「フッ素化ナノカーボン」

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1、はじめに
ナノカーボンとは、母材をグラファイトとする、ナノメートルの大きさの構造を持つカーボンから成る物質群である。フラーレン、ナノチューブ、グラフェン、ナノホーンなどがある。いずれも人工的につくられたものである。このナノカーボンにフッ素を導入する試みが以前から行われており、ここでも2011年2月号の「フルオログラフェン」、2009年12月号の「フッ素化MWCNT」、2008年6月の「フッ素含有ナノカーボン」などを記述している。本稿では最近の文献からフッ素化ナノカーボンの現状を探ってみた。

2、フッ素化グラフェン

2.1 フッ素化グラフェンの作製
Marc Duboisらは、フッ素化グラファイトの熱衝撃法による剥がれ作用を検討している。1)気相成長黒鉛(HOPG)と天然グラファイト薄片を450℃~580℃の温度で、1気圧のF2でフッ素化した。一方、F2/IF5/無水HFでフッ素化した場合は、室温でフッ素化が進行した(RTGF)。この場合、触媒のIF5やHFのインターカレーションが起こっている。次いで、RTGFのC-F共有結合とフッ素コンテントを上げるためにさらに100℃~680℃で、F2ガスでフッ素化した。さらに、熱衝撃法で剥がれ作用を行い、フッ素化グラフェンを作製した。RTGFの場合、触媒の脱インターカレーションを速やかに行うと剥がれ作用が促進されることが分かった。

Ping Chen らは、フッ素化グラファイトをNH3BH3存在下ボールミルで剥がれ作用を行うと高収率でフッ素化グラフェンナノシートが得られることを報告している。2)NH3BH3はエタノールで除去する。このシートの大部分は0.3~1μmの粒度を有し、1~6原子層から成り立っている。分析の結果、本フッ素化グラフェンは元のフッ素化グラファイトと同じ構造を有していることが分かった。

2.2 フッ素化グラフェンの構造
Shang-Peng Gaoらは、グラフェン表面上下図のような様々な立体配置をとるフッ素原子を有する半フッ素化グラフェンの平衡構造と機械的強度について密度汎関数理論から調べた。3) フォノン状態密度から、(f)のzigzag*以外の構造は安定であることが分かった。また、chair、zigzag、chair*構造は金属的であり、chair構造はスピンが分極化している。さらに、boatおよびboat*構造は、間接遷移半導体であり、それぞれのGWバンドギャップは5.147eVと5.648eVであった。

機械的強度については、6%以上の引張歪がchair構造を持つ半フッ素化グラフェンの間接バンドギャップを開放することができる。また、boat*構造を持つ半フッ素化グラファイトは圧縮歪下で間接から直接遷移状態への変化を起こすことが分かった。
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2.3 フッ素化グラフェンの修飾、応用
Jinging Wangらは、フッ素の被覆率及びサイズを制御できる、水溶性青色発光性フッ素化グラフェン量子ドット(GFOQDs)を剥離フッ素化グラフェンから効率的に合成した。4)得られたGFOQDsはサイズ分布が狭く、平均サイズは2.5-3.5nmであった。その化学組成はC-F結合、水酸基やカルボニル基に由来するC-O結合から成っていた。炭素ベースの量子ドットから予想されるようにGFOQDsは励起波長依存性を示すが他のグラフェン量子ドット(GQDs)と異なり、下図に示すように、pHに対して耐性があり、酸でもアルカリ雰囲気化で安定した発光を示す。その結果、水溶性で化学的安定性の高い新規なGQDsとして応用可能であるとのことである。
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S.S. Sreejakumariらは、フッ素含有量34.4原子量%のフッ素化グラフェンオキシド(GFO)をポリジメチルシロキサンに添加して塗料とし、アルミニウム合金およびガラスに塗布、水の接触角173.7度、ココナッツオイルの接触角94.9度を得たと報告している。5)超撥水性については、GFOが表面の粗度を上げ、表面張力を低下させたことによるとしている。

3、フッ素化カーボンナノチューブ
A.P. Karitonovらは、フッ素化カーボンナノチューブ(CNT)でエポキシ樹脂を強化し、機械的強度の向上を報告している。6)150℃でCNTをフッ素化し、0.1wt%エポキシ樹脂(ジグリシジルエーテルビスフェノールAタイプ)に添加した場合、引張強度が89.6±4.1MPaと35%増大した。また、曲げ強度は0.2wt%添加で199.7±4.8MPaと58%増大した。いずれも耐熱性は変わらなかった。フッ素化CNTの添加によりTgが上昇している。

M. Umadeviらは、フッ素をドープした多層CNT(MWCNTs)/TiO2コンポジットを固相法で作製し、キャラクタリゼーションおよび光触媒能と抗菌性について評価した。7)XRD、FT-IR、FE-SEMによりFとMWCNTsがTiO2にドープされ、管状構造をとっていることが確認された。また、ドーピングにより光生成電子とホールの分離が促進され、下図に示すようにメチルオレンジのUV照射下でのTiO2の光触媒能を向上させた。また、有機汚染物質の分解も促進した。
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4、フッ素化フラーレン
Jian-Min Zhangらは、下図の方法で合成したフッ素化フラーレン結合1,3-ジオキソランについて、その合成法における触媒とベンズアルデヒドへの導入したフッ素の数と位置の影響を調べている。8)触媒については、LiClO4がFe(ClO4)3よりも効率的であることが分かった。また、ジフルオロベンズアルデヒドの場合が最も収率が高かった。最高単離収率は51%。発光スペクトルにおいて、オルト位のフッ素が強度を高めていた。さらにフッ素の数を増すとLUMOおよびHOMOエネルギーを効率的に低下させた。
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5、おわりに
ナノカーボンのフッ素化についてはグラフェンを中心に研究が盛んである。グラフェンの場合、エレクトロニクス材料や超撥水材料として可能性があるが、熱的安定性が不十分という文献もあり、9)実用化にはまだ時間がかかるようである。フッ素化CNTについては樹脂強化材など応用展開に可能性が見えてきている。また、フラーレンについては単純なフッ素化体のみならずフッ素含有化合物の導入などが盛んにおこなわれている状況である。いずれにしても今後新しい材料として期待したい。

文献

1) Marc Dubois et al Carbon 77(2014) 688-704
2) Ping Chen et al Carbon 81(2015) 702-709
3) Shang-Peng Gao et al Surface Science 635(2015) 78-84
4) Jinging Wang et al Carbon 83(2015) 152-161
5) S.S. Sreejakumari et al Carbon 84(2015) 207-213
6) A.P. Karitonov et al Composites Science Technology 107(2015) 162-168
7) M. Umadevi et al Spectrochimica Acta Part A: Molecular and Biomolecular Spectroscopy 139(2015) 290-295
8) Jian-Min Zhang et al Tetrahedron 70(2014) 5828-5833
9) Martin Kalbac et al Carbon 84(2015) 347-354