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フルオライドイオン電池

火曜日, 7月 11th, 2017

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/webmaga/201707.html

1、はじめに
リチウムイオン電池(LiB)は、現在最も高い能力を有する電池であり、携帯電話、電気自動車(EV)、大規模電気化学貯蔵などに使われている。電池の容量をさらに上げる努力は続けられており、その候補の一つとして、フルオライドイオン(F‐)を電荷移動体とするフルオライドイオン電池(FIB)がある。F‐は非常に安定であり、広い電気化学窓を有しているので電池の電荷移動体として高いポテンシャルを持っている。

2、FIBの作用理論と理論性能1)
下記にカソードとしてBiF3、アノードとしてMgを用いた電池を示す。

理論的に、各電極で起こっている反応をもとに、MFxとM’Fyの化学ポテンシャルの差から無負荷電圧を計算し、重量電気容量および体積エネルギー密度(下図)を求めている。体積エネルギー密度は色分けされていて右の棒グラフにその値が示されている。この図から、正極としてAgF2、CoF3、CuF2、NiF2、IrF5など、負極としてCeF3、LaF3、IrF3、YF3、PrF3、など130のFIBs系がLIBより高い性能を有している。(LiBでは1015Wh/l)

3、FIBの種類
FIBには、全固体FIB(高温FIB、HTFIB)と液体電解質で、室温で作動するRTFIBがある。

HTFIBは、アノードにCeF3、カソードにBi、電解質としてLa0.9Ba0.1F2.9(CeF3/ La0.9Ba0.1F2.9/Bi)を用い、4Vで充電容量400mAh/g が得られた。Bi2O3がフッ素化されたBiOF、BiF3_2xOxが観測されている。放電容量は20mAh/gと低く、臨界電圧は2.3Vであった。Mg・MgF2/ La0.9Ba0.1F2.9/Cuでは充電容量266mAh/g、放電容量88mAh/gでサイクル数は10回であった。HTFIBの課題は充放電中に体積変化が起こり、電極物質が破壊すること。対策として、タイソン石薄膜を導電層として使用し、厚い電解質フィルムによりイオン伝導抵抗を低減している。

RTFIBは、フリーのF-あるいはHF2-イオンを確保しなければならない難しさがある(すぐにHFになってしまう)。カソードとしてBiF3、アノードにLiあるいはMgを用い、電解質NH4+HF2-をPEGにドープNH4+PEGカチオンが形成され、HF2-が電荷移動体となり、PEGとして分子量194~200,000を検討している。分子量が低い方が高性能であった。250℃までF-は確保できた。イオン電導度1000μS/cmと低く、電気化学窓も狭く、サイクル回数も0。そこで、カソードとしてBiF3、AlF3、CuF2、TiF3 アノードとしてLi、Mg、Naを選定し、その組み合わせの研究が行われている。1)

4、薄膜電極電解質
Maximilian Fichtnerらは、下図(a)のバルク型電池を作製。初期は理論値の70%の性能が達成され、充放電サイクルは700μmの厚い電解質層の抵抗が大きく、また電極と電解質間の接触が不十分なため抵抗が増大し、容量低下が大きかった。そこで(b)に示す薄膜電極電解質を提案。ゾルゲルスピンコーティングで得た膜厚5~6μmLa0.9Ba0.1F2.9薄膜が170℃で8.8×10-5S/cmの電導度を示した。2)

また、La0.9Ba0.1F2.9溶液をスピンコーティング、400、450、500℃で0.5~4時間シンタリングを行った。その中で450℃、4時間かけてシンタリングした4~5μmの薄膜は170℃で1.6×10-4S/cmで最も高いイオン伝導度を示した。3)

Damien Dambournetらは、固体状態二次FIBについて、Bi/BiF3電極のコインセルを修正して、グローブボックスの外で高温下長時間の電気化学的性質を調べている。4)150℃に熱したエポキシ樹脂でコインセルを覆い、結果としてセルをシールしたことになった。3サイクル後190mAh/gの容量が得られた。

Xiangyang Zhouらは、電極とセパレーターの間にセルロース紙上にコートした多孔性カーボンとグラフェンからなる中間層を導入し、FeF3・0.33H2Oのナノ粒子電極で、250サイクル後に放電容量435mAhr/gを達成した。5)

5、特許に見るFIB
カリフォルニア・インスティテュート・オブテクノロジーはフルオライドイオン電池(FIB)を検討し、LiBとの違いを表にまとめている。6) FIBの利点には、フッ化物イオン電気化学セルの安全性の向上、フッ化物イオン電気化学セルのより高い動作電圧、フッ化物イオン電気化学セルにおけるより大きいエネルギー密度、及びフッ化物イオン電気化学セルのより低いコスト、が含まれる。

アニオン受容体として、B(OCH2CF3)3などのホウ素化合物が提案され、フルオライドイオンの溶解度を高めるのに必須であるとしている。具体的にはLa3-xを負極に、CFxを正極とする例が示されている。

京都大学はトヨタ自動車と共同で、FIBに関する特許を公開している。

まずは電解液に関する特許で、CsFを含むLiTFSAテトラグライム溶液 7)、LiFやNaFを含むLiPF6あるいはLiBF4テトラグライム溶液あるいはトリグライムとLiPF6とのモル比が8以下の溶液(モル比が10以上になるとLiイオン電池になる)8)、フッ化物錯アニオンを含むイオン液体(N-ブチルピリニジウムBF4)とB(C6F5)3のようなアニオン受容体の溶液9)などが提案されている。

次いで、負極活物質としてCeあるいはPbを含む合金を使用して充電時の過電圧を低減した(電解液はテトラグライム/LiTFSA/CsF)。10)

さらに負極集電体として、Fe、MgあるいはTiの単体、または、これらの金属元素の1つ以上を含有する合金を用いて、電解液(テトラグライム/LiTFSA/CsF)との反応を抑制した。11)

また、京都大学は日立製作所とも以下の内容の特許を公開している。12)BiF3、PbF2あるいはSnF2を電極活物質とし、(C9H11)2BFなどのホウ素化合物及びCsFなどのアルカリ金属のフッ化物塩を含む電解液とを備えた、現行の電池を超える高容量のフルオライドイオン電池を提案している。

さらに、京都大学は本田技研工業ともイオン伝導率に優れ、フッ化物イオン2次電池の固体電解質として十分な電気特性を示す結晶体の製造方法、結晶体及びフッ化物イオン2次電池用電解質を提供するという特許を公開している。13)PbF2とSnF2を混合し、不活性雰囲気において混合物の融点以上の温度で焼成することにより結晶体を作製し、フッ化物2次電池用電解質として解決している。

6、おわりに
フルオライドイオン電池は理論的には現行のリチウムイオン電池より数倍のの容量が期待されるが、プロトンとの反応によりHFになってしまうこと、薄膜にしないと抵抗が大きく特に充放電サイクル特性が低いことなどまだまだ実用化にはかなり遠い感じがする。京都大学はトヨタ自動車や日立製作所などと共同で本電池の実用化に向けて地道な努力を続けている。このポテンシャルの大きさを実用化に結び付けるべく、難題を克服して進化していくことを期待したい。

文献

1) F. Gschwind et al J. of Fluorine Chemistry 182(2016) 76
2) Maximilian Fichtner et al Solid State Ionics 272(2015)39
3) Maximilian Fichtner et al J. of Alloys and Compounds 684(2016) 733-738
4) Damien Dambournet et al J. of Fluorine Chemistry 191(2016) 23-28
5) Xiangyang Zhou et al Electrochimica Acta 220(2016) 75-82
6) カリフォルニア・インスティテュート・オブテクノロジー 特開2013-145758
7) トヨタ自動車、京都大学 特開2016-062821
8) トヨタ自動車、京都大学 特開2016-197543
9) トヨタ自動車、京都大学 特開2016-164857
10) トヨタ自動車、京都大学 特開2017-050113
11) トヨタ自動車、京都大学 特開2017-054721
12) 日立製作所、京都大学 特開2017-10865
13) 本田技研工業、京都大学 特開2017-88427

フッ素系ナノコンポジット

木曜日, 6月 8th, 2017

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/webmaga/201706.html

1、はじめに
ナノコンポジットとは、ある素材を1-100nmの大きさに粒子化したもの(フィラー)を、別の素材に練りこんで拡散させた複合材料の総称である。ナノコンポジットの形成により、引張強さ、弾性率、熱変形温度等の様々な物性が飛躍的に向上すると定義されている。フッ素系ナノコンポジットとは素材がフッ素樹脂の場合とフィラーがフッ素系である場合がある。フッ素系ナノコンポジットについては、2013年9月号で紹介した。今回はその後、ここ3年に報告された文献を中心に述べる。

2、フッ素樹脂/無機フィラーナノコンポジット
Hossein Mahdavi らは、下記に示すPVDFにCH2=CHCONHC(CH3)2CH2SO3H(AMPS)をRAFT重合によりグラフト重合したポリマーとPMMA-AMPS共重合体とシリカナノ粒子とのナノコンポジットを作製、プロトン交換膜として調べた。1) その結果、シリカナノ粒子10%を含む膜において出力密度34.3mW/cm2(ピーク電流140mA/cm2)が得られた。

幸田祥人らは、長尺カーボンナノチューブによるフッ素樹脂の高機能化を発表した。2) 50~600μmの長さの長尺CNTを用いることにより添加量を1/15~1/1500で導電性、熱伝導性、機械特性が既存部材より上回っていることを確認している。

G. Paruthimal Karaigunan らは、Ni-W/PTFEナノコンポジットのパルス電流沈着による自己潤滑軟鋼表面コーティングを行った。3)PTFEはNi-W合金マトリックスの中に均一に分散していた。ナノコンポジットコートは、適度な微小硬度、平滑表面、低摩擦係数、高撥水性を示し、3.5%NaCl溶液中でNi-W合金コートよりも高い防錆性を示した。

Barbara Ballarin らは、Auナノ粒子/Rf基含有シラン・ITOのコンポジットを作製し、電気化学触媒活性を調べた。4)その作製法は下図の通り。本コンポジットはメタノール電気酸化において非常に高い活性を示した。

Gregory S. Blackman らは、PTFEと多孔性ナノ構造のミクロフィラーアルミナのナノコンポジットを作製し、機械的強化トライボフィルムとした。5) その結果、劇的な低摩擦性が得られた。

Liqun Zhu らは、P(C8FMA/MMA/BA)/シリカナノコンポジットをIn situ ミニ乳化重合で作製し、ガラス上にコートした(下図)。6)

その結果、シリカ含有量がg当たり0~0.15g添加した系で、可視光透過性が向上した。

Qiuyu Zhangらは、下図のチオール末端枝分かれフッ素化シロキサン(T-FAS)/ポリジメチルシロキサンエラストマー(PDMS)/ヒュームドシリカナノコンポジットを作製した。7)

水接触角165±2度、流出角4±1度、1500粒度のサンドペーパーで45KPa荷重100回摩擦に耐えた。これはT-FAS/PDMSによって形成された相互浸透ポリマーネットワーク(IPN)のお陰である。IPNは自己修復性をも発揮する。種々の保護コーティング剤として期待できる。

坂井らは、PTFE(モールディングパウダー)に長尺(50~600μm)CNTを極めて低い量を添加し、導電性、熱伝導性、曲げ強度、圧縮特性を改良した。8)

Yongjin Li らは、PVDF/graphenoxide(GO)/イオン液体コンポジット(NanoPVDF/IL/GO)をキャスト法で作製した。9)GOナノシートがPVDF中に均一に分散、GOナノシート上にはILがPVDFにグラフトした(IL-g-PVDF)が接着しているNanoPVDF/IL/GOはPVDF/GOやPVDF/IL/GOに比べて直流電導度が劇的に低い。理由はナノクラスターによってGOナノシート間の直接接触が妨害されているから。同時にポリマーマトリックスとフィラー間の強い結合のためGOナノシートの電流漏れからの誘電ロスはほとんどない。従って、高い誘電率と低い誘電ロスを同時に有するポリマーコンポジットが作製できたことになる。

3、非フッ素樹脂/フッ素系フィラー
フッ素系フィラーとしては、フッ素化グラフェン、フッ素化MWCNTなどが検討されている。

Jinquing Wangらはフッ素化グラフェン強化ポリイミドコンポジットを検討し、ドライ潤滑、水潤滑、オイル潤滑のいずれにおいてもポリイミドより潤滑性は改善された。但し、水潤滑の場合、水がポリイミドに吸着し劣化させる現象を観察した。10)

Yao Liらは、フルオログラフェン(FG)/ポリイミドコンポジットフィルムが FGにより機械的・電気的・熱的安定性、撥水性、低誘電率を付与できることを見出した。11)マイクロエレクトロニクスや航空宇宙へ応用できるとしている。

A. V. Maksimkinらは、超高分子PE(UHMWPE)/フッ素化MWCNTナノコンポジットをGrinding→Hotpress→Orientation Stretching加工し、 UHMWPEの引張強度21MPaが132MPaに上昇することを見出した。12)従来のフィラーでは40MPaを超えられなかった。フッ素化MWCNTは核生成剤としても働いている。ユニークなラメラ構造がMWCNT表面に形成、応力をかけるとナノフィブリル構造に変化、引張強度の飛躍的向上につながっているとしている。

Zianqing Zhaoらは、多孔質グラフェンフルオキシドとポリイミドのナノコンポジット(GFO/PI)を作製し、誘電性と機械的特性を改善した。13)PEGをフルオログラファイトの剥脱と多孔質発泡を行う挿入剤として使用。多孔質性とGFOナノシートがコンポジットフィルムの誘電率を減じ(2.29)、機械的特性を向上させた(引張強度159MPa、引張モジュラス4.43GPa)。さらにGFO/PIのTgが355℃から388℃に上昇し、熱膨張率は48.7ppm/Kから24.9ppm/Kに減少した。

4、その他のフッ素系ナノコンポジット
Thayza Christina Montenegro Stamfordらは、コロイド状キトサン/銀ナノ粒子/フルオライドナノコンポジット(CChAgNpFNc)を銀ナノ粒子の形とサイズを変化させて作製した。その方法はキトサン溶液にAgNO3を加え、NaBH4溶液とNaFを加える方法。CChAgNpFNcは黄色ブドウ球菌、大腸菌、フェカリス菌、緑膿菌、カンジダ・アルビカンズに対する抗菌活性がある。14)

5、おわりに
フッ素系ナノコンポジットの最近の状況を概観した。フッ素ポリマーとしては、PTFE、グラフト化したPVDF、Rf基含有アクリル樹脂、Rf基含有シリコーンなど多彩であり、シリカナノ粒子、Auナノ粒子、CNTなどとのナノコンポジットにより、機械的強度、導電性、熱伝導性などが改善されている。また、フッ素化グラフェン、フッ素化CNTなどのフッ素系フィラーとポリイミドなどのエンジニヤリングプラスチックとのナノコンポジットが検討されており、低誘電性、撥水性などの機能を付与して付加価値を高めている。フルオライドナノコンポジットにより抗菌活性を付与した例も紹介した。今後さらに裾野を広げ、発展していくと期待している。

文献

1) Hossein Mahdavi et al Chemical Engineering J.284(2016)1035
2) 幸田祥人他 プラスチックス2015.9 16-20
3) G. Paruthimal Karaigunan et al Applied Surface Science359(2015) 412-419
4) Barbara Ballarin et al Applied Surface Science 362(2016)42-48
5) Gregory S. Blackman et al Tribology International 95(2016)245-255
6) Liqun Zhu et al Progress in Organic Coatings 95(2016) 1-7
7) Qiuyu Zhang et al Composite Science and Technology 137(2016)78-86
8) 坂井徹他 型技術31(9) 50-55 2016
9) Yongjin Li et al Composite Science and technology 138(2017) 98-105
10) Jinqing Wang et al  Composite : Part A 81(2016) 282-288
11) Yao Li et al Composite : Part A 84(2016) 428-434
12) A. V. Maksimkin et al Composite : Part B94(2016)292-298
13) Zianqing Zhao et al Materials and Design 117(2017) 150-156
14) Thayza Christina Montenegro Stamford et al International Journal of Biological Macromolecules 93(2016)896-903

2016年の化学工業動向について

金曜日, 3月 10th, 2017

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/webmaga/201703.html

1、はじめに

2016年の化学工業がどうであったかの執筆依頼を受けた。化学関係の新聞(ほとんどが化学工業日報)は毎日目を通しているが、大体がフッ素関連の記事を拾い読みしている状況なので、改めてこの大きな議題を依頼されるとかなり心もとない。しかし、フッ素関連も化学の重要な分野、その延長線上に化学はあると開き直って、新聞上に現れた記事を一覧し、まとめてみることにした。化学はあらゆる産業の原料、中間原料、材料であり、時には最終製品になる。ここでは、2016年度の我が国の化学工業における事業状況、技術開発状況を中心にキーワードを設定し、それをベースにまとめていく。

2、化学工業とは

大辞泉では、化学反応を主要な生産工程とする工業。石油化学・肥料・セメント・化学薬品・染料・合成樹脂などの工業と定義している。伝統的には、有機化学工業と無機化学工業に分類される。有機化学工業には、石油化学工業、天然ガス化学工業、石炭化学工業、高分子化学工業、油脂工業、精密有機化学工業などがある。一方、無機化学工業は、ソーダ工業、アンモニア工業、硫酸工業、精密化学工業などがある。最近の傾向としては、環境関連、エレクトロニクス、エネルギー、ライフサイエンス、車両、重工業、軽工業などの応用分野に対する、原料や中間物、生成物として化学工業を定義することの方が的を得ていると考えている。

3、事業状況

各分野における業績についての統計はまだ出ていないが、2014年の統計によると広義の化学工業出荷額は42兆8630億円であり、その内訳は化学工業が28兆1230億円、プラスチック製品が11兆5330億円、ゴム製品が3兆2070億円となっている。前年比では、広義の化学工業出荷額は14.1%増、化学工業は9.2%増、プラスチック製品が3.8%増、ゴム製品は1.1%増となっている。その前の5年間においても年々着実に伸びており、2014年以降も順調に推移し、2016年のエチレンの生産が100%超であることから、2016年の化学工業の出荷は2014年よりも多いと推定される。

業界では、3月に産業革新機構、住友化学、積水化学工業の3社が、新会社「住化積水フィルムホールディングス」を設立し、住化と積水のポリオレフィンフィルム事業子会社を経営統合すると発表した。また、同じく3月に、2017年に発足する三菱化学、三菱樹脂、三菱レイヨンの統合新会社の社名を「三菱ケミカル」に決定された。

事業拡大のニュースは枚挙にいとまがないほどで、主なものを以下に掲げる。
1月、三菱化学、バイオエンプラ年産能力を黒崎で4倍増、2万トンに増やす。岩谷産業とトクヤマ、液化水素の生産能力を倍増

2月、旭硝子のインドネシア拠点アサヒマスケミカル、第6期拡張計画を400億円投じて完工(カ性ソーダ換算で年産50万トンから70万トン)。

3月、DIC、米英で化粧品顔料を増産(5割増)。
三井化学、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を増産。25%増の5万トン。
日本ポリプロ、PPコンパウンド、インドで増強検討。年産1万5000~1万8000トン体制構築。
帝人、パラ系アラミド繊維を増強。15億円投資。

4月、三井化学、エチレン・プロピレン・ジエン共重合ゴム「EPT」の新製品の量産に乗り出す。今後2年間で数千~数万トン規模の事業に育成する。
宇部興産、大粒硫安を6万トン増強、約30億円投資、2018年4月に稼働開始。

5月、呉羽、PPSの生産能力を増強。いわき事業所の生産能力1万トンから1万7000トンへ、ノースカロライナ州の工場1万5000トンから1万7000トン。
日本触媒、ベルギーで高吸水性樹脂(SAP)10万トン増強。

6月、昭和電工、LiB用カーボン負極材5割増産。
JNC、中国蘇州でポリオレフィン系複合繊維「ES繊維」の生産能力倍増。
三菱レイヨン、大竹事業所で炭素繊維増強。ラージトウタイプのPAN系炭素繊維の年産能力を2700トンから3900トンに引き上げる。
住友化学、タイでPPコンパウンドを22000トンに増強。

7月、住友化学、千葉に高性能ポリプロピレン工場を新設。年産規模10万トン、2018年度までに投資内容を詰めていく。
住友ベークライト、中国江蘇省でフェノール樹脂成形材料を5割能力増強。年産能力1万8000トンに拡大。
旭化成、超高分子量ポリエチレンの2020年生産能力を4倍に。また、メキシコで自動車向け樹脂コンパウンドを生産。2万5000トン規模。
三井化学、高機能不織布を増強。年産能力6000トン、2017年11月の完工を目指す。
三菱ガス化学、鹿島で特殊ポリカーボネート生産能力を従来の数百トンから3倍に増強。主に小型高解像度のカメラレンズ向け。

8月、JNC、不織布を世界3極で増強。滋賀県守山3600トン、中国常熟で3000トンの設備建設中、両者で現状の2倍。タイで4800トン規模の設備立ち上げ。
積水化学、タイでPE高発泡体を年2万5000トンに引き上げる。

9月、三菱化学、鹿島でLiB電解液原料を増産。2017年5月をめどにECの年産能力を現状比25%増の1万トンに増強。

11月、クレハ、いわきでPVDFを5割増強。4000トンから6000トン。2018年秋稼働予定。
三菱レイヨン、タイでMAA、BMAの2系列目を新設し、前者は8000トンから1万5000トン、後者は1万5000トンから3万トンにそれぞれ倍増。2018年第2四半期からの稼働を予定。

12月、三井化学、中国でLiB向け電解液の生産能力3.3倍に増強。同社と台湾プラスチックスの合弁会社台塑三井精密化学有限公司のLiB向け電解液の生産能力を現状非。3倍の5000トンに増強する。2016年12月着工、2017年11月に営業運転。

買収、売却、合弁、参入の動きも活発であった。以下に例を挙げる。
1月、東レ、核酸医薬ベンチャーのボナックと特発性肺繊維症治療薬候補「BNC-1021」の国内ライセンス契約を締結し、同社への出資も発表。
四国化成工業、ソーダ灰販売事業へ参入。

2月、JXエネルギー、有機EL フィルム参入。高透明PIモノマーを開発し、ガラス基板からの置き換えを図ることでフレキシブルディスプレイフィルムとして提案。
デンカ、バイオ後続品事業に参入、予防、診断から治療に事業領域を拡大。

3月、花王、産業印刷分野に参入。VOCレスで軟包装用フィルム基材に高品質な印刷が可能な水性インクジェット用顔料インキを世界に初めて開発。6月 インキ欧米2社を買収。

4月、三菱樹脂、米エンプラ加工会社を買収。
昭和電工、フェノール樹脂事業をアイカ工業に売却。

5月、三菱ケミカルHDの事業会社が再生医療分野に進出。Muse細胞の独占的使用権確保。

6月、三菱ガス化学と日本化薬、バイオ後続品を含む抗体薬製造で合弁。

7月、帝人、超極細ポリエステルナノファイバーろ材を用いた高性能フィルタ市場に本格参入。
日本化薬、MEMS(微小電子機械システム)材料販路拡大へ米社買収。
三菱ケミカルHD、中国、インドの高純度テレフタル酸事業を売却。

8月、三菱化学、放熱材料市場へ参入。樹脂と複合化して使う熱伝導率の高い六方晶窒化ホウ素を開発。

9月、帝人、自動車向け複合材の米大手を買収。北米最大の自動車向け複合材料成形メーカー、コンチネンタル・ストラクチュラル・プラスチックス(CSP社)を総額8憶20500万ドル(約840億円)で買収することを決定。

10月、三菱化学と宇部興産、中国・LiB用電解液事業で提携。
東ソー、再生医療分野に本格参入。
昭和電工、独SGLの黒鉛電極事業を買収。

11月、富士フィルムHD、和光純薬工業を買収へ。約1674億円。2017年4月21日に富士フイルムホールディングスの連結子会社とする。

12月、関西ペイント、欧州の塗料大手を約700億円で買収。欧州を中心に工業用塗料を展開するヘリオスグループ。
旭硝子、欧州のCDMO大手を買収。バイオ医薬品原薬の開発製造委託(CDMO)の欧州大手、CMCバイオジックス(デンマーク)を2017年1月にグループ子会社とすることを発表。買収額は約600億円。

4、技術開発状況

2016年も多くの技術開発が報告されている。その中からいくつか抜粋し、下記に列挙する。

東レ、水中の汚れ成分付着を抑制するRO膜の基本技術確立。物質表面に安定して存在する水和水を膜表面に大量に保持できるよう設計した。従来膜に比べて7倍。

NEDO、生産性10倍の炭素繊維製造プロセスを開発。従来に比べて製造エネルギーとCO2排出量を半減、耐炎工程をなくし、炭化工程も加熱炉ではなくマイクロ波を用いる新技術を確立。

東レ、靭性が向上したPPS樹脂を開発。従来型の柔軟ポリオレフィンに比べ靭性が約2倍、引張強度も3割向上。HEVのモーター部材やパワーコントロールユニット部材、住設分野の水回り部材などに用途展開していく。2020年50億円(数千トン)の売り上げ目指す。

ダイセル、環境化触媒を開発、大阪府立大学との共同研究。NOxの中でも最も除去が難しいとされているNOを含む燃焼系NOxを高効率で吸着できる単体の開発に成功。

積水化学、CNTを用いた発電シート開発。半導体CNTの両端に温度差があると電圧が起きる現象を利用、排熱管に張り付けるだけで発電。センシング機器の電源用途を見込み、2018年度製品化、20~50億円規模の事業育成を狙う。

大阪府のベンチャー企業Jトップ、難分解性有機物を含む排水処理について、特殊活性炭を用いた革新的システムを開発。自動かつオンサイトで活性炭再生。

多木化学、魚コラーゲンで高強度繊維を開発。高濃度化が難しかったコラーゲン溶液で15%濃度の製造に成功。湿式法での紡糸が可能となり、シルクと同程度の強度を実現。集束している構造は人体組織と同様の構造、欠損した靭帯や腱などの再生材料を作れる可能性あり。

東京大学、難燃性のLiB電解液を開発。難燃性だけでなく、高電圧作動時の副反応・劣化を抑制できることも特徴。本電解液を使って、LiBの作動電圧を3.7Vから4.6Vまで高電圧化し、EVに適した高密度で高安全なエネルギー貯蔵が可能となる。

JXエネルギー、加硫ゴム並みの復元性と低硬度を両立する熱可塑性エラストマー(TPE)を世界で初めて開発。2016年秋に試験販売後、年内に商品化。

帝人、耐久性とともにガス透過性に優れる新規フィルムを開発。熱可塑性樹脂を2軸延伸成膜したフィルム。デッドホールド性や易カット性を利用して医薬包装、飲料容器の蓋材向けに展開。また、耐熱、耐水、耐酸性を活かすことで薬品などの長期保存向けにレトルト、耐熱容器の用途を見込んでいる。

旭硝子、iPS細胞の大量培養が可能なプラットフォームを開発。グループ企業が手掛ける微細加工細胞培養容器を活用した3次元培養法により、ヒトiPS細胞から均一な細胞塊を短時間で効率的かつ安定的に大量形成が可能。

凸版印刷、生物模倣技術の構造発色シートを開発。ナノ構造設計技術と多層薄膜形成技術を使い、光の反射により瑠璃色を発色するモルフォ蝶の羽の構造シートを再現した。顔料や染料に比べ紫外線による退色がなく、鮮やかな色が保持できる。偽造防止やブランドプロテクションなどのセキュリティ商品など適用。

東洋紡、酸素および水蒸気バリア性をそれぞれPETの10倍、2倍の性能を有するバイオ樹脂を開発。

花王、疎水化セルロースナノファイバー(CNF)を開発。CNFの表面を疎水化処理。硬化型エポキシ樹脂やアクリル樹脂への混錬が可能。

NEDO、スーパーエンプラとCNTを用い、世界最高水準の耐熱性と機械強度かつ射出成型可能な新規複合材料を開発した。耐熱性は450℃、曲げ強度はPEEKの1.8倍を実現する。

東レ、ポリエステル超極細微細捲縮繊維テキスタイルを開発。世界で初めて単糸繊度0.19テックスの超極細で、かつバイメタル構造の海島型繊維の量産化に成功。かさ高性や伸縮性を活かし、まずは衣料用途に展開。

5、おわりに

2016年の化学工業について概観した。業界の業績は好調で、業界再編成、合弁などが活発であり、技術開発も進んでいる印象を受けた。また、ここでは取り上げなかったが、IoTやAI技術を利用したインフラ整備も進んでいるようで、今後とも順調に推移していく力強さを感じた。

参考文献

日本化学工業協会資料
化学経済2016年2月~12月号、2017年1~2月号
化学工業日報記事

「ドラッグデリバリーシステム」

火曜日, 9月 13th, 2016

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/webmaga/201609.html

1、はじめに
ドラッグデリバリーシステム(DDS)とは、体内の薬物分布を量的・空間的・時間的にコントロールする薬伝達システムのことである。薬の過剰投与および副作用を抑制して、より安全に、効果的にドラッグ投与を行うことができる。このDDSにフッ素がどうかかわっているのかについては2013年7月号で取り上げているので、今回はその後の動きについて述べる。その時はDD方式としてカプセル化とエアゾール化を取り上げ、フッ素の役割として、ドラッグを取り込む場合の効率化とドラッグを放出する場合の徐放性、さらには19FNMRによる画像化ができることを述べた。今回は、まずは、DDSについての最近の文献からその概要を述べる。次いでフッ素が関与するDDSとして、抗がん剤や合成抗菌剤などに使用されるフッ素系医薬のデリバリーシステムやDD物質としてのフッ素化合物、DDSの代謝安定評価に19FNMRを用いた例などを紹介する。

2、DDSの概要
薬物の体内動態を量的、空間的、時間的に制御するDDSの概念が登場してから40年経過していて、現在では多くのDDSが医療現場で使用されている。DDSはその目的に応じて、吸収改善、放出制御、ターゲティングの3つに分類される。 

まず吸収改善であるが、薬物の吸収性は薬物と吸収障壁、さらにはこの両者に影響を及ぼす製剤との相互作用により決定される。そして、吸収改善は薬物の修飾、吸収障壁の克服、投与経路の変更の3つに大別される。1)このうち薬物の修飾は、薬物分子の修飾と薬物剤形修飾があるが、前者は、薬物に脂溶性の官能基を付加することにより膜への分配性を高め、透過性を促進する方法である。後者は主に溶解性(溶解速度と溶解度)が鍵となるが、溶解速度については薬物粒子の微細化であり、ナノスケールにまで微細化されて製品化されている。溶解度についてはアモルファス化することが有効で薬物を水溶性高分子に分子分散化し、安定的にアモルファス化した例がある。また、溶解性を上げる方法として界面活性剤による可溶化の手法がある。

放出制御とは、薬物を製剤から種々の速度で放出し、薬物の有効性の持続化のみならず、投与初期の急な薬物濃度の高まりを抑えて副作用を軽減し、投与回数を少なくし利便性を高めることである。その中で徐放化DDS技術が最も汎用されている。放出制御のメカニズムとしては、製剤表面に形成された膜の溶解および膜中の拡散律速によって放出が制御される膜制御、薬物結晶を高分子基剤中に懸濁した状態にしておき、飽和溶解度に依存した一定速度の放出が得られるマトリックス制御、浸透圧物質を製剤中に共存させ、その浸透圧により一定速度で放出する浸透圧制御、例えばpHの変化、熱、電磁波、超音波、レーザー光の照射などによって薬物を含有するポリマー構造が変化し薬物放出が加速される現象を利用した外部刺激応答性制御などがあり、それぞれの制御メカニズムを利用した放出制御製剤が使用されている。2)

ターゲティングについては、パッシブ・ターゲティングとアクティブ・ターゲティングの2種類ある。パッシブ・ターゲティングは、薬物運搬体(キャリアー)の粒子径や親水性などの物理化学的性質を利用して薬物の体内動態を制御する方法。アクティブ・ターゲティングは、薬物運搬体に、特殊な仕組み(たとえば、抗体や糖鎖などを結合したキャリアーを利用)を付け加えて標的組織への指向性を制御する方法である。

最後にDDSに使われる材料であるが、薬物以外の素材としては、無機・有機化合物、低分子・高分子化合物の多岐にわたるが、実際には多くが有機化合物であり、さらにそのほとんどがポリマーである。そのポリマーとしては、多糖類、ペプチド、たんぱく質、核酸などの天然ポリマー、生分解性の合成高分子などが使用されている。材料の形態としては可溶性ポリマー、可溶性(コロイド状)微粒子、不溶性微粒子、ゲル状のものなどがある。使用実績のあるポリマーとしては、デキストラン、キチン、ヒアルロン酸、ゼラチン、アクリル系ポリマー、スチレン/マレイン酸共重合体、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリ乳酸、ポリデプシペプチドなどである。3)

3、フッ素系医薬のデリバリーシステム
Deepak Pathaniaらは、アクリルアミドグラフトキトサンCPAとCuSナノコンポジットを合成し、フッ素系合成抗菌剤オフロキサシン(下図)の制御された伝達に使用した。4)その結果、オフロキサシンのドラッグ伝達の動力学を、pHを変えて行い、ドラッグ伝達効率の最高値85%を得た。またドラッグ放出効率としてはpH2において18時間後で76%の最高効率を観測した。さらに本ナノコンポジットは大腸菌を24時間後に97%殺菌し高い抗菌性を示した。
ft1

Sanku Mallikらは、フッ素系抗がん剤ゲムシタビン(下図)のがん細胞への細胞質内伝達物質として多機能ポリマーソームを開発した。5)
ft2

リポソームがドラッグデリバリー物質として広く用いられているが、安定性と遅い徐放性に課題がある。そこで下記の構造のポリマーソームを合成した。PEGの分子量1900とPLA(ポリラクティック酸)の分子量3600(P4)と5800(P5)のポリマーソームが高い徐放性を示した。P5>P4
ft3

C. Gopi Mohanらは、5-FUのDDSとして、アモルファスキチンナノ粒子を使用し、捕捉及び輸送効率として47±12%を報告している。因みに同時に試験した非フッ素系抗がん剤の効率はドセタキセルが77±2%、クルクミンが98±1%であった。6)

Jureerut Daduangらは、葉酸を標的剤として用いる胆管がん細胞への5FUの標的デリバリーについて報告している。具体的には金のナノ粒子を、ポリエチレングリコールを用いて5-FUと葉酸(FA)で機能化したもの(AuNPs-PEG-5FU-FA)が5-FUと葉酸だけの場合に比べて、胆管がん細胞M139およびM213への細胞毒性効果として、それぞれ4.76%および7.95%増大した。7)

4、ドラッグデリバリー物質としてのフッ素化合物

目薬ロスポリンA(CsA)のDDSとして半フッ素化アルカン(SFA)が用いられていて、安全で良好な耐用性を有している。疎水性薬をよく溶かし、透明な点眼液をつくることができる。浸透性が改善され、防腐剤不要、目の表面に潤滑性を与える、0.05%のCsAを含むSFAは耐容性があり、FDAで承認された唯一のドライアイ治療薬レスタシスと比べると角膜を超えて水溶性体液中への浸透性が増大していて有望な候補である。Novaliq社の「CyclASo」として登録、フェーズⅠをクリアし、フェーズIIに入っている。8)

半フッ素化アルカン(SFA)、C4F9C5H11(F4H5)やC6F13C8H17(F6H8)は不活性で無害な流体であり親油性ドラッグを溶かす。Priyanka Agarwalらは、SFAの局所的目薬シクロスポリンA(CsA)のドラッグ溶媒としての生物学的利用能や安全性を評価した。9)現行のRestasis(ひまし油にCsAを0.05%溶解させたもの)とエタノール0.5wt%含有F4H5(F4H5E)とエタノール0.5%含有F6H8(F6H8E)にCsAを0.05%溶解させたものと比較した。その結果、短時間ではRestasisは角膜を透過できなかったが、F4H5Eは152.95ng/ml、F6H8では15.12ng/ml透過した。8時間の適用では、Restasisは21.07/ml、F4H5Eでは247.62ng/ml、F6H8Eでは174.5ng/ml透過した。そして角膜毒性は観測されなかった。

Evan Ungerらは、超音波でミクロ泡を発生させるのだが、C3F8、C4F10、C5F12などが安定なミクロ泡を生じさせ、心臓血管へのドラッグデリバリーに有効であることを報告している。10)

5、DDSの代謝安定性評価

Iwao Ojimaらは、腫瘍を標的としたDDSの代謝安定性評価のための19NMRプローブとして、Fを導入した新規腫瘍標的ドラッグ複合体BLT-F2とCF3を導入したBLT-S-F6を19FNMRプローブとしてデザイン、合成した。(下図)このプローブは、吉草酸、自己崩壊リンカーユニット、フルオロタキソイドからなるが、その安定性と反応性、つまりリンカーの開裂、血症への影響、代謝安定性などを19FNMRでリアルタイムに追跡した。その結果、BLT-F2のフルオロタキソイドの放出は段階的に起こっていることが分かった。これはフェニルアセテートのジスルフィドに対してパラ位のFがリンカー開裂の速度とチオールアセトニゼーション反応に対して大きな影響を与えていることを示唆している。BLT-S-F6はより親水性を高めたものであるが、ヒトの血漿中で自己崩壊ジスルフィドリンカーシステムの安定性と反応性を評価するのに大変有用であることが分かった。そして、ヒトの血漿中での半減期は1週間以上と長いが、タキソイドはスムースに放出する(半減期3時間)ことが分かった。11)
ft4

6、おわりに

DDSにおいてフッ素の役割を考察してみると、抗がん剤や合成抗菌剤などのフッ素含有医薬における脂溶性の向上があげられる。つまり医薬にフッ素を導入することはその特異な生理活性のみならずDDSにおける吸収性を高め、放出をより制御しやすくする役割があると考えられる。また、製剤において、親油性ドラッグをよく溶かす半フッ素アルカンを用いることや、泡やエマルションの安定性に寄与する物質としてフッ素化合物を用いることが報告されている。さらにフッ素を導入して、19FNMRによりそのメカニズムを解明し、より有用なDDSを開発することも重要である。今後さらにその重要性が認識されていくことを期待している。

文献

1) 畑中朋美、杉林堅次 日本防菌防黴学会誌43(4) 209 2015
2) 岡田弘晃 日本防菌防黴学会誌 43(3) 157 2015
3) 大矢裕一 日本防菌防黴学会誌 43(1) 41 2015
4) Deepak Pathania et al Materials Science and Engineering C 64(2016) 428
5) Sanku Mallik et al Biomaterials 35(2014) 6482
6) C. Gopi Mohan et al Carbohydrate Polymers 142(2016) 240
7) Jureerut Daduang et al Material Science and Engineering C 60(2016) 411
8) D. M. Dutescu European J of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 88(2014) 123
9) Priyanka Agarwal et al Drug Discovery Today21(2016) 977
10) Evan Unger et al Advanced Drug Delivery Reviews 72(2014) 110
11) Iwao Ojima et al Journal of Fluorine Chemistry 171(2015) 148

余談・科学の最近の進歩

月曜日, 11月 16th, 2015

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

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1、はじめに
2006年以来、8年半毎月フッ素関連のトピックスを紹介してきた。そして、株式会社FT-Netの経営に携わる傍ら、個人で「松尾文化研究所」なるものを運営している。これも2006年以来続けていて、こちらは週に1,2回随筆風の文章を書いてブログとして下記のURLに投稿していて、既に550回を超えている。

http://blogs.yahoo.co.jp/mamatsuo3304

内容は文学、クラシック音楽、美術、科学が中心。書籍や演奏、展覧会などで経験したことを綴っている。

今回は、その中から科学の中で物理学、生物学、宇宙学に関する最近の進歩についてのブログ原稿からまとめてみた。

2、物理学の最近の進歩
ノーベル化学賞を受賞したプリゴジン(1917‐2003)の「確実性の終焉 時間と量子論、二つのパラドックス解決」は最近の物理学の進歩を記すものである。

ニュートン力学を主体とする古典力学や量子力学が時間を考慮に入れない平衡状態を扱うものであったのに対し、自然とその申し子である人間は非平衡状態にあり、その状態を扱うことで現実を理解できるとの信念が出発点にある。そして、キーになるのは時間の矢なのである。そして、ポイントは確率論であり、統計集団である。確かに我々の周りを眺めてみると古典力学は理想状態の概念であることは明らかなことは分かっていた。量子力学もアインシュタインの相対性理論も時間の矢つまり一方的な時間の流れは取り入れられていない。プリゴジンがそこに疑問を持ったのは1945年頃、その後、非平衡の科学は発展を遂げていった。勿論、以前にも非平衡の物理学は存在した。最も典型的なのが熱力学第二法則である。エントロピーは増大する、これは宇宙に生じる不可逆過程に基づいている。しかし、ニュートン力学と量子力学の成功は平衡の世界を植え付け、非平衡の世界こそ現実なのにその状態を追求しようとする雰囲気はほとんどなかったのである。古典力学の枠組みの中で不安定性の果たす役割は何だろうか。ここは完璧に理解できなかった。但し、古典力学で用いられてきた軌道記述は熱力学とは両立せず、平衡状態においても非平衡状態においても統計的アプローチを必要とする。量子力学の波動関数も微粒子の世界を描くと言う点で古典力学とは異なるが、やはり同じ状況にある。つまり前者は決定論的法則であり、時間は未来も過去も等価なのである。しかし、現実を見た時、過去と未来は同じであろうか。明らかに違うと言わざるを得ない。

138億年前にこの宇宙はビッグバンにより誕生した。これまでの物理学は時間もここから始まったとする。しかし、その前に時間は存在しなかったのであろうか。プリコジンは、時間は永遠の昔からあり、永遠に続くとしている。これこそ現実である。そして、発展は平衡状態とは相反する。ダーウィンは19世紀に生物の進化論を唱えた。これも古典物理学に反する。そして、20世紀後半、非平衡過程の物理学は発展し、新しい科学が誕生した。自己組織化や散逸構造と言った新しい概念が導入された。非平衡過程の物理学は、一方的な時間(時間の矢)がもたらす効果を記述し、不可逆性に対して新しい意味を付与した。プリコジンは時間の矢を持たない平衡状態の物質は盲目であり、時間の矢と共に物質は開眼すると言っている。

本書は、古典力学と量子力学を改定して、非平衡過程の物理学との整合性を図っている。ポイントは確率論であり、統計的集団であり、さらにポアンカレの共鳴理論が重要であることを主張している。しかし、この本だけでは到底そこまで理解することは困難なので、ここではこの記述だけにして、兎も角今後の物理学が非平衡状態を取り扱い、時間を考慮に入れ、現実世界を真に理解できるものとするべく発展していく状況にあることを述べておくにとどめる。

3、生物学における最近の進歩
「自己組織化と進化の論理」は生理学者で医者のカウフマンの著作。ダーウィンのランダムな突然変異と自然淘汰による選別と言う進化論に真っ向から挑戦する内容。そこには非平衡の物理学も登場して彼の考え方を支援する。

まずは、ダーウィンの考え方だと生命の誕生に地球誕生から40億年では時間が短すぎる。まして、人間が登場することなど余程の偶然が重ならないとできない。そこには見えざる手による自己組織化という考え方が必須であると言う。

ダーウィン主義の継承者である生物学者のほとんどが「個体発生の秩序は、進化によって一片一片つなぎ合わせて作られた手の込んだ機械がこつこつと働いて生み出したものだ」と考えているが、カウフマンは「個体発生で見られる美しい秩序のほとんどは、驚くべき自己組織化の自然な表現として、自発的に生ずるものである」とする。そして、「こうした自己組織化は、非常に複雑で一定状態を維持するような調節的なネットワークにおいてよくみられるものである」と言う。さらに「生命は、カオスと秩序の間で平衡を保たれた状況に向かって進化する。つまり、生命はカオスの縁に存在する」とする。水には、固体の水、液体の水、水蒸気と言う3種類の相があるように、複雑適応系にも、例えば接合子から成体への成長をコントロールするゲノムのネットワークは、凍結した秩序状態、気体的なカオス状態、秩序とカオスの間のある種の液体的な状態の、主に三つの状況において存在できる。そして、「ゲノムのシステムは、カオスへの相転移する直前の秩序状態にある」と言う考え方は魅力的だと言う。カオスの縁の近辺にあるネットワークが複雑な諸活動を最も調和的に働かせることが出来るし、また、進化する能力を最も兼ね備えているのである。

生物学における非常に大きな謎は、生命が生まれてきたことであり、我々が目にする秩序が生じてきたことである。我々は圧倒的倍率を勝ち抜くことによって生じた存在ではない。宇宙の中にしかるべき居場所を持つ存在であり、生じるべくして生じた存在である。

生命が生まれたのは、自己触媒作用を営む物質代謝を形成するために、分子が自発的に集合した時である。

複雑な系がカオスの縁、あるいはカオスの縁の近傍の秩序状態に存在する理由は、進化が系をそこに連れていったからである。

また、ウイルスと抗体のように互いに進化し合う共進化は進化にとって重要であると主張している。

さらに、綿密に色々な角度から自己組織化について検証している。例えば、ボタンを並べておいて、ランダムに拾い上げ、それを糸で結ぶ。その動作を繰り返すと、糸の数がボタンの数の半分のところで相転移が起こり、巨大な数のボタンが糸で結ばれて釣りあげられる。つまり、生命の誕生もそのような相転移が起こったからであり、それは偶然ではなく起こるべくして起こったのである。そして、自己触媒作用こそが細胞を創り出した基本なのである。

こうした考え方は、将来ニュートン力学や量子力学のような理論化がされると期待されるが、まだそれは成し遂げられていないが、必ずや将来成し遂げられ、その暁には、全体が見渡せ、人間の宇宙における立ち位置が分かってくると期待していると結んでいる。まさに非平衡の物理学の目指すところと一致しており、壮大な世界観が開けてくるような気がした。

4、宇宙学における最近の進歩
村山斉氏の「宇宙は本当にひとつなのか」「この宇宙に存在する私の起源に迫る」が最近の宇宙学の進歩を実に分かりやすく書いている。

まずは、宇宙に星や銀河は宇宙全体のわずか0.5%、原子が4.4%、ニュートリノは0.1~1.5%しかなく、暗黒物質が23%、暗黒エネルギーが73%と訳の分からないものが大半を占めると言うことに度肝を抜かれた。暗黒物質は原子ではないと言う。また暗黒エネルギーはブラックホールではないと言う。それでは何なのか。現在解明中で将来必ずや突き止められるとのこと。
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それから、我々が存在している世界は三次元+時間の四次元の世界であるが、さらに多次元の世界が存在しているという。確かに数学の世界では多次元は当たり前のことではあるが、現実の世界では全くイメージが湧かない。暗黒物質やエネルギーと関係しているかもしれない。また、他の宇宙も存在していることを示唆する。だから「宇宙に何故我々は存在するのか」と言う疑問に素直に向き合うことになる。実に明快な過程である。それは138億年前のこの宇宙の誕生に始まる。実はビッグバンの前にインフレーション期があったと言う。誕生したばかりの宇宙は原子よりはるかに小さい存在であったが莫大なエネルギーを秘めていて、わずか1秒後にインフレーションを起こし、数ミリの大きさに広がる。その後大爆発のビッグバンが発生するとのこと。インフレーション理論は宇宙が均一であることを説明していると言っていて1981年に日本の佐藤克彦氏が唱えたと言う。つまり数ミリ程度に膨張したからアイロンがけでしわを伸ばすことが出来たと言うわけである。但し、皺は完全に伸ばしきれず、残った部分があり、それが星や銀河の誕生につながったとのことである。

その一方で、物質と反物質との問題を指摘している。この世には物質と反物質があり物質と反物質が出会うと消滅すると言う。例えば反物質でできたアイスクリームを食べようとするととんでもないことが起こる。それに触れた途端手は無くなってしまうと言うわけだ。宇宙誕生の頃は物質と反物質が充満していたが、わずかに物質の方が多かったために星や銀河が誕生し、人類誕生につながったと言うことである。これはあのノーベル物理学賞の小林氏と益川氏が提唱したことであることは有名である。

そして、この誕生後の発展にはこれまたノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏や梶田隆章氏のニュートリノが重要な役割を演じているとのこと。

このとんでもない世界を村山先生は明快に説明しているのだが、結局何が分かったのかと改めて問うてみると、何も分かってはいないではないかと絶叫したくなる。つまり、何も実感できないのである。それでも科学は厳然と宇宙の解明に突き進んでいる。もしかしたら現在の人類よりさらに高度な知能を持った生物が登場し、それを解明していくかもしれない。あるいはこの宇宙には既にそういう生物が存在していて解明しているかもしれない。いずれにしても科学は日進月歩進歩していることをまたまた実感できたひと時であった。

5、おわりに
そのほか、わがブログで紹介した数学における「フェルマーの定理の証明」と「ポアンカレ予想の完成」を最近の科学の進歩として付け加えたい。以上、フッ素関連トピックスとは全く異なる世界を紹介したが、最後に本メールマガジンがますます発展されることを期待して筆を置きたい。

「フッ素化ナノカーボン」

水曜日, 5月 13th, 2015

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

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1、はじめに
ナノカーボンとは、母材をグラファイトとする、ナノメートルの大きさの構造を持つカーボンから成る物質群である。フラーレン、ナノチューブ、グラフェン、ナノホーンなどがある。いずれも人工的につくられたものである。このナノカーボンにフッ素を導入する試みが以前から行われており、ここでも2011年2月号の「フルオログラフェン」、2009年12月号の「フッ素化MWCNT」、2008年6月の「フッ素含有ナノカーボン」などを記述している。本稿では最近の文献からフッ素化ナノカーボンの現状を探ってみた。

2、フッ素化グラフェン

2.1 フッ素化グラフェンの作製
Marc Duboisらは、フッ素化グラファイトの熱衝撃法による剥がれ作用を検討している。1)気相成長黒鉛(HOPG)と天然グラファイト薄片を450℃~580℃の温度で、1気圧のF2でフッ素化した。一方、F2/IF5/無水HFでフッ素化した場合は、室温でフッ素化が進行した(RTGF)。この場合、触媒のIF5やHFのインターカレーションが起こっている。次いで、RTGFのC-F共有結合とフッ素コンテントを上げるためにさらに100℃~680℃で、F2ガスでフッ素化した。さらに、熱衝撃法で剥がれ作用を行い、フッ素化グラフェンを作製した。RTGFの場合、触媒の脱インターカレーションを速やかに行うと剥がれ作用が促進されることが分かった。

Ping Chen らは、フッ素化グラファイトをNH3BH3存在下ボールミルで剥がれ作用を行うと高収率でフッ素化グラフェンナノシートが得られることを報告している。2)NH3BH3はエタノールで除去する。このシートの大部分は0.3~1μmの粒度を有し、1~6原子層から成り立っている。分析の結果、本フッ素化グラフェンは元のフッ素化グラファイトと同じ構造を有していることが分かった。

2.2 フッ素化グラフェンの構造
Shang-Peng Gaoらは、グラフェン表面上下図のような様々な立体配置をとるフッ素原子を有する半フッ素化グラフェンの平衡構造と機械的強度について密度汎関数理論から調べた。3) フォノン状態密度から、(f)のzigzag*以外の構造は安定であることが分かった。また、chair、zigzag、chair*構造は金属的であり、chair構造はスピンが分極化している。さらに、boatおよびboat*構造は、間接遷移半導体であり、それぞれのGWバンドギャップは5.147eVと5.648eVであった。

機械的強度については、6%以上の引張歪がchair構造を持つ半フッ素化グラフェンの間接バンドギャップを開放することができる。また、boat*構造を持つ半フッ素化グラファイトは圧縮歪下で間接から直接遷移状態への変化を起こすことが分かった。
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2.3 フッ素化グラフェンの修飾、応用
Jinging Wangらは、フッ素の被覆率及びサイズを制御できる、水溶性青色発光性フッ素化グラフェン量子ドット(GFOQDs)を剥離フッ素化グラフェンから効率的に合成した。4)得られたGFOQDsはサイズ分布が狭く、平均サイズは2.5-3.5nmであった。その化学組成はC-F結合、水酸基やカルボニル基に由来するC-O結合から成っていた。炭素ベースの量子ドットから予想されるようにGFOQDsは励起波長依存性を示すが他のグラフェン量子ドット(GQDs)と異なり、下図に示すように、pHに対して耐性があり、酸でもアルカリ雰囲気化で安定した発光を示す。その結果、水溶性で化学的安定性の高い新規なGQDsとして応用可能であるとのことである。
f2

S.S. Sreejakumariらは、フッ素含有量34.4原子量%のフッ素化グラフェンオキシド(GFO)をポリジメチルシロキサンに添加して塗料とし、アルミニウム合金およびガラスに塗布、水の接触角173.7度、ココナッツオイルの接触角94.9度を得たと報告している。5)超撥水性については、GFOが表面の粗度を上げ、表面張力を低下させたことによるとしている。

3、フッ素化カーボンナノチューブ
A.P. Karitonovらは、フッ素化カーボンナノチューブ(CNT)でエポキシ樹脂を強化し、機械的強度の向上を報告している。6)150℃でCNTをフッ素化し、0.1wt%エポキシ樹脂(ジグリシジルエーテルビスフェノールAタイプ)に添加した場合、引張強度が89.6±4.1MPaと35%増大した。また、曲げ強度は0.2wt%添加で199.7±4.8MPaと58%増大した。いずれも耐熱性は変わらなかった。フッ素化CNTの添加によりTgが上昇している。

M. Umadeviらは、フッ素をドープした多層CNT(MWCNTs)/TiO2コンポジットを固相法で作製し、キャラクタリゼーションおよび光触媒能と抗菌性について評価した。7)XRD、FT-IR、FE-SEMによりFとMWCNTsがTiO2にドープされ、管状構造をとっていることが確認された。また、ドーピングにより光生成電子とホールの分離が促進され、下図に示すようにメチルオレンジのUV照射下でのTiO2の光触媒能を向上させた。また、有機汚染物質の分解も促進した。
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4、フッ素化フラーレン
Jian-Min Zhangらは、下図の方法で合成したフッ素化フラーレン結合1,3-ジオキソランについて、その合成法における触媒とベンズアルデヒドへの導入したフッ素の数と位置の影響を調べている。8)触媒については、LiClO4がFe(ClO4)3よりも効率的であることが分かった。また、ジフルオロベンズアルデヒドの場合が最も収率が高かった。最高単離収率は51%。発光スペクトルにおいて、オルト位のフッ素が強度を高めていた。さらにフッ素の数を増すとLUMOおよびHOMOエネルギーを効率的に低下させた。
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5、おわりに
ナノカーボンのフッ素化についてはグラフェンを中心に研究が盛んである。グラフェンの場合、エレクトロニクス材料や超撥水材料として可能性があるが、熱的安定性が不十分という文献もあり、9)実用化にはまだ時間がかかるようである。フッ素化CNTについては樹脂強化材など応用展開に可能性が見えてきている。また、フラーレンについては単純なフッ素化体のみならずフッ素含有化合物の導入などが盛んにおこなわれている状況である。いずれにしても今後新しい材料として期待したい。

文献

1) Marc Dubois et al Carbon 77(2014) 688-704
2) Ping Chen et al Carbon 81(2015) 702-709
3) Shang-Peng Gao et al Surface Science 635(2015) 78-84
4) Jinging Wang et al Carbon 83(2015) 152-161
5) S.S. Sreejakumari et al Carbon 84(2015) 207-213
6) A.P. Karitonov et al Composites Science Technology 107(2015) 162-168
7) M. Umadevi et al Spectrochimica Acta Part A: Molecular and Biomolecular Spectroscopy 139(2015) 290-295
8) Jian-Min Zhang et al Tetrahedron 70(2014) 5828-5833
9) Martin Kalbac et al Carbon 84(2015) 347-354

「ナノインプリントにおけるフッ素」

火曜日, 3月 3rd, 2015

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/webmaga/201503.html

1、はじめに
ナノインプリントリソグラフィー(NIL)は、従来の露光装置を使わずに、凹凸のパターンを形成したモールドを基板上の液状ポリマーなどへ押し付け、パターンを転写して微細加工を実現するものである。これまでは光学部品の加工などに使われてきたが、最近LSIの量産に使おうとする動きがでてきた。その利点は、高解像度、優れた寸法制御性、低コストなどである。その工程を下図に示す。(1)塗布、(2)プレス、(3)転写(UV光または熱)、(4)離型、の4つの工程からなり1)、フッ素は離型の場面で重要な役割を演じている。
f1
本稿では、最近の文献からフッ素を利用したナノインプリントについて述べる。

2、モールド離型の低減2)
下図にモールド離型力の低減要員の模式図を示す。
f2
モールド離型力を低減する方法として、(1)石英モールド内壁に数nmの厚さの離形層を形成し、光または熱硬化樹脂の石英モールド内壁への付着を防ぐ、(2)光または熱硬化樹脂に内部離型剤を付加する、(3)モールド離型時に基板と樹脂間の密着性不良による基板からのパターン剥離などの欠陥をなくすために、基板と樹脂間に密着層を形成する、(4)モールド離型力には雰囲気依存性があり、凝縮性ガスが提案されている。この中で(1)、(2)、(4)においてフッ素系材料が使用されている。

3、離型層
谷口らは、シリコンモールドによる繰り返し使用可能なUV-NILの離型剤を検討し、ダイキン工業のオプツールDSXとC6F13C2H4SiCl3との組み合わせで1400回繰り返し使用できることを確認した。3)オプツールDSXが剥離性による欠陥率低下に貢献し、C6F13C2H4SiCl3が耐摩耗性に貢献している。

竹井らは、適宣光硬化樹脂を滴下しながら、ナノ構造体を作製するStep and Flash Imprint Lithography法において、モールド表面をC8F17C2H4Si(CH3)2OC2H5で処理し、さらにシリコーンレジストにC8F17基を導入して、レジストとモールドの剥離性を向上させている。4)

Celestino Padesteらは、ニッケルモールドに下記の離型剤を塗布してナノインプリントを行い、その耐久性を調べた。その結果、下表のようにリン酸タイプが高い耐久性を示し、HFDPが8回以後でも全く変わらぬ性能を示した。5)
f3
松井らは、離型層として、4種類のCF3(CF2)n(CH2)2Si(OCH3)3(n=0、3、5、7)の自己組織化膜をSi上に成膜させ評価した。6)吸収端近傍X線吸収微細構造(NEFAFS)スペクトルから4種類の全ての分子でCF3サイトが表面に出ていると考えられる。また、NEFAFSスペクトルの入射角依存性を測定し、CF2鎖を構成しているC-C結合が基板に対して垂直であると解釈した。剥離性はパーフルオロアルキル鎖長の長い方が優れ、滑り性はn=3以上でほとんど変わらないという結果であった。 

4、光硬化性物質
上記竹井らの文献で光硬化レジストとしてパーフルオロアルキル(Rf) 基を含有する下記のシリコーン樹脂が提案されている。4)Rf基の導入により剥離性が増大し、欠陥率が低下したとしている。
f4
キャノンは、光ナノインプリントの光硬化性物質として下記の配合物を提案している。ナノインプリントに適用したところ、UV硬化時間が短く、高い離型性を示し、生産性が高いとしている。7)

1)イソボルニルアクリレート 2) (2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート 3) ヘキサンジオールジアクリレート
4) C6F13C2H4(OC2H4)6N(C2H5)2 5) C6F13C2H4(OC2H4)15OH

5、凝縮性ガス
光ナノプリントの特徴のひとつは低コスト化である。この観点からプロセスは大気環境下で行うことが望ましい。しかしながら光ナノインプリントでは大モールドに捕獲された大気が液体状態の光硬化樹脂に吸収されずバブル欠陥が起こるという課題があった。廣島らは凝縮性ガスを利用する光ナノプリント手法を提案している。8)本法は捕獲されるガス(凝縮ガス)が加圧により凝縮(液化)する現象を利用してバブル欠陥を抑止する。液化したガスは一カ所に集まることなく、モールド-光硬化樹脂界面への拡散や光硬化樹脂中へ溶解し、バブル欠陥を抑止していることが分かっている。凝縮性ガスとしてはCHF2CH2CF3(PFP)が推奨されている。光インプリントリソグラフィーでは0.1MPa程度でプロセスを行うのが好ましい。従って、室温での飽和蒸気圧が0.15MPa(1.5気圧)であるPFPが適切というわけである。大気圧環境下でPFP雰囲気を発生させ、この環境下でインプリントを行うと、インプリント中のPFPは0.5気圧の追加的加圧で全て凝縮させることができ、全く欠陥が発生しなかった。さらにモールドと光硬化樹脂の界面に凝縮するので離型力を大幅に低減できた。

6、おわりに
最近の新聞記事に大日本印刷がNILの量産を年内に開始すると発表した。UV硬化樹脂用で20nmレベルのプロセスに対応したもので世界初とのこと。9)また、キャノンが線幅10nm台の次世代プロセスへ対応可能なNIL装置を年内に製品化すると発表した。10)半導体微細化が今後ますます進むなかでNILの重要性が高まることは必至であると考える。その中でフッ素系材料の活躍が期待されている。

文献
1) http://www.toyogosei.co.jp/rd/uv_feature.html
2) 松井真二 月刊トライボロジー2014,1 18-20、2015,1 
3) Jun Taniguchi et al Microelectronic Engineering 123(2014) 117-120
4) Satoshi Takei et al Microelectronic Engineering 116(2014) 44-50
5) Celestino Padeste Microelectronic Engineering 123(2014) 23-27
6) 松井真二 OPTRONICS(2014) No1 115-119
7) キャノン 特開2014-237632
8) 廣島洋 OPTRONICS(2014) No1 74-79
9) 化学工業日報 2015年2月20日
10) 化学工業日報 2015年2月25日

「パーフルオロポリエーテル基含有材料」

火曜日, 2月 10th, 2015

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

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1、はじめに
パーフルオロポリエーテル基を有する材料は、この10年余り、主にタッチパネルの指紋付着防止コーティング剤として大きな市場を獲得している。撥水撥油剤や界面活性剤などに用いられるパーフルオロアルキル基含有コーティング剤とは異なった機能である低濡れ性や低Tg故の完全アモルファス性に加えて、高撥油性、高耐熱性、低屈折率性、低摩擦性といった機能を有していることが他の展開への可能性を秘めている。また、PFOA問題を解決できる界面活性剤としての存在感もある。パーフルオロポリエーテルの合成法はパーフルオロエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、オキセタンなどの開環重合法、TFEやHFPと酸素の低温UV照射下共重合法、フッ素と炭化水素の混合ポリエーテルのF2フッ素化法などが知られている。本稿では、最近の文献・特許からパーフルオロポリエーテル基含有材料の多彩な展開について紹介する。

2、エレクトロニクス関連
銅およびその合金は酸化されやすく、電導度の低下をきたす。Zineb Mekhalifらは、パーフルオロエーテルアルキルチオールおよびジチオールの自己組織化単分子層を銅の上に形成させ、防錆性を付与すると同時に、パーフルオロポリエーテル潤滑剤をその上に処理すると摩擦係数が低下し、その耐久性が向上することを報告している。これは、単分子層が銅に強く固定され、潤滑剤が単分子層と親和性が高いためとしている。1)

Alessandra Vitaleらは、下記のパーフルオロポリエーテルベースモノマーの光重合ポリマーを合成した。得られたポリマーは良好な耐熱性、低表面張力、種々の溶媒に対する低膨潤性などの特徴を示し、パターン転写の実行およびフォトリソグラフィー処理に成功し、マイクロ流体デバイスへの応用を可能にした。2)

CH2=C(CH3)COOC2H4NHCOOCH2CF2O(C2F4O)p(CF2O)qCF2CH2OCONHC2H4OCOC(CH3)=CH2

A. Vitaleらは、シリコンウエハーにパーフルオロポリエーテル含有エトキシシランを超薄膜コーティングしている。3) パーフルオロポリエーテル含有エトキシシランとしては下図の構造のFluorolink S-10を用いている。
(C2H5O)3SiC3H6NHCOCF2‐Rf‐OCF2CONHC3H6Si(OC2H5)3   
Rf=-(CF2O)q(C2F4O)p
p≒q=5.5

下図に水の動的接触角の測定結果を示す。前進接触角は濃度および時間とともに上昇しているが、これはPFPE基のTgが-90℃と低く再配列が容易だからとしている。シリコンウエハーとは共有結合し、13mN/m の低表面エネルギーを実現し、撥水撥油性、指紋付着防止、防汚性を付与したと報告している。
f1
Lei Liuらは、ハードディスクなどに要求される原子厚みの固体潤滑剤として期待されているグラフェンの摩損を減らす方法を検討した。4)その結果、下記のパーフルオロポリエーテルをグラフェンにコーティングするとSi/グラフェン系では摩擦係数は減少したが、摩損が増大し、Ni/グラフェン系では摩擦係数は減少せず摩損は大幅に改善された。また、表面粗度を高めることにより潤滑性を向上できることが分かった。グラフェンを含むデバイスの将来設計への道が開けたとしている。
CF3CF2O-(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2CF3

3、超撥水性、防汚性
Maurizo Sansoteraらは、下図に示すようなパーフルオロポリエーテルパーオキサイドとMWCNTを反応させ、表面積と撥水性を評価した。
f2

結果を下表に示す。フッ素コンテントが4.2原子%以上で超撥水性を示した。5)
f3
また、彼らはパーフルオロポリエーテルパーオキサイドを熱分解してできたラジカルで直接燃料電池のガス拡散層を処理するとカーボン布と共有結合して表面を覆い、超撥水表面を形成することを報告している。6)そして、従来のPTFEをバインダーに用いた場合と比較して総じて高性能であり、特にオーム抵抗に関しては優れていたとしている。

Stefano Turriらは、これまで船舶の防汚コーティングとして高性能を誇るとするパーフルオロポリエーテルポリマーの生体医療への適用を検討している。7)下記の4種類のパーフルオロポリエーテル感光性樹脂を取り上げ、その構造と表面および機械的性質との関係を調べた。

CH2=C(CH3)COOCH2CF2O(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2CH2OCOC(CH3)=CH2
Mn=1980g/mol(PFPE-DMA 2000)および4000g/mol(PFPE-DMA4000)
CH2=CHCOO(CH2CH2O)qCH2CF2O(CF2CF2O)m(CF2)nCF2CH2(CH2CH2O)pOCOCH=CH2
Mn=2030g/mol、p+q=4.6(PFPE-PEG4.6-DA)および2206g/mol、p+q=8 (PFPE-PEG8-DA)

特にウシ血清アルブミンを用いて汚染防止性および汚染除去性をポリマーの表面張力γだけでは不十分でその弾性係数Eを考慮に入れる必要があると主張。その結果、(Eγ)1/2値との間に関連性があり、さらにγpolarとより良好な関係があったとしている(下図)。尚、縦軸のGreen tonal valueはマイクロ流体チャンネルを上記パーフルオロポリエーテル体で処理し、アルブミンを流してその付着性を評価したものであり、小さい値ほどアルブミンが付着しにくく除去しやすい。結論としてPFPE-DMA 4000が有望としている。
f4
4、界面活性剤

Rf基含有カルボン酸塩はフッ素樹脂などの乳化重合における界面活性剤として広く使われてきたが、PFOA問題でC7以上の鎖長を有するRf基の代替基の開発が行われ、その候補の一つにパーフルオロポリエーテル基が提案されている。8)、9)、10)

Decai Liらは、パーフルオロポリエーテルカルボン酸界面活性剤(PCAS)で修飾したFe3O4磁性ナノ粒子(MNPs)を、空気中で保護ガスを使用せずに共沈させて作製した。11)本MNPsは粒子径が11nmの球状で単分散の粒子であり、PCASでコートされていることが確認された。そして、Fe3O4の結晶形態あるいは超常磁性は維持されていた。但し、飽和磁化値は74.684emu/gから55.392 emu/gに低下した。しかし、従来の界面活性剤に比して高い値であり、修飾に成功したとしている。

5、おわりに

パーフルオロポリエーテルは高級潤滑油として、タッチパネルの指紋付着防止剤として、さらにはPFOAに代わる界面活性剤として大きな市場を得ている。本稿ではさらに新しい可能性を中心に述べたが、今後益々期待できる材料であることは間違いないと確信している。

文献

1) Zineb Mekhalif et al Electrochimica Acta 63(2012) 269-276
2) Alessandra Vitale et al European Polymer Journal 48(2012) 1118-1126
3) A. Vitale et al Progress in Organic Coatings 78(2015) 480-487
4) Lei Liu et al Thin Solids Film 549(2013) 299-305
5) Maurizo Sansotera et al Carbon 59(2013) 150-159
6) Maurizo Sansotera et al Journal of Power Sources 258(2014) 351-355
7) Stefano Turri et al Applied Surface Science 309(2014) 160-167
8) ダイキン工業、カネカ 特開2010-144080
9) 日光ケミカルズ 特開2013-95717
10) ダイキン工業 特開2014-240502 
11) Decai Li et al Materials Letters 143(2015) 38-40

「燃料電池」

金曜日, 1月 9th, 2015

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1、はじめに
2014年12月15日、トヨタ自動車が一般向け燃料電池車(FCV)を発売した・ホンダも2015年に発売の予定である。2000年頃、カリフォルニアでFCV試作車に乗せてもらい、静かに滑るように走る体感をして、大いに期待したことが鮮明に思い出される。その当時は製造費が1億円以上であり、実用化には程遠い感があったが、15年の月日が実用化を可能にしたことを思うと感慨深い。トヨタ自動車は、セダンタイプで購入負担額が520万円と発表している。(販売価格720万円、国の補助200万円)1)一方、2014年デロイト トーマツ コンサルティング(DTC)の調べによると、日本のFCV年間販売は2020年に約5万台 2030年までには約40万台と予測している。2) 既に、本シリーズで2011年4月号、2013年2月号で燃料電池を取り上げてきたが、本稿では、FCVの現状を概観し、燃料電池におけるフッ素関連技術のその後の技術開発状況について述べることにした。

2、FCVの現状
下図にトヨタ自動車のFCV開発の変遷を示す。3)2002年にリース販売を開始し、2005年には新型自動車届出制度に基づく認可を取得、法規上は普通車としての扱いになった。2008年には、10-15モードで830㎞の航続距離および寒冷地での始動性を確保し、従来車並みの性能を達成した。さらにPt触媒量や電解質膜の使用量低減などを実現し、コストダウンに成功して、市場投入に踏み切った。
f1
また、ホンダも下図に示すようにトヨタ同様の開発の進捗状況にある。4)
f2

3、燃料電池フッ素関連技術の最近の開発状況

3、1電解質膜
特にFCV用の燃料電池としては、高温・低湿度で使用できることが求められていて、その開発が盛んである。
Vincenzo Tricoliらは、下図aに示すニトリロトリス(メチレンリン酸エステル)をNafionに導入し、bに示すポリマーマトリックスのスルホン基と窒素とを結合させたコンポジットを提案している。5)結果は、耐熱性が高く、170℃の湿度0の状態でP-OH同志あるいはスルホン基との間で酸無水物を形成していることが分かった。従って、高温・無加湿状態で高いプロトン伝導度(>10‐2S/cm)を示した。
f3
G.R. Gowardらは、多孔質PTFE膜(孔径0.45µm、厚み47µm)にイミダゾリウムメタンスルフォネート溶液を含侵させ、乾燥した膜を提案している。6)その結果、TGA測定で370℃の変曲点を有する高い耐熱性を有し、無加湿状態で10-5~-6S/cmの高いプロトン伝導度を示した。

Y.G. Wangらは、下図に示すトリアゾールで修飾したPOSSを合成し、Nafion膜に導入した。7) その結果、機械的強度が大きく改善された。また、無水状態でのプロトン伝導度が温度とともに上昇し、140℃で2×10-2S/cmという高い値を示した。但し、150℃に温度を上げると急激に伝導度が降下した。コンポジット膜がTg以上に達したとみられる。
f4
Inmaculada Ortizらは、燃料電池の電解質としてのイオン液体における進歩と題した総説の中で、イオン液体電解質は100℃以上の高温かつ無水状態で、高い伝導度、熱的・化学的・電気化学的安定性を兼ね備えていることを述べている。8)特にポリマータイプイオン液体、つまりイオンペアを持ったモノマーの重合体が有望であるとしている。

Yong-Gun Shulらは、短鎖の側鎖を有するパーフルオロスルホン酸イオノマー(SSC-PFSA)を合成し、高温・低湿度で長鎖の側鎖を有する同イオノマーLSC-PFSA)より高い性能を有することを報告している。9)即ち、SSC-PFSAとしてSolvay SolexixのAquivionTME87-05S膜を用い、LSC-PFSAとしてNafion®212を用いたところ、SSC-PFSAの方が電流密度で2.43倍、電圧で0.6V 高かった。キャラクタリゼーション評価により、SSC-PFSAの方が、結晶性が高く、熱安定性に優れていると結論付けている。

3、2触媒層
これまでPt触媒量の低減化として、高表面積で電気伝導性のカーボン担体の使用、コア-シェルタイプや脱合金化ナノ粒子あるいはPt単層の形成などの方法が検討されてきた。

Yossef A. Elbadらは、電界紡糸と電気噴霧を同時に行うE/E技術を用いて作製した電極は極度に少ないPt量で高い燃料電池性能を発揮することを述べている。10)その際、PTFEを導入することが、効果があり、1%添加することで電力密度の増大およびPt量の低減が図られることを示した。PTFEによる疎水性の向上が原因としている。

Aiguo Kongらは、フッ素をドープしたメゾ孔カーボン(F/Cs)を作製し、市販のPt/Cと同等の酸素還元触媒性能があり、さらに熱的安定性に優れていることを述べている。11)本F/Csは、1000℃で得られ、504m2/gの表面積と平均6.7nmの孔径を有している。

3、3 ガス拡散層GDL(水素流路、酸素流路)
Ravindra Dattaらは、GDLの効率を高めるには、塗布するミクロポーラス層の粒子径を大きくし、中程度の厚みと中程度のPTFE含有量が望ましいと報告をしている。12)

Maurizio Sansoteraらは、T-(CF2CF2O)n(CF2O)mOv-T’構造の直鎖パーフルオロポリエーテル(PFPE)パーオキサイド(T、T’は末端基CF3、COF、CF2COFのいずれか)を炭素布に処理したGDLを作製した。PFPEラジカルが発生し、炭素布と共有結合を形成している。GDLに超疎水性を与え、永久的に安定にした。PFPEの電気絶縁性にもかかわらずGDLの電気伝導性は保持されたとしている。13)

4、おわりに
2015年から本格的に市場に登場すると期待されているFCVに因んで燃料電池、特にFCVに求められる高温・低湿度でのフッ素系電解質の性能発揮や低コスト化のための触媒の開発を中心に最近の進捗状況を述べた。今後、FCVや家庭用FCVがさらに普及し、エネルギー問題、環境問題を解決していくことに大いなる期待感を持っている。そのキーとなるのがフッ素系材料であることは間違いないであろう。

文献
1) 朝日新聞デジタル版 2014年11月14日
2) 化学工業日報 2014年11月26日
3) 小島康一ほか 工業材料62(6) 24-28
4) 守谷隆史 OHM 201408 14-16
5) Vincenzo Tricoli et al Journal of Membrane Science 469( 2014) 162-173
6) G.R. Goward et al Journal of Power Sources 268(2014) 853-860
7) Y.G. Wang et al Electrochimica Acta 149(2014) 206-211
8) Inmaculada Ortiz et al Journal of Membrane Science 469(2014) 379-396
9) Yong-Gun Shul et al International Journal of Hydrogen Energy 39(2014) 11690-11699
10) Yossef A. Elbad et al Electrochimica Acta 139(2014) 217-224
11) Aiguo Kong et al Materials Letters 136(2014) 384-387
12) Ravindra Datta et al Journal of Power Sources 251(2014) 269-278
13) Maurizio Sansotera et al Journal of Power Sources 258(2014) 351-355

「フッ素と歯」

金曜日, 12月 12th, 2014

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1、はじめに
2009年11月に、「フッ素関連トピックス三題」の中で「フッ化物歯磨き」と題して述べたことがある。その際、2007年にフッ化物入り歯磨きのシェアが89%で2010年には90%以上を目指すとしていた。最近の文献では、現在そのシェアは93%に達しているとのことで、当時の目標は達成されているようである。本稿では、最近の文献から、う蝕防止対策におけるフッ素の役割、全身的フッ化物応用法、フッ素入り歯磨きなどの局所的フッ化物応用法、さらにはフッ素含有歯科用修復材料について紹介する。

2、う蝕防止対策とフッ素
フッ素がう蝕抑制にどのように働くかは次の3つに要約される。1)
1) エナメル質結晶(ヒドロキシアパタイト)の形成促進と結晶性を安定化させ、エナメル質の抵抗性を増強させる。
2) エナメル質表層やう蝕病巣部の再石灰化を促進する。
3) プラーク細菌に対する抗菌作用で、プラーク付着量を減少させたり、細菌の酸産生量を減少させたりする。

実際は、水道水のフッ化物を調整するなどの全身的フッ化物応用法とフッ化物配合歯磨き剤の使用、フッ化物歯面塗布、フッ化物洗口などの局所的応用法との二つの方法がある。

3、全身的フッ化物応用法
水道水のフッ化物至適濃度は、WHOは0.7~1.0ppm、米国公衆衛生局は0.7~1.2ppmとしており、わが国では0.8ppm以下に規定している。日常的にフッ素を体内に供給すると、永久歯で50~65%、乳歯で40~50%のう蝕効果があると報告されている。

4、局所的フッ化物応用法

4.1 フッ化物配合歯磨き剤 
WHOはこれの使用を推奨しており、わが国ではシェアが93%を超えている。配合されるフッ化物は、NaF、モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)、SnF2の3種類で、いずれも濃度は1000ppm以下に規定されている。

4.2 フッ化物歯面塗布法
高濃度のフッ化物を使用する方法で、歯科衛生士および歯科医師のみが行うことのできるプロフェッショナルケア。わが国で製剤化されているものは、2%NaF溶液(0.9%F)、2%NaFフォーム(0.9%F)、酸性リン酸フッ化物APF溶液(0.9%F)、APFゲル(0.9%F)である。

4-3 フッ化物洗口法
比較的低濃度のフッ化物水溶液でうがいする方法。毎日うがいする場合は、F濃度250から450ppmの洗口液で行い、週1回行う場合はF濃度約900ppmの洗口液で行うことが推奨されている。また、歯磨き終了後に個人トレーで毎日5分間のフッ化物塗布をすることを一般の日常生活習慣の中に取り入れることを勧めている文献もある。2)

高齢者、特に要支援あるいは要介護の虚弱高齢者に対しては、プロフェッショナルケアとして、フッ化ジアンミン銀(Ag(NH3)2F)塗布、セルフケアとして非晶質リン酸カルシウム歯磨き剤と250ppmNaF洗口の併用が推奨されている。3)

5、歯科用修復材料
むし歯を削り取った窩洞に、歯と同じ白い色の材料を充填する治療が広く保険で行われている。歯科医は、歯質に接着する機能を持ったメタクリル系モノマーを含む接着剤を予め窩洞面に塗布、引き続いてペースト状の充填材料(ラジカル重合性メタクリル系モノマー、重合開始剤、無機フィラーとから成る歯科用コンポジットレジンと言われる重合組成物)を窩洞に充填し、口腔内で重合硬化させることで治療が完成する(下図左)。本法により、健全な歯の部分をなるべく残す最小侵襲と治療した部位が再び虫歯になるのを防ぐ二次う蝕抑制が大きく前進したと言われる。さらに、メタクリルモノマーとして接着性を高めたリン酸エステル含有モノマーが選定され、抗菌性や歯質強化、プラークの抑制などの機能付与が行われている。その中で、歯質強化には徐放性Fを有する下図右のモノマーが導入されている。4)
FT0
Vojislav Stanicらは、フッ素化ヒドロキシアパタイトナノパウダーを作製し、抗菌性を評価した。5)合成は、Ca(OH)2懸濁液にHFおよびH3PO4水溶液をpH7.00になるまで加えた後、24時間撹拌し、静置して沈降物をろ過し、水洗し、105℃で乾燥、磨り潰して粉体化して行った。粉体は長さ80nm、直径10-25nmのナノパウダーであることを確認した。抗菌性はミュータンス菌の減少から評価している。フッ素含有量が高いほど抗菌性は高かった。本パウダーは歯科用インプラント用として有用であるとしている。

6、おわりに
フッ素がう蝕防止に効果的であり、水道水への積極的導入による全身的フッ化物応用法、フッ素入り歯磨きや歯面へのフッ化物塗布あるいはフッ化物洗口法などの局所的応用法が盛んにおこなわれている。その一方で、フッ化物洗口について、特に子供への適用について警告を発している文献もある。6)つまり、NaFは劇物であり、低濃度であっても子供は飲み込む危険性があるというわけである。また、小学校低学年における幼若永久歯のう蝕抑制に効果的な1000ppm以下のフッ化物配合歯磨剤の使用方法を明らかにするとして、500~1000ppmフッ化物歯磨き剤を用いて夕食後に歯磨きをさせたところ、う蝕抑制効果が認められたとの文献もある。7)Fの濃度としては1000ppmが限度のようであり、そのことを認識すれば明らかにフッ素はう蝕防止に欠かせないと思っている。

文献
1) 内海明美ほか DHstyle 2014,7 32-35
2) 花田信弘 日本歯科医師会雑誌 67(5) 22-31 2014
3) 福島正義 日本歯科医師会雑誌 67(6) 6-17 2014
4) 岡田浩一 Material Stage 14(6) 20-23 2014
5) VojislavStanic et al Applied Surface Science 290(2014) 346-352
6) 天笠啓祐 週刊金曜日2014年8月号 p-45
7) 武田文ほか 日衛学会誌 JJSDH 8(2) 38-45 2014