「科学者が人間であること」「鶴見和子・対話まんだら、中村桂子の巻」「自己創出する生命」
「科学者が人間であること」。私にとって何か当たり前のことが表題となっている。その人間は「生き物であり、自然の一部である存在」ということで何度も繰り返され、この本のベースを流れていく。この当たり前のことが気付いてみれば当たり前になっていないと言うことに気付かされる。彼女は生命科学から生命誌に至っている。それは下図に示す40億年前の生命誕生から現在に至る生命の歴史学である。この流れを理解することにより他の生物の繋がりを理解し、人間が自然の一部であることを感じることが肝要と言っている。
この図は抽象的だが、中沢弘基氏が「生命誕生地球史から読み解く新しい生命像」という本を出していてその中に下図を示していて実に分かりやすかったのでここに掲げておく。つまり、地球は46億年前に誕生し、最初は溶融状態にあったが次第に冷えていき、陸のない海ばかりの状態へと変化していく。そして、隕石の海洋衝突が頻繁に起こる中、超高温・高圧、超臨界・急冷状態下で有機低分子アミン、カルボン酸などが大量に生成する。そして、有機物で水溶性の化合物は海に溶け、粘土質の微粒子に吸着して海底に沈着する。海底では脱水状態が達成され、水溶性アミンやカルボン酸が高分子化していく。その高分子は無機質の小胞体の中に取り込まれプレートに乗ってその端で熱水に遭遇し、個体として成立する。これが生命の誕生である。高分子はやがてRNAやDNA、そしてたんぱく質になり、代謝機能、自己複製機能を獲得し、本格的な生命の誕生となる。その後は「科学の最近の進歩2」で述べた歴史を辿って人類に至ると言うわけである。ニワトリが先か卵が先かの議論はこの考え方ですっきりと解決されているように思った。
中村桂子さんに戻ろう。彼女は科学が独り歩きして自然をないがしろにしてきたことを憂い、科学の世界から哲学、文学の世界を垣間見て、そこに真実があると感じたようだ。鶴見和子との対談もその流れの中にあり、大森荘蔵 吉本隆明、宮沢賢治、南方熊楠に接し、略画化と密画化の重ね描き、知ることとわかること、縁と曼荼羅などの考え方を取り入れて総合的に複雑系の科学を理解しようとしている。そして、色々な分野の人たちとサロンと称して議論を繰り返していく場を設けることを提案している。具体的に何が発見され、どういう新しい思想が生み出されてきたかは不明だが、今後、このような運動から複雑系の科学、これまで述べてきた非平衡の物理学や非ダーウイン生物学の世界を描くことが出来ると大いに期待している。そして、ここで取り上げてきた「科学と芸術」、「科学と宗教」が今後続けていかなければならないテーマであることも認識できた。今後は総合的に深めていければと思っている。