「フッ素と歯」

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。
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1、はじめに
2009年11月に、「フッ素関連トピックス三題」の中で「フッ化物歯磨き」と題して述べたことがある。その際、2007年にフッ化物入り歯磨きのシェアが89%で2010年には90%以上を目指すとしていた。最近の文献では、現在そのシェアは93%に達しているとのことで、当時の目標は達成されているようである。本稿では、最近の文献から、う蝕防止対策におけるフッ素の役割、全身的フッ化物応用法、フッ素入り歯磨きなどの局所的フッ化物応用法、さらにはフッ素含有歯科用修復材料について紹介する。

2、う蝕防止対策とフッ素
フッ素がう蝕抑制にどのように働くかは次の3つに要約される。1)
1) エナメル質結晶(ヒドロキシアパタイト)の形成促進と結晶性を安定化させ、エナメル質の抵抗性を増強させる。
2) エナメル質表層やう蝕病巣部の再石灰化を促進する。
3) プラーク細菌に対する抗菌作用で、プラーク付着量を減少させたり、細菌の酸産生量を減少させたりする。

実際は、水道水のフッ化物を調整するなどの全身的フッ化物応用法とフッ化物配合歯磨き剤の使用、フッ化物歯面塗布、フッ化物洗口などの局所的応用法との二つの方法がある。

3、全身的フッ化物応用法
水道水のフッ化物至適濃度は、WHOは0.7~1.0ppm、米国公衆衛生局は0.7~1.2ppmとしており、わが国では0.8ppm以下に規定している。日常的にフッ素を体内に供給すると、永久歯で50~65%、乳歯で40~50%のう蝕効果があると報告されている。

4、局所的フッ化物応用法

4.1 フッ化物配合歯磨き剤 
WHOはこれの使用を推奨しており、わが国ではシェアが93%を超えている。配合されるフッ化物は、NaF、モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)、SnF2の3種類で、いずれも濃度は1000ppm以下に規定されている。

4.2 フッ化物歯面塗布法
高濃度のフッ化物を使用する方法で、歯科衛生士および歯科医師のみが行うことのできるプロフェッショナルケア。わが国で製剤化されているものは、2%NaF溶液(0.9%F)、2%NaFフォーム(0.9%F)、酸性リン酸フッ化物APF溶液(0.9%F)、APFゲル(0.9%F)である。

4-3 フッ化物洗口法
比較的低濃度のフッ化物水溶液でうがいする方法。毎日うがいする場合は、F濃度250から450ppmの洗口液で行い、週1回行う場合はF濃度約900ppmの洗口液で行うことが推奨されている。また、歯磨き終了後に個人トレーで毎日5分間のフッ化物塗布をすることを一般の日常生活習慣の中に取り入れることを勧めている文献もある。2)

高齢者、特に要支援あるいは要介護の虚弱高齢者に対しては、プロフェッショナルケアとして、フッ化ジアンミン銀(Ag(NH3)2F)塗布、セルフケアとして非晶質リン酸カルシウム歯磨き剤と250ppmNaF洗口の併用が推奨されている。3)

5、歯科用修復材料
むし歯を削り取った窩洞に、歯と同じ白い色の材料を充填する治療が広く保険で行われている。歯科医は、歯質に接着する機能を持ったメタクリル系モノマーを含む接着剤を予め窩洞面に塗布、引き続いてペースト状の充填材料(ラジカル重合性メタクリル系モノマー、重合開始剤、無機フィラーとから成る歯科用コンポジットレジンと言われる重合組成物)を窩洞に充填し、口腔内で重合硬化させることで治療が完成する(下図左)。本法により、健全な歯の部分をなるべく残す最小侵襲と治療した部位が再び虫歯になるのを防ぐ二次う蝕抑制が大きく前進したと言われる。さらに、メタクリルモノマーとして接着性を高めたリン酸エステル含有モノマーが選定され、抗菌性や歯質強化、プラークの抑制などの機能付与が行われている。その中で、歯質強化には徐放性Fを有する下図右のモノマーが導入されている。4)
FT0
Vojislav Stanicらは、フッ素化ヒドロキシアパタイトナノパウダーを作製し、抗菌性を評価した。5)合成は、Ca(OH)2懸濁液にHFおよびH3PO4水溶液をpH7.00になるまで加えた後、24時間撹拌し、静置して沈降物をろ過し、水洗し、105℃で乾燥、磨り潰して粉体化して行った。粉体は長さ80nm、直径10-25nmのナノパウダーであることを確認した。抗菌性はミュータンス菌の減少から評価している。フッ素含有量が高いほど抗菌性は高かった。本パウダーは歯科用インプラント用として有用であるとしている。

6、おわりに
フッ素がう蝕防止に効果的であり、水道水への積極的導入による全身的フッ化物応用法、フッ素入り歯磨きや歯面へのフッ化物塗布あるいはフッ化物洗口法などの局所的応用法が盛んにおこなわれている。その一方で、フッ化物洗口について、特に子供への適用について警告を発している文献もある。6)つまり、NaFは劇物であり、低濃度であっても子供は飲み込む危険性があるというわけである。また、小学校低学年における幼若永久歯のう蝕抑制に効果的な1000ppm以下のフッ化物配合歯磨剤の使用方法を明らかにするとして、500~1000ppmフッ化物歯磨き剤を用いて夕食後に歯磨きをさせたところ、う蝕抑制効果が認められたとの文献もある。7)Fの濃度としては1000ppmが限度のようであり、そのことを認識すれば明らかにフッ素はう蝕防止に欠かせないと思っている。

文献
1) 内海明美ほか DHstyle 2014,7 32-35
2) 花田信弘 日本歯科医師会雑誌 67(5) 22-31 2014
3) 福島正義 日本歯科医師会雑誌 67(6) 6-17 2014
4) 岡田浩一 Material Stage 14(6) 20-23 2014
5) VojislavStanic et al Applied Surface Science 290(2014) 346-352
6) 天笠啓祐 週刊金曜日2014年8月号 p-45
7) 武田文ほか 日衛学会誌 JJSDH 8(2) 38-45 2014