Archive for 5月, 2012

「含フッ素チオール自己配向単分子層」

木曜日, 5月 31st, 2012

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201205/#topic01

1、はじめに
自己配向単分子層(SAM)については、最近盛んに研究されている。フルオロアルキル基を有する化合物はSAMを作製し易く、特異な機能を発揮する。その中で、フルオロアルキル基を有するチオールのSAMについて、最新の文献を紹介する。

2、SAMによるペンタセン有機電界効果トランジスタの銀ソース/ドレイン電極の改質1)
有機薄膜トランジスター(OTFTs)は、低コスト、易成形性、柔軟性などの利点により、有機LEDの駆動回路、無線IDタグやセンサーなどとして期待されている。電極とのボトム接触は集積回路に適している。デバイスの性能は、電極と有機半導体との境界面に依存する。つまり、有機半導体のHOMOレベルと電極の仕事関数の間のエネルギー差が大きく影響する。金電極の仕事関数は約5.1eVでほとんどのp-タイプの有機半導体のHOMOエネルギーレベルとマッチするのでよく使われている。銀電極は金に比べるとコストは安いが、その仕事関数は有機半導体とマッチしにくい。しかし、その表面に自己組織化単分子層(SAMs)を形成させるとマッチするようになることが分かってきた。ここではボトム接触銀電極OTFTsにおいて、C8F17C2H4SH(FDT)とC10H21SH(HDT))との2成分系SAMsを銀電極に形成させることにより金電極より性能が向上したことが報告されている。
銀電極表面にFDT/HDT SAMsを形成させたときの仕事関数をFig.1に示す。銀電極の仕事関数は4.26eVであり、Fig.1より、HDTのみのSAMを形成させたときは4.3eVであった。また、FDTのみのSAMの場合は6.0eVであり、FDTとHDTとの比率を変えていくと仕事関数はその間の値を示した。本研究の場合のTFTの活性層は約5.2eVのイオン化ポテンシャルを有しているので、FDT/HDT比3/1が銀電極改質してペンタセンのLUMOにFermiレベルを合わせることができることが分かった。
また、ペンタセンTFTのドレイン電流-ドレイン電圧特性については、銀のSAM電極(FDT/HDT=3/1)が金電極よりも優れた特性を示し、ゲート電圧が-80Vで飽和ドレイン電流が-135μAと金電極の2倍の値を示すことがわかった。さらに、電荷移動度が0.21cm2/Vsで、ほとんどの金電極のこのタイプのOTFTsより速かった。その理由は正孔注入障害が減じられたことと電極上でのペンタセンの粒子が比較的大きく連続的分布していることによるとしている。
FT1
3、パーフルオロポリエーテル被覆層を有するパーフルオロエーテルアルキルチオールおよびジチオールのSAMsを銅表面に形成すること2)
下図に示すパーフルオロエーテルアルキルチオール(RfSH)およびジチオール(Rf(SH)2)のSAMsを銅表面に形成させ不動層を作り、パーフルオロポリエーテル(PFPE)を動層として導入した。
FT2
SAMsの作製は、銅フォイルを研磨し、UV-オゾンで処理する。次いで、エタノール中に浸漬して超音波洗浄を行い、窒素気流中で乾燥する。さらに、HClO4水溶液中で電気化学的還元を行う。その銅フォイルをRfSHおよびRf(SH)2エタノール溶液中に浸漬してSAMs反応を行わせる。エタノールでリンスした後、窒素で乾燥する。SAMsの形成については、XPSおよび偏光変調高感度反射法(PM-IRRAS)、さらには水の接触角の測定で確認している。水の接触角については、RfSHの場合は113度、Rf(SH)2の場合は99度であった。この違いは、上図に示す末端のCF3基が結合する酸素原子を隠すことができる否かの違いであり、その能力はRfSHの方がRf(SH)2より高いとしていて、そのことはPM-IRRASのデータからも言えるとしている。また、電気化学的安定性については、サイクリックボルタメトリーの測定から、いずれのSAMsも効果があり、Rf(SH)2の方がRfSHより若干安定であるとしている。この事実は、銅の防錆効果につながる。
PFPEの処理は、上記のSAMs形成銅をPFPEのパーフルオロポリエーテル溶媒中にディップして行った。この場合は、耐摩耗性に寄与している。

4、金上の清浄なフッ素化チオール単分子層の作製とその確認3)
SAMの偶発的なコンタミについてはよく知られている。本論文では、偶発的なコンタミを除いた清浄なSAMを金表面に作製し、その化学的純度あるいはその清浄性について、そこに含まれるすべての元素をXPSで測定し、その相対的な含有量を決めることにより確認した。金表面のSAM形成にはC6F13C2H4SCOCH3(アセチル化F8)を用いた。清浄なSAMの作製には、作製中常に金表面に溶媒が存在することが重要である。具体的には、メタノール溶媒にアセチル化F8と脱アセチル化触媒である少量のNH4OHを溶解させ、10分間反応させて脱アセチル化した後、清浄な金コート体(QCMs)を浸漬し、1時間窒素下で暗所に放置して自己配向を完了させた。その後、QCMsをメタノールから取り出し、メタノールで少なくとも4回激しく洗浄した。そのQCMsのXPSスペクトルをFig.3に示す。O1s(~530eV)ピークがないこと、C-O結合に由来するC1sピークがないことは、脱アセチル化反応が完了していることおよび含酸素不純物が存在していないことを示している。また、S2pピークはAu-S-C結合と考えられ、チオール単分子層の生成を示唆している。本論文では、清浄なSAMsが作製出来たということにとどまるが、SAMsがしばしば不純物の影響を受け、真の性状が得られていないことを指摘し、本法によりその課題を克服し、他の系にも適用していくことを今後進めていくとしている。
FT3
5、おわりに
フルオロアルキル基を有するチオールのSAMsについて最新の文献を紹介した。チオールは金属に吸着し、強固な結合をつくるので耐久性が高いことが特徴である。エレクトロニクス分野では、OFETのゲート電圧を向上させ、電荷移動速度を上げる効果があり、工業分野では金属の防錆効果などを発揮し、その機能は多彩である。また、清浄なSAMsの作製が検討されており、今後、基礎から応用開発までさらに盛んになることが予想され、新しい材料として期待したい。

文献
1) Chih-I Wu et al Organic Electronics 13(2012) 593-598
2) Zineb Mekhalif et al Electrochimica Acta 63(2012) 269-276
3) Ian R. Gentle et al Journal of Colloid and Interface Science 370(2012) 162-169

「フッ素化ポルフィリノイド」

火曜日, 5月 15th, 2012

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201204/#topic01

1、はじめに1)
いわゆる化石燃料を使用しない新エネルギーの中で太陽電池は重要な位置付けにあり、今後の成長が期待されている。太陽電池におけるフッ素の役割としては、バックシートや反射防止材、表面保護材としてフッ素ポリマーが用いられ、また透明電極としてフッ素化ITOが用いられている。太陽電池の中では、色素増感型太陽電池が注目されている。何故なら、シリコン系や化合物系に比べて製造に大掛かりな真空プロセスが必要なく、大幅なコストダウンが見込まれることと、資源的制約がないこと、さらには形状や色に自由度があるなどのメリットがあるからである。但し、効率がせいぜい10%と低く、それが大きな課題である。色素増感型太陽電池の構造を図1に示す。封止材7の部分が枠材8と接着性塗膜9から成っている。ここで10、11は2枚の電極板、5は電解液である。10は2’の導電膜、1’の透明基板から成り、11は2の導電膜、1の透明基板、3のTiO2多孔質膜、4の増感色素から成リ立っている。この中で、封止材として、水酸基含有パーフルオロポリエーテル主鎖化合物とイソシアネーと化合物からなるプレポリマーを合成し、さらに触媒を加えた組成物を枠材であるEvOH樹脂フィルム上に塗布して作製した材料が提案されている。ここでは、この電解液にイオン液体/含フッ素ブロックオリゴマーのゲル電解液を用いること、および増感色素としてフッ素系色素が検討されているので紹介する。
FT1

2、イオン液体/含フッ素ブロックオリゴマー電解液
電解液にイオン液体を使用するメリットは、電解液特性の向上、長寿命性などである。特にゲル化剤と組み合わせて擬似固体電解質として有望視されている。それは薄膜で可撓性のある太陽電池として期待されるからである。この場合、イオン液体は不揮発性、不燃性、強力な電気化学的・熱的安定性のメリットがある。課題は、粘度を上げて流動性を下げるとイオン伝導度が低下することである。それを解決すべく、Krishnanらはフッ素系ブロックオリゴマーをゲル化剤として用い、ミクロ相分離により伝導度をあまり下げずにゲルの流動性を下げる方法を提案した。2)
図2示す、パーフルオロアルキル基とポリオキシエチレン基を有するイオン液体ブロックオリゴマーを合成し、色素増感型太陽電池へ適用した。合成法は図3に示す。本イオン液体は自己組織化して、溶媒フリーのイオンゲルを作る。静電相互作用、およびパーフルオロアルキル基とポリオキシエチレン基とが混合しにくいことによるミクロ層分離によって、イオンクラスターを作るので固体化は容易であった。表1に示すように高粘性と高イオン伝導度は両立し難い。しかし、低い流動性のナノ構造の流体は、ヨウ素イオンの拡散速度は大きく、下図に示す(2)や(3)のヨウ素化イミダゾリウムの単純なブレンドにより、粘度を下げることなしに十分に伝導度を上げることができる。例えば、1aに3のEtMeImIを0.75モル分率加えるだけで、85℃で4mS/cm以上のイオン伝導度を与えることができた。
FT2

表1 図2に示したイオン液体の粘度とイオン伝導度

イオン液体 粘度 イオン伝導度mS/cm
85℃ 95℃ 85℃ 95℃
1a 49800 37200 0.54 0.76
1b 38.5 27.7 1.67 2.17
2a 40.6 29 2.67 3.47
2b 47.1 34.2 2.15 2.7
2c 49.3 35.8 1.75 2.27

3、増感色素としてのフッ素化合物
色素増感型太陽電池においては、TiO2に増感色素を吸着させることが重要である。その際、溶媒を使用するが、その毒性や廃棄の問題がある。Collisらは、図3に示す方法で合成したパーフルオロアルキル基を導入したペリレン色素DOPFを用いて、安全な超臨界炭酸ガスを媒体とした色素増感太陽電池を検討している。3)
FT3
パーフルオロアルキル基を導入すると、超臨界炭酸ガスへの溶解性が向上する。光陽極であるTiO2に速やかに吸着するので、図4に示すように、非フッ素系のDOPに比して、有効な光電池性能を発揮する。
FT4
また、炭酸ガスは簡単に飛ばすことができるので、廃棄の問題もなくDOPFを容易に回収できる。

4、おわりに
太陽電池において、低コストで可撓性のあるフィルム状にできる色素増感型太陽電池が期待されている。それにフッ素がどのような役割を演じているかについて、特に電解液と増感色素についての最近の文献を紹介した。太陽電池ではバックシートや反射防止材、保護材料としてフッ素の役割は大きいが、本件のような例が実るとさらにその存在意義は大きくなると期待している。

文献
1) 松尾仁 塗装工学46(2011) 25-28
2) Sitaraman Krishnan et al Journal of Materials Chemistry 21(2011) 19275-19285
3) Gavin E. Collis et al Green Chemistry 13(2011) 3329-3332