最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。
http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201203/#topic01
1、はじめに
フッ素系ポルフィリノイドについては20年ほど前から研究されてきており、光線力学的療法(PDT)や診断へ適用されて重要性を増している。PDTは、心臓脈管、皮膚、眼などのガンに対する処置療法として有効である。ポルフィリノイドには、ポルフィリン、クロリン、フタロシアニン、コロールがあり、いずれもフッ素化体が合成され、研究されている。フッ素化体は、医薬・農薬での特異な生理活性のみならず、凝集を抑制する作用、光学パラメーターの調整や効果的な溶解性といった特徴がある。ここでは、フッ素化ポルフィリン、フッ素化クロリン、フッ素化フタロシアニン、フッ素化コロールについて、その概要と主にPDTの光増感剤としての可能性を述べた最近の総説を紹介する。1)
2、フッ素化ポルフィリン
フッ素化ポルフィリンの可能性を下記に示す。これまでß位にFを導入した系が検討されてきた。また、Cのピリジルタイプも詳しく検討されている。
下図に、ポルフィリンの5、10、15、20の位置にフッ素含有基が導入された具体例を示す。
PDTのためにデザインされた光増感剤は高い一重項酸素量子収率、有効な項間交差、長い三重項ライフタイムを示さなければならない。フッ素化ポルフィリンの銅錯体は、大環状核の電子密度が低いため光酸化に対して安定であり、項間交差が改善され一重項酸素が増大する。上図の4シリーズでは、4cが4a、4bに比して一重項酸素が多く生成し、4d、4eが4f、4gに比して三重項酸素の生成は多いが、一重項酸素のそれは差がない。5シリーズの場合は、5cと5dが最も高いin vitro光増感性を示すが、この場合一重項酸素の生成量とは必ずしも相関性がない。その他、鉄(III)、マンガン(II)錯体などの例が示されていて、フッ素の導入により酸化剤に対し安定化され、触媒活性が高く、高いレドックスポテンシャルを示す。
3、フッ素化クロリン
フッ素化クロリンの可能性を下図に示す。
ポルフィリン同様、5、10、15、20の位置にフッ素含有基が導入されている。生物組織への高吸収性と人体への無害性につながる近赤外領域での強い吸収が光増感剤としての可能性を約束している。フッ素の導入により、光増感性が増大し、in vivoで高い腫瘍の取り込みが観測された。
4、フッ素化フタロシアニン
フッ素化フタロシアニンの可能性を下図に示す。フッ素はベンゼン核に直接あるいは間接的に導入されている。
フタロシアニンにフッ素を導入することにより、重要なポイントである溶解性が向上した。
具体例を下図に示す。Rの部分にフッ素を導入した36a、36bは、トルエン、ベンゼン、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフランなどの溶媒に溶けるようになった。
また、フッ素の導入により、金属部分の電子密度が減少し、凝集性や酸化性が減少し、安定性が増大した例も述べられている。さらに、光増感性が少量で発揮されることも例示されている。
5、フッ素化コロール
フッ素化コロールの場合は下図の可能性がある。フッ素は5、10、15の位置に導入され、鉄錯体が報告されている。光化学的性質が調べられており、蛍光発光寿命時間や項間交差時間がフッ素の導入により減少することが分かった。さらにPDTの光増感剤として今後重要であることも示唆している。
6、おわりに
フッ素系ポルフィリノイドについての最近の総説を紹介した。ポルフィリンやフタロシアニンなどPDTの光増感剤として有望視されていることが伺われた。また、フッ素化ポルフィリンは、生体膜中における電子伝達系と共役したカチオン輸送媒体として利用できる可能性がある物質であり、フッ素系フタロシアニンは2010年11月号でも紹介したように有機半導体薄膜として有望視されており2),3)、他への展開も含めて今後益々その重要性を増していくと期待している。
7、文献
1) T. Goslinski et al Journal of Photochemistry and Photobiology C: Photochemistry Reviews 12(2011) 304-321
2) Christine Videlot-Ackermann et al Thin Solid Films 518(2010) 5593
3) D. Schlettwein et al Organic Electronics 12(2011) 1376-1382