Archive for 3月, 2013

「フッ素系電池材料の最新動向」

金曜日, 3月 29th, 2013

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201303/#topic01

1、はじめに
電池関連の最新トピックスは2010年12月に「電解質に使用されるフッ素化合物」と題して述べている。ここでは、それ以降の電池関連フッ素系材料の進展状況について述べる。

2、電解質
久保田らは、電荷、高電圧リチウムイオン電池の電解質添加剤として、下図に示す1,1-ジフルオロ-1-アルケン類を検討した。1)目的は好ましい固体電解質界面(SEI)の形成に導くことである。
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この中で、DF-1が、酸化還元条件で、正極、負極上に適切なSEI形成を示し、サイクル特性が優れていた。それはDF-1が他のアルケン類より反応性が低く、最初のサイクルでSEI形成が終了することからくる。X線分析の結果、正極にはLiFリッチの層が生成していた。さらに負極もLiFリッチの層が生成していた。この結果は、高容量リチウムイオン電池、新規電解質添加剤の分子設計のガイドラインを示すものとして期待できるとしている。

リチウムイオン電池における電解液溶媒としてはプロピレンカーボネートPCが使用されているが、負極のグラファイトとの適合性が低く、グラファイト構造を破壊することが起きている。その対策として、Martin Winterらは電極間物質(SEI)を形成させる物質として1-フルオロプロパン‐2-オン(フルオロアセトンFA)を検討し、そのSEI形成機構を調べた。2)電解液として、PC98%、炭酸ビニレン(VC)1%、FA1%、1MLiPF6を用いた。NMR、Raman、XPSスペクトルを駆使して解析した結果、下記のSEI形成機構を提案している。
FT2

即ち、NMRにより電解質中でC-F結合が減少していくことを捕らえ、XPSでグラファイト負極にFイオンが高濃度で存在することが分かり、Ramanスペクトルで炭酸ビニレンが減少していくことが分析された。

リチウムイオン二次電池の安全性を改良すべく、不燃性のイオン液体を使用する開発がなされているが、大野らは現行のエチレンカーボネート/ジメチルカーボネートの系(LP30)にイオン液体N-n-ブチル-N-メチルピリジニウムヘキサフルオロフォスフェート[Py14]PF6とP(VDF-HFP)を加えた高分子電解質を提案している。3)イオン液体をLP30に対して30%加えた系がより優れた電池特性を示すと同時に高い熱安定性を示した。

3、電極材料
LiFePO4Fがリチウムイオン電池(LiB)のカソードとして期待されている。現在、LiFePO4(OH)は3LiBのカソードとして使用されているが、LiFePO4FはLiFePO4(OH)に比して熱安定性が高く、電極電位も2.6Vに比して2.75Vと高い。M.V.Leddyらは、LiFePO4FをFePO4とLiFとの固体反応で合成し、構造や表面積、電気化学的特性を調べた。4)その結果、イオン電導性は、27℃で0.6×10‐7Scm-1、50℃で5.4×10-7cm-1であり、その際の活性化エネルギーは0.75eVであった。また、充放電特性としては初期放電容量が115mAhg-1であったものが20サイクル目まで少しずつ上昇し、119mAhg-1となった。その後、減少に転じ、100サイクル目では、96mAhg-1となった。サイクリックボルタンメトリー測定により、2層Li相間脱離挿入反応が起こっていることが分かった。

Katia Guёrinらは、フッ素化カーボンとナノカーボンのリチウム一次電池の電極物質としての電気化学的性能として、フッ素化カーボンを陽極として、エネルギー密度を評価した。その結果をFig.1に示す。フッ素ガスで後フッ素化するとエネルギー密度が温度とともに上昇し、500℃で最大になる。そして、600℃以上になると急激に低下することが分かった。5) 
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現在、リチウムイオン二次電池(LiB)の正極活物質には、LiCoO2、LiMn2O4やLiFePO4などの化合物が使用されており、そのエネルギー密度は500Wh/kg前後であり、さらなる高容量化が望まれている。フッ化鉄やフッ化マンガンのような遷移金属フッ化物についても、正極活物質への応用が検討されており、中でもフッ化鉄FeF3は、高容量を達成できる化合物として有望視されている。FeF3の結晶構造は欠陥ベロブスカイト型構造であり、LiイオンやNaイオンなどをその欠陥サイトに可逆的に挿入でき、その脱離挿入反応のみで700Wh/kgを超えるエネルギー密度が期待できる。さらに、Feイオンを金属にまで還元する反応を利用することで、1100Wh/kgを超えるエネルギー密度が期待できる。しかし、電子伝導性に乏しく、活物質としての特性を引き出すためには導電性カーボンとのコンポジット化などの手法が必要である。また、FeF3は吸湿性であり、大気中での取扱が困難であるなどの問題点がある。富田は、FeF3表面を酸化することで大気中の安定性を向上し、加えてLi脱離挿入反応を利用した正極活物質としての特性を改善した。6)

4、ナトリウム電池
ナトリウムイオン電池はリチウムを用いないレアメタルフリー構成を実現する電池として期待されている。

萩原らは、423Kで作用するNaCrO2を正極とするナトリウム二次電池における新電解質として、イオン液体NaTFSA(10mol%)/CsTFSA(90mol%)を検討した。7)このイオン液体の423Kでの粘度、イオン伝導度、密度、電気化学窓はそれぞれ、42.5cp、12.1mS/cm、2.29g/cm-3、4.9Vであった。本条件での充放電特性を調べ、定電流速度が10サイクル後10mA/gの場合と50サイクル後100mA/gの場合における放電容量はそれぞれ83.0mAh/g、66.4mAh/gであった。初期の数サイクルを除くとクーロン効率は99.5%以上であった。このことから、このナトリウム二次電池が423Kを中心とする373Kから473Kの温度範囲で新規二次電池として有望であるとしている。
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駒場は、ナトリウムイオン電池において、正極・負極の長寿命化を目指した電解液添加剤に関する論文を発表している。8)電解液添加剤は負極上に不動態皮膜(SEI)を生成させることを目的としてリチウムイオン電池では一般的に使用されている。SEIはリチウムイオン電池においてカーボン負極上に精製して保護皮膜として働くことはよく知られている。この皮膜がナトリウムイオン電池においても存在することを確認している。但し、SEI皮膜の主成分はリチウムイオン電池の場合と異なり、無機化合物であることも確認している。リチウムイオン電池同様、電解液添加剤によりSEIが生成するかについて検討した。その結果、下図に示す添加剤をPC電解液に添加した場合、FECのみが電解液量が限られるコイン型セルを用いた場合でも、80サイクルにわたって200mAg-1以上の充放電が可能であった。
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結論として、正極にNa2/3Fe1/3Mn2/3O2を、負極にハードカーボンを用い、電解液として1M NaPF6/PC:FEC(体積比99.5:0.5)を使用したナトリウムイオン二次電池において、3V級の電池作動に成功した。50サイクル後も約7割の蓄電量を維持しており、将来的には高エネルギー密度を有する長寿命なナトリウムイオン二次電池として利用されることが期待されるとしている。

岡田らは、Na3M2(PO4)2F3[M=Ti, Fe, V]を2段階固体状態合成で合成し、ナトリウムイオン電池の負極活物質としての可能性を調べた。9)合成は、V2O5あるいはTi2O3と(NH4)2HPO4とを混合し、650~950℃15時間熱するか、FePO4・2H2Oを100℃、真空中で3時間熱してMPO4の形にし、次いで、NaFと混合して空気流の中で600℃2時間反応させた。Na3V2(PO4)2F3が容量として120mAであり、サイクル特性も20サイクル後の保持率が98%と高く、安定していることがわかった。 

5、おわりに
リチウム二次電池における企業の動きは活発化している。例えば、三菱化学とステラケミファ、宇部興産とダウ・ケミカル、森田化学と住友商事が提携を結び体質を強化している。BASFは世界3極に電解液生産拠点を築き、宇部興産はLiB電解液事業において日・米・欧3極で3万トン体制を構築した。ダイキン工業はLiB電解液に参入、まず米工場に2000トン設備を建設し、電解質内製化を図り、フッ素技術生かし差別化し、米中などで量産を計画している。

また、LiBは民生用の小型分野の普及が進んできたが、今後は車載や電力貯蔵用の大型分野での需要拡大が期待される。大型LiBは高温下での長時間使用が求められ、電解液の分解による電池の内圧上昇・破裂や溶媒の漏洩や噴出などによる発火への備えが重要課題となっている。最近のリチウム電池が原因の航空機におけるトラブルは記憶に新しい。今後はさらなる高性能化、高安全性やリチウムを用いないナトリウム電池の開発が加速され、フッ素系材料の役割はますます重要性を増していくと考えている。

文献

1) Tadahiko Kubota et al Journal of Power Sources 207(2012) 141-149
2) Martin Winter et al Electrochimica Acta 81(2012) 161-165
3) Hiroyuki Ohno et al Journal of Power Source 233(2013) 104-109
4) M.V. Leddy et al Electrochimica Acta 85(2012) 572-578
5) Katia Guёrin et al Journal of Fluorine Chemistry 134(2012) 11-17
6) 富田靖正 ケミカルエンジニヤリング 2012年8月号45-49
7) Rika Hagiwara et al Journal of Power Sources 205(2012) 506-509
8) 駒場慎一他 ファインケミカル41(8) 22-28 2012
9) Shigeto Okada et al Journal of Power Sources 227(2013) 80-85

「燃料電池」

金曜日, 3月 1st, 2013

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201302/#topic01

1、はじめに
燃料電池については、2011年4月号で取り上げているが、その後も開発は盛んである。そこで、今回はフッ素系電解質膜を中心にその後の状況を調査した結果を報告する。

2、パーフルオロスルホン酸膜

A. S. Aricoらは、Fig.1に示す短側鎖の新規パーフルオロスホン酸膜Aquivonについて、従来の長鎖のNafionと高温特性を比較した。1)

FT1
電力においてAquivonの方がNafionより高いことが分かった。これはこの温度での水素のクロスオーバーがNafionでは大きいことが原因としている。それは、AquivonのTgが127℃で、Nafionの67℃よりかなり高いこと、結晶化度も高く、低当量であることから説明できるとしている。

豊田中央研究所は、(2)式で表されるモノマーの重合体からなる、軟化温度が高く、かつ、酸素透過性及びプロトン伝導性に優れた高酸素透過電解質を提案した。2)
FT2
3、部分フッ素化ポリマー電解質

トヨタ自動車は、ホスホン酸ポリマー及びその製造方法並びにホスホン酸ポリマーを用いた燃料電池用材料を提案している。3)下図に示す含フッ素ホスホン酸ポリアリーレンエーテルを合成し、燃料電池のプロトン交換膜としての評価を行った。その結果、プロトン伝導度は80mS/cmであった。
FT3
4)Hossein Ghassemiらは、下図に示す含フッ素ホスホン酸ポリアリーレンエーテルを合成し、燃料電池のプロトン交換膜としての評価を行った。ポリマーとして、固有粘度が0.58DL/gとかなり高分子量のポリマーが高収率で得られた。耐熱性は430℃で10%ロスであった。6meq/g以上のイオン交換量を有し、25℃、100%湿度でプロトン伝導度は92mS/cm、100℃では150mS/cmであった。乾燥した状態では120℃で2mS/cmだったが、ホスホン酸に浸漬すると外部からの加湿なしで100mS/cmに跳ね上がった。燃料電池の電解質としてとして期待が出来るとしている。
FT4
セントラル硝子は、耐熱性があり、化学安定性に優れ、低含水条件下でも良好なプロトン伝導性を有し、且つ、メタノールのクロスオーバー現象を抑制するための低いメタノール透過性の両方を兼ね備えた燃料電池用固体電解質膜を提案している。5)プロトン伝導度を測定していて、16mS/cmが得られている。また、メタノール透過速度は0.4×10-6mol/cm2・minであった。(比較例としてNafion112は33.4×10-6mol/cm2・minとしている)
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4、イオン液体を電解質に用いた系

横浜国立大学は、100~200℃等の高温で電解質膜として機能し、かつ使用している間にイオン液体がにじみ出たり、揮散してしまうなどの問題のないプロトン伝導体及びこのプロトン伝導体を電解質として用いた固体高分子型燃料電池を提案している。6)具体的には下図に示すイオン液体とポリマーを組み合わせたものである。
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5、最近の燃料電池に関する総説から

Mark R. Wieznerらは、イオン交換膜の燃料電池への応用について、プロトン交換膜(PEM)におけるMEAの最近の進歩についての総説を発表している。7)特に、高温、低相対湿度で良好に作動できるPEMの開発における進歩に注力している。カテゴリーとして、高分子膜、セラミック膜、無機‐有機コンポジット膜を取り上げ、その比較をしている。結論として、Nafion膜のようなポリパーフルオロスルホン酸膜が最も有望な膜であり、セラミック膜と無機‐有機コンポジット膜は、特徴はあるが、まだ初期段階であるとしている。プロトン伝導度の改善と耐熱性および機械的性質の向上に集中して議論がなされている。

A, M. Kannanらは、PEMFCのガス拡散層(GDL)の評価技術に関する総説を発表している。8)GDLは重要な構成要素であり、その構造、孔径、空孔性、ガス拡散性、濡れ性、熱および電気伝導性、表面形態、水管理能力などを理解して初めて、燃料電池の最適な性能を達成する可能性が出てくる。まずは、GDLそのものの評価として、電気伝導性、熱伝導性、機械的性質、空孔性、孔径分布、ガス浸透性、表面形態、横断面形態、表面エネルギー、サイクリックボルタンメトリー、モデル化とシミュレーション、加速エージングの項目について議論している。次いで、燃料電池内に装着されたGDLの評価として、インピーダンス測定、水輸送の視覚化、モデル化とシミュレーション、加速エージングの項目について議論している。そして、こう言った評価技術が、自動車用、定置用燃料電池における高性能かつ高耐久性のGDLを開発する上で極めて重要であると結論付けている。 

Faghriらは、直接メタノール燃料電池(DMFCs)において高濃度および純粋なメタノールを使用した場合についてレビューしている。9)メタノールクロスオーバー、水の管理、酸素の移送、CO2の放出などのカギとなる課題について詳細に言及し、DMFCデザインの改良、DMFCスタックの改善を行い、プロトタイプの開発を提案している。この中で、PTFEで処理した正電極ガス拡散層はメタノールのクロスオーバーを低減できるとしている。電解質膜として完全に水和したNafion膜を用い、メタノール蒸発器、メタノールバリア層、水管理層を設けて、メタノールのクロスオーバーを低減するなど質量管理を徹底させ、燃料電池の性能を向上させた。即ち、メタノールのクロスオーバーを低減させるため、燃料(メタノール)貯槽と正電極集電体の間の正電極の質量移送を制御したこと、水の逆流を増大させるため電解膜の質量移送を制御したこと、水のロスを減らすため、負電極の集電体と外の空気との間の負電極の質量移送を制御したことなどの措置を取っている。

さらに、Faghriらは、メタノールおよび水のクロスオーバーを低減させるための手法、熱および物質移動、エネルギー密度を高める手法、運転開始と過度運転に関して言及している。10)その中で、メタノールおよび水のクロスオーバーに関してはNafionを用いて調べ、メタノールに関しては、その濃度を高めたり、運転温度を上げると悪化し、水に関しては、膜の厚みを減らすと低減することを述べている。

6、その他

昨年、新聞で中国においてイオン交換膜が開発されたとの記事を目にし、中国のフッ素化学の進展が著しいことを認識したが、そのレベルを示す文献を紹介する。 Li Muらは、オール中国製プロトン交換膜型燃料電池(PEMFC)の開発と性能について発表している。11)独自の方法でMEAを作製。拡散層はカーボンペーパーの表面にPTFEを配分させ、触媒層は白金とPFSA(パーフルオロスルホン酸ポリマー)を混合して作製し、触媒ロードは陽極サイドで0.5mg/cm2、陰極サイドに0.7mg/cm2とした。このMEAをベースに燃料電池スタックを作製した。性能はまだ輸入品に及ばないが、原料コストと製造コストが著しく安いので将来有望としている。

7、おわりに

最近、パナソニックと東京ガスが家庭用燃料電池において、白金の量を半減し、水素を拡散するガス拡散膜を、炭素繊維基材にPTFE溶液を含侵させた従来品から、炭素粒子とPTFE繊維を混練してシート化したものに替えてコストを24%削減し、さらにフッ素系の電解質膜は化学耐性を改善して耐久性を20% 向上し、6万時間に延ばすことなどの改良を加え、200万円を切る価格を新聞発表した。こうした動きは家庭用ばかりでなく、自動車用にも適用されていくと考えられ、上記の開発状況も踏まえれば着実に実用化に向かって進んでいると期待したい。

文献

1) A. S. Arico et al Journal of Power Sources, 196(2011) 8925-8930
2) 豊田中央研究所、トヨタ自動車 特開2011-140605
3) トヨタ自動車 特開2011-105877
4) Hossein Ghassemi et al Polymer 52(2011) 4709-4717
5) セントラル硝子 特開2011-063797
6) 横浜国立大学 特開2012-041474
7) Mark R. Wiezner et al Chemical Engineering Journal 204-206(2012) 87-97
8) A, M. Kannan et al Journal of Power Sources 213(2012) 317-337
9) Amir Faghri et al Journal of Power Sources 226(2013) 223-240
10) Amir Faghri et al Journal of Power Sources 230(2013) 303-320
11) Li Mu et al International Journal of Hydrogen Energy37(2012) 1106-1111