「パーフルオロポリエーテル基含有材料」

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1、はじめに
パーフルオロポリエーテル基を有する材料は、この10年余り、主にタッチパネルの指紋付着防止コーティング剤として大きな市場を獲得している。撥水撥油剤や界面活性剤などに用いられるパーフルオロアルキル基含有コーティング剤とは異なった機能である低濡れ性や低Tg故の完全アモルファス性に加えて、高撥油性、高耐熱性、低屈折率性、低摩擦性といった機能を有していることが他の展開への可能性を秘めている。また、PFOA問題を解決できる界面活性剤としての存在感もある。パーフルオロポリエーテルの合成法はパーフルオロエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、オキセタンなどの開環重合法、TFEやHFPと酸素の低温UV照射下共重合法、フッ素と炭化水素の混合ポリエーテルのF2フッ素化法などが知られている。本稿では、最近の文献・特許からパーフルオロポリエーテル基含有材料の多彩な展開について紹介する。

2、エレクトロニクス関連
銅およびその合金は酸化されやすく、電導度の低下をきたす。Zineb Mekhalifらは、パーフルオロエーテルアルキルチオールおよびジチオールの自己組織化単分子層を銅の上に形成させ、防錆性を付与すると同時に、パーフルオロポリエーテル潤滑剤をその上に処理すると摩擦係数が低下し、その耐久性が向上することを報告している。これは、単分子層が銅に強く固定され、潤滑剤が単分子層と親和性が高いためとしている。1)

Alessandra Vitaleらは、下記のパーフルオロポリエーテルベースモノマーの光重合ポリマーを合成した。得られたポリマーは良好な耐熱性、低表面張力、種々の溶媒に対する低膨潤性などの特徴を示し、パターン転写の実行およびフォトリソグラフィー処理に成功し、マイクロ流体デバイスへの応用を可能にした。2)

CH2=C(CH3)COOC2H4NHCOOCH2CF2O(C2F4O)p(CF2O)qCF2CH2OCONHC2H4OCOC(CH3)=CH2

A. Vitaleらは、シリコンウエハーにパーフルオロポリエーテル含有エトキシシランを超薄膜コーティングしている。3) パーフルオロポリエーテル含有エトキシシランとしては下図の構造のFluorolink S-10を用いている。
(C2H5O)3SiC3H6NHCOCF2‐Rf‐OCF2CONHC3H6Si(OC2H5)3   
Rf=-(CF2O)q(C2F4O)p
p≒q=5.5

下図に水の動的接触角の測定結果を示す。前進接触角は濃度および時間とともに上昇しているが、これはPFPE基のTgが-90℃と低く再配列が容易だからとしている。シリコンウエハーとは共有結合し、13mN/m の低表面エネルギーを実現し、撥水撥油性、指紋付着防止、防汚性を付与したと報告している。
f1
Lei Liuらは、ハードディスクなどに要求される原子厚みの固体潤滑剤として期待されているグラフェンの摩損を減らす方法を検討した。4)その結果、下記のパーフルオロポリエーテルをグラフェンにコーティングするとSi/グラフェン系では摩擦係数は減少したが、摩損が増大し、Ni/グラフェン系では摩擦係数は減少せず摩損は大幅に改善された。また、表面粗度を高めることにより潤滑性を向上できることが分かった。グラフェンを含むデバイスの将来設計への道が開けたとしている。
CF3CF2O-(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2CF3

3、超撥水性、防汚性
Maurizo Sansoteraらは、下図に示すようなパーフルオロポリエーテルパーオキサイドとMWCNTを反応させ、表面積と撥水性を評価した。
f2

結果を下表に示す。フッ素コンテントが4.2原子%以上で超撥水性を示した。5)
f3
また、彼らはパーフルオロポリエーテルパーオキサイドを熱分解してできたラジカルで直接燃料電池のガス拡散層を処理するとカーボン布と共有結合して表面を覆い、超撥水表面を形成することを報告している。6)そして、従来のPTFEをバインダーに用いた場合と比較して総じて高性能であり、特にオーム抵抗に関しては優れていたとしている。

Stefano Turriらは、これまで船舶の防汚コーティングとして高性能を誇るとするパーフルオロポリエーテルポリマーの生体医療への適用を検討している。7)下記の4種類のパーフルオロポリエーテル感光性樹脂を取り上げ、その構造と表面および機械的性質との関係を調べた。

CH2=C(CH3)COOCH2CF2O(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2CH2OCOC(CH3)=CH2
Mn=1980g/mol(PFPE-DMA 2000)および4000g/mol(PFPE-DMA4000)
CH2=CHCOO(CH2CH2O)qCH2CF2O(CF2CF2O)m(CF2)nCF2CH2(CH2CH2O)pOCOCH=CH2
Mn=2030g/mol、p+q=4.6(PFPE-PEG4.6-DA)および2206g/mol、p+q=8 (PFPE-PEG8-DA)

特にウシ血清アルブミンを用いて汚染防止性および汚染除去性をポリマーの表面張力γだけでは不十分でその弾性係数Eを考慮に入れる必要があると主張。その結果、(Eγ)1/2値との間に関連性があり、さらにγpolarとより良好な関係があったとしている(下図)。尚、縦軸のGreen tonal valueはマイクロ流体チャンネルを上記パーフルオロポリエーテル体で処理し、アルブミンを流してその付着性を評価したものであり、小さい値ほどアルブミンが付着しにくく除去しやすい。結論としてPFPE-DMA 4000が有望としている。
f4
4、界面活性剤

Rf基含有カルボン酸塩はフッ素樹脂などの乳化重合における界面活性剤として広く使われてきたが、PFOA問題でC7以上の鎖長を有するRf基の代替基の開発が行われ、その候補の一つにパーフルオロポリエーテル基が提案されている。8)、9)、10)

Decai Liらは、パーフルオロポリエーテルカルボン酸界面活性剤(PCAS)で修飾したFe3O4磁性ナノ粒子(MNPs)を、空気中で保護ガスを使用せずに共沈させて作製した。11)本MNPsは粒子径が11nmの球状で単分散の粒子であり、PCASでコートされていることが確認された。そして、Fe3O4の結晶形態あるいは超常磁性は維持されていた。但し、飽和磁化値は74.684emu/gから55.392 emu/gに低下した。しかし、従来の界面活性剤に比して高い値であり、修飾に成功したとしている。

5、おわりに

パーフルオロポリエーテルは高級潤滑油として、タッチパネルの指紋付着防止剤として、さらにはPFOAに代わる界面活性剤として大きな市場を得ている。本稿ではさらに新しい可能性を中心に述べたが、今後益々期待できる材料であることは間違いないと確信している。

文献

1) Zineb Mekhalif et al Electrochimica Acta 63(2012) 269-276
2) Alessandra Vitale et al European Polymer Journal 48(2012) 1118-1126
3) A. Vitale et al Progress in Organic Coatings 78(2015) 480-487
4) Lei Liu et al Thin Solids Film 549(2013) 299-305
5) Maurizo Sansotera et al Carbon 59(2013) 150-159
6) Maurizo Sansotera et al Journal of Power Sources 258(2014) 351-355
7) Stefano Turri et al Applied Surface Science 309(2014) 160-167
8) ダイキン工業、カネカ 特開2010-144080
9) 日光ケミカルズ 特開2013-95717
10) ダイキン工業 特開2014-240502 
11) Decai Li et al Materials Letters 143(2015) 38-40