「含フッ素液晶材料」

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。
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1、はじめに
含フッ素液晶材料については、2011年1月号で取り上げた。その時の内容を概括してみると、フッ素は高速応答性、高コントラスト比、低消費電力などの機能に大きく貢献していて、その更なる高性能化を目指した開発が活発であるとしている。本稿では、このことを踏まえ、その後のフッ素系液晶材料の動向を述べる。

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2、液晶表示素子および液晶材料の概要
液晶表示素子は、パソコン、テレビなどのディスプレイに広く利用されている。この素子は、液晶性化合物の光学的異方性、誘電率異方性などを利用したものである。液晶表示素子の動作モードとしては、PC(phase change)、TN(twisted nematic)、STN(super twisted nematic)、BTN(bistable twisted nematic)、ECB(electrically controlled birefringence)、OCB(optically compensated bend)、IPS(in-plane switching)、VA(vertical alignment)、PSA(polymer sustained alignment)などが知られている。

素子の駆動方式に基づいた分類は、PM(passive matrix)とAM(active matrix)である。PMはスタティックとマルチプレックスなどに分類され、AMはTFT(thin film transistor)、MIM(metal insulator metal)などに分類される。
液晶材料は十数種類の液晶化合物の組成物である。組成物の物性が素子の特性に及ぼす効果を下表に示す。

組成物の一般特性 AM素子の一般特性

ネマチック相の温度範囲が広い 使用できる温度範囲が広い

粘度が小さい 応答速度が速い

光学異方性が適切 コントラスト比が大きい

正または負に誘電率異方性が大きい 閾値電圧が低く、消費電力が小さい
コントラスト比が大きい

比抵抗が大きい 電圧保持率が大きく、コントラスト比が大きい

紫外線および熱に安定 寿命が長い

弾性定数が適切 コントラスト比が大きい 応答時間が短い

他の液晶化合物との優れた相溶性 組成物(ミックスチャー)における調整が容易

2011年時点と比べると、弾性定数が適切であること及び他の液晶化合物との優れた相溶性が特性として加わっている。この液晶組成物はネマチック相を有する。ネマチック相の温度範囲は、素子の使用できる温度範囲に関連する。ネマチック相の好ましい上限温度は約70℃以上であり、そしてネマチック相の好ましい下限温度は約-10℃以下である。組成物の粘度は素子の応答時間に関連する。素子で動画を表示するためには短い応答時間が好ましい。従って、組成物における小さな粘度が好ましい。低い温度における小さな粘度はより好ましい。組成物の弾性定数は素子のコントラストに関連する。素子においてコントラストを上げるためには、組成物における大きな弾性定数がより好ましい。

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3、特許情報による各社の動き(2011年~)

主な液晶材料メーカーはJNC、DIC、独メルクであり、AGCセイミケミカルなどがこれに続く。最近のニュースは、独メルクが2013年末に中国でのミクスチャーの生産を開始し、シングルはドイツで生産。JNCが2014年3月に中国でミクスチャーの生産を開始、シングルは日本で生産。DICも中国での生産を開始していることなどである。

JNCは、複数のCF2O結合基を有する3あるいは4環化合物1)、あるいはフルオロビニル基あるいは2、2-ジフルオロビニルオキシ基または1、2、2-トリフルオロビニルオキシ基2)などを有するフッ素系液晶材料を提案している。上表の他の要件を満たしながら、特に前者は大きな誘電異方性を示し、後者は広いネマチック相温度を示す。例えば下記の化合物が例示されている。
FT1
DICは、フルオロナフタレン誘導体3)、フッ素化されたビシクロオクタン構造あるいはそれに類似した構造4)、誘電異方性が正のフッ素化合物5)などを提案している。前二者は、VA方式における負の誘電異方性の絶対値を大きくし、後者は、IPSモードに対応したものである。例えば下記の化合物が提案されている。
FT2
ここで、R11は炭素数1~15のアルキル基である。

独メルクは、3個以上のフッ素置換ベンゼン環が並び、連結基としてCF2Oを有する構造において、下図に示す構造が例示され、比較的高い透明点、極めて高い誘電異方性(Δε)、高い光学的異方性(Δn)および低い回転粘度を有するとしている。6)
FT3
また、tmax/Δn2が22ms以下のネマチック液晶媒体などを提案している。ここで、tmaxは電流の時間曲線が最大になる時間であり、時間が短いほど応答速度は大きくなる。Δnは複屈折率であり、この場合大きいほど好ましい。液晶媒体としては、下図に示す化合物が例示されている。7)
FT4
以上、2011年後の特許情報による各社の動きを示したが、それぞれ、それまでに開発してきたフッ素含有構造をベースにさらに発展させている感があり、より精緻で総合的な観点からの開発戦略が示されている。

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4、最新の文献情報
Zhuo Zhengらは、下式に示す3,4-ジフルオロピロールなどの含フッ素ヘテロ環を末端に有する液晶化合物を提案している。n/m-2Fの場合、耐熱性が向上し、ネマチック温度範囲も広がったとしている。8)
FT5
David O’Haganらは、下記に示すジフルオロプロピオネオキシ基を有する化合物を合成し、Δε=-7.35、ネマチック相の上限温度73℃を得ている。9)
FT6
P.K. Mandalらは、下式に示すようなフッ素化イソチアシアナトターフェニル化合物を合成し、その構造的、光学的、動力学的性質を調べている。その結果、複屈折性であり(左のモノフルオロタイプが0.373、右のジフルオロタイプが0.357)、Δnはモノフルオロが164℃まで0.3以上、ジフルオロが136℃まで0.3以上であった。また両者ともに低温での特性が優れていた。従って、高速スイッチングディスプレイのための高複屈折ネマチックミクスチャーとして有望であるとしFT7
ている。10)

5、おわりに

液晶ディスプレイの材料として含フッ素化合物が有用であることが見出されたのは1980年代であった。その後、その重要性は益々高められ、液晶材料の開発はフッ素系化合物の開発であるといっても過言ではない。その中で、2011年以来の開発状況を特許および最新文献から調べたのが本稿である。概観すると、フッ素の導入位置やその構造についてはほぼ2010年ごろまでに確立されていて、その後はそれの更なる最適化、複合化の開発が主流であることが分かった。
今後は、高品位の3D-LCDなどの開発がかなり進むと思うが、それに対応した液晶材料もやはりフッ素系化合物が主役であることは間違いないと確信している。

文献・特許
1) JNC 特開2013-221011、特開2013-14575
2) JNC 特開2012-236780、特開2014-40413
3) DIC 特開2012-25667
4) DIC 特開2012-116780、特開2012-149025
5) DIC 特開2013-170248、特開2014-62186
6) メルクパテント 特開2011-98963、特開2011-195587
7) メルクパテント 特開2014-51664
8) Zhuo Zheng et al Journal of Fluorine Chemistry 156(2013) 327-332
9) David O’Hagan et al Tetrahedron 70(2014) 4626-4630
10) P.K. Mandal et al Physica B 441(2014) 100-106