「含フッ素シルセスキオキサン」

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。
http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201208/#topic01

1、はじめに
含フッ素シルセスキオキサンについては、2009年8月に「フッ素関連トピックス三題」で「Polyhedral oligomeric silsesquioxanes(POSS)」として一度取り上げたが、その後も開発が活発であり、興味深い結果も多々あるのでここで最新の情報を纏めてみた。シルセスキオキサンには、ランダム型、ラダーポリマー型、かご型の3種類の構造がある。ここでは、フッ素を直接導入した系を中心に、シルセスキオキサン含有モノマーと含フッ素モノマーとの共重合体、含フッ素ポリマーとシルセスキオキサン含有物のコンポジットについて紹介する。

2、フッ素化シルセスキオキサン
山廣らは、下図のようにメタクリル基含有トリフルオロプロピル基含有かご型POSSを合成し、これを用いたメチルメタクリル酸(MMA)とのラジカル共重合により、新規な含フッ素有機-無機ハイブリッド高分子(MMA-co-7F-T8-MMA)の合成を行った。1)
FT1
得られたハイブリッド高分子の表面自由エネルギーを測定した結果、Fig.1に示すようにトリフルオロプロピルメタクリル酸とMMAとの共重合体(MMA-co-TFEMA)に比して、MMA-co-7F-T8-MMAは少ないフッ素含有量で著しく低下することが分かった。その理由は、表面のフッ素存在量ではなく(両者でほぼ同じ)、存在状態が影響していると提案している。つまり、MMA-co-7F-T8-MMAの分子サイズが非常に大きいため、その立体障害により、ポリマー主鎖近傍に存在する極性基(エステル結合)と水との相互作用が起こりにくく、界面環境に対するポリマーの分子運動性が抑制されていると考えられる。
FT2
また、紫外線硬化型ハードコート剤との複合化を行い、原子間力顕微鏡および電界放出型走査型電子顕微鏡を用いて表面解析を行った結果、Fig.4に示すようにMMA-co-7F-T8-MMAの方がMMA-co-TFEMAより表面でF原子が濃縮されていることが分かった。このことは、接触角が前者の方が低下していることからも説明できる。
FT3
Lamisonらは、C8F17CH2CH2基を有するオリゴマータイプのPOSS(F-POSS)を合成し、フッ素ゴムFKMと混合して綿に処理したところ、ブレークスルー圧力を上げることができた。2)ブレークスルー圧力は超撥水性の実用的な評価値で、シリンダー状のガラスの一方を綿布で覆い、そこに水を導入して綿布から漏れ出す時の高さを測定し、算出できる。下図はAが溶剤(AK-225)のみで処理した綿布、Bは未処理綿布、CはFKM(Technoflon)1wt%溶液で処理した綿布、DはF-POSS1wt%溶液で処理した綿布、EはTechnoflon1wt%溶液処理後、F-POSS1wt%溶液処理した綿布、FはF-POSS1wt%溶液処理後、Technoflon1wt%溶液で処理した綿布、GはF-POSS/Technoflon=1/1の1wt%溶液で処理した綿布のブレークスルー圧力を示している。F-POSSが高い値を示し、さらにTechnoflonと混合するとさらに向上することが分かる。
FT4
中條らは、CF3CONHCH2CH2基およびビス(2-ピリジルメチル)アミノ-2-エタノイック酸(PMEA)銅錯体を含むかご型POSSを合成し、ニトロキシルHNOの19FNMRセンサーに適用した。3)
ダイキン工業は、撥水撥油性、防汚性、耐熱性、耐候性および耐磨耗性に優れた表面処理剤として下記の構造のフッ素化かご型POSSの重合体を提案している。4)
FT5
また、より低い誘電性を有し、および半導体層間絶縁膜、難燃化剤、半導体用封止剤として使用する場合に必要な機械的特性、熱安定性、耐候性などの特性を向上し得るとしている。
JNCは、上記同様のフッ素化かご型POSSメタクリレートをMMAと共重合し、フルオレン系アクリレートの重合体と積層体を作製し、反射防止剤として提案している。5)

3、含フッ素モノマーと含シルセスキオキサンモノマーとの共重合体6)
aria Vasiropoulouらは、下記のかご型POSS含有メタクリレートと含フッ素アクリレートとの共重合体(a)とフッ素系酸発生剤(b)を合成し、誘電率2.0の低い誘電率を有するフォトリソグラフィー材料として開発した。
FT6
4、フッ素樹脂とシルセスキオキサン含有物とのコンポジット7)
ダイセルは、高温耐熱性、柔軟性、透明性、耐熱黄変性、耐光黄変性等の物性を有する封止材として、下図に示すラダー型シルセスキオキサンと含フッ素シラン化合物とのコンポジットを提案している。
FT7
5、おわりに
フッ素系シルセスキオキサンはそのバルキーな構造が撥水撥油性、低屈折率性、低誘電率、耐熱性などフッ素の特徴をより高度化することができ、繊維処理剤などの表面処理剤、半導体用封止材、ディスプレイ用反射防止材など多彩な用途が提案されており、その開発は活発である。今後目を放せない素材である。

文献
1) 山廣幹夫他 ネットワークポリマー 33(2012) 16-25
2) Kevin R. Lamison et al Applied Surface Science in Press 2012
3)Yoshiki Chujo et al Bioorganic & Medicinal Chemistry 20(2012) 4668-4674
4)ダイキン工業 特開2012-001724
5)JNC 特開2012-86419
6) Maria Vasiropoulou et al Materials Chemistry and Physics 2012 1-4
7) ダイセル 特開2012-121955

発行:ダイキン工業株式会社 化学事業部 ファインケミカル部 WEBマガジン事務局