「ナノインプリントにおけるフッ素」

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。
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1、はじめに
ナノインプリントリソグラフィー(NIL)は、従来の露光装置を使わずに、凹凸のパターンを形成したモールドを基板上の液状ポリマーなどへ押し付け、パターンを転写して微細加工を実現するものである。これまでは光学部品の加工などに使われてきたが、最近LSIの量産に使おうとする動きがでてきた。その利点は、高解像度、優れた寸法制御性、低コストなどである。その工程を下図に示す。(1)塗布、(2)プレス、(3)転写(UV光または熱)、(4)離型、の4つの工程からなり1)、フッ素は離型の場面で重要な役割を演じている。
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本稿では、最近の文献からフッ素を利用したナノインプリントについて述べる。

2、モールド離型の低減2)
下図にモールド離型力の低減要員の模式図を示す。
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モールド離型力を低減する方法として、(1)石英モールド内壁に数nmの厚さの離形層を形成し、光または熱硬化樹脂の石英モールド内壁への付着を防ぐ、(2)光または熱硬化樹脂に内部離型剤を付加する、(3)モールド離型時に基板と樹脂間の密着性不良による基板からのパターン剥離などの欠陥をなくすために、基板と樹脂間に密着層を形成する、(4)モールド離型力には雰囲気依存性があり、凝縮性ガスが提案されている。この中で(1)、(2)、(4)においてフッ素系材料が使用されている。

3、離型層
谷口らは、シリコンモールドによる繰り返し使用可能なUV-NILの離型剤を検討し、ダイキン工業のオプツールDSXとC6F13C2H4SiCl3との組み合わせで1400回繰り返し使用できることを確認した。3)オプツールDSXが剥離性による欠陥率低下に貢献し、C6F13C2H4SiCl3が耐摩耗性に貢献している。

竹井らは、適宣光硬化樹脂を滴下しながら、ナノ構造体を作製するStep and Flash Imprint Lithography法において、モールド表面をC8F17C2H4Si(CH3)2OC2H5で処理し、さらにシリコーンレジストにC8F17基を導入して、レジストとモールドの剥離性を向上させている。4)

Celestino Padesteらは、ニッケルモールドに下記の離型剤を塗布してナノインプリントを行い、その耐久性を調べた。その結果、下表のようにリン酸タイプが高い耐久性を示し、HFDPが8回以後でも全く変わらぬ性能を示した。5)
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松井らは、離型層として、4種類のCF3(CF2)n(CH2)2Si(OCH3)3(n=0、3、5、7)の自己組織化膜をSi上に成膜させ評価した。6)吸収端近傍X線吸収微細構造(NEFAFS)スペクトルから4種類の全ての分子でCF3サイトが表面に出ていると考えられる。また、NEFAFSスペクトルの入射角依存性を測定し、CF2鎖を構成しているC-C結合が基板に対して垂直であると解釈した。剥離性はパーフルオロアルキル鎖長の長い方が優れ、滑り性はn=3以上でほとんど変わらないという結果であった。 

4、光硬化性物質
上記竹井らの文献で光硬化レジストとしてパーフルオロアルキル(Rf) 基を含有する下記のシリコーン樹脂が提案されている。4)Rf基の導入により剥離性が増大し、欠陥率が低下したとしている。
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キャノンは、光ナノインプリントの光硬化性物質として下記の配合物を提案している。ナノインプリントに適用したところ、UV硬化時間が短く、高い離型性を示し、生産性が高いとしている。7)

1)イソボルニルアクリレート 2) (2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート 3) ヘキサンジオールジアクリレート
4) C6F13C2H4(OC2H4)6N(C2H5)2 5) C6F13C2H4(OC2H4)15OH

5、凝縮性ガス
光ナノプリントの特徴のひとつは低コスト化である。この観点からプロセスは大気環境下で行うことが望ましい。しかしながら光ナノインプリントでは大モールドに捕獲された大気が液体状態の光硬化樹脂に吸収されずバブル欠陥が起こるという課題があった。廣島らは凝縮性ガスを利用する光ナノプリント手法を提案している。8)本法は捕獲されるガス(凝縮ガス)が加圧により凝縮(液化)する現象を利用してバブル欠陥を抑止する。液化したガスは一カ所に集まることなく、モールド-光硬化樹脂界面への拡散や光硬化樹脂中へ溶解し、バブル欠陥を抑止していることが分かっている。凝縮性ガスとしてはCHF2CH2CF3(PFP)が推奨されている。光インプリントリソグラフィーでは0.1MPa程度でプロセスを行うのが好ましい。従って、室温での飽和蒸気圧が0.15MPa(1.5気圧)であるPFPが適切というわけである。大気圧環境下でPFP雰囲気を発生させ、この環境下でインプリントを行うと、インプリント中のPFPは0.5気圧の追加的加圧で全て凝縮させることができ、全く欠陥が発生しなかった。さらにモールドと光硬化樹脂の界面に凝縮するので離型力を大幅に低減できた。

6、おわりに
最近の新聞記事に大日本印刷がNILの量産を年内に開始すると発表した。UV硬化樹脂用で20nmレベルのプロセスに対応したもので世界初とのこと。9)また、キャノンが線幅10nm台の次世代プロセスへ対応可能なNIL装置を年内に製品化すると発表した。10)半導体微細化が今後ますます進むなかでNILの重要性が高まることは必至であると考える。その中でフッ素系材料の活躍が期待されている。

文献
1) http://www.toyogosei.co.jp/rd/uv_feature.html
2) 松井真二 月刊トライボロジー2014,1 18-20、2015,1 
3) Jun Taniguchi et al Microelectronic Engineering 123(2014) 117-120
4) Satoshi Takei et al Microelectronic Engineering 116(2014) 44-50
5) Celestino Padeste Microelectronic Engineering 123(2014) 23-27
6) 松井真二 OPTRONICS(2014) No1 115-119
7) キャノン 特開2014-237632
8) 廣島洋 OPTRONICS(2014) No1 74-79
9) 化学工業日報 2015年2月20日
10) 化学工業日報 2015年2月25日