最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。
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1、はじめに
α位にHやCH3基を有するアクリレートは一般的だが、その位置にCF3基、Cl基、F基などを有するアクリレートの開発が活発である。本稿では、最近発表された、α位にCF3基を有するアクリレート(MAF)についての総説を紹介する。1)
2、MAFの合成
工業的な合成法は下図の通りである。即ちCF3CH=CH2とBr2を反応させた後、脱HBrさせてBTPとし、さらにヒドロカルボニル化反応(Heck反応)によりCH2=C(CF3)COOH(MAF)を合成する方法である。Heck反応は触媒としてPdCl2(PPh3)2を使用し、N(C2H5)3存在下、CO圧力40atm、80℃で行われていて、収率は67%に達している。水の代わりにCH3OH、C2H5OH、CF3CH2OHなどを用いて対応するエステルも直接合成できる。但し、C2H5OHおよびCF3CH2OHの場合、ヒドロエステル化が起こり、選択性は低い。
渕上らはBTPとC2H5OH、C3H7OH、C4H9OHとの反応において、PdCl2(PPh3)と2種以上の塩基(例えばN(C2H5)3とNa2CO3)を用いて高い収率でエステルができるとしている。2)
実験室的な合成法としては、下図に示すRがフェニル基の場合、RfCH2基の場合など多数の例が紹介されている。
3、MAFの重合
MAFおよびMAFエステルの重合については、テロメリゼーション、単独重合(ラジカルおよびアニオン重合)、共重合(ラジカルおよびアニオン重合)、フッ素系モノマーとの三元共重合などが述べられている。
3-1単独重合
MAFの単独ラジカル重合は、CF3基の電子吸引性が強いため、e値が高く、オリゴマーしか生成しなかったが、最近、水中でpH をNaOHで調整することにより、Na2S2O8を開始剤として、95%の高収率でポリマーが得られた。しかし、本系に関してはアニオン重合が一般的であり、多数の報告がある。下表にR=C2H5の時のETFMAについて開始剤、溶媒を変えた時のアニオン単独重合の結果を示す。アルカリメタルの場合、tert-C4H9OLiを開始剤として使用した時、定量的に重合が進んだ。tert-C4H9OKの時は、トルエンよりTHF溶媒の方が収率は高かった。有機金属の場合は、アルミニウム系で高い収率を示した。特にジエチルECA(エチルシアノアセテート)アルミニウムを使用した時、THF溶媒で定量的に重合が進行した。さらに“Ate”錯体においては、LiAlC4H9(C2H5)3の系でTHF溶媒の場合高い収率を得た。
3-2共重合
共重合においては、α-オレフィン、ビニルエーテル、ノルボルネンなどとのラジカル共重合が報告されていて、いずれも交互共重合がメインである。炭化水素系のアクリレート、メタクリレートがランダム共重合体であることと対照的である。例えば、MAFと1-デセンや2-メチル-1-ヘキセンとは70から90%の高い収率で主に交互共重合する。また、伊藤らはMAFのtert-ブチルエステル(MAF-TBE)と4-(1,1,1,3,3,3,-ヘキサフルオロ-2-ヒドロキシルプロピル)-スチレン(STHFA)との共重合(下図)を詳細に検討していて、収率は80%、交互共重合体のTgは126℃から150℃の間にあるとしている。さらにモノマー生成比はrMAF-TBE=0.0001、rSTHFA=0.4260と求められている。3)
同じく伊藤らは下図に示すビニルエーテルおよびノルボルネンとの共重合について詳しく検討している。ビニルエーテルのアルキル基が影響を与え、メチル基がブチル基や2-エチルヘキシル基より交互共重合性が高い。これは立体的要因であるとしている。Tgは、20℃から120℃で、R=Me、R’=Meの時116℃、R=tert-Bu、R’=tert-Buの時125℃であった。また、ノルボルネンとの共重合については、収率は低かった。
また、フッ素系モノマーとの共重合については、RfC2H4OCOC(CH3)=CH2、(Rf=CF3、C8F17)、VDF、α-フルオロアクリレートなどが報告されている。その中で、VDFとMAF-TBE との共重合に関する報告を紹介する。4) 本重合は、パーフルオロ-3-エチル-2,4-ジメチル-3-ペンチルラジカル(PPFR)存在下で行われた。本ラジカルは80℃以上でβ-切断が起こり、CF3ラジカルが生成し、それが開始剤となって反応が進行すると考えられた。即ち、CF3ラジカルはVDFのメチレン側に位置選択的に付加して重合が始まる。共重合体ポリ(VDF-co-MAF-TBE)の分子量は22,000から105,000でPPFRの量に反比例して分子量が大きくなり、熱安定性も高くなる。
また、本系における原子移動ラジカル重合(ATRP)、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合やヨウ素移動重合についても言及している。
さらに、MAFおよびメチルエステル、tert-ブチルエステルの共重合性について、その検討結果をまとめた表を下記に示す。
ここで、NBはノルボルネン、TBPPiはtertブチルパーオキシピヴァレート、FAV8はCH2=CHOC2H4C8F17、FATRIFEはCF3CH2OCOCF=CH2、CMSはクロロメチルスチレンである。
4、MAF重合体の応用
応用面では、リソグラフィー、光学用途、燃料電池電解質膜、シリカとのナノコンポジットなど多彩な可能性が示されている。
まずは、分子インプリントポリマー(MIPs)で、ターゲット分子をポリマーネットワークに容易に配列させ認識するものである。MAFを用いて作製したMIPsを野菜の中の農薬を固層抽出の選択的溶媒として使用した例などが示されている。
次いで、短波長で高透明性であることから、半導体157nmリソグラフィーにおけるレジストポリマーとして、MAF-TBEとノルボルネン誘導体などとの共重合体が提案されている。
次いで、燃料電池のプロトン交換膜として下記のポリマーpoly(VDF-ter-MAF-ter-HFP)が提案されている。性能としては、室温100%相対湿度においてイオン交換容量1.2meq/g、導電率10mS/cmが報告されている。5)
次いで、MAFをα-ヒドロキシオリゴ(エチレンオキサイド)でエステル化して、VDFと共重合したポリマーをリチウムイオン電池の電解質やセパレータとして使用することが提案されている。
また、下記のテレケリックジヨウド‐terポリマーをポリスチレン/ポリビニルピリジン/ポリエチレンオキサイド トリブロック共重合体と混合すると径が13から31nmのミセルとなり、水や極性溶媒に溶ける。50℃以上ではミセルが壊れ、50℃以下ではミセルが再生するので、温度センサーとしての用途が考えられている。
その他、poly(VDF-ter-MAF-ter-HFP)とシリカとのコンポジットやMAF-TEBとCF3CH2OCOCF=CH2との共重合体の光ファイバーへの応用、MAF-TEBとCF3CH2OCOC(CH3)=CH2および他のメタクリレートとの三元共重合体を石造物の保護に用いることなどが述べられている。
5、おわりに
α位にCF3基を有するアクリル酸MAFの合成法とそのエステルを含む重合法、さらにはその応用についての最新の総説を紹介した。CF3基の影響で主に交互共重合体が得られているが、重合法を工夫してブロック的な共重合体が得られれば、さらにユニークなポリマーが得られる可能性があり、今後の応用展開に期待が持てると考えている。
文献
1) B. Ameduriet al Progress in Polymer Science 38(2013) 703-739
2) T. Fuchikami et al US 2006/0122423
3) H. Ito et al Journal of Polymer Science Part A :Polymer Chemistry 46(2008) 1559-65
4) T. Ono et al American Chemical Society Macroletters 1(2012) 315-20
5) B. Ameduri et al Macromolecules 45(2012) 3145-3160