2、エレクトロニクス

2010年6月24日

2-2 フラットパネルディスプレイ(FPD)
2-2-3 指紋付着防止加工技術1)
1)フッ素系防汚コーティング
 フッ素の数ある特徴の中で、魅力的なものの一つとしてモノをくっつけない性質がある。特に基材の表面に処理すると水や油を撥き、汚れを防止する性質は繊維用撥水撥油剤、SR加工剤、紙用耐油剤、インテリア用防汚加工剤、撥水ガラス、防汚塗料など広く利用されている。
 フッ素系防汚コーティングは、水や油、さらにはドライな汚れ(ソイル)を付着させないことを目的とする。
 まず撥水性は、水より表面エネルギーの低い表面を形成させれば達成できる。従って、ハイドロカーボン鎖を表面に並べてもそれは達成できる。但し、撥く力は弱い。ジメチルシリコーン系ポリマーを表面に処理すると水を撥く力は増大するが、一般にかなりの量をコーティングしないと性能を発揮できない。フッ素の場合は、理想的には単分子層が表面に並べば高い撥水性を得ることが出来るので、少量で済む。繊維処理の場合、繊維の風合いなどを損なわないと言う点でフッ素系は優れている。
 次いで撥油性は、油の表面張力より低い表面を形成させないと達成できない。従って、フッ素の独壇場である。
 そして、ドライなソイルを付着させないためには、水や油を撥く以外に非粘着性が必要である。つまり、表面がいわゆるタッキーネスがあるとどんなに表面エネルギーが下がっていてもソイルは物理的に付着してしまう。
結論として、フッ素系防汚コーテイング剤は撥水撥油性に非粘着性を加味したものでなければならない。
2)フッ素系指紋付着防止技術
 フッ素系指紋付着防止技術は、上記のフッ素系防汚加工剤の応用技術と言っても過言ではない。つまり、撥水撥油性とドライソイル性は必要条件であり、指紋のつきにくさにつながる。さらに十分条件として指紋のふき取り性と機能の持続性(耐久性)が加わる。
2-1) 性能評価法
 指紋付着防止加工剤の場合、撥水性の評価は処理表面に水滴を載せ,その接触角を測定している。また、処理板に水滴を載せて傾けていった時、水滴が滑り落ち始める角度を測定する方法も採られている(転落角)。この場合、角度が小さいほど撥水性は高い。
 撥油性は、指紋防止加工剤の場合、オレイン酸やヘキサデカンなどの油滴加工表面に載せ、その接触角を測定するのが一般的である。また、撥水性同様、油滴の転落角を測定する方法も行われている。
 また、実際に指紋を付着させて、その付き具合や取れやすさを視認性により評価することも行われている。
 耐久性については、耐摩耗性はテーバー摩耗試験やスチルウール試験さらにはネル布などによる摩擦などが行われている。また、耐候性はサンシャイン・ウェザーメータ試験が一般的である。
 ダイキン工業2)3)4)、信越化学5)6)7)、旭硝子8)9)10)などは指紋防止加工剤の特許を出願しているが、その実施例から性能評価基準をまとめてみると、水の接触角は105度以上、オレイン酸・ヘキサデカンの接触角70度以上、転落角は水やヘキサデカンにおいて10度以下と言うのが高性能の目安である。また、指紋の付着防止性は表面硬度も大きな要素であり、一般には鉛筆硬度3H以上は必要とされている。指紋のふき取り性は、ティッシュなどを使用、目視でほとんど見えない状態を合格としている。耐久性については各社それぞれに評価基準を設けているようである。耐摩耗性は表面硬度の影響を受け、この場合も鉛筆硬度で3H以上は必要とされている。ガラス表面では達成しやすいが、PETフィルムなどではハードコートが必須である。また、表面潤滑性が重要である。この性能は指紋のふき取りやすさにも大きな影響を与えているようだ。
2-2)指紋付着防止加工剤
 上記特許から、フッ素系指紋付着防止加工剤の構造が推定できる。1)で述べたフッ素防汚コーティング剤はC6以上のパーフルオロアルキル基が用いられてきたが、指紋付着防汚加工剤の場合、パーフルオロポリエーテル基が用いられている。それは水や油の転落角が低いことと、表面潤滑性を発揮できるからと考える。また、架橋させて表面硬度を上げる必要があり、メトキシシランなどのシラン基が必須である。
パーフルオロポリエーテル基としては図1の構造が特許には例示されている。5)  
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図1 指紋付着防止加工剤の構造
 最近の文献で、渕田は、フッ素系樹脂に特殊フィラーを添加して、凹凸面を作り、接触面積を小さくすることを提案していて、指紋が付着しにくくふき取りやすいとしている。11) また、板倉は、「フッ素系シランカップリング剤が提案されているが、両末端がアルコキシシラン系の方が片末端のそれより耐摩耗性が高い。表面を凹凸にすると指紋がつきにくくなる。さらに、光触媒により指紋を分解する方式が提案され、その際、球状シリカを分散、表面凹部に光触媒を埋め込めば効果的で、バインダーとしてフッ素系が提案されている。」と述べている。12) さらにDICの特許では、多官能(メタ)アクリレート系化合物とフッ化ビニリデン系樹脂とを含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が提案され、高い硬度を有し、透明性に優れ、また、付着した指紋が目立ちにくく、かつ、付着した指紋が拭取りやすいとしている。13) フッ素系シランカップリング剤の両末端と片末端の違いについては表1に摩擦係数と水の接触角、図2にはスチールウール摩耗試験後で、200g荷重をかけたスチールウールで走行させたときの摩耗するまでの走行回数をまとめてある。両末端のものは接触角は多少低いが、摩擦係数は低く、耐摩耗性が優れていることが分かる。耐摩耗性の両末端の優位性は60℃で相対湿度95%、48時間熱試験後でも保たれる。つまり耐久性も優れている。14)

表1 両末端と片末端アルコキシシランの接触角と摩擦係数
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図2 両末端と片末端アルコキシシランの耐摩耗性

2-3)指紋付着防止加工技術
 上記の指紋付着防止加工剤を用いて基材表面に塗膜を形成する方法について述べる。大別して薄膜コーティング法と練り込み法に分けられる。
2-3-1)薄膜コーティング法
薄膜コーティング法は、加工液を基材表面に塗布して塗膜を形成させる方法で、スピンコーティング法、フローコート法、スプレー法、ロールコートあるいはダイコート法、インクジェット法、ディッピング法、蒸着法、メッキ法などがあり、用途に応じて使い分けられている。
 指紋付着防止加工の場合は、ディッピング法、蒸着法、フローコート法などが使用されている。
 薄膜コーティング法では、0.1%程度の固形分濃度のフッ素系溶液で加工することが一般的である。例えば、ガラス板に0.1%固形分濃度でディッピング処理したとき、目視で指紋の付着防止性能とふき取り性において良好な評価が得られ、さらに水の接触角110度以上、水の転落角15度以下、ヘキサデカンの転落角5度以下が得られている。さらにネル布を用いての10,000回摩擦後も水の接触角105度以上、耐候性試験後も110度の接触角が保持されているとの報告がある。15)
2-3-2)練り込み法
 練り込み法は、基材やハードコート、プライマーなどに加工剤を添加し、処理後に加工剤が表面に移行して塗膜を形成する方法である。加工剤への要求特性としては、添加する母体との相溶性と表面への移行性が重要である。
 練り込み法については、その原理の模式図を図3に示す。16) 加工剤をハードコート剤などと混合した際は、均一に分散されているが、コーティング後は表面に移行してくる。指紋付着防止加工剤の場合、加工剤は分子内にパーフルオロポリエーテル基のほかにUV架橋部位を含み、表面に移行後UV硬化により固定化される。15)パーフルオロポリエーテル基は表面への移行性を高める機能も有する。また、ハードコート剤と混合した際、均一に溶解することが重要で、ハードコート剤との相溶性基が必須である。さらに移行性を高めるために分子量も余り高くないことが必要であり、低分子あるいはオリゴマーが望ましい。
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図3 練り込み法の原理図 

 表面にパーフルオロポリエーテル基が固定されることにより、薄膜コーティングと同様の性能が発揮されるが、実際には薄膜コーティング法の方が性能が高いようである。
3) 非フッ素系との比較
 非フッ素系指紋付着防止加工剤は、付着する指紋を撥くのではなく、溶かし込んで指紋が目立たなくなることを狙っている。模式図を図4に示す。左が非フッ素系加工剤を処理した層での指紋の付着状況だが、指紋を撥くのではなく層の中に溶け込んでいく様子が分かる。17)
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図4 非フッ素系、フッ素系加工剤処理層の指紋付着状態
4) おわりに
 タッチパネルなどの指紋付着防止技術は、現在、初期、耐久性を含めて性能はかなりのレベルまで来ている。フッ素系と非フッ素系があるが、非フッ素系の場合、指紋を加工剤に溶かし込んで見えにくくする方法なので、耐久性という面では指紋を撥いてしまうフッ素系の方が有利と考えている。フッ素系の場合、指紋が付着したとき、見えにくくすること、つまりより強烈に撥くことが今後の課題といえる。
 
参考文献特許
1) 「耐指紋・耐擦傷性の付与と防汚技術」 2010年7月刊行 技術情報協会
2)ダイキン工業 特開平9-157582
3)ダイキン工業 特開11-217558
4)ダイキン工業 特開2000-144097
5)信越化学工業 特開2005-290323
6)信越化学工業 特開2007-145884
7)信越化学工業 特開2008-156454
8)旭硝子 特開2005-54029
9)旭硝子 特開2008-88323
10)旭硝子 特開2006-124417
11)渕田 貴昭 Origin Technical Journal No72 2009 Ⅲ4
12)板倉 義雄 MATERIAL STAGE 9(6) 88 2009
13)DIC 特開2009-263409
14)最新タッチパネル技術 技術情報協会 2009年3月発刊 p167,168
15)伊丹 康雄 MATERIAL STAGE 7(5) 40 2008
16)チバ・スペシャリティ・ケミカルズ 加工技術39(9)567 2004
17)疋田 真也 MATERIAL STAGE 7(5) 48 2008

3.環境問題

2010年4月21日

3、環境問題
3.3 PFOS・PFOA問題
 まずPFOS・PFOAおよび関連物質とは、下記の通りである。
  PFOS:C8F17SO3H PFOS関連物質:C8F17SO2N(R)-含有物質
  PFOA:C7F15COOH PFOA関連物質:C7以上のパーフルオロ基を有する物質
  例えば、C8F17C2H4OCOCH=CH2およびそのポリマー
  その用途は主に、PFOSが界面活性剤、PFOAがフッ素樹脂重合用乳化剤
 その関連物質は撥水撥油剤、防汚加工剤、消火剤の原料などである。
  それではPFOS、PFOAでは何が問題なのかであるが、所謂PBTであると懸念さ
 れている点だといわれている。

 つまり、Pは残留性、Bは生体蓄積性、Tは潜在的毒性である。最近の研究例で北極の野生動物からパーフルオロ化合物が検出されていることや、PFOAに発がん性の可能性が指摘されていることなどが根拠のようであるが、後者については動物実験の結果であって、人類における確認については不明である。PFOSは既にPOPs(Persistent Organic Pollutants)に指定された。
  

 PFOSについては、その関連物質を使った撥水撥油剤や界面活性剤の最大メーカーの3M社が2002年に製造中止して決着はついている。PFOAについては、2006年に米国EPAが製造メーカー8社に対して、2010年までに95%削減、2015年までに全廃の自主規制を促し、メーカー側は了承した。その後、旭硝子とダイキン工業は全廃時期を2012年に繰り上げると発表した。
  しかしながら、この市場は大きいので製造メーカー各社はその対策品の開発を推進しており、新聞発表や特許から次のような改良点が考えられている。
   ・ C6以下のパーフルオロアルキル基
   ・ パーフルオロポリエーテル基
   ・ 分岐パーフルオロアルキル基
   ・ 長鎖Rfを使用するが、分解してもPFOAに転化しない基 (RfC(CH3)2CH2CH2など)
  

 また、フッ素樹脂の乳化剤としてのPFOAについては徹底した除去方法を実施している。例えば熱分解やイオン交換樹脂の使用などである。
 現在のところ、PFOA対策品は、動的撥水性に劣る、風合いが硬いなどの課題があるようである。
  

 最新情報としては、界面活性剤としてCF3CH2CH2(CH2)nX、CF3CF2S(CH2)nX、(CF3)2N(CH2)nXが提案されている。ここでnは1~30の整数、Xはカチオン、アニオン、非イオン、重合性基などの官能基である。1) また、消火剤として、含フッ素ケトンCF3CF2C(O)CF(CF3)2が提案されている。2)

3.4 フッ素の回収・破壊、リサイクル
  フッ素についてはまず、オゾン層を破壊するCFCやHCFCの回収、破壊、リサイクルが行われ、それがさらにフッ素樹脂などにも適用されていった。最終的にはHFまで分解し、さらにCaF2つまり原料蛍石として回収することが一般的である。
  フロンに代表されるフルオロカーボン類の回収リサイクルは下図のように廃棄を申し出た業者が都道府県知事によって登録された第一種フロン類回収業者に処理費用を支払ってフロン類を渡し、次いで回収業者が国の主務大臣によって許可されたフロン類破壊業者に破壊費用を支払って破壊してもらう。
4-1

  また、フロン類を破壊する方法としては下記のような方法があり、実施されている。
・液体注入法:フロンを燃料ガスとともに冷却水中へ噴霧し、1,200℃以上で熱分解、燃焼ガスは冷却水へ噴霧され、急速に冷却されるとともに分解精製ガスを吸収する方法

・プラズマ分解法:コイルに周波数約4メガヘルツの高周波電流を通電して円筒形の反応機内部に発生するプラズマフレームの一万度に近い高温下でフロンと水蒸気を接触反応させる方法

  ・焼却法:セメント焼却炉ロータリーキルンを用いて焼却分解する方法

  ・触媒法:主触媒にハロゲン化金属を用い、その触媒再生機能を有する塩化第二銅を助触媒として組み合わせ、アルコールやエーテルと混合した後、ガス化したフロンを触媒層内に流通すことにより分解する方法

  2006年度のフロン類の破壊量は経済産業省・環境省のデータによると、約3183トン、前年度比14%増加であった。その中で、フロン類破壊業者に引き取られたフロン類は3201トン。第1種特定製品(業務用冷凍空調機器)から約15%増の約2430トンのフロンが回収され、第2種特定製品(カーエアコン)から約11%増の772トンのフロン類が回収された。また、フロンの種類別ではCFC590トン(19%)、HCFC1821トン(57%)、HFC772トン(24%)であった。森田化学は最近の特許で下図の方法で回収することを提案している。3)
4-2_01
また、産業機械2008年5月号には荏原製作所が循環型フッ素リサイクルシステムを紹介している。4)
4-3_01
含フッ素ポリマーをリサイクルするには、(1)ポリマーを再成形する、(2)モノマーに戻す、(3)高温で処理して発生したフッ酸をCaF2の形で回収する、の3つの方法が知られている。(3)の方法のイメージは下図の通りである。5)
4-4_01<
   また、ダイキン工業は2007年の特許で、含フッ素エラストマーを脱架橋して、さらに再架橋を行う方法を提案している。再架橋の際の架橋剤としてはオキサゾール架橋剤、イミダゾール架橋剤、チアゾール架橋剤が用いられている。6)

 

文献・特許

1) メルク パテント 特表2009-541403

2) 日本カプセルプロダクツ 特開2009-160387

3) 森田化学 特開2007-196179

4) 赤堀晶二、中川創太 産業機械2008,5 p12

5) 平井啓 Material Stage 4(10)9(2005)

6) ダイキン工業 特開2007-63334

3、環境問題

2010年3月31日

3,1はじめに

 フッ素を取り巻く環境は依然として厳しい。1976年のオゾン層破壊問題の指摘に端を発し、1997年の地球温暖化問題、さらには最近のPFOA/PFOS問題と次々に深刻な課題が突きつけられている。また、廃水・廃棄物処理・リサイクル問題も大きな課題である。ここではオゾン層破壊問題と地球温暖化問題(3月)、PFOA/PFOS問題と廃水・廃棄物処理・リサイクル問題(4月)を取り上げる。

3,2オゾン層破壊問題

 フロンの中で塩素を含む化合物、つまり炭素とフッ素と塩素から成るクロロフルオロカーボンCFCは安定すぎる故、大気圏では分解されず、オゾン層まで到達し、CFC中のC-Cl結合がラジカル的に切断され、オゾンと反応してオゾン層を破壊すると米国のローランド教授が指摘し、モントリオール条約(MOP)から規制が始まったことはよく知られている。また、CFCに更に水素が導入されたHCFCも大気圏での分解性はCFCよりは高いが、かなりの部分が分解されずオゾン層に到達するので、1995年のウイーン条約で規制の対象となった。

CFCは、先進国では1996年に全廃され、現在ではエッセンシャルユース例えば三フッ化塩化エチレンの原料であるCFC-113 などを除いて全廃されているが、発展途上国においては未だに流通しているという情報がある。

HCFCは2007年の第19回締約国会議で、その生産・消費全廃や削減目標達成次期が前倒しされ、先進国は2020年、MOP5条国に該当する途上国は2030年までに原則全廃を目指している。わが国ではHCFC-141bは昨年末までに全廃され、残っているのはHCFC-225で2020年には全廃される予定である。HCFCも4フッ化エチレンの原料であるHCFC-22やフッ化ビニリデンの原料であるHCFC-142bなどもエッセンシャルユースとして残されるであろう。

3,3地球温暖化問題

 オゾン層を破壊しないということで塩素を含まないフルオロカーボンがCFC全廃後主流となった。パーフルオロカーボンPFC、パーフルオロエーテルPFE、ハイドロフルオロカーボンHFC、ハイドロフルオロエーテルHFEなどである。しかし、これらの内、PFCやHFCは安定ゆえに地球温暖化の度合い(地球温暖化係数GWP値)が炭酸ガスの1000倍以上あるということで、1997年の京都議定書で規制の対象となった。また、電気および電子機器の分野で絶縁材などとして広く使用されているSF6などもGWP値が高く規制されている。下表に各フルオロカーボンとGWP値(100年値)を示す。

SF6の代替としてはトレーサーガス用途としてパーフルオロメチルシクロヘキサンやパーフルオロメチルシクロペンタンがある。現在自主規制の形で規制され始めているHFCはGWP値が1000以上の冷媒HFC-134aなどであるが、今後の状況は予断を許さない。比較的GWP値の低いHFCやHFEが完全に主流になったと言える。また、主に冷媒としてハイドロフルオロオレフィン(HFO) が最近注目を浴びている。それはGWP値が炭酸ガス並みに低いからである。

化合物

GWP値

PFC14

6500

SF6

23900

HFC-134a

1410

HFC-365mfc

890

HFC-76-13sf

136

  環状HFC C5H3F7

250

HFE-7100

297

HFE-7200

59

HFO-1234yf

4

 以下に最新情報を述べる。

1、 環境省は2009年8月28日、「オゾン層等の監視結果に関する年次報告書」をまとめた。それによると、2008年発生した南極オゾンホールは過去10年間の平均を上回る規模になった。これは6~8月に南極上空の低温域(マイナス78℃以下)の面積が大きかったことが要因だと言う。全球的にみるとオゾン全量は減少傾向が続いており、北半球高緯度と南半球中高緯度で特に顕著だという。特定物質などの大気中平均濃度については、北半球中緯度域の平均的な状況を代表するとみなせる北海道で観測している。CFC-12は90年代以降横ばい、CFC-11、CFC-113、四塩化炭素は約1%/年のベースで減少している。一方、HCFC-22、HCFC-142bなど大気中濃度は急速に増加しており、特にHFC-134aの増加率は約8.4%/年と大きかった。

2、 HFE-7000シリーズの塩素との反応を調べた報告がなされた。水素引き抜き反応が起こり、その反応速度定数を求め、大気中での寿命を議論している。結論として反応速度定数は大きく、寿命が短く、地球温暖化ポテンシャルは低いとの結論に達している。1

3、 消火剤として京都議定書の規制を受けない化合物が提案されている。CF3CF2C(O)CF(CF3)2などのパーフルオロケトン類。2

4、 新しい洗浄・希釈用途向けにTrans1,2-ジクロロエチレン/HFE-7100/HFE-7200=70/10/20の混合物が開発・販売された。GWPは43と低い。このように最近は、フッ素系溶剤と塩素系あるいは臭素系溶剤の組み合わせの組成物が開発されている。

5、 上表に掲げたHFO-1234yfを用いる冷凍装置の提案がなされている。3

6、  HFO-1234yfについて、毒性、燃焼性などの物性を調べた報告がなされた。結果は、毒性は低く、燃焼性はHFCに比して低いことが分かった。4

7、 8種類のHFO、ハイドロフルオロプロピレンについて、臨界温度、臨界圧力、臨界密度、偏心係数と一定圧力での理想ガス比熱をグループ寄与法で予測した報告がなされた。5

8、  所謂ノンフロン化も進んでいる。冷媒技術ではCO2を用いる方法が有望視されている。また、ウレタン発泡技術では、水とイソシアネートとの反応により生ずるCO2を発泡剤に用いる方法(水発泡システム)が開発され、ウレタン工業会は、今年8月をめどに住宅用吹き付け硬質ウレタンフォームの発泡剤をすべてノンフロン化するとした「ノンフロン化宣言」を1月26日に行った。

 

 

文献・特許

1) Ernesto Martinez et al  Chemical Physics Letters 479(2009) 20

2)日本カプセルプロダクツ 特開2009-160387

3)ダイキン工業 特開2009-250592

4)Yunho Hwang et al  International Journal of Refrigeration 33(2010) 212

   Steven Brown et al  Internationa Journal of Refrigeration 33(2010) 235

2、エレクトロニクス

2010年2月22日

2-3、フラットパネルディスプレイ(FPD)

 FPDは液晶ディスプレイ、有機EL、プラズマディスプレイなど厚さ10cm以下の薄型で平坦な平面を持ったディスプレイの総称であり、今やブラウン管を凌駕した感がある。このFPDに、液晶表示材料、反射防止膜、指紋付着防止剤、発光素子材料としてフッ素系材料が使われている。順を追って述べていく。

2-3-1、液晶表示材料

 液晶表示は、下図に示すようにTN(Twisted Nematic display)-LCD方式の電卓、時計から始まり、STN(Super-Twisted Nematic display)方式、TFT(Thin Film Transistor)方式へと変遷し、最近では液晶表示の弱点とされていた視野角の広域化や高速応答化技術の進化が著しく、FPDとしてのゆるぎない地位を確立しつつある。1)

2-3-1

 視野角の広域化については、In-Plane-Switching(IPS)モード、Vertical Alignment(VA)モードMulti-domain Vertical Alignment(MVA)モード、Optically Compensated Bend(OCB)モードなどの技術があり、その概要を下記に示す。1)OCBモード技術は広視野角化と共に高速応答性に優れる。

2-3-2 この液晶表示材料に含フッ素化合物がなくてはならない存在であることはよく知られている。フッ素系液晶材料の構造の一例を下記に示す。分子末端にFあるいはOCF3の形で導入されるか、主鎖にCF2Oの形で導入されている。前者は、最高電気陰性度のフッ素原子の導入により、高誘電率異方性Δεと低粘度の両立を実現し、駆動電圧を低く出来る。後者は高いΔεと低い粘度さらには高い液晶性(液晶状態の温度範囲が広い)を付与できる。

2-3-3

 上記の多種のモードについては、それぞれに対応した液晶材料が開発されている。例えば下記の化合物の使用によりVA、MVAモードの高性能化を可能にした。

2-3-4

 最新の情報では、VAモード液晶として、下記のCF3O基の導入により、Δεが負の大きな絶対値を有する化合物が提案されている。2)VAモード液晶分子はベンゼン環の片側にFを導入してΔεを負の値にしてVAモード化する試みがなされてきたが、本特許ではさらにOCF3基を導入してΔεの絶対値を大きくして有効性を上げている。

2-3-5

 また、OCBあるいはIPSモード液晶として、下記の化合物が提案されている。2)

2-3-6

 視野角を拡大するための手段として、上記のIPSモード、VAモード、MVAモードあるいはOCBモードなどの液晶セル用に対応して、光学補償フィルムを液晶セルの外側に設ける方法が採られている。

 その光学補償フィルムとして、下記のようなフッ素系ポリマーが提案され、表面に微細な凹凸が少なく、且つ膜厚ムラのないフィルム、及びこれを用いた偏光板としての利用が考えられている。4)5)

2-3-7

2-3-2、反射防止膜

 フッ素の低屈折率を利用した反射防止フィルムは下図に示すように透明基材フィルムの表面にハードコート層、高屈折率層、低屈折率層から成り、プラズマディスプレイPDPや液晶TVの前面に設置されている。

2-3-8

 この低屈折率層は下記のようなパーフルオロアルキレン基含有ジシランを縮合重合したポリマーをマトリックスとした中空シリカ分散体が提案されている。6)

(CH3O)3Si-C2H4-C6F12-C2H4-Si(OCH3)3

 また、ガラス転移温度が高く、かつ、架橋密度を大きくすることができる、低屈折率の多官能アクリレートと、多官能アクリレートと相溶性を有する低屈折率の含フッ素ポリマーを含む硬化性組成物を提供することを目的として、下記のようなフッ素および脂環式構造を含む多官能アクリレートが提案されている。7)

2-3-9

 また、耐擦傷性や耐摩耗性に優れ、ぎらつきを抑制することができると共に、黒濃度及び像鮮明度を高めることができ、画像の視認性を向上させることができる防眩性反射防止フィルム及びそれを備える液晶ディスプレイを提供する目的で、炭素数10以上のパーフルオロアルキル基を有するアクリレート共重合体が提案されている。8)
 さらに、反射防止フィルムの製造方法において、煩雑な工程を行わずに優れた反射防止性を有する画像表示装置を提供し、優れた表面耐擦傷性、耐アルカリ性、更には反射防止性を有する画像表示装置を提供する目的で、中空シリカ溶液中で

C8F17C2H4OCOCH=CH2 とCH2=C(CH3)COOC3H6Si(OCH3)3を共重合した複合体膜が提案されている。9)

文献・特許
1)LCD部材技術大全2009 20
2)DIC 特開2010-18542
3)チッソ、チッソ石油化学 特開2010-6889
4)富士フイルム 特開2009-193046
5)富士フイルム 特開2009-40889
6)リケンテクノス 特開2009-244468
7)ダイキン工業 特開2009-167354
8)日油 特開2009-157234
9)東レ 特開2010-39417

2、エレクトロニクス

2010年1月22日

2-1、はじめに

 エレクトロニクスは幅広い。新エネルギー(既出)やオプトエレクトロニクス(3章で述べる)もこの範疇にはいるが、ここでは半導体(1月)とフラットパネルディスプレイ(FPD)分野(2月)に限って最新のトピックスを紹介していきたい。

2-2、半導体

2-2-1、半導体製造工程におけるフッ素の役割

 下表に示すようにフッ素は半導体の製造工程の中でフォトマスク製造・ウエハー処理工程、ウエハー処理組立工程において回路形成露光光源から始まり、エッチング剤、洗浄剤、レジスト、防塵フィルム(ペリクル)、配線形成用CVD原料などほぼ全工程において重要な役割を演じている。さらに半導体薬液容器・シール、半導体タンク・配管、エアフィルターなど周辺材料においてもなくてはならない存在である。最近では、超微細化技術としてArF液浸技術への転換が進んでいて、液浸に使用される水のレジストへの浸入を防ぐ保護コーティング剤としてフッ素ポリマーが使用されている。

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 エッチングガス、クリーニングガス、CVD用ガスとしての2008年の国内市場実績を下表に示す。今後は地球温暖化係数(GWP)の高いパーフルオロカーボン(PFC)は需要が減少し、NF3やフルオロオレフィン類が堅調に伸びていくことが予想される。さらに、エッチングガスとしてCH3F、C4F6、CF3Iなど、クリーニングガスとしてCOF2などGWPの低いガスが有望視されている。

2008年国内市場実績 

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 液浸装置のモデル図を下図に示す。トップコートはレジスト膜上に形成し、レジスト材料の保護、レジストからの溶出成分、ポリアルキレングリコールやアミンなどを抑え、

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表面エネルギーを低下させて水などをはじく機能を付与する。トップコート剤としては下記に示すフッ素を含有し、バルキーな基を有するポリマー(Ⅰ)あるいは(Ⅱ)が提案されている。12)

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 レジスト材料としては、撥液領域に充分な撥液性を付与する、アルカリ可溶性、現像時に親液領域に溶出されにくい、レジスト溶媒に対して高い溶解性、基板への塗布性が良好、感光性組成物を形成する他素材との高い相溶性などの条件を有する材料が望ましく、例えばCH2=C(Cl)COOCH2CH2C4F9/メタクリル酸/イソボルニルメタクリレート共重合体3)や下記の構造体が提案されている。

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2-2-2、有機半導体

 有機半導体としては下記に示すペンタセンが知られているが、フッ素原子の導入により十分に低いLUMOを示すことができ、電子輸送にすぐれた半導体として利用可能であることがわかり、ペンタセンの水素を全てフッ素に置換したパーフルオロペンタセンが注目されている。関東電化工業はパーフルオロペンタセンをベースとしたn型およびp型有機半導体材料を開発、太陽電池に適用し、変換効率10%を達成したと新聞発表した。 

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 最近の文献特許からフッ素系有機半導体材料を紹介する。
 まずは、下記の構造の含フッ素チオフェンであり、顕著なn型特性を示し、電子移動度は1.3×10-3cm2V-1s-1であった。5)

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 次いで、CF3C=O基を含有するチオフェン誘導体で、電子輸送性の優れた有機n型半導体であり、共役構造により分子同士のパッキング性に優れる。 α-フルオロケトン構造(-C(=O)-C(F)<)の導入により十分に低いLUMOを示す。6)

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 さらには、下記の構造の化合物で、優れたキャリア移動度を示した。7)

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参考文献・特許
1)IBM 特表2008-532067
2)ダイセル化学 特開2008- 46515
3)ダイキン工業 特開2008-287251
4)信越化学 特開2008-304590
5)生産と技術 60(3) 73 2008
6)大阪大学、住友化学 特開2009-149613
7)旭硝子 特開2009-78975  

1. 新エネルギー

2009年12月25日

1-4 二次電池
 最近、地球温暖化への対応の有力な候補である電気自動車に関する記事が多い。将来はガソリン車に代わり、電気自動車の時代が来るとまで言われている。その鍵を握るのが充電可能な二次電池であり、現在最も期待されているのがリチウムイオン二次電池である。その理由は下表に示す高い電圧、大きいエネルギー密度と出力を有するからである。

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 現在のハイブリッド電気自動車は、ニッケル水素二次電池がメインであるが、トヨタがリチウムイオン二次電池(LiB)の導入を決め、今後の主流になっていくことは間違いない。その他、携帯電話やパソコンなどの電子機器にはリチウムイオン二次電池が使われている。
  まずは、LiBの放電と充電の原理を述べる1)。下図の左側が放電状態で、負極である炭素材の層間にあるリチウムイオンが、セパレータを介してリチウムの化合物である正極材料の中に移動することによって放電電流が流れる。右側は充電状態で、リチウムの化合物である正極材料の中に存在するリチウムイオンが、セパレータを介して負極である炭素材の層間に移動することによって充電される。

1-4-11-4-2

 このLiBにはフッ素が重要な役割を演じている。中でも電解液は、フッ素はなくてはならない存在である。電解液は電解質を非水系溶媒に溶かしたものである。溶媒は炭酸プロピレンが主に使用されている。
電解質としては現在LiPF6が使用されている。それは下表の通り、LiPF6が高い電気伝導度と安全性を有するからである。溶媒として、ガンマブチルラクトン(GBL)や炭酸プロピレン/ジメチルカ―ボネート(PC/DMC)系も検討されている。

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 また、LiPF6は加水分解性があるので、改良検討されLiPFm(C2F5)6-mなどが開発されたが、コスト面でまだ使用されていない。
 フルオロエチレンカーボネート(FEC)が、電解液の添加剤として使用されている。理由は、負極表面に長期にわたり良好な皮膜が形成され、電解液の劣化を抑制し、蓄電池の長寿命化に効果があるからである。

 この一年のリチウム二次電池に関する情報を以下に述べる。
まずは、イオン液体を電解液に用いる動きである。第一工業製薬は、ビスフルオロスルフォニウムイミドN(SO2F)2-(FSI)系イオン液体を電解質に用い、既存の有機溶媒系並のLiBの特性を実現した。イオン液体は、有機溶媒に比較して沸点がはるかに高くほとんど揮発しないなどの安全性に優れているため、LiBの電解質として実用化されれば、自動車などへの搭載が一気に進むと考えられる2)。メルクは、イオン液体のフルオロアルキルホスフェートFAPでLiB材料市場に参入する。FAPは疎水性があり、加水分解してHFを出すことがなく、電池システムとして安全性が高まる。特許的には、PF3(C4F9)3-が提案されている3)。日本カーリットは、イオン液体として、下式に示すような1-エチル-2,3,5-トリメチルピラゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用い、難燃性、低粘性及び高安定性を実現し、安全性が高く、高電導性のLiB用電解液を提案している4)。ここでRがC2H5、TFSIはN(SO2CF3)2である。

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 また、イオン液体を用いると、エネルギー密度は高いが爆発などの危険性の高いリチウム金属を用いたリチウム二次電池でも安全性が確保される可能性があり、その開発が進んでいる。
次いで、関東電化工業は、2010年5月をめどに、電解質向け添加剤のFECの生産能力を現状比2.5倍の年250トンに高めるとしている。また、三菱化学では、80年代から着手している電解液はすでに25%のシェアを確保、30%超まではあと一歩の状況。同社の強みは豊富な添加剤を揃えていることでユーザーニーズに合わせて細かなカスタマイズが可能。溶媒、電解質、添加剤の組み合わせで差別化を図る。2010年1月には年産能力を2500トン増の年8500トン体制に増強する。さらに、ダイキン工業は、FECの高純度品の開発を完了し、サンプル出荷を始めた。韓国などの電池メーカーが評価試験に入り、2010年春には年100トン規模で量産に入る。同社はまた、HCF2CF2CH2OCF2CF2H、ヘキサメチルシクロトリシロキサン及びトリメチルフルオロシランからなる非水系電解液を提供し、低温特性、サイクル特性およびレート特性を向上させるとともに安全性を向上させることができるとの特許を公開している5)。
正極の開発も活発である。九州大学の岡田重人准教授は、Li2CoPO4F正極材を新規に開発した。この系はレアメタルフリーではないものの、コバルトとフッ素の導入によって放電電圧を3.3Vから5Vに引き上げることに成功した。このため、Li2CoPO4F正極の特性改善、低価格化を目指して三菱重工業・九州電力総合研究所などと共同で、NEDOプロジェクトの「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発/要素技術開発プロジェクト」のなかのポストオリピン(LiFePO4 )正極の1つの有力候補材料として開発を進めている。
電極のバインダーについては、正極は安定性の高いPVDF系バインダーがほとんどを占めているが、最近、負極用として開発された非フッ素系バインダーが正極用として検討されており、PVDFの市場に入り込む気配が感じられる。

 経済産業省は、LiBの開発を促進するための環境整備に乗り出す。産総研関西センター内に公的評価ラボとしてリチウムイオン電池材料評価センター(LIBTEC)を新設する。今秋にも正極、負極、セパレーター、電解質の主要4部材のメーカーを中心とする運営組織を立ち上げ、2010年から共同利用を開始する。さらに電池メーカーにも協力を呼びかけ、将来は電池材料の安全性や性能についての標準的な評価方法の確立を目指す。
以上、リチウム二次電池についてはHEVへの本格的搭載が間近であり、生産量の大幅な増大に伴い、フッ素系材料市場の拡大が見込まれている。このような情勢の中、さらなる性能向上、安全性の向上を目指した開発競争が熾烈になっていくことが予想される。

参考資料
1) http://www.nec-tokin.com/product/me/chisiki/li7.html 
2) 第一工業製薬 特開2009-26542
3) メルク 特開2001-233887
4) 日本カーリット 特開2009-170279 
5) ダイキン工業 特開2009-163939

1. 新エネルギー

2009年11月24日

1-3 太陽電池
 太陽電池(Solar cell)は、光起電力効果を利用し、光エネルギーを直接電力に変換する電力機器であり、一般的な一次電池や二次電池のように電力を蓄えるのではなく、光起電力効果により、受けた光を即時に電力に変換して出力する。主流のシリコン太陽電池の他、様々な化合物半導体などを素材にしたものが実用化されている。最近、色素増感型(有機太陽電池)が注目されている。
主 な用途は、電卓、腕時計、道路標識,街路灯、携帯電話の充電器などがあるが、何といっても重要なのは太陽電池を利用し、太陽光エネルギーを直接的に電力に変換する発電方式である太陽光発電である。導入費用は高めであるが、昼間の電力需要ピークを緩和し、温室効果ガス排出量を削減できるなどの特長を有し、低炭素社会の成長産業としての将来性を買われ、需要が拡大している。
 太陽電池の構造を下図に示す。1)

1 

 

 性質の異なる2種類(p型、n型)のシリコン半導体を重ね合わせたような形で、太陽光が当たると電子(-)と正孔(+)が発生し、正孔はp型半導体に、電子はn型半導体に集まる。この2つの半導体を電線で繋ぐと電流が流れる。
 太陽電池におけるフッ素系材料としては、その耐候性を利用した太陽電池の保護を行うバックシート、低屈折率性を利用した太陽光の透過性を向上させる反射防止膜、耐薬品性を利用した封止材へのコート、ITO(インジウム・錫酸化物)にフッ素をドープしたFTOなどがある。
 最近特に注目されているのが、バックシートであり、ポリフッ化ビニル(PVF)が非フッ素系も含めて最も高いシェアを有している。その他ETFE(エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体)フィルムも使用されている。しかし、しかし、これらの樹脂シートは、要求される耐候性、電気絶縁性、光の遮蔽性といった特性を満たすために、通常は厚さ20~100μmとする必要があり、重量面からさらなる軽量化が求められている。そこで、樹脂シートに代えて樹脂塗料を用いて同様の層を形成することが提案されている。例えば、硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料である。2) 具体的には、テトラフルオロエチレンと炭化水素系ビニルエーテル(シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテルなど)との共重合体、イソシアネート系硬化剤、シランカップリング剤を配合し、水不透過性シートの表面にエアスプレーで塗装する方法が提案されている。
 反射防止膜は下図に示すように高屈折率層と低屈折率層の多層膜で構成される。ここで、2aは低屈折率層、2bは高屈折率層、3は接着層、4は基材である。低屈折率層として屈折率の低いフッ素化合物が用いられている。 

2      

  低屈折率層として例えば、中空のシリカ微粒子とAa-O-(CH2)xa-Rf-(CH2)xb-O-Ab(ここでRfはパーフルオロアルキレン基、パーフルオロポリエーテル基、AaあるいはAbはアクリロイル基またはメタクロイル基、xa、xbは0~3 である)あるいはC6F13(CH2)2Si(OCH3)3をバインダーとした組成物をコーティングして硬化した層が提案されている。3)
 封止材へのコートとしては、水酸基含有パーフルオロポリエーテル主鎖化合物とイソシアネーと化合物からなるプレポリマーを合成し、さらに触媒を加えた組成物を枠材であるEvOH樹脂フィルム上に塗布して作製したものが提案されている。4)
 FTOは、上図の2枚の電極板に導電性が高く、耐薬品性が優れているフッ素ドープ酸化スズ(FTO)膜が用いられている。その膜形成法として、ガラス基板の上に塩化スズ(水和物)のエタノール溶液とフッ化アンモニウムの飽和水溶液の混合溶液を、400℃に加熱したガラス基板上に噴霧することが行われている。5)この場合、下図に示す色素増感型太陽電池において特に重要である。
 色素増感型太陽電池のセル構造を下記に示す。6) 透明電極と対極の間をヨウ素レドックス系電解液で満たした構造である。透明電極上にTiO2などの多孔質膜を形成させ、これに増感色素を担持させる。光が照射されると、増感色素が光吸収して励起状態になり、励起された電子はTiO2の伝導帯に注入されて対極へ運ばれ、電流として取り出される。酸化状態になった色素は、電解液中のI-によって還元され、またI-はI3-になり、対極上で還元されてI-に戻り、セルとして機能する。

 3

   色素増感型太陽電池の電解液には極性溶媒が使われているが、揮発性であることが課題で、その対策として揮発しないイオン液体が検討されている。イオン液体は例えば下記の構造の有機系常温溶融塩で、アニオンにフッ素系を用いると安定性が抜群に向上する。

4       

 

文献特許
1) http://www.film-sheet.com/topics/32.html
2) ダイキン 特開2007-35694
3) ブリヂストン 特開2005-183546
4) 東海ゴム工業 特開 2008-226615
5) 田辺信夫他 工業材料53(3) 56 (2005)
6) フジクラ技術104号p38 2003

1. 新エネルギー

2009年10月16日

1-1 はじめに
鳩山首相は2020年までに地球温暖化ガスを1990年の25%まで削減すると発表し、国連でも演説して世界に向けて宣言した。地球温暖化ガスの大半は炭酸ガスであり、それは化石燃料によるエネルギー創出により発生する。1997年の京都議定書において地球温暖化問題が世界レベルで議論されてから特に化石燃料に代わるエネルギー、所謂新エネルギーの開発が本格化し、着々と実用化されている。この新エネルギーとは、風力発電、太陽光発電、地熱発電、燃料電池、二次電池などのことで、それぞれに開発が進み、大きな産業になりつつあり、今後最も期待される分野の一つである。
フッ素はこの中で、燃料電池、二次電池、太陽光発電における材料として期待されている。ここではこの三つの新エネルギーにおけるフッ素の役割と最新の情報を述べていく。第一回の2009年10月号として、燃料電池を取り上げ、11月には、二次電池、12月には太陽光発電を取り上げていくこととしたい。
basic_structure

1-2 燃料電池
燃料電池は下図に示すとおり、水素と酸素との反応により水が生成する時のエネルギーを電気エネルギーに変えて利用する。つまり、水の電気分解の逆の原理である。詳しくは水素が電極(水素極)でプロトンになり、電解質を通って他方の電極(空気極)に到達して、そこで空気中の酸素から変化していた酸素イオンと反応して水が生成する際のエネルギーを電気として取り出し利用すると言うわけである。

燃料電池には、電解質の種類により、リン酸型、溶融塩炭酸型、固定酸化物型、固体高分子型(PEFC)などがある。この内、常温から130℃の低温で使えるPEFCは、電解質として有機のイオン交換膜を使い、家庭用、携帯用、自動車用として適している。しかし、現状ではコストの壁が高く、計画通りには進んでいるとはいえない。例えば当初、2007年に本格的に立ち上がると言われていたノートパソコンなどの携帯用は、未だに立ちあがっていない。また、自動車用もめどが立っておらず、各社2020年ごろの立ち上げを目指していると聞く。それでも今年2月に開催された「国際燃料電池展」は盛況であり、関心の高さは衰えていない。その中で、家庭用燃料電池が発売され、電気エネルギーと熱エネルギーを合わせた80%以上の効率の高さが魅力となって、今後市場が拡大していくことが期待されている。
フッ素はこのPEFCにおいて、固体電解質としてパーフルオロカーボンスルホン酸PFCSA、その支持体としてポリテトラフルオロエチレンPTFE膜、触媒のバインダーとしてPTFEあるいはポリフッ化ビニリデンPVDF、さらには将来の電解液としてイオン液体などとして使用されている。
現在、電解質として用いられているPFCSAタイプの高分子電解質膜がプロトン伝導を発現するためには、水分が必要なために加湿が必要である。その手間はかなりの負担であり、無加湿での検討が試みられている。例えば、電解液にイオン液体ジエチルメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネートを用いることにより室温から140℃まで無加湿で運転できた。また、PFCSA膜を利用した低温作動電池では、電極、特にカソードでの発電によって生成された水(生成水)を利用して無加湿化ができた。その場合、電極内でのガス拡散不良を防止するために、撥水材であるPTFEを混合して、疎水性を与えた電極が多用されている。また、触媒層の触媒担体をフッ素系表面保護物質が吸着して水に濡れにくく、長期間安定に触媒物質を保持することやガス拡散層に撥水性多孔質フッ素樹脂を用いて、反応ガスの速やかな供給・除去を行う試みがなされている。
また、イオン交換容量が大きく、より電気抵抗が低いポリマーの開発も行われており、例えば下記のような複数のスルホン酸基を有するモノマーを合成し重合することが提案されている。
schematic

さらに、フッ素系電解質膜と炭化水素系電解し膜の複合化により、メタノールクロスオーバー(メタノールを燃料とする直接メタノール燃料電池DMFCにおいてメタノールが電解質内を透過してしまうことで、フッ素系電解質では透過しやすいと言われている)の低減や発電時および開回路電圧(OCV)時の電解質膜の劣化低減などが図られている。また、高分子電解質膜のガス遮断性の問題と高分子電解質膜の化学耐久性(耐ラジカル性)の両者を同時に解決する高分子電解質膜として、フッ素系高分子電解質膜と炭化水素系高分子電解質膜が溶融圧着で一体化された固体高分子型燃料電池用ハイブリッド膜が提案されている。