「燃料電池」

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。
http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201302/#topic01

1、はじめに
燃料電池については、2011年4月号で取り上げているが、その後も開発は盛んである。そこで、今回はフッ素系電解質膜を中心にその後の状況を調査した結果を報告する。

2、パーフルオロスルホン酸膜

A. S. Aricoらは、Fig.1に示す短側鎖の新規パーフルオロスホン酸膜Aquivonについて、従来の長鎖のNafionと高温特性を比較した。1)

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電力においてAquivonの方がNafionより高いことが分かった。これはこの温度での水素のクロスオーバーがNafionでは大きいことが原因としている。それは、AquivonのTgが127℃で、Nafionの67℃よりかなり高いこと、結晶化度も高く、低当量であることから説明できるとしている。

豊田中央研究所は、(2)式で表されるモノマーの重合体からなる、軟化温度が高く、かつ、酸素透過性及びプロトン伝導性に優れた高酸素透過電解質を提案した。2)
FT2
3、部分フッ素化ポリマー電解質

トヨタ自動車は、ホスホン酸ポリマー及びその製造方法並びにホスホン酸ポリマーを用いた燃料電池用材料を提案している。3)下図に示す含フッ素ホスホン酸ポリアリーレンエーテルを合成し、燃料電池のプロトン交換膜としての評価を行った。その結果、プロトン伝導度は80mS/cmであった。
FT3
4)Hossein Ghassemiらは、下図に示す含フッ素ホスホン酸ポリアリーレンエーテルを合成し、燃料電池のプロトン交換膜としての評価を行った。ポリマーとして、固有粘度が0.58DL/gとかなり高分子量のポリマーが高収率で得られた。耐熱性は430℃で10%ロスであった。6meq/g以上のイオン交換量を有し、25℃、100%湿度でプロトン伝導度は92mS/cm、100℃では150mS/cmであった。乾燥した状態では120℃で2mS/cmだったが、ホスホン酸に浸漬すると外部からの加湿なしで100mS/cmに跳ね上がった。燃料電池の電解質としてとして期待が出来るとしている。
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セントラル硝子は、耐熱性があり、化学安定性に優れ、低含水条件下でも良好なプロトン伝導性を有し、且つ、メタノールのクロスオーバー現象を抑制するための低いメタノール透過性の両方を兼ね備えた燃料電池用固体電解質膜を提案している。5)プロトン伝導度を測定していて、16mS/cmが得られている。また、メタノール透過速度は0.4×10-6mol/cm2・minであった。(比較例としてNafion112は33.4×10-6mol/cm2・minとしている)
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4、イオン液体を電解質に用いた系

横浜国立大学は、100~200℃等の高温で電解質膜として機能し、かつ使用している間にイオン液体がにじみ出たり、揮散してしまうなどの問題のないプロトン伝導体及びこのプロトン伝導体を電解質として用いた固体高分子型燃料電池を提案している。6)具体的には下図に示すイオン液体とポリマーを組み合わせたものである。
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5、最近の燃料電池に関する総説から

Mark R. Wieznerらは、イオン交換膜の燃料電池への応用について、プロトン交換膜(PEM)におけるMEAの最近の進歩についての総説を発表している。7)特に、高温、低相対湿度で良好に作動できるPEMの開発における進歩に注力している。カテゴリーとして、高分子膜、セラミック膜、無機‐有機コンポジット膜を取り上げ、その比較をしている。結論として、Nafion膜のようなポリパーフルオロスルホン酸膜が最も有望な膜であり、セラミック膜と無機‐有機コンポジット膜は、特徴はあるが、まだ初期段階であるとしている。プロトン伝導度の改善と耐熱性および機械的性質の向上に集中して議論がなされている。

A, M. Kannanらは、PEMFCのガス拡散層(GDL)の評価技術に関する総説を発表している。8)GDLは重要な構成要素であり、その構造、孔径、空孔性、ガス拡散性、濡れ性、熱および電気伝導性、表面形態、水管理能力などを理解して初めて、燃料電池の最適な性能を達成する可能性が出てくる。まずは、GDLそのものの評価として、電気伝導性、熱伝導性、機械的性質、空孔性、孔径分布、ガス浸透性、表面形態、横断面形態、表面エネルギー、サイクリックボルタンメトリー、モデル化とシミュレーション、加速エージングの項目について議論している。次いで、燃料電池内に装着されたGDLの評価として、インピーダンス測定、水輸送の視覚化、モデル化とシミュレーション、加速エージングの項目について議論している。そして、こう言った評価技術が、自動車用、定置用燃料電池における高性能かつ高耐久性のGDLを開発する上で極めて重要であると結論付けている。 

Faghriらは、直接メタノール燃料電池(DMFCs)において高濃度および純粋なメタノールを使用した場合についてレビューしている。9)メタノールクロスオーバー、水の管理、酸素の移送、CO2の放出などのカギとなる課題について詳細に言及し、DMFCデザインの改良、DMFCスタックの改善を行い、プロトタイプの開発を提案している。この中で、PTFEで処理した正電極ガス拡散層はメタノールのクロスオーバーを低減できるとしている。電解質膜として完全に水和したNafion膜を用い、メタノール蒸発器、メタノールバリア層、水管理層を設けて、メタノールのクロスオーバーを低減するなど質量管理を徹底させ、燃料電池の性能を向上させた。即ち、メタノールのクロスオーバーを低減させるため、燃料(メタノール)貯槽と正電極集電体の間の正電極の質量移送を制御したこと、水の逆流を増大させるため電解膜の質量移送を制御したこと、水のロスを減らすため、負電極の集電体と外の空気との間の負電極の質量移送を制御したことなどの措置を取っている。

さらに、Faghriらは、メタノールおよび水のクロスオーバーを低減させるための手法、熱および物質移動、エネルギー密度を高める手法、運転開始と過度運転に関して言及している。10)その中で、メタノールおよび水のクロスオーバーに関してはNafionを用いて調べ、メタノールに関しては、その濃度を高めたり、運転温度を上げると悪化し、水に関しては、膜の厚みを減らすと低減することを述べている。

6、その他

昨年、新聞で中国においてイオン交換膜が開発されたとの記事を目にし、中国のフッ素化学の進展が著しいことを認識したが、そのレベルを示す文献を紹介する。 Li Muらは、オール中国製プロトン交換膜型燃料電池(PEMFC)の開発と性能について発表している。11)独自の方法でMEAを作製。拡散層はカーボンペーパーの表面にPTFEを配分させ、触媒層は白金とPFSA(パーフルオロスルホン酸ポリマー)を混合して作製し、触媒ロードは陽極サイドで0.5mg/cm2、陰極サイドに0.7mg/cm2とした。このMEAをベースに燃料電池スタックを作製した。性能はまだ輸入品に及ばないが、原料コストと製造コストが著しく安いので将来有望としている。

7、おわりに

最近、パナソニックと東京ガスが家庭用燃料電池において、白金の量を半減し、水素を拡散するガス拡散膜を、炭素繊維基材にPTFE溶液を含侵させた従来品から、炭素粒子とPTFE繊維を混練してシート化したものに替えてコストを24%削減し、さらにフッ素系の電解質膜は化学耐性を改善して耐久性を20% 向上し、6万時間に延ばすことなどの改良を加え、200万円を切る価格を新聞発表した。こうした動きは家庭用ばかりでなく、自動車用にも適用されていくと考えられ、上記の開発状況も踏まえれば着実に実用化に向かって進んでいると期待したい。

文献

1) A. S. Arico et al Journal of Power Sources, 196(2011) 8925-8930
2) 豊田中央研究所、トヨタ自動車 特開2011-140605
3) トヨタ自動車 特開2011-105877
4) Hossein Ghassemi et al Polymer 52(2011) 4709-4717
5) セントラル硝子 特開2011-063797
6) 横浜国立大学 特開2012-041474
7) Mark R. Wiezner et al Chemical Engineering Journal 204-206(2012) 87-97
8) A, M. Kannan et al Journal of Power Sources 213(2012) 317-337
9) Amir Faghri et al Journal of Power Sources 226(2013) 223-240
10) Amir Faghri et al Journal of Power Sources 230(2013) 303-320
11) Li Mu et al International Journal of Hydrogen Energy37(2012) 1106-1111