオン電池の負極活物質としての可能性を調べた。5)合成は、V2O5あるいはTi2O3と(NH4)2HPO4とを混合し、650~950℃15時間熱するか、FePO4・2H2Oを100℃、真空中で3時間熱してMPO4の形にし、次いで、NaFと混合して空気流の中で600℃2時間反応させた。Na3V2(PO4)2F3の場合、構造は下図の形であることがX線解析から推定された。そして、Na3V2(PO4)2F3が容量として120mAであり、サイクル特性も20サイクル後の保持率が98%と高く、安定していることがわかった。また、選定電圧で充放電した時のNa3V2(PO4)2F3電極のex-situ XRD測定データから、物質構造はc軸に沿って4.3Vまで膨張し、サイクル後は元の大きさにもどることが分かった。このことは、Na原子が正方晶構造の中で(002)a-b面に沿って出入りしていることによるとしている。
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Teofilo Rojoらは、混合原子価ナトリウム-バナジウムフッ化リン酸Na3V2Ox(PO4)2F3-x(0<x<1)とカーボンから成るコンポジットをナトリウムイオン電池の正極に使用してその可能性を調べている。xが0の時はV3+であり(Na3V2(PO4)2F3)、xが1の時はV4+となり(Na3(VO)2(PO4)2)、この原子価の変化はカーボンの影響を受けている。6)コンポジットの固有面積は67m2/gと高く、固有の充放電容量のサイクル特性は下図の通りで、1C、200サイクルで99%以上のクーロン効率が得られ、ナトリウムイオン電池の正極として優れた特性を有しているとしている。
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4、おわりに
最近の特許を見ると、トヨタ自動車が電解質としてNaPF6を用い、負極に炭素材料、対極に金属Naを用いたナトリウム二次電池を提案している。7)また、本田技研工業も電解質としてNaPF6、正極にグラファイト、対極に金属Naを用いたナトリウム二次電池を提案していて、8)実用化に向け開発が進んでいる様子がうかがわれる。今後の動きに注目したい。

文献
1) 駒場慎一

http://j-net21.smrj.go.jp/develop/energy/company/2012121301.html

2) 住友化学筑波開発研究所 住友化学2013 p20-30
3) 駒場慎一他、ファインケミカル2012年8月号 p22-28
4) Rika Hagiwara et al  Journal of Power Sources 205(2012) 506-509
5) Shigeto Okada et al  Journal of Power Sources 227(2013) 80-85
6) Teofilo Rojo et al Journal of Power Sources 241(2013) 56-60
7) トヨタ自動車 特開2013-137907
8) 本田技研工業 特開2013-54987

「フッ素系レジスト材料」

2月 11th, 2014

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201402/

1、はじめに
LSIの高集積化と高速度化に伴い、パターンルールの微細化が急速に進んでいる。特にフラッシュメモリー市場の拡大と記憶容量の増大化が微細化を牽引している。最先端の微細化技術としてはArFリソグラフィーによる65nmノードのデバイスの量産が行われており、次世代のArF液浸リソグラフィーによる45nmノードの量産準備が進行中である。次世代の32nmノードとしては、水よりも高屈折率の液体と高屈折率レンズ、高屈折率レジスト膜を組み合わせた超高NAレンズによる液浸リソグラフィー、波長13.5nmの真空紫外光(EUV)リソグラフィー、ArFリソグラフィーの2重露光(ダブルパターニングリソグラフィー)などが候補であり、検討が進められている。また、電子ビーム(EB)のような短波長の高エネルギー線を用いたレジスト材料は、マスク描画用途に適用されている。
半導体の市場は前年比2.1%増の2977億6600万ドルとなる見込みで、続く2014年は前年比5.1%増の3129億6000万ドルと初めて3000億ドルを突破する見通しである。1)半導体材料については、日本は世界の60%を占める。その中で、レジスト市場は12年、KrFが減少したことによって前年比微減の1140億円。今後g線やi線レジストは横ばいから減少で推移の見通し。液浸を含むArFレジストはプロセス微細化が進む結果、13年~17年にかけて年率11~12%増で推移。EUVレジストは16年ごろから市場が立ち上がるとみている。2)
レジスト材料においては、夥しい特許公報の公開が続いている。本稿では、レジストメーカーおよびフッ素材料メーカー各社の特許情報からフッ素系レジスト材料の動向を探ってみた。

2、フッ素系レジスト材料の動向
レジスト材料としては、一般的に、酸の作用により現像液に対する溶解性が変化するベース樹脂と、露光により酸を発生する酸発生剤成分とを含有する組成物が用いられている。
レジスト材料に求められるものは、少ない露光量で十分な解像性を発揮できる感度の高いことであり、ArFリソグラフィーの場合、その各成分として波長193nmにおいて高透明なものを選択するのが最も一般的である。
ベース樹脂については、ポリアクリル酸及びその誘導体、ノルボルネン-無水マレイン酸交互共重合体、ポリノルボルネン及び開環メタセシス重合体、開環メタセシス重合体水素添加物等が提案されている。特許的にはフッ素系ポリマーとして、パーフルオロアセトンから誘導される下記のメタクリレート共重合体3)、4)、ヘプタフルオロブタノールから誘導されるメタクリレート共重合体5)、トリフルオロ酢酸から誘導されるメタクリレート共重合体6)などが提案されている。いずれも酸不安定性基として働いている。
FT1
さらに、モノマーとして下記の構造も提案されている。7)
CH=CFCOOCH2CF2C(OH)(CF3)2
光酸発生剤も種々の検討がなされてきた。ArF化学増幅型レジスト材料の光酸発生剤としては、KrFレジスト材料として開発された酸強度の高いパーフルオロアルカンスルホン酸を発生するものが一般的に使われているが、その構造は下記に示すように多彩である。8)、9)、10)
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また、部分フッ素置換スルホン酸発生剤を用いても酸拡散によりコントラスト劣化を起こす問題点が発生し、下図に示す、ベース樹脂に酸発生基を含有するモノマーを共重合してポリマー化する方法も提案されている。11)、12)
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さらに、有機溶剤を含有する現像液を用いてネガ型のレジストパターンを形成できる新規なレジストパターン形成方法が提案されている。この場合、下記に示すフッ素含有モノマーを共重合したベース樹脂、あるいはホモポリマーが提案されている。これは樹脂のネガ型現像液への溶解性を高めるためである。13)、14)
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3、おわりに
レジスト材料において、フッ素は酸発生剤を中心に貢献している。フッ素導入により、酸性度が上がること、現像液への溶解性が向上すること、さらには遠紫外における透明性が高くなることなどがその理由である。今後は、マスク忠実性、LWR(Line Width Roughness)、パターン矩形性などの維持を加味した材料の開発が求められており、フッ素系レジスト材料が貢献していくことを期待している。

文献・特許
1) Electronic Journal 2013年7月号p40
2) 化学工業日報記事 2013年4月8日
3) セントラル硝子 特開2013-53196
4) 信越化学 特開2013-151592
5) JSR 特開2013-213999
6) 住友化学 特開2013-235254、特開2013-345255
7) ダイキン工業 特開2013-237858
8) 信越化学工業 特開2013-257541、特開2013-92657
9) JSR 特開2013-228663
10) 住友化学 特開2013-8023
11) 信越化学工業 特開2013-173854
12) セントラル硝子 特開2013-227466
13) 住友化学 特開2013-254187
14) 東京応化工業 特開2013-238787