「無機ナノフルオライド」

2012年1月26日

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。
http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201201/

1、はじめに
無機フルオライドはこれまで工業的には、アルミニウム、ジルコニウム、レアメタルなどの精錬、ウラニウムの同位体分離、固体レーザーや反射防止コート、光ファイバーなどの光学用途に使われてきた。最近では、フルオライド化合物のナノケミストリーが注目されている。ここでは、ロシアのPavel P. Fedorov らの総説を中心の無機ナノフルオライドについて概説するが、その冒頭で述べているように、2000年から2009年にかけてのナノフルオライドに関する文献の数が対数的に増加していることからもそのことが如実に示されている。1)
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2、無機ナノフルオライドの合成法
ナノフルオライドの合成法については、物理的、化学的方法があるが、ボールミルや超音波処理、マイクロ波併用の熱処理などの物理的方法は化学的な方法を必ずともなうので、ここでは化学的方法をいくつか取り上げていく。
合成法の骨子は、無機化合物(硝酸塩や塩化物など)をフッ素化して粒子径が10~100nmのナノフルオライドを作製することである。以下に各種合成を列挙する。
2.1.前駆物質の熱分解
前駆物質として、M(CF3COO)nが最も一般的である。典型的な熱分解プロセスは、オレイン酸などの高沸点溶媒とM(CF3COO)nを微量酸素および水を除去すべく100℃真空中で激しく攪拌し、さらにアルゴン雰囲気下、250~330℃に熱する。次いで、室温で過剰のエタノールを加えて反応を終了させる。沈殿物を遠心分離で液相から分離し、エタノールで数回洗浄し、70℃空気中で乾燥する。合成されたナノフルオライドはヘキサンやトルエン、クロロホルムなどの有機溶媒に容易に分散する。この方法で、MF2(M=Mg、Ca、Sr)やRF3、LiRF3、NaRF3(Rは希土類)、NaMF3(M=Mn、Co、Ni、Mg)、α-、β-NaYF4などが合成されている。
2.2.水溶液からの共沈
一般的な工程としては、フッ素化反応終了後、ナノフルオライドのナノ粒子水溶液にNaFなどを添加して、共沈させる。その後、エージングし、水やNH4HF2、メタノールで洗浄し、乾燥する、最後にアルゴン-SF6(9:1)などの雰囲気で高温で熱する。この場合、EDTAなどの有機化合物を加えて、ナノ粒子の表面を安定化することも行われている。本法で、例えばCeF3、EuF3ナノフルオライドが合成されている。
2.3.逆ミセルとマイクロエマルション沈殿
ここでは、最近の一例があげられている。ホスフィンオキサイドからなる抽出剤Cyanex923を含むn-ヘプタン溶液とNd(NO3)3水溶液を攪拌し、遠心分離により分離する(この場合、WO型逆ミセルあるいはマイクロエマルションができている)。次いでNH4Fと界面活性剤溶液に滴として注ぎ、超音波をかける。さらに遠心分離後、脱イオン化水とアセトンで洗浄し、真空乾燥して、NdF3ナノフルオライドを得た。
2.4.水熱合成
これは無機化合物が高温の水によく溶けることを利用した方法であり、有機溶媒を用いないことが特徴。反応温度(通常120℃から230℃)、PHや濃度さらにはオートクレーブの構造などを選定する必要がある。例えば、希土類の硝酸塩とNH4Fとを120℃~180℃の温度、pH=3~4.5の条件で反応させてRF3希土類のナノフルオライドを合成している。
2.5.非水溶媒熱合成
この方法は、非水溶媒を用いて高温で反応させる方法であり、酸素のコンタミを防ぎ、安定な表面を作り、凝集を防ぐことができる特徴がある。溶媒として、ジエチレングリコールなどが用いられ、ポリアクリル酸などの界面活性剤などが補助剤として使われることもある。CaF2、CeF2、CeF2:Tb3+などの合成例がある。
2.6.ゾル・ゲル法
古来のゾル・ゲル法は、前駆物質の溶液の合成、ゾルへの転化、そして、ゲルへの転化を経て、焼成、熱処理から成る。最近では、このステップの一部が欠けるプロセスも提案されている。化学反応はゲルへの転化工程で起こる。ゾル・ゲル法では、粒子の形やサイズのコントロールが難しく、粒子が単分散ではない。また、粒子の表面積が大きい例が多々ある。Al(OiPr)3のiPrOH溶液をアルコール系HFで処理後、溶媒を除去しながらゲル化するとAl-F-ゲルが生成する例が紹介されている。
2.7.その他の方法
上記の方法以外に、メカノケミストリー法、望みの形やサイズを作るためのマトリックスとして鋳型を用いる固体テンプレート合成法、溶融塩を利用するフラックス法、ガラス・セラミックスの酸腐食処理法などの方法が述べられている。
3、ナノケミカル効果
ナノ粒子は極めて高い表面積を有するので、高い化学活性を示す。そのことは、超強酸であったり、高い触媒活性だったりするが、熱分解性が高いとか水分や酸素の影響を受けやすいなどの負の特徴につながっている。
ナノ粒子は凝集しやすいが、そのために自己組織化して層を形成しやすい。その結果、超格子を形成できる場合がある。例えば、R(CF3COO)3をオレイン酸/t-オクタデカン/オレイルアミン中で熱分解してRF3とする場合などである。また、結晶成長は可干渉相間成長のような非古典的な機構で起こる。(ここでRは希土類)
フルオライド・ナノケミストリーの最大の特徴は、その合成の経路において非平衡相を形成することである。例えば、AlF3が非晶質状態から安定な三方晶形を形成する過程で非平衡状態の正方晶形を通ること、CaF2-RF3が非平衡状態の固体溶液状態として存在することなどが述べられている。非平衡状態から平衡状態への転換にはエネルギーバリアがあり、温度や時間をかけたり、触媒などを使う方法が述べられている。
物理化学的特徴としては、融点が低い、イオン導電性が高い、カチオン移動度が高いなどがある。

4、形とサイズの制御
ナノフルオライドのサイズや形態は、反応温度や時間、使用溶媒によって影響を受ける。また、塩酸や硝酸の添加、超音波照射、などの影響も受け、一次元、二次元、三次元の場合に分けて述べられている。

5、表面の修正とコア/シェル機構
ナノフルオライドの表面にシェルを形成し、表面を修正する方法が述べられている。例えば、MF2ナノ結晶体をオレイン酸で被覆し、疎水性粒子としての機能を発揮させ、また凝集を防ぐことができるなどの機能を持たせている。

6、ナノコンポジット
ガラスマトリックスの中にナノ粒子が分散した透明なナノコンポジットがよく知られている。例えば、50SiO2-30Al2O3-20CaF2/15-60nmCaF2:Sm3+やなどのアルミノシリケートがメインである。ここで、CaF2:Sm3+はSm3+がドープされたCaF2ナノ粒子である。核形成剤としてNiOなどが用いられることもある。また、ナノ粒子のサイズは温度や時間により変化する。

7、応用
ナノフルオライドは優れた発光原子団で、ナノシンチレーター、高解像度のカラーディスプレイ、白色発光デバイス、監視装置、ガン治療薬などに適用できる。
ナノフルオライドのコロイド溶液は人体中で安定で、広範囲のバイオ医療用途で期待される。例えば、MRIやCTスキャンにおいて常磁性のコントラスト剤が使われるが、クエン酸をコートしたGdF3-CeF3やポリアクリル酸をコートしたNaGdF4などのナノフルオライドが期待されている。また、乳がん細胞の優れた標識としてTb3+をドープしたGdF3ナノフルオライドが報告されている。2)
MgF2やAlF3のナノフルオライドはビタミンEやKの高活性・高選択性の不均一系触媒である。

8、おわりに
無機のナノフルオライドについて述べてきたが、図1にも示したようにこの10年間に文献の数は飛躍的に伸びていて、高い関心が示されている。特に希土類ナノフルオライドは優れた発光原子団などとして、エレクトロニクス、バイオの領域で期待されており、今後の動向が注目される。

文献
1) Pavel P. Fedorov et al J. of Fluorine Chemistry 132(2011) 1012-1039
2)A.K. Tyagi et al J. of Colloid and Interface Science in press 2011

「フッ素化カーボン材料」

2011年12月21日

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1、はじめに
フッ素化カーボン材料は電池材料として古くから使用されている。最近では、フッ素化フラーレンやナノファイバー、グラフェンなどいわゆるフッ素化ナノカーボンが注目されている。フッ素化グラフェンについては既に述べたのでここではそれ以外のフッ素化カーボン材料について最新の情報を纏めた。

2、電池やキャパシタ負極材としてのフッ化炭素
CF0.9~1.3のフッ化炭素は高い電気抵抗を有していてLi電池の負極材として使用されている。V.N. Mitkinは、超化学量論的フルオロカーボン(FC)と熱的に膨張させたグラファイトやメソポーラスカーボンなどの高多孔性カーボンとの混合におけるメカノケミカル活性化プロセス(MAP)による合成法と物理的・化学的性質の総説を報告している。1)下図にMAPによるナノコンポジットの合成のイメージを示す。FCのナノ粒子は表面において水と反応してFがOHに置換していることがグラファイトとのナノコンポジットを形成する上で重要なポイントであることが分かった。
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Young-Seak Lee らは、電気二重層キャパシタ(EDLC)の電気化学性能に及ぼす
活性炭電極のフッ素化効果を調べた。2)
フェノール樹脂から作製した活性炭の表面を室温でF2/N2比を変えてフッ素化し、EDLCの電極材料として使用した。Table1にF2/N2=1/9でフッ素化した活性炭のF19MSP、2/8のF28MSP、3/7のF37MSPについて、フッ素化しない元の活性炭RMSPと比較して、表面積、孔の全体積、t-plot微細孔の体積、メソ孔の体積と全体積との比を示す。いずれもフッ素化することにより表面積は増大した。その中で、F28MSPが最高値を示した。
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また、EDLCの比静電容量をTable4に示す。F19MSPおよびF28MSPを使用したEDLCが非フッ素化RMSPのそれより高い値を示し、F28MSP使用のEDLCが最高値を示したが、フッ素化が最も進んだと思われるF37MSP使用のEDLCはRMSPより低下してしまった。これは表面抵抗が大きくなり、比伝導度が低下したためであることを突き止めている。
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3、フッ素化フラーレン
ダイキン工業と大阪大学は高いキャリア移動度とデバイスとしての安定した機能を両立でき、かつデバイス作製を容易にできる、下記に示す含フッ素フラーレン誘導体を提案している。3)ここで、フルオロアルキル基の役割は高い電子移動度を達成するためである。
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化合物5の合成法は下記の通りである。化合物1は高いキャリア移動度を付与する。C12H25基の導入は有機溶媒への溶解性を高め、デバイス作製を容易にするためである。

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4、フッ素化カーボンナノファイバー
Mark Duboisらは、Table1に示すような種々のフッ素化レベルのカーボンナノファイバーサンプルを作製し、熱重量分析を用いて、フッ素化カーボンナノファイバーの熱分析を行った。4)ここで、Controlled fluorinationはフッ素化剤TbF4の熱分解で生ずるフッ素原子によるフッ素化。そして、Static direct fluorinationはF2ガスを密閉反応器中に満たして行ったフッ素化である。
Table2には熱重量分析結果を示す。ここで、T10%は10%の重量損失の温度。TC-FはC-F結合の切れる温度、Tcはフッ素化されていない部分も含めて分解するいわゆる燃焼温度である。フッ素化方法により異なる熱安定性得られることが分かった。結論として、Controlled Fluorination法により、465℃付近でフッ素化するのが最適であった。これにより、耐熱性の高い固体潤滑材の製造法が示唆された。
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5、おわりに
フッ素化カーボン材料は、電池材料として使用されてきたが、最近ではここで述べたように、キャパシタ、有機半導体デバイス、固体潤滑材などとしての可能性が示されている。以前に述べたグラフェンをはじめとして、フラーレンやカーボンナノファイバーなどのいわゆるナノカーボンをフッ素修飾することで全く新しい材料が可能となったためである。今後の発展を大いに期待したい。

文献
1) V.N. Mitkin Journal of Fluorine Chemistry 132 (2011) 1047-1066
2) Young-Seak Lee et al Journal of Fluorine Chemistry 132 (2011) 1127-1133
3) ダイキン工業、大阪大学 特開2011-121886
4) Mark Dubois et al Carbon, 49(2011) 4801-4811

「含フッ素両親媒性ポリマー」

2011年12月1日

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1、はじめに
最近目に止まった3種類のフッ素系両親媒性ポリマーについて述べる。ひとつは薬剤伝達物質としてのポリマーであり、2番目はDNA濃度を決定する手段としてのポリマー、3番目は綿布に超撥水性を付与するポリマーである。

2、薬剤伝達ポリマー
Z生体医療にとって両親媒性ポリマーが重要であるという認識は益々高まっている。両親媒性ポリマーは薬剤伝達の担体として十年以上前から検討され、薬の包含、薬剤伝達、画像診断などに適用されている。ポリマーとしては、リポソーム、生体分解性ポリマー、水溶性ポリマーなどがある。
M. K. Pandeyらは下図に示すパーフルオロアルキル基含有ノニオン系両親媒性ポリマー5a-cおよび7a-cを合成し、薬剤伝達の担体としての可能性を調べた。1)いずれもエチレンオキサイド鎖の長さを変え、親水性・疎水性バランスを調整している。
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本ポリマーは、水溶液中でFig.1に示すようなミセルを形成し、輸送分子を包含する。動的光散乱法によるウコンの黄色色素クルクミンおよびC3F7(CH2)7OHの場合の包含能力をTable1に示す。クルクミンの場合は5の方が、C3F7(CH2)7OHの場合は7の方が高いことが分かった。
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3、DNA濃度の決定
Ling Liらは、共鳴光散乱法によるDNA濃度を決定の新規探査物質として、下図に示すカチオン系のフッ素ポリマーを合成した。2)本ポリマーは、pH4.0から7.0の間でDNA分子の表面に凝集し、共鳴光散乱ピークが370nm、400nm、420nm、470nmのところに出現した。その強度はDNAの濃度に比例した。共鳴光散乱の260nmピークが、DNA濃度およびポリマー濃度の増大と共に増大することを含めてFig.4に示すような機構が提案されている。即ちDNAの核酸のリン酸基と結合し、さらにフルオロアルキル基とDNAの疎水-疎水結合により、凝集からインターカレーション結合を形成する。
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4、超撥水性綿布
Ruke Baiらは、下図に示す両親媒性アジド基含有トリブロックポリマーを可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合法で合成し、綿布へ加工して超撥水性(水の接触角155度)を付与できた。3)
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本ポリマーは、UV照射により、アジド基により綿と共有結合している。従って、Fig.11に示すように、pH2から12の広い範囲の水溶液に浸漬して100時間後でも148度以上の水の接触角は保たれており、化学的耐久性が高いことが分かった。
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5、おわりに
フッ素系両親媒性ポリマーについて、薬剤伝達、DNA濃度の決定、超撥水性綿布への応用について述べた。薬物伝達については薬剤の包含能力が高いことが示され、DNA濃度が簡単に決定でき、また簡便に親水性の綿布を超撥水性にできた。今後、かなり広い分野でその能力を発揮し、有用な材料となることが期待される。

文献
1) Mukesh K. Pandey et al Polymer 52(2011) 4727-2735
2) Ling Li et al Journal of Fluorine Chemistry 132(2011) 35-40
3) Ruke Bai et al Polymer 51(2010) 1940-1946

「フッ素化合物の酵素合成」

2011年11月14日

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1、はじめに
フッ素化合物の合成について酵素を触媒として使用する方法が開発されてきた。特に不斉合成については真価が発揮できそうであり、また特殊なポリマー合成においても興味ある研究がなされているので紹介したい。
2、不斉合成
gem-ジフルオロシクロプロパンが液晶の材料として注目されてきたが、伊藤らは、下記に示す螺旋状のgem-ジフルオロシクロプロパンの誘導体を化学-酵素触媒を用いて合成した。1)
Cyclohexane-1,4-dionを出発物資として、2つのジフルオロプロパン環をシクロヘキサンで繋ぐ構造1を化学触媒を用いて合成した。その後、下図に示すように、酵素触媒Lipaseを用いて光学活性体とすることに成功した。各種Lipaseを用いた場合の光学収率などをTable1に示す。光学的にピュアな化合物が得られている。
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本化合物を下図の9e誘導体とすると優れた液晶性を示すことがわかった。
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北爪らは、イオン液体中でフッ素化合物の不斉還元反応を酵素を用いて行い、下表の結果を得ている。2)この反応では水の存在が重要であることがわかった。
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3、位置選択的合成
Steve S.F. Yuらは、下図に示すようなgem-difluorinated octanesの酵素触媒による位置選択的ヒドロキシル化反応を検討し、11が選択的に合成されたことを報告している。3)
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4、機能性材料合成
Y.Poojaliらは、下図に示すシリコーン含フッ素脂肪族ポリエステルアミドをLipaseを触媒として合成した。4)
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Table3に各種組成のポリマーの分子量と分子量分布(PDI)を示す。
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柔軟なシリコーン部位と剛直なフルオロアルキレン部位が主鎖に並ぶユニークなポリマーでOFODの結晶性の白色固体からAPDMSの増加とともにアモルファス性が増大し、粘性液体からワックス体に変化した。
Debuigneらは、下図に示す、糖とフッ素含有カルボン酸とをLipaseを触媒として反応させ界面活性剤を合成した。ここで、CALBはCandida antarctica lipaseである。反応は80℃24時間で40%程度の転化率であった。界面活性能についてはFigure1に示す。低い表面張力と臨界ミセル濃度cmcが得られている。
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5、おわりに
酵素を触媒として用いたフッ素化合物の合成は、温和な条件での光学あるいは立体選択性の高い化合物やユニークな機能材料の創出などの可能性があることが分かった。今後、重要な分野に発展していくことが期待される。

文献
1) Toshiyuki Itoh et al Journal of Fluorine Chemistry 130(2009) 1157
2) Tomoya Kitazume et al Tetrahedron Letters 47(2006) 4619
3) Steve S.F. et al Tetrahedron Letters 52(2011) 2950
4) Yadagiri Poojari et al Polymer 51(2010) 6161
5) Antonie Debuigne et al Carbohydrate Research 346(2011) 1161

発行:ダイキン工業株式会社 化学事業部 ファインケミカル部 WEBマガジン事務局

「新フルオロカーボンHFO」

2011年9月26日

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1、はじめに
フルオロカーボンは、20世紀末のオゾン層破壊問題、今世紀に入っての地球温暖化問題により、厳しい規制を課されてきた。前者ではCFC、HDFCが対象となり、HFC、HFEなどの代替フルオロカーボン類が登場してきた。後者ではHFCも規制対象になりつつあり、HFEも将来的には予断を許さない状況である。そこで、登場してきたのがGWPがHFEより低いCOF2やCF3IおよびハイドロフルオロオレフィンHFOである。前二者は、エッチング剤、洗浄剤として、半導体分野で使われている。HFOは冷媒、発泡剤や溶剤として期待されている。HFOについては、2010年「フッ素関連トピックス三題」の1月号、5月号で紹介したが、本稿では、その後のHFOの進捗状況を中心に述べてみたい。

2、ハイドロフルオロプロペン
これまでHFOとしては、ハイドロフルオロプロペンの開発が中心であり、下記の表に示すような構造が知られており、GWP値、沸点、臨界点、燃焼速度などのデータをHFC-32やHFC-152aと比較して示す。1)、2)

化合物 化学式                   GWP  Bp(K)   Tc(K)  

燃焼速度(cm/sec)          ISO燃焼性クラス
1234yf CH2=CFCF3         4      245.2   369.3     1.2                                      2L
1243yf CH2=CFCHF2                                            19.8                                     2
1243zf CH2=CHCF3                 251.7   389.7   14.1                                      2
1234ze CF3CH=CHF(E)  6     254.2   384.4                                                  2L
HFC-32 CH2F2                          650       221.5      6.7                                      2L
HFC-152a CH3CHF2               140        248.2     19.8                                     2

このうち冷媒として期待されるのはGWP が4でHFC-134aより99.7%低いR-1234yfであり、今年4月に米国EPAから最終的な認可を受けた。また、GWPが6と低く、エアゾール用途や発泡剤として期待されるR-1234zeは、燃焼速度のデータはないが、フッ素含有量からISO燃焼性クラスは2Lと推察できる。今年1月に米国EPAがその用途の承認を行い、米国ハネウエル社が2013年後半に商業プラント建設を決めている。いずれも日本と欧州では、すでに商品化されている。また、1243zfについては、HFC-134aとの混合溶媒についてGWPが150以下との記載がある。
商品化に向けた最近の特許としては、R-1234yfを使用した冷凍サイクル内でフッ化水素の発生を抑制し、冷凍サイクルに使用される部品の劣化を抑えて、長期間に渡って安定的に動作可能にするためにエタノールが提案されている。3)
また、ダイキン工業は、R-1234yfとHFC-32混合冷媒を使用した空気調和装置において、蒸発器として機能する熱交換器の除湿能力を確保することができ、再熱除湿運転の性能を向上させることができる装置の提案や4)HFO単一あるいは混合冷媒において冷媒量を減らす試みとしてマイクロチャネル熱交換器の提案などを行っている。5)また、R-1243zfを発泡剤として使用して、高kファクターを有する低密度断熱性熱可塑性発泡体の製造が提案されている。6)また、HFOが重合性であり、ポリマー化して析出することにより冷凍サイクル内で詰まることを防ぐため、ペンタエリスリトールおよびネオペンチルグリコールをそれぞれ炭素数7~9の脂肪酸を反応させたエステル化合物からなる冷凍機油を含有させてポリマーを溶解させる提案がなされている。7)

3、その他のHFO
ハイドロフルオロプロペン以外のHFOも提案されている。例えば、フッ素化プロピンC3HaF(4-a)の特許が公開されている。具体的にはCF3C≡CHであり、樹脂用発泡剤、熱伝達用流体または噴射剤などへの用途が考えられている。8)
また、シス-1,1,1-4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを相溶性の低いポリエステルポリオールと混合してイソシアネートと反応させ独立気泡のポリウレタン発泡体を製造する特許が公開されている。9)
Wallingtonらは、ヘキサフルオロシクロブテンHFCB、オクタフルオロシクロペンテンOFCPおよびヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンHFBDの塩素ラジカル、OHラジカルとの反応性、大気中での寿命およびGWP値を求めている。10)
結果は下表の通りである。
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速度定数は下記の反応式から求めた。
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反応は700Torr N2 or O2 中、295Kで行われた。
これから大気中の寿命を推算し、GWPを求めた。HFBDについては記載がないが、大気中の寿命から一桁台のGWPが予想される。

4、おわりに
ハイドロフルオロオレフィンHFOの実用化に向けて着実に進んでいるように思える。特に冷媒についてはかなり期待されているようである。また、発泡剤についても開発が活発である。但し、二重結合を有しているので金属などとの反応性、重合性などの問題点があり、そのための対策も提案されている。しかしながら溶媒としての可能性は現時点では明らかではないようである。オゾン層破壊、地球温暖化と次々に課題を突き付けられてきたフルオロカーボン、HFOが救世主のひとつとなることを期待してやまない。

文献・特許
1) J. Steven Brown et al International Journal of Refrigeration 33(2010) 235
2) Kenji Takizawa et al J. of Hazardous Materials 172(2009) 1329
3) パナソニック 特開2011-016930
4) ダイキン工業 特開2010-101588
5) ダイキン工業 特開2011‐94841
6) アーケマ 特表2010-522816
7) パナソニック 特開2011-85275
8) セントラル硝子 特開2011‐38054
9) デュポン 特開2010‐534253
10)T.J. Wallington et al Chemical Physics Letters 507(2011) 19-23

「イオン液体」

2011年9月26日

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、はじめに
イオン液体(ILs)については、アニオンとして安定性が高いと言う理由でフッ素系ILs が有望視されている。しかし、期待されながらなかなか大きな市場を築けない状況が続いている。粘度の問題、価格の問題などがネックになっているようであるが、開発は精力的に進められている。また、今年1月には、第1回イオン液体討論会が開かれており、学会としての活動も活発化してきた。ここでは、主に文献、特許情報から最近の開発状況をまとめてみた。

2、イオン液体溶媒
まずはILsを溶媒として用いた酸化触媒の進歩についての総説を紹介する。1)有機金属錯体はILsによく溶ける。従って、2相触媒反応の場合、有機金属錯体触媒はイオン液体中に留まり、生成物相から分離できる。こうした系で酸化、水素化、ハイドロシリレーション、オレフィンのオリゴマー化などの反応においてILsが用いられている。特にMn(III)ポルフィリン錯体を用いたオレフィンのエポキシ化がよく知られている。本論文では、スルフィド、アルコール、オキシム、オレフィンの酸化反応、ケトンを過酸で酸化してエステルにするBaeyer-Villiger反応やニトロトルエンの酸化、カルボニル化反応、システインの酸化などの特殊な酸化反応が取り上げられている。その中で一例としてスルフィドの酸化反応を紹介する。Scheme1にILs中でのジベンゾチオフェンの酸化反応を示す。種々のILsを用いた結果をTable3に示す。触媒を用いた場合、ILsが触媒を取り込み、反応を促進すると考えられる。ILsの種類によっても大きく影響を受け、[bmim]BF4と触媒の組み合わせが最も高い収率を与えた。また、Ilsが存在しない場合は4%の収率とのことである。ここで、[bmim]は1-ブチル-2-メチルイミダゾール、[omim]は1-オクチル-2-メチルイミダゾールで、それぞれ[C4mim]、および[C8mim]と表現することもある。
FT1
ILsは、CO2をよく溶かし、捕捉剤として期待されている。Kangらは、1-アルキル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート[amim][PF6]へのCO2の溶解性を調べた。2)アルキル基のブチル基[C4mim]とノニル基[C9mim]についてCO2の圧力と溶解性の関係をFig.3に示す。293.15Kと298.15Kと温度を変えて測定し、ブチル基では過去のデータと一致し一つの曲線上にあることが分かった。また、ノニル基と長鎖のアルキル基にすると異なる曲線を描くことも分かった。このデータをグループ寄与非ランダム格子流体状態方程式(GC-NFL EoS)と関連付け、高圧力、長鎖アルキル基での予測が出来ることを確認している。
FT2
3、イオン液体の応用展開
ILsの応用展開も盛んである。リチウム電池、電気二重層キャパシタ、色素増感太陽電池の電解液として検討されているのをはじめとして、バイオマスエネルギーへの適用、光化学への適用など応用範囲は広がりを見せている。
後藤らは、ILsを用いたレアアースの高度分離プロセスを報告している。3)ILsを用いる最大の利点は金属の液膜分離ができることである。液膜法とは、抽出分離の正抽出と逆抽出の一連の操作を、液膜をはさんだ両界面で同時に行える非常に簡略化された分離法である。ILsの揮発性が極めて小さいこと、即ち蒸発による膜液の損失が抑えられることは膜の安定化に有利であり、特に高温操作が多く、また液膜相と気相が隣接するガスの液膜分離ではその効果は顕著である。ILsは有機溶媒や水に比べて高い粘性や表面張力を示すため、圧力勾配に耐えて支持体の細孔に安定に保持されやすいことも安定化の大きな要因である。そして、分子設計に基づいて物性の異なる液体を合成できるので目的分子を輸送するのに適したILs相を創成することができる。
ILsの不揮発性、難燃性を利用した電解液としての可能性を述べた文献を紹介する。4)表1にいわゆる新エネルギーとして期待されている電気化学エネルギーデバイスの構成要素を示す。このいずれについてもイオン液体が検討されているが、まだ実用化には至っていない。粘性が高い、濡れ性が低い、コストが高いの3点が課題である。粘性についてはイミダゾリウム系ILsが低いが、 熱安定性や電気化学安定性の点で優れている脂肪族第四級アンモニウムイオンILsの低粘度化が検討されてきた。その結果、アニオンとしてBF3(C2F5)やCF3CONSO2CF3のような非対称性のアニオンを用いると粘度が低くなることがわかった。濡れ性については、現在使われているポリオレフィンセパレータにおいて課題であったが、例えばシリカナノ粒子を含有させたポリオレフィン多孔質をセパレータとして用いると濡れ性が改善されるなどイオン液体に適したデバイスの開発により解決の見通しが得られている。コストについては、実用化されれば量産効果などで解決できるとされている。また、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム・ビス(フルオロスルホニル)イミドが低粘性で高いイオン伝導度を有しており、他の殆どのイオン液体電解液中で充放電不可能な黒鉛電極の充放電が可能であるとの報告もある。5)
FT3
次にILsとポリマーを用いた材料開発についての文献を紹介する。6)まずは、ILsとポリマーが完全相溶するケース。その場合モノマーと架橋剤をイオン液体中に溶かして重合するとILsを担持したイオンゲルが得られる。例えばPMMAと[C2mim][ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)アミド(NTf2)]との組み合わせでのイオンゲルは300℃の耐熱性を有する。また、下図のプロトン伝導性ILsとこれを相溶するポリマーを併せ用いると、室温から100℃以上と広い温度範囲で無加湿燃料電池発電が可能になる。
FT4
また、アクチュエーターとしての特性が電極膜の導電性が不足して十分に出せない対策として、カーボンナノチューブとイオン液体を含む膜を形成後に、カーボンナノチューブに対してドーピング作用を有する有機分子を含む溶液を滴下、乾燥することによって解決した特許が公開されている。イオン液体としては、[C2mim]][BF4]が用いられ、高純度単層カーボンナノチューブおよびPVDF/HFPポリマーと混合して膜を形成、有機分子を含む溶液はF4TCNQのCS2溶液が例示されている。7)
さらに、有機EL等の発光表示装置にイオン液体を用いて、有機溶媒を用いた場合の揮発性による発光機能の低下、可燃性などの課題を克服し、発光輝度も向上するという特許が公開されている。イオン液体としては、N,N,N-トリメチル-N-プロピルアンモニウム-ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド)( TMPA-TFSI)が例示されている。8)

4、おわりに
イオン液体がグリーンケミストリーの目玉として登場してから十年以上を経ている。この間、開発は留まるところを知らず進んでおり、基礎的にも応用面でも多大な情報蓄積がなされていて益々大きな可能性が秘められていることは確かである。さらに、カチオン、アニオンの多様性とその組み合わせにより、今後も可能性が益々広がっていくことは間違いないと考える。但し、本文でも述べた課題があり、その結果大きなビジネスには繋がっていない。今後は実用化に向けた取組が功を奏し、グリーンケミストリーの目玉と言う位置づけが具体化されることを期待してやまない。

文献・特許
1) F. E. Kuhn et al Coordination Chemistry Reviews 155(2011) 1518-1540
2) Jeong Wong Kang et al Fluid Phase Equilibria 306(2011) 251-155
3) 後藤雅宏ら ケミカルエンジニヤリング2011年4月号 52-57
4) 松本一 現代化学2010年9月 45-49
5) 江頭港 ケミカルエンジニヤリング2010年10月号49-54
6) 渡邊正義 現代化学2010年9月号 50-53
7) アルプス電気 特開2011-78262
8) 大日本印刷 特開2011-91331

「膜分離技術」

2011年8月31日

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。
http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201106/#topic01

1、はじめに
今回の東日本大震災において、水の重要性が改めて浮き彫りにされた。また、21世紀になって、世界的な水不足、水環境の悪化が進行している。従って、持続可能な水資源の確保、水環境の保全・浄化は大きな課題となっている。その解決策として、膜分離技術が注目されている。一方、医療分野では、人工腎臓などに膜蒸留という分離技術が開発されている。ここでは、PVDFやPTFEを用いた膜分離技術について概説する。

2、工業用途
膜分離のうち水処理には精密ろ過・限外ろ過膜が用いられている。限外ろ過膜は孔径が数nmから10nm程度、精密ろ過膜は孔径が10nmから数μm程度で、いずれも分離、精製、濃縮、回収、除菌などに使用される。膜の開発には、膜素材と膜構造の設計が重要である。膜素材では、強度が高く、耐薬品性の高いPVDFが世界的に主流になりつつある。膜構造の設計には多孔質状の膜形態に加工することがポイントである。峯岸らはPVDFの中空糸膜モジュールを開発した。1)2)用途により膜の種類は下表に示す3種類あり、純水透水性能と細孔径が異なる。
下図に示すように清澄水用膜HFMは高い不可逆ろ過抵抗を示す。これは細孔径が汚れ物質より十分大きいため、汚れ物質が内部に入り込み、物理洗浄で回復できないことによると考えられる。これに対し、表流水用膜であるHFSやHFUは表面に緻密で平滑な分離機能を有するため、汚染物質が細孔に侵入しにくく、優れた低ファウリング性を示した。また、HFSの物理的性質をTable2に示すが、強度が高いことが分かる。さらに塩酸、苛性ソーダ、NaOClなどに対する耐性も高く、十年以上の化学的耐久性を有していることが分かった。
FT1
小川らもPVDF製の中空糸精密ろ過膜を用いた加圧型と浸漬方の大型モジュールを開発し、ランニングコスト削減を実現したと報告している。3)PVDF膜は、製膜方法によって膜構造は大きく変わり、膜性能や耐久性も変わる。製膜方法として、高温で融解させた均一な高分子溶液を冷却させることによることで相分離を起こさせる熱誘起相分離法(TIPS)を用い、シームレスネットワーク構造のPVDF中空糸膜を開発した。その膜モジュールの仕様を下表に示す。機械的強度が高く、耐薬品性に優れ、長期間安定して使用可能であり、上水用途でも10年を超える実績を有するとしている。
FT2
さらに、クレハはPVDF系樹脂を主体とする親水性多孔質膜を開発している。4) PVDFとして2種類の分子量の異なる樹脂を用い、さらにポリビニルアルコールおよび可塑剤を混合して二軸押し出し機で中空糸状に押し出し、水浴中に通し、さらに、ジクロロメタン中に浸漬して、可塑剤を抽出し、乾燥して多孔質中空糸を得た。機械的強度、膜としての浸透ぬれ張力が高く、水処理膜として使用した場合に1.優れた耐薬品性、2.高い耐久性、3.優れた耐汚染性により長期間の使用に耐えるので、特に河川水、酪農廃水(牛、豚などの糞尿を含んだ廃水)、工業廃水、下水等の水処理用として用いられるとしている。
また、アルケマは、従来は膜分離活性汚泥法(MBR)との複合系としての下水処理用途が中心であったが、さらに口径の小さな限外ろ過膜分野の用途展開を推進し、上水用途への展開を進めていく。また、耐薬品性と透水性を両立させたいというユーザーニーズに応えるため、親水性PVDFの開発も進めている。
Liらは、液体/液体、液体/固体分離におけるPVDF膜の製造と修飾についての総説を発表している。5)まずは、PVDFの結晶構造、熱安定性、耐薬品性が述べられ、次いでimmersion precipitationや熱的相分離を含むPhase-Inversion法を経由する膜の製造法が述べられている。また、PVDF膜のファウリング耐性改良のために表面処理(コーティング、グラフト、オゾン・プラズマ・UVおよびEB処理)やブレンド(ポリビニルピロリドン・ポリエチレングリコール・PMMAなどの親水性ポリマーの添加)による種々の親水性付与法が示された。結論として、PVDF膜の製造には結晶化工程が重要であり、PVDFの擬似結晶構造によるbi-continuousポア構造のような特殊な膜構造を形成させることがポイントであるとしている。また、ファウリング耐性改良については、親水性/疎水性のバランスだけではなく、膜の電荷やイオン強度、表面粗さ・ポアサイズ分布・ねじれ・厚みなどの構造性、あるいは溶質の性質、膜モジュールの形状などが影響することを結論付けている。
Wangらは、直接接触膜蒸留で用いられる中空繊維膜モジュールの性能改善方法について報告している。6)膜蒸留の性能は、膜とモジュールの特徴に依っているが、PVDF中空繊維をプラズマ処理したもの、化学的処理をしたものとオリジナルのものから作製したモジュールを比較した。処理したものは、疎水性、機械的強度が増大し、ポア径およびばらつきも小さくなった。その結果、長期持続可能な流動とより高い水質につながった。また、化学的処理の方が性能は高かった。結果を下表に示す。
FT3
膜蒸留では、物質と熱の流れが膜を通して同時に起こる。理論的には、膜が加圧状態であればポア中の全圧力と膜の熱抵抗が変わり、膜の性能に影響する。Greyらは、直接接触膜蒸留(DCMD)実験を行って、膜の両側の絶対圧力を変えてその影響をみている。7)膜としては中空繊維および平面シート膜の両方を使用した。中空繊維膜は1~70kPaの圧力範囲で全く変形しない膜であり、平面シート膜はスポンジ様のPTFE活性層を目の粗い織物で支持した膜で、Fig.8に示すように、体積変化を起こし、活性層は減少した。その結果、15~39%の流量減少が起こった。また、耐熱性も低下した。中空繊維膜は圧力による影響はなかった。

FT4

3、バイオ・医療用途
上記のPVDF多孔質膜をバイオ・医療関連用途への展開については文献や特許はまだ非常に少ない。その中で、東レは、微生物もしくは培養細胞の培養液を分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収するとともに未濾過液を培養液に保持または還流し、かつ、発酵原料を発酵培養液に追加する連続発酵装置を提案している。分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有するPVDF多孔性膜を用いている。8)多孔質膜の作製法は次の通り。PVDF樹脂のジメチルアセトアミド原液を25℃の温度に冷却した後、あらかじめガラス板上に貼り付けて置いた、ポリエステル繊維製不織布(多孔質基材)に塗布し、直ちに水/DMAC(25/75)組成を有する凝固浴中に浸漬して、多孔質基材に多孔質樹脂層を形成させ、その後、ガラス板から剥がし、熱水中に浸漬してDMCを除去した。低い膜間差圧で濾過処理しながら、長時間にわたり安定して高生産性を維持する連続発酵装置であり、酵母を使ってL-乳酸を製造している。
また、医療用途への展開も殆ど見当たらないが、鈴木らは、膜蒸留技術に着目し、新しい人工腎臓治療開発の基盤技術構築のための基礎検討を行っている。彼らはポリプロピレン膜人口肺を研究用に改良して実施しているが、PVDFやPTFEの可能性にも言及している。9)

4、おわりに
PVDFやPTFEの多孔質膜を用いた膜分離については水処理を中心に工業用途において盛んに行われており、高強度、高耐薬品性、高耐ファウリング性などの優れた性能により今後益々、重要な位置を占めていくと思われる。また、バイオや医療用途については、まだ始まったばかりであるが、上記の優れた特徴を生かしていけば大いに期待されると考えている。

文献
1) 峯岸進一 未来材料 9(6) P-40 2009
2) 花川正行、峯岸進一 繊維と工業 65(3) P-92 2009
3) 小川高史 膜(MEMBRANE) 36(1) P-44 2011
4) クレハ WO2006/001528 
5) Abed K. Li J. of Membrane Science 375(2011) 1-27
6) Rong Wang et al J. of Membrane Science 369(2011) 437-447
7) Stephen Grey et al J. of Membrane Science 369(2011) 514-525
8) 東レ 特開2008-237213
9) 鈴木聡他 東女医大誌 76(10・11)P-410 2006 

「光学活性化合物におけるフッ素の役割」

2011年6月10日

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。
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1、はじめに
現在市販されている医薬品のおよそ20%、農薬においては40%ほどが少なくともフッ素原子を有しており、開発中のものを含めるとさらにその割合は増えると言われている。その理由は、フッ素の有する特徴が特異な生理活性を引きだすからである。一つは、あらゆる原子の中で最も高い電気陰性度を有することであり、その結果、その周りのグループの反応性や安定性に大きな影響を与えることができ、また脂溶性を高めることができる。二つは、水素に次いで小さな原子であり、生体は水素との識別ができない所謂ミミック効果が発揮されることである。

一方、近年不斉炭素中心を有する光学活性分子が特異な生理活性を有することが見出されて以来、その不斉炭素にフッ素あるいはフルオロアルキル基を導入して、全く新しい生理活性化合物を合成する開発が盛んになっている。また、含フッ素反応触媒や溶媒が光学活性化合物の合成に重要な役割を演ずる例も知られている。ここでは、光学活性フッ素化合物の合成と生理活性機能について、また光学活性化合物の合成における含フッ素反応触媒や含フッ素溶媒の役割について文献特許からその動向を探ってみたい。

2、不斉炭素中心にフッ素原子あるいはフルオロアルキル基の導入法
二つの方法がある。一つは立体選択性の高い求電子的フッ素化剤を用いて 不斉炭素中心にフッ素を導入する方法、他はビルディングブロック法である。
前者の不斉炭素中心にフッ素を導入する方法については、近年、この方法に有効な下記の求電子フッ素化剤が開発されている。
FT1
柴田らは、2000年にcinchona alkaloids/Selectfluorの組み合わせで、シリルエノール、β-ケトエステルおよびオキシインドールのエナンチオ選択的なフッ素化反応を報告している。1)その後、NFSIがβ-ケトエステルやその関連物質のエナンチオ選択的フッ素化反応のフッ素化剤としてSelectfluorより多くの場合より効果的であるという結果が得られている。さらに最近柴田らは、NFBSI(1)を提案し、エナンチオ選択性をさらに改良している。2) NFBSI(1)の合成法は下記の通りである。
FT2
このNFSBI(1)を用いて、下記に示すシリルエノールのフッ素化を試み、NFSIとの比較をしている。エナンチオ選択性が向上しているのが分かる。
FT3
立体選択的なフルオロアルキル化特にトリフルオロメチル化反応については、下図の梅本試薬を用いたβ-ケトエステルへの不斉トリフルオロメチル化反応が報告されている。3)エナンチオ選択性を上げるには光学活性なグアニジン塩基を用いると効果的であり、最高70%eeでα-トリフルオロメチル-β-ケトエステルが得られている。
FT4
後者のビルディングブロック法については、Luらが光学的に純粋なトリフルオロメチル化イミダゾリジン、オキサゾリジンやチアゾリジン誘導体をキラルなアミノアミドあるいはアミノアルコールの下記の1に示すトリフルオロメチルビルディングブロックへのMichael付加反応により合成した。いずれも高いジアステレオ選択性と収率で得られた。5)
FT5
また、CF3含有α-ケトエステルとシリルアセチレンとを反応させて下記の光学活性体を得ている特許が公開されている。この場合、図Aに示す光学活性な配位子を有する金属錯体が触媒として使用されている。5)
FT6
3、フッ素系アルコールを用いる光学活性体の合成
網井は、フッ素系アルコールを反応溶媒、添加物、不斉反応剤、不斉触媒配位子として用いてエナンチオ選択性が向上した実例を紹介している。6)いくつかの例を紹介する。
まずは、含フッ素イミノエステルの不斉水素化反応である。CF3CH2OHなどのフッ素アルコールを用いると飛躍的にエナンチオ選択性が増大することが分かる。
FT7
下図では、フッ素系アルコールを添加剤として用いると、不斉収率が増すことが分かる。溶媒として用いた場合は反応が速すぎて不斉収率は低下した。
FT8
また、下図のようにフッ素系アルコール部位を有する軸不斉ホスフィン配位子45を設計し、不斉フェニル化反応に適用したところ、種々のアリールアルデヒドにおいて80%以上のエナンチオ選択性が得られた。これは、配位子45内のフッ素系アルコール部位が基質のアルデヒドを効率よく活性化し、さらに嵩高いCF3基による不斉環境が面選択性を向上させていると考えられる。
FT9
4、おわりに
含フッ素光学活性化合物合成法と含フッ素アルコールを用いた光学活性化合物の合成法について述べた。前者については、今後ますます重要になっていく含フッ素光学活性化合物の合成に新規フッ素化剤や含フッ素ビルディングブロック剤の開発が重要な役割を演じていることが分かった。また、後者については含フッ素アルコールが、合成における添加剤として、触媒として、あるいは溶媒としてケースバイケースで重要な役割を演じていることが分かった。この分野も益々目の離せない分野である。

文献
1) N. Shibata et al J. Am. Chem. Soc., 122(2000) 10728-10729
2) N. Shibata et al J. of Fluorine Chemistry 132(2011) 222-225
3) N. Shibata et al Org. Biomol. Chem., 7(2009) 3599
4) L. Lu et al Tetrahedron Letters 52(2011) 349-351
5) 特開2010-195736
6) 網井秀樹 ファインケミカル40(1) p-16-24 2011

「燃料電池」

2011年6月10日

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1、はじめに
今年も燃料電池、二次電池、太陽電池の展示会が3月2日から4日まで東京ビッグサイトで行われた。依然として関心は高く、盛況であった。燃料電池に関しては、「第7回 国際水素・燃料電池展(FC EXPO 2011)」と題して行われ、全体としては着実に実用化に向けて進んでいるように見えたが、一時期活発な動きを見せていたノートパソコンなどの小型電子機器の燃料電池使用はほとんど展示されていなかった。また、フッ素系材料も膜に関しては特に目立った動きはなかった。一方、目を文献に転じてみると海外文献において総説が目立ち、一般論文も活況を呈している。ここでは、常温から200℃で使用可能なフッ素系固体高分子型燃料電池(PEFC)に関する海外文献を中心に最近の動きを述べてみたい。

2、燃料電池開発状況
最近の新聞情報から、トピックスを拾ってみた。まずは、米国の調査会社が発行した報告書「世界の燃料電池技術資料」によると、燃料電池の売上高は2014年時点で12億ドルになるとのこと(2009年時点で4億9800万ドル)。次いで、環境に優しく、かつ、効率的にエネルギーを生産するデバイスである固体酸化物燃料電池(SOFC)の開発が活発であり、二つのトピックスをとりあげる。一つは、350ºCで作動できるイットリウム添加ジルコン酸バリウム薄膜を電解質として用い、小型電子機器への応用が可能となったことである。二つは、家庭用SOFCコージェネレーションシステムで、2010年度には都市ガスを水素に改質する燃料改質器や、電気を発生させるセルスタックなどで構成されるモジュールの断熱性を高めることなどにより、電気需要の大小にかかわらず高い発電効率を維持できるようになり、耐久性やエネルギー効率の向上も達成でき、2010年代前半での実証化が見えてきたことである。PEFCに比べて定格発電効率が10ポイント程度高く、部品点数もPEFCの2分の1から3分の1と少なく、小型化やコストダウンにつながるとしている。
一方、PEFCでは、家庭用燃料電池コージェネレーションシステム「エネファーム」が2009年に販売開始され、普及促進および早期の自立的確立が図られている。最近の動きでは、一つは、その主要材料の改良であり、フッ素系ポリマーを電解質(パーフルオロスルホン酸ポリマーPFSA)とバインダー(PVDFあるいはPTFE)に用い、低加湿用触媒を組み合わせた新仕様のMEAを作製。高温低加湿条件で、目標の750ミリボルト以上を達成した。二つは、炭化水素系電解質膜の開発であり、プロトン伝導性の湿度依存性を低減し、高温低加湿でのセル電圧をフル加湿と同等レベルまで高めた。
また、車載向けでは、高耐久電解質膜が試作され、実用化を追求している。この電解質は新規短側鎖型PFSA膜を使用しており、これと高耐久技術とを組み合わせることにより車載膜を作製。120ºC、40%相対湿度の条件下で500時間以上の耐久性が実証されている。
さらに、DMFC用高分子電解質として高温無加湿膜の開発が活発である。

3、フッ素系材料の開発状況
最近、目にした5つの総説を紹介する。
1つは、100ºCから200ºCで作用する燃料電池のプロトン交換膜におけるフッ素系と非フッ素系膜の総説である。1) フッ素系膜は高いプロトン伝導性を有し、ベストの交換膜と考えられている。しかし、水を含まない状況での性能発揮、100ºC以上での性能発揮および高コストの課題を有している。ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルアリールスルホン(PEAS)、ポリベンツイミダゾールなどの非フッ素系膜を含めて基礎的な開発の方向性について述べている。これらの膜物質のモルフォロジー、プロトン伝導のメカニズム、水の透過性が要約されている。水を含まない状況でのプロトン伝導性の向上については、酸塩基錯体を形成させることおよびポリマーにプロトンイオン液体を含有させることなどの解決策が紹介されている。また、本論文では膜の解析技術を紹介している。X線、中性子散乱、NMR、赤外などの標準的方法による膜のモルフォロジーや構造の解析、NMRと中性子散乱の組み合わせによる膜の性能に重要な影響を及ぼすプロトン動力学(水素結合を含む)などが述べられている。
2つは、高分子電解質膜燃料電池(PEMFC)においては水の管理は重要であるが、そのポイントとなる水の透過についての総説である。2) まずは、水管理の重要性を述べている。PFSA膜の場合、水和した状態でないとプロトン伝導性が低下してしまう。水で湿らしたガスを送ることも一手段だが、80ºC以下だと水が凝縮し電極に溜まってしまういわゆるwater floodingが起こり、水素や酸素の供給速度が低下し、セル性能がかなり落ちてしまう。従って、ガスを湿らさず、ドライな状態で送り込む必要がある。いずれにしても水を如何にして膜内に保つかが焦点であり、その対策は数多提案されている。本論文では、PEMFCにおける水の移動について要約している。内容は、PEMFC内での水の状態、水の移動の機構を膜内、ガス拡散相、触媒相、流路などのそれぞれの構成要素において理論的(モデリング)と実験的に過去の文献を集約して述べている。PFSA膜における水の移動のメカニズムであるが、Fig.8に示す構造のNafion膜を使って言及している。Fig.9は水の含有量が少ない時と多い時でのNafion膜内の模式図である。水の含有量が低い時は、水はSO3-イオンに強固に吸着していて、過剰のプロトンが直接SO3-イオン間を移動するので伝導度は低い。水の含有量が高い時は、直接移動するほかにH3O+やH5O2+、H9O4+などを形成しながら水を介して移動していく。水の含有量が13を超えると水の連続層が出来、プロトンの移動はhopping機構で起こり、伝導度は最大になる。
FT1
FT2
また、コンピュータの発展により、理論的な解析が進んでいて、多くのモデルが提案されている。さらに、低温から100ºC以上の温度条件での課題についても言及し、100ºC以上での運転に期待が込められている。
3つは、ナノ構造を有する膜の燃料電池への適用についての総説である。3) ここでは、主にPFSA膜のナノ構造化について述べている。PFSAにナノサイズのZrO2やTiO2を複合したナノコンポジット膜が120ºC20%RH下で安定した伝導度を発揮する。しかし、メタノールなどの燃料の透過性が高くなる問題点も指摘されている。分子スケールでの燃料電池の理論的な研究も紹介され、今後への開発課題が提示されている。課題の一つはZrO2などの膜への均一な分散である。ゾルゲル法、溶液のキャスト法やPECVD法、さらには界面活性剤の添加などの方法が提案されている。
4つは、PEMFCにおける汚染物質の影響についての総説である。4) 一つは、供給される酸化剤(空気)と燃料(改質水素)に含まれる不純物が酸素還元、水素酸化反応を阻害することであり、二つは、セル部品から生ずるイオンの電解質膜へのアタックにより機械的、化学的安定性が低下し、プロトン伝導性の低下や反応物質のクロスオーバーが生じることである。本論文では、正極、電解質膜、負極、それぞれについて汚染物質を特定し、その影響を述べている。正極では、酸素の還元が起こるが、NOxや硫黄化合物の影響が重要。電解質膜では、Fentonテスト法やOpen circuit voltage decayテスト法が紹介され、ラジカルやカチオンの影響を述べている。負極では、水素酸化反応が起こるが、一酸化炭素の影響が重要である。
5つは、燃料電池膜としての相互貫入ポリマー(IPNs)と半IPNsの開発に関する総説である。5) (半)IPNsについての合成法、工業用途、燃料電池用途がまず述べられ、次いで燃料電池膜としての(半)IPNsの詳細が述べられている。そのなかでPFSAをベースとした半IPNsについて紹介する。ここでの改良点はDMFCにおけるメタノールの膜内透過、クロスオーバーの低下である。半IPNsのPFSAのパートナーとして、poly(2-acrylamido-2-methyl-1-propanesulfonic acid-co-ethyl methacrylate)(AMPS/EMA=60/40)を用いた場合、伝導率はPFSA単独の場合と同レベル1.85×10-2S/cm、メタノールの透過率は3分の1の1.12×10-6cm2/sとなった。また、ポリビニルピロリドンPVPとの半IPNsでは、PVP2%の系でメタノールの透過率は53%低下し、伝導率は38%向上した。但し、フッ素化ポリイミドやジビニルベンゼンなどとの半IPNsでは改良されなかった。
他にも多数の文献が公開されている。例えば、PFSAの課題である燃料ガスの透過性、温度条件の制限、高コストを解決手段として、スルホン化芳香族系ポリマー(PEEK、PEASなど)が提案されているが、水和状態で寸法変化が起こるという課題がある。その解決策としてPVDFとPEEKとのコンポジットが提案されている。6)また、ガス拡散層の開発に関する文献がいくつかあるが、PTFEをバインダーとしたカーボン水系スラリーの均一性、安定性がドデシルスルホン酸ナトリウムにより得られること7)や熱伝導性においてPTFEのコンテントが影響すること8)などが目に付いた。さらに、PFSAにおいて特に生成するH2O2による性能低下が課題であるが、Feイオンの添加が効果があることや9)PFSAとモルデン沸石とのコンポジットがDMFCとして高出力、メタノールの低透過性などの性能を発揮すること10)などが報告されている。

4、おわりに
最近の燃料電池に関する情報を述べた。フッ素系電解質膜を始めとするフッ素系材料の出番は、PEFCである。家庭用コージェネレーションにおいては、販売後2年を経過し、順調に推移している。フッ素系電解質はプロトン伝導性および耐薬品性において優れているが、高温、無加湿運転に課題を有している。そのための基礎的で地道な開発が着実に進められていることが伺われた。しかし、車載用については、実用化への道のりは遠い感があることは否めない。

文献
1) Anne-Claire Dupuis Progress in Materials Science, 56(2011) 289-327
2) Xianguo Li et al Progress in Energy and combustion Science 37(2011) 221-291
3) S.K. Karamarudin et al International Journal of Hydrogen Energy 36(2011) 3187-3205
4) Xianguo Li et al Progress in Energy and combustion Science 37(2011) 292-329
5) Odile Fichet et al Journal of Power Source 368(2011) 1-17
6) Jung-Ki Park et al Journal of Power Source 196(2011) 2483-2489
7) A.M.Kannan et al Electrochimica Acta 56(2011) 1591-1596
8) X.Li et al Electrochimica Acta 56(2011) 1670-1675
9) James G. Goodwin Jr et al Journal of Power Sources 196(2011) 3060-3072
10) Stuart M. Holmes et al Journal of Membrane Science 369(2011) 367-374

「18F放射性トレーサー」

2011年4月13日

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201103/#topic01

1、はじめに
18Fは、その低い陽電子放出エネルギー、サイドエミッションがないこと、および適切な半減期のために、最も広く使用されているPET(陽電子検出を利用したコンピューター断層撮影技術)同位体の1つで、18Fを含んだ18F-フルオロ-デオキシ-グルコース(18F-FDG)などの放射性トレーサーが種々開発されている。PETシステムによる画像診断法は、癌診断あるいは脳機能診断に有用である。
ここでは、最新の特許・文献から18F放射性トレーサーについてまとめてみた。

2、アミノ酸ベースのトレーサー
アミノ酸ベースのトレーサーは腫瘍代謝イメージング剤として臨床適用に有用である。Hank F. Kung らは、下記の二つの新しいフェニルアラニン誘導体FEPとFPPを合成し、現在臨床に使われているFETと比較している。1)
FT1
FEPとFPPの合成は下記のように行った。収率は11~37%、鏡像異性純度90%、比放射能は21~69GBq/μgであった。
FT2
細胞摂取については、下図に示すようにFEPが高い値を示した。そして、ネズミを使っての生体内評価では、有用なトレーサーであることが分かった。
FT3
また、2-[18F]fluoro-L-phenylalanineは人間の生体内血液脳関門での中性アミノ酸運搬の研究における有用な放射性医薬である。他方、2-[18F]fluoro-L-tyrosineは他のハロゲン化アミノ酸と異なり、殆ど定量的にたん白質に取り込まれ、生体内タンパク質合成の造影に対するトレーサーとして有用である。いずれも正常の組織と腫瘍とを区別することが出来るので、それらの摂取のPET研究は脳腫瘍の病性鑑定に対する臨床価値がある。これらの合成法は、いずれも[18F]F2、[18F]AcOFを用いて、L-phenylalanineやL-tyrosineの直接フッ素化により合成されてきたが、収率が低いなどの問題点があった。Johannes Ermertらは、下記に示すようなこれらのエナンチオ特異的な新規合成法を開発した。2)つまり、出発物質に下記に示す1a、1bを用いて、同位体変換を行い、Rh(PPh3)3Clにより脱カルボニル化反応を行い、最後に加水分解してアミノ酸を得るという3段階法である。収率はそれぞれ43%と49%、エナンチオマー純度は94%と高く、PETによる臨床試験に十分有効であった。
FT4
3、コリン系トレーサー
コリン放射性トレーサーは腫瘍学における臨床PET診断に広く用いられている。2-[18F]-2-デオキシ-D-グルコースは高いバックグランドの取り込みを示す。Eric O. Aboagyeらは、新規なコリン系、 [18F]fluoro-[1,2-2H4]choline を合成し、PETイメージングプローブとしての評価を行った。3)下記に[18F]Fluorocholine、[18F]fluoro-[1,2-2H2]choline、[18F]fluoro-[1,2-2H4]cholineの合成法を示す。
FT5
過マンガン酸カリやコリンオキシダーゼを用いて酸化的安定性を調べた結果、[18F]fluoro-[1,2-2H4]cholineは[18F]Fluorocholineに比して高い安定性を示した。そして、いずれのフッ素化コリンもほとんどの臓器に同じように摂取された。また、腫瘍摂取についての時間変化を下記に示す。いずれも[18F]fluoro-[1,2-2H4]cholineが他のフッ素化コリンよりも高い値を示し、60分後の値は非常に高く、生体内での試験に供するに十分価値があることが分かった。
FT6
4、トレーサーの新規製造方法
18F標識化合物の合成は、通常、サイクロトロンを用いて製造した短半減期の放射性同位元素18Fを原料として、自動遠隔操作が可能な合成装置を用いて合成される。近年、18F標識化合物の合成に、反応操作に関して微小な反応流路内で行うマイクロ化学システムを適用した方法が提案されている。4)、5)
本法は、マイクロチップを用いた方法であり、内部に気相の流路を有すると共に、気相の流路の底部に液相を溜めるプール部を有するマイクロチップに液相として18Fイオンを含んだ溶液を導入し、マイクロチップのプール部に毛管力を利用して18Fイオンを含んだ溶液を分散させる工程と、気相の流路に窒素ガスなどを流して、プール部に溜められた18Fイオンを含んだ溶液を蒸発乾固させる工程とを備える方法である。これまでは、マイクロチップ内で蒸発操作を効率良く行うことが実現できていない。ここでは、蒸発操作を含む多段階合成プロセスである18F標識化合物の合成を、効率的なマイクロチップ上の操作として集積化することを課題としている。
模式図を下記に示す。マイクロチップ31は、固相ビーズ充填部32と2つの微細加工溝部33,34、マイクロチャンネル部35より構成される。
FT7
具体的には、サイクロトロンで製造した18Fイオン含有酸素18O濃縮水2mLを導入路37より固相ビーズ充填部32に流し、固相ビーズ充填部32に充填された陰イオン交換樹脂に18Fイオンをトラップさせた。その後、固相ビーズ充填部32に導入路37より0.8mg炭酸カリウム及び4.8mg相間移動触媒クリプタンドを含むアセトニトリル/水(9:1)溶液50μLを流し、18Fイオンを溶離させ、排出路36から導入路38を通して微細加工溝部33に供給した。微細加工溝部33を120ºCに加熱し、導入路38より窒素ガスを流しながら蒸発乾固を行った。蒸発乾固終了後、反応前駆体である2-ブロモエチルトリフレート3μLを含むo-ジクロロベンゼン溶液50μLを導入路38より微細加工溝部33に供給し、100ºCで標識反応を行った。導入路38より窒素ガスを10mL/minで流しながら合成された18F標識フルオロエチルブロミドを蒸留した。蒸留した18F標識フルオロエチルブロミドは、排出路39から導入路42を通り、マイクロチャンネル部35及び微細加工溝部34に供給し、前駆体のL-チロシン及び水酸化ナトリウムを含むDMSO(ジメチルスルホキシド)溶液と接触させ、気液反応を行った。マイクロチャンネル部35及び微細加工溝部34を200ºCに加熱し、導入路42より窒素ガスを流しながら溶媒を留去した。0.15mol/Lりん酸緩衝液を導入路42よりマイクロチャンネル部35及び微細加工溝部34に供給し、排出路41より18F標識FET(フルオロエチルチロシン)を得た。

5、おわりに
18F標識化合物はアミノ酸、コリン、グルコースなどとして、癌診断や脳機能診断に有用な臨床PET診断に今や欠かせないものであり、今後益々その重要性を増していくと考えている。18Fの素性の良いトレーサーとしての特徴とF原子の優れた脂溶性による生体内への効率的な取り込みが相まった結果であり、さらにマイクロチップ法などの有効な合成法の開発も重要である。

文献・特許
1) Hank F. Kung et al Nuclear Medicine and Biology 38(2011) 53-62
2) Johannes Ermert et al Organic & Biomolecular Chemistry 9(2011) 765-769
3) Eric O. Aboagye et al Nuclear Medicine and Biology 38(2011) 39-51
4) JFEエンジニヤリング 特開2010-235462
5) JFEエンジニヤリング 特開2010-260799