「フッ素化ポルフィリノイド」

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。
http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201204/#topic01

1、はじめに1)
いわゆる化石燃料を使用しない新エネルギーの中で太陽電池は重要な位置付けにあり、今後の成長が期待されている。太陽電池におけるフッ素の役割としては、バックシートや反射防止材、表面保護材としてフッ素ポリマーが用いられ、また透明電極としてフッ素化ITOが用いられている。太陽電池の中では、色素増感型太陽電池が注目されている。何故なら、シリコン系や化合物系に比べて製造に大掛かりな真空プロセスが必要なく、大幅なコストダウンが見込まれることと、資源的制約がないこと、さらには形状や色に自由度があるなどのメリットがあるからである。但し、効率がせいぜい10%と低く、それが大きな課題である。色素増感型太陽電池の構造を図1に示す。封止材7の部分が枠材8と接着性塗膜9から成っている。ここで10、11は2枚の電極板、5は電解液である。10は2’の導電膜、1’の透明基板から成り、11は2の導電膜、1の透明基板、3のTiO2多孔質膜、4の増感色素から成リ立っている。この中で、封止材として、水酸基含有パーフルオロポリエーテル主鎖化合物とイソシアネーと化合物からなるプレポリマーを合成し、さらに触媒を加えた組成物を枠材であるEvOH樹脂フィルム上に塗布して作製した材料が提案されている。ここでは、この電解液にイオン液体/含フッ素ブロックオリゴマーのゲル電解液を用いること、および増感色素としてフッ素系色素が検討されているので紹介する。
FT1

2、イオン液体/含フッ素ブロックオリゴマー電解液
電解液にイオン液体を使用するメリットは、電解液特性の向上、長寿命性などである。特にゲル化剤と組み合わせて擬似固体電解質として有望視されている。それは薄膜で可撓性のある太陽電池として期待されるからである。この場合、イオン液体は不揮発性、不燃性、強力な電気化学的・熱的安定性のメリットがある。課題は、粘度を上げて流動性を下げるとイオン伝導度が低下することである。それを解決すべく、Krishnanらはフッ素系ブロックオリゴマーをゲル化剤として用い、ミクロ相分離により伝導度をあまり下げずにゲルの流動性を下げる方法を提案した。2)
図2示す、パーフルオロアルキル基とポリオキシエチレン基を有するイオン液体ブロックオリゴマーを合成し、色素増感型太陽電池へ適用した。合成法は図3に示す。本イオン液体は自己組織化して、溶媒フリーのイオンゲルを作る。静電相互作用、およびパーフルオロアルキル基とポリオキシエチレン基とが混合しにくいことによるミクロ層分離によって、イオンクラスターを作るので固体化は容易であった。表1に示すように高粘性と高イオン伝導度は両立し難い。しかし、低い流動性のナノ構造の流体は、ヨウ素イオンの拡散速度は大きく、下図に示す(2)や(3)のヨウ素化イミダゾリウムの単純なブレンドにより、粘度を下げることなしに十分に伝導度を上げることができる。例えば、1aに3のEtMeImIを0.75モル分率加えるだけで、85℃で4mS/cm以上のイオン伝導度を与えることができた。
FT2

表1 図2に示したイオン液体の粘度とイオン伝導度

イオン液体 粘度 イオン伝導度mS/cm
85℃ 95℃ 85℃ 95℃
1a 49800 37200 0.54 0.76
1b 38.5 27.7 1.67 2.17
2a 40.6 29 2.67 3.47
2b 47.1 34.2 2.15 2.7
2c 49.3 35.8 1.75 2.27

3、増感色素としてのフッ素化合物
色素増感型太陽電池においては、TiO2に増感色素を吸着させることが重要である。その際、溶媒を使用するが、その毒性や廃棄の問題がある。Collisらは、図3に示す方法で合成したパーフルオロアルキル基を導入したペリレン色素DOPFを用いて、安全な超臨界炭酸ガスを媒体とした色素増感太陽電池を検討している。3)
FT3
パーフルオロアルキル基を導入すると、超臨界炭酸ガスへの溶解性が向上する。光陽極であるTiO2に速やかに吸着するので、図4に示すように、非フッ素系のDOPに比して、有効な光電池性能を発揮する。
FT4
また、炭酸ガスは簡単に飛ばすことができるので、廃棄の問題もなくDOPFを容易に回収できる。

4、おわりに
太陽電池において、低コストで可撓性のあるフィルム状にできる色素増感型太陽電池が期待されている。それにフッ素がどのような役割を演じているかについて、特に電解液と増感色素についての最近の文献を紹介した。太陽電池ではバックシートや反射防止材、保護材料としてフッ素の役割は大きいが、本件のような例が実るとさらにその存在意義は大きくなると期待している。

文献
1) 松尾仁 塗装工学46(2011) 25-28
2) Sitaraman Krishnan et al Journal of Materials Chemistry 21(2011) 19275-19285
3) Gavin E. Collis et al Green Chemistry 13(2011) 3329-3332