「燃料電池」

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。
http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/webmaga/201501.html

1、はじめに
2014年12月15日、トヨタ自動車が一般向け燃料電池車(FCV)を発売した・ホンダも2015年に発売の予定である。2000年頃、カリフォルニアでFCV試作車に乗せてもらい、静かに滑るように走る体感をして、大いに期待したことが鮮明に思い出される。その当時は製造費が1億円以上であり、実用化には程遠い感があったが、15年の月日が実用化を可能にしたことを思うと感慨深い。トヨタ自動車は、セダンタイプで購入負担額が520万円と発表している。(販売価格720万円、国の補助200万円)1)一方、2014年デロイト トーマツ コンサルティング(DTC)の調べによると、日本のFCV年間販売は2020年に約5万台 2030年までには約40万台と予測している。2) 既に、本シリーズで2011年4月号、2013年2月号で燃料電池を取り上げてきたが、本稿では、FCVの現状を概観し、燃料電池におけるフッ素関連技術のその後の技術開発状況について述べることにした。

2、FCVの現状
下図にトヨタ自動車のFCV開発の変遷を示す。3)2002年にリース販売を開始し、2005年には新型自動車届出制度に基づく認可を取得、法規上は普通車としての扱いになった。2008年には、10-15モードで830㎞の航続距離および寒冷地での始動性を確保し、従来車並みの性能を達成した。さらにPt触媒量や電解質膜の使用量低減などを実現し、コストダウンに成功して、市場投入に踏み切った。
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また、ホンダも下図に示すようにトヨタ同様の開発の進捗状況にある。4)
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3、燃料電池フッ素関連技術の最近の開発状況

3、1電解質膜
特にFCV用の燃料電池としては、高温・低湿度で使用できることが求められていて、その開発が盛んである。
Vincenzo Tricoliらは、下図aに示すニトリロトリス(メチレンリン酸エステル)をNafionに導入し、bに示すポリマーマトリックスのスルホン基と窒素とを結合させたコンポジットを提案している。5)結果は、耐熱性が高く、170℃の湿度0の状態でP-OH同志あるいはスルホン基との間で酸無水物を形成していることが分かった。従って、高温・無加湿状態で高いプロトン伝導度(>10‐2S/cm)を示した。
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G.R. Gowardらは、多孔質PTFE膜(孔径0.45µm、厚み47µm)にイミダゾリウムメタンスルフォネート溶液を含侵させ、乾燥した膜を提案している。6)その結果、TGA測定で370℃の変曲点を有する高い耐熱性を有し、無加湿状態で10-5~-6S/cmの高いプロトン伝導度を示した。

Y.G. Wangらは、下図に示すトリアゾールで修飾したPOSSを合成し、Nafion膜に導入した。7) その結果、機械的強度が大きく改善された。また、無水状態でのプロトン伝導度が温度とともに上昇し、140℃で2×10-2S/cmという高い値を示した。但し、150℃に温度を上げると急激に伝導度が降下した。コンポジット膜がTg以上に達したとみられる。
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Inmaculada Ortizらは、燃料電池の電解質としてのイオン液体における進歩と題した総説の中で、イオン液体電解質は100℃以上の高温かつ無水状態で、高い伝導度、熱的・化学的・電気化学的安定性を兼ね備えていることを述べている。8)特にポリマータイプイオン液体、つまりイオンペアを持ったモノマーの重合体が有望であるとしている。

Yong-Gun Shulらは、短鎖の側鎖を有するパーフルオロスルホン酸イオノマー(SSC-PFSA)を合成し、高温・低湿度で長鎖の側鎖を有する同イオノマーLSC-PFSA)より高い性能を有することを報告している。9)即ち、SSC-PFSAとしてSolvay SolexixのAquivionTME87-05S膜を用い、LSC-PFSAとしてNafion®212を用いたところ、SSC-PFSAの方が電流密度で2.43倍、電圧で0.6V 高かった。キャラクタリゼーション評価により、SSC-PFSAの方が、結晶性が高く、熱安定性に優れていると結論付けている。

3、2触媒層
これまでPt触媒量の低減化として、高表面積で電気伝導性のカーボン担体の使用、コア-シェルタイプや脱合金化ナノ粒子あるいはPt単層の形成などの方法が検討されてきた。

Yossef A. Elbadらは、電界紡糸と電気噴霧を同時に行うE/E技術を用いて作製した電極は極度に少ないPt量で高い燃料電池性能を発揮することを述べている。10)その際、PTFEを導入することが、効果があり、1%添加することで電力密度の増大およびPt量の低減が図られることを示した。PTFEによる疎水性の向上が原因としている。

Aiguo Kongらは、フッ素をドープしたメゾ孔カーボン(F/Cs)を作製し、市販のPt/Cと同等の酸素還元触媒性能があり、さらに熱的安定性に優れていることを述べている。11)本F/Csは、1000℃で得られ、504m2/gの表面積と平均6.7nmの孔径を有している。

3、3 ガス拡散層GDL(水素流路、酸素流路)
Ravindra Dattaらは、GDLの効率を高めるには、塗布するミクロポーラス層の粒子径を大きくし、中程度の厚みと中程度のPTFE含有量が望ましいと報告をしている。12)

Maurizio Sansoteraらは、T-(CF2CF2O)n(CF2O)mOv-T’構造の直鎖パーフルオロポリエーテル(PFPE)パーオキサイド(T、T’は末端基CF3、COF、CF2COFのいずれか)を炭素布に処理したGDLを作製した。PFPEラジカルが発生し、炭素布と共有結合を形成している。GDLに超疎水性を与え、永久的に安定にした。PFPEの電気絶縁性にもかかわらずGDLの電気伝導性は保持されたとしている。13)

4、おわりに
2015年から本格的に市場に登場すると期待されているFCVに因んで燃料電池、特にFCVに求められる高温・低湿度でのフッ素系電解質の性能発揮や低コスト化のための触媒の開発を中心に最近の進捗状況を述べた。今後、FCVや家庭用FCVがさらに普及し、エネルギー問題、環境問題を解決していくことに大いなる期待感を持っている。そのキーとなるのがフッ素系材料であることは間違いないであろう。

文献
1) 朝日新聞デジタル版 2014年11月14日
2) 化学工業日報 2014年11月26日
3) 小島康一ほか 工業材料62(6) 24-28
4) 守谷隆史 OHM 201408 14-16
5) Vincenzo Tricoli et al Journal of Membrane Science 469( 2014) 162-173
6) G.R. Goward et al Journal of Power Sources 268(2014) 853-860
7) Y.G. Wang et al Electrochimica Acta 149(2014) 206-211
8) Inmaculada Ortiz et al Journal of Membrane Science 469(2014) 379-396
9) Yong-Gun Shul et al International Journal of Hydrogen Energy 39(2014) 11690-11699
10) Yossef A. Elbad et al Electrochimica Acta 139(2014) 217-224
11) Aiguo Kong et al Materials Letters 136(2014) 384-387
12) Ravindra Datta et al Journal of Power Sources 251(2014) 269-278
13) Maurizio Sansotera et al Journal of Power Sources 258(2014) 351-355