「フッ素の表面特性の耐久性について」

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1、はじめに
フッ素の撥水撥油性、防汚性、反射防止性などを利用した表面処理は多彩で大きな市場を有している。しかし、油汚れや摩擦などにより性能の持続性が損なわれ、特に超撥水撥油性において本格的な実用化に結びついていないことが課題となっている。その対策として、耐摩擦性、自己修復性、セルフクリーニングなどの付与が試みられている。本稿では、この課題対策についての最新の情報を述べる。

2、超撥水撥油性の機械的強度向上
超撥水の耐久性を向上させる検討としては、エポキシシランで処理したSiO2ナノ粒子と混合したPVDFの電界紡糸やテトラメチルシクロテトラシロキサンとフルオロシロキサンの大気圧プラズマ沈着などが提案されている。

最近では、PVDFとPTFEの粒子を混合し、ホットプレシングし、サンドペーパーで擦ると超撥水性、低転落角表面が得られ、機械的強度が高いという報告や1)、ポリ(メタ-フェニレンイソフタルアミド)の電界紡糸ナノファイバーの表面をC8F17C2H4Si(OC2H5)3で処理すると高撥水撥油表面が得られ機械的強度が高いという報告がある。2) B.Bhushanらは、フルオロアクリレートポリマー(FAP)、FAP+SiO2粒子、PTFEアモルファスポリマー(Teflon AF2400)を揃え、水の接触角・転落角、ヘキサデカンの接触角・転落角を摩擦前後で測定して評価した。その結果、下表のように、それぞれ単独でコーティングしたものより、FAP+SiO2をスプレー後、TeflonAF2400あるいはFAPをディップコートしたものが摩擦後も性能を保持していることが分かった。3)

接触角・水 接触角・ヘキサデカン ヒステリシス・水 ヒステリシス・ヘキサデカン
初期 初期 摩擦後 初期 初期 摩擦後
FAP 97° 65° 66° 15° 9° 10°
PTFEAM 120° 94° 63° 9° 8° 7°
FAP+SiO2 165° 159° 144° 3° 11° 18°
FAP+SIO2/PTFEAM 159° 157° 146° 3° 9° 12°
FAP+SiO2/FAP 160° 153° 147° 9° 12° 11°
さらに、G. Polizosらはシリンダー状の珪藻土ナノ粒子をC6F13CH2CH2SICl3でフッ素化して超撥水表面を作製し、耐摩耗性が優れていることを見出した。4)

3、修復性
Z. Zhangらは、再使用性と回復性を高めるために、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)をスプレーした後に表面を超撥水処理することを検討している。5)具体的には、MWCNT処理後にC4F9C2H4SiCl3をCVD処理すると水の接触角163度、水の転落角3度の表面が得られた。また、この表面は400℃で2時間放置した後も超撥水性は変わらなかった。本表面をヘキサデカンでコートすると水の接触角は低下したが、350℃でヘキサデカンを除去すると超撥水性が回復した。また、摩擦すると表面の水の接触角は極端に低下したが、再びMWCNTのスプレー後フッ素化すると超撥水性は回復した。その模様を下の概念図で示す。

FT2

4、セルフクリーニング
J. Heらは、セルフクリーニングを伴った反射防止技術の最近の進歩についてレビューしている。6)まずは、反射防止とセルフクリーニングの原理について解説している。反射防止については、単層、多層膜についての理論的原理を紹介し、その望ましい条件として紫外から赤外までの広範囲の波長領域および全方向で機能を発揮すること、およびコーティング膜は強靭であることをあげている。セルフクリーニングについては、水の接触角に関する、Young式、Wenzelモデル、Cassieモデルについて言及し、150度以上の超撥水で接触角ヒステリシスが低いことがセルフクリーニングの条件としている。また、光触媒TiO2系によるクリーニングについても解説している。特に屋外ではUVにより汚れが分解するだけでなく、水の接触角が0度になり、雨水などによりセルフクリーニングされることが述べられている。

次いで、反射防止とセルフクリーニングを兼ね備えたコーティングの最近の進歩について述べている。様々な粒子径を有するシリコンナノ粒子のコーティング、ポーラスシリカのコーティング、フルオロシランで修飾したシリカのコーティング(水の接触角172度)、TiO2ベース粒子のコーティング、シリカナノ粒子層とPTFEライクポリマー層の2層から成る膜(水の接触角158度)などの手法が述べられている。そして、耐摩擦性を上げるためには、水熱焼成が有効だとしている。コーティング法としては、種々のウエットコーティング、CVD法、ALDなどが述べられている。

さらにスマートコーティングが取り上げられている。まずは自己回復コーティングで、フルオロアルキルシランのCVDコート膜が崩壊した後、フルオロアルキルシランが表面に移動し、修復する機構が述べられている。次いで抗菌コートでは、Ag、Cu、TiO2、ZnO、SnO2などの使用例が示されている。さらに、超撥媒性コーティングが取り上げられ、フルオロアルキルシランの存在下、ピロールの気相重合した系が水の接触角165度、ヘキサデカンの接触角154度を得た例や、テトラエチルオルトシリケートとC6F13C2H4Si(OEt)3との共縮合体を布に処理して超撥水撥油性を得た例などが紹介されている。そして、これらのセルフクリーニング技術を適用した反射防止技術について触れている。

最後に応用例が列記されている。建築用窓ガラス、太陽光集光設備と太陽電池モジュール、ディスプレイデバイス、などが紹介されている。

結論として下記の図が紹介され、今後益々有望なテーマであることを謳っている。

FT3

S. Zhouらは、超撥水コーティングを商業スケールで行うため、ワンポットコーティングを提唱しているが、さらに長期間の耐久性の付与を検討している。7)フッ素化ポリシロキサンバインダー/TiO2ナノ粒子をコーティングすると広範囲のPH領域、-20℃~200℃およびUV照射下で安定であった。さらに有機物のコンタミによる性能低下も抑制できた。これはTiO2ナノ粒子が有機物コンタミを光分解するためである。彼らはさらに下記に示す室温キュアができるフルオロシロキサンをTiO2ナノ粒子のバインダーとし、NH2C3H6Si(OC2H5)3をアルカリ触媒として室温で加水分解・縮合反応を提案している。FPU/PMPS=1/9の時、TiO2ナノ粒子の含有量を増大していくと、下図に示すように水の接触角が増大し、35%含有量以上で超撥水性を示し、転落角も5度以下に減少することがわかる。機械的強度はFPUおよびTiO2の含有量により変化するが、多すぎても少なすぎても強度は低くなる。また、耐候性および有機物(サラダオイル)による撥水性の低下もUV照射により回復できることが示されている。

FT4

5、おわりに
超撥水撥油性の耐久性向上に関する研究は、中国などで盛んに行われている。研究の方向としては、SiO2やTiO2で粗面化し、フッ素コートした表面の機械的強度を上げる、壊れた表面を修復する、さらには油などの汚れを光触媒で分解するなどがメインであるが、本格的な実用化となると技術的には不十分と言わざるを得ない。日本では1990年代にブーム到来の感があったが、少々熱が冷めた状況である。中国などの研究が再挑戦のきっかけになればと思っている。

文献
1) J.F. Ou et al  Applied Surface Science 276(2013) 397-400
2) Bin Ding et al  Applied Surface Science 276(2013) 750-755
3) Bharat Bhushan et al  Journal of Colloid and Interface 409(2013) 227-236
4) Georgios Polizos et al Applied Surface Science, 292( 2014) 563-569
5) Zhaozhu Zhang et al Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects 444(2014) 252-256
6) Junhui He et al Progress in Materials Science 61(2014)94-143
7) Shuxue Zhou et al  Progress in Organic Coatings 76(2013) 563-570