科学の最近の進歩-2 スチュアート・カウフマン「自己組織化と進化の論理」

スチュアート・カウフマン(1939?)

最近の科学の進歩-1でイリャ・ブリゴジンの「確実性の終焉」を紹介したが、不完全燃焼だったので、それに関連した本を読んでいる。同じブリゴジンの「存在から発展へ」、太田隆夫の「非平衡の物理学」、スチュアート・カウフマンの「自己組織化と進化の論理」である。今回は、「自己組織化と進化の論理」について述べる。

「自己組織化と進化の論理」は生理学者で医者のカウフマンの著作。ダーウィンのランダムな突然変異と自然淘汰による選別と言う進化論に真っ向から挑戦する内容。そこには非平衡の物理学も登場して彼の考え方を支援する。

まずは、ダーウィンの考え方だと生命の誕生に地球誕生から40億年では時間が短すぎる。まして、人間が登場することなど余程の偶然が重ならないとできない。そこには見えざる手による自己組織化という考え方が必須であると言う。

ダーウィン主義の継承者である生物学者のほとんどが「個体発生の秩序は、進化によって一片一片つなぎ合わせて作られた手の込んだ機械がこつこつと働いて生み出したものだ」と考えているが、カウフマンは「個体発生で見られる美しい秩序のほとんどは、驚くべき自己組織化の自然な表現として、自発的に生ずるものである」とする。そして、「こうした自己組織化は、非常に複雑で一定状態を維持するような調節的なネットワークにおいてよくみられるものである」と言う。さらに「生命は、カオスと秩序の間で平衡を保たれた状況に向かって進化する。つまり、生命はカオスの縁に存在する」とする。水には、固体の水、液体の水、水蒸気と言う3種類の相があるように、複雑適応系にも、例えば接合子から成体への成長をコントロールするゲノムのネットワークは、凍結した秩序状態、気体的なカオス状態、秩序とカオスの間のある種の液体的な状態の、主に三つの状況において存在できる。そして、「ゲノムのシステムは、カオスへの相転移する直前の秩序状態にある」と言う考え方は魅力的だと言う。カオスの縁の近辺にあるネットワークが複雑な諸活動を最も調和的に働かせることが出来るし、また、進化する能力を最も兼ね備えているのである。

生物学における非常に大きな謎は、生命が生まれてきたことであり、我々が目にする秩序が生じてきたことである。我々は圧倒的倍率を勝ち抜くことによって生じた存在ではない。宇宙の中にしかるべき居場所を持つ存在であり、生じるべくして生じた存在である。

生命が生まれたのは、自己触媒作用を営む物質代謝を形成するために、分子が自発的に集合した時である。

複雑な系がカオスの縁、あるいはカオスの縁の近傍の秩序状態に存在する理由は、進化が系をそこに連れていったからである。

また、ウイルスと抗体のように互いに進化し合う共進化は進化にとって重要であると主張している。

さらに、綿密に色々な角度から自己組織化について検証している。例えば、ボタンを並べておいて、ランダムに拾い上げ、それを糸で結ぶ。その動作を繰り返すと、糸の数がボタンの数の半分のところで相転移が起こり、巨大な数のボタンが糸で結ばれて釣りあげられる。つまり、生命の誕生もそのような相転移が起こったからであり、それは偶然ではなく起こるべくして起こったのである。そして、自己触媒作用こそが細胞を創り出した基本なのである。

こうした考え方は、将来ニュートン力学や量子力学のような理論化がされると期待されるが、まだそれは成し遂げられていないが、必ずや将来成し遂げられ、その暁には、全体が見渡せ、人間の宇宙における立ち位置が分かってくると期待していると結んでいる。まさに非平衡の物理学の目指すところと一致しており、壮大な世界観が開けてくるような気がした。