絵でわかる自然エネルギー


御園生誠・小島巖・片岡俊郎著
この本を研究室の先輩で、東大名誉教授、元日本化学会会長の御園生誠さんから戴いた。この本の中にもある「高い目標に向かって努力することは良いことで、そのための犠牲は惜しくない」という言葉を、あの鳩山元首相が2020年にCO2の25%削減を国連総会で約束した時、私が言ったと批判され、記憶になかったので反論したことが切っ掛けになったようだ。
御園生誠さんの持論が、豊富なデータにより展開されている。
まずは「エネルギー問題の全体像」が描かれる。エネルギーの基礎知識として、エネルギーとは何かから説き起こし、エネルギーの半分が無駄になっている、エネルギーには一次と二次があること、薪や炭は旧バイオ燃料に属し未だに重要なエネルギー源であること、環境発展と環境負荷の関係を表す環境グズネッツ曲線のこと、「ある」と「使える」との違い、わが国のエネルギー事情、地球のエネルギー事情、エネルギーの流れ、エネルギーの単位などなど、ここでエネルギーの基礎知識が十分に得られる。次いで自然エネルギーについて言及。自然エネルギーは再生可能エネルギーとはほぼ同じ意味であること、旧型(在来型)と」新型とに分けて考えること、自然エネルギーは全電力の20%に過ぎないことを喚起する。そして、新・自然エネルギーの特徴と課題が明確にされる。
次いで、「自然エネルギー百花繚乱」と題して、太陽光発電、太陽熱、地熱、風力発電、水力発電、波力発電、潮汐発電、温度差発電、バイオマスについてそれぞれの特徴と課題が明快に述べられていく。巷では太陽光発電が本命と言われているが、コスト的に見て果たしてそうであるのか、寧ろ太陽熱を利用した方が有効ではないかなどの議論が展開されていく。そして、とくにわが国においては地熱発電が重要であることが主張される。バイオマスについてはまだまだで、特にサトウキビやトウモロコシを使用することに対しては厳しい批判を加えている。
さらに、「電力を節約して貯める」と題して省エネルギー及び」電力の貯蔵の重要性を説いている。節約は勿論重要であるが、さらに電力の貯蔵の問題こそ重要だとしている。揚水発電、水素貯蔵、蓄電池について述べているが、蓄電池への期待感は高い。但し、コストと資源問題など課題は多いとしている。またスマートグリッドも今後重要になってくると結んでいる。
最後に「21世紀の日本のエネルギー戦略」をかなり具体的に提言している。そこには既存エネルギー、特に原子力を考慮に入れた新エネルギー戦略が打ち出されている。ひとつの見識として大いに評価できる内容だと思っている。
「高い目標に向かって努力することは良いことで、そのための犠牲は惜しくない」という言葉は「高い目標に向かって努力することは良いことではあるが、性急ではなく地に足を付けて行うべきだ」という言葉が聞こえてきた。この本を一読してひとりひとりがこの問題を真剣に考えることの大切さを実感させられた。
                                松尾 仁