Archive for 9月, 2011

「新フルオロカーボンHFO」

月曜日, 9月 26th, 2011

Book1最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201108/#topic01

1、はじめに
フルオロカーボンは、20世紀末のオゾン層破壊問題、今世紀に入っての地球温暖化問題により、厳しい規制を課されてきた。前者ではCFC、HDFCが対象となり、HFC、HFEなどの代替フルオロカーボン類が登場してきた。後者ではHFCも規制対象になりつつあり、HFEも将来的には予断を許さない状況である。そこで、登場してきたのがGWPがHFEより低いCOF2やCF3IおよびハイドロフルオロオレフィンHFOである。前二者は、エッチング剤、洗浄剤として、半導体分野で使われている。HFOは冷媒、発泡剤や溶剤として期待されている。HFOについては、2010年「フッ素関連トピックス三題」の1月号、5月号で紹介したが、本稿では、その後のHFOの進捗状況を中心に述べてみたい。

2、ハイドロフルオロプロペン
これまでHFOとしては、ハイドロフルオロプロペンの開発が中心であり、下記の表に示すような構造が知られており、GWP値、沸点、臨界点、燃焼速度などのデータをHFC-32やHFC-152aと比較して示す。1)、2)

化合物 化学式                   GWP  Bp(K)   Tc(K)  

燃焼速度(cm/sec)          ISO燃焼性クラス
1234yf CH2=CFCF3         4      245.2   369.3     1.2                                      2L
1243yf CH2=CFCHF2                                            19.8                                     2
1243zf CH2=CHCF3                 251.7   389.7   14.1                                      2
1234ze CF3CH=CHF(E)  6     254.2   384.4                                                  2L
HFC-32 CH2F2                          650       221.5      6.7                                      2L
HFC-152a CH3CHF2               140        248.2     19.8                                     2

このうち冷媒として期待されるのはGWP が4でHFC-134aより99.7%低いR-1234yfであり、今年4月に米国EPAから最終的な認可を受けた。また、GWPが6と低く、エアゾール用途や発泡剤として期待されるR-1234zeは、燃焼速度のデータはないが、フッ素含有量からISO燃焼性クラスは2Lと推察できる。今年1月に米国EPAがその用途の承認を行い、米国ハネウエル社が2013年後半に商業プラント建設を決めている。いずれも日本と欧州では、すでに商品化されている。また、1243zfについては、HFC-134aとの混合溶媒についてGWPが150以下との記載がある。
商品化に向けた最近の特許としては、R-1234yfを使用した冷凍サイクル内でフッ化水素の発生を抑制し、冷凍サイクルに使用される部品の劣化を抑えて、長期間に渡って安定的に動作可能にするためにエタノールが提案されている。3)
また、ダイキン工業は、R-1234yfとHFC-32混合冷媒を使用した空気調和装置において、蒸発器として機能する熱交換器の除湿能力を確保することができ、再熱除湿運転の性能を向上させることができる装置の提案や4)HFO単一あるいは混合冷媒において冷媒量を減らす試みとしてマイクロチャネル熱交換器の提案などを行っている。5)また、R-1243zfを発泡剤として使用して、高kファクターを有する低密度断熱性熱可塑性発泡体の製造が提案されている。6)また、HFOが重合性であり、ポリマー化して析出することにより冷凍サイクル内で詰まることを防ぐため、ペンタエリスリトールおよびネオペンチルグリコールをそれぞれ炭素数7~9の脂肪酸を反応させたエステル化合物からなる冷凍機油を含有させてポリマーを溶解させる提案がなされている。7)

3、その他のHFO
ハイドロフルオロプロペン以外のHFOも提案されている。例えば、フッ素化プロピンC3HaF(4-a)の特許が公開されている。具体的にはCF3C≡CHであり、樹脂用発泡剤、熱伝達用流体または噴射剤などへの用途が考えられている。8)
また、シス-1,1,1-4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを相溶性の低いポリエステルポリオールと混合してイソシアネートと反応させ独立気泡のポリウレタン発泡体を製造する特許が公開されている。9)
Wallingtonらは、ヘキサフルオロシクロブテンHFCB、オクタフルオロシクロペンテンOFCPおよびヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンHFBDの塩素ラジカル、OHラジカルとの反応性、大気中での寿命およびGWP値を求めている。10)
結果は下表の通りである。
FT1
速度定数は下記の反応式から求めた。
FT2
反応は700Torr N2 or O2 中、295Kで行われた。
これから大気中の寿命を推算し、GWPを求めた。HFBDについては記載がないが、大気中の寿命から一桁台のGWPが予想される。

4、おわりに
ハイドロフルオロオレフィンHFOの実用化に向けて着実に進んでいるように思える。特に冷媒についてはかなり期待されているようである。また、発泡剤についても開発が活発である。但し、二重結合を有しているので金属などとの反応性、重合性などの問題点があり、そのための対策も提案されている。しかしながら溶媒としての可能性は現時点では明らかではないようである。オゾン層破壊、地球温暖化と次々に課題を突き付けられてきたフルオロカーボン、HFOが救世主のひとつとなることを期待してやまない。

文献・特許
1) J. Steven Brown et al International Journal of Refrigeration 33(2010) 235
2) Kenji Takizawa et al J. of Hazardous Materials 172(2009) 1329
3) パナソニック 特開2011-016930
4) ダイキン工業 特開2010-101588
5) ダイキン工業 特開2011‐94841
6) アーケマ 特表2010-522816
7) パナソニック 特開2011-85275
8) セントラル硝子 特開2011‐38054
9) デュポン 特開2010‐534253
10)T.J. Wallington et al Chemical Physics Letters 507(2011) 19-23

「イオン液体」

月曜日, 9月 26th, 2011

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201107/#topic01

、はじめに
イオン液体(ILs)については、アニオンとして安定性が高いと言う理由でフッ素系ILs が有望視されている。しかし、期待されながらなかなか大きな市場を築けない状況が続いている。粘度の問題、価格の問題などがネックになっているようであるが、開発は精力的に進められている。また、今年1月には、第1回イオン液体討論会が開かれており、学会としての活動も活発化してきた。ここでは、主に文献、特許情報から最近の開発状況をまとめてみた。

2、イオン液体溶媒
まずはILsを溶媒として用いた酸化触媒の進歩についての総説を紹介する。1)有機金属錯体はILsによく溶ける。従って、2相触媒反応の場合、有機金属錯体触媒はイオン液体中に留まり、生成物相から分離できる。こうした系で酸化、水素化、ハイドロシリレーション、オレフィンのオリゴマー化などの反応においてILsが用いられている。特にMn(III)ポルフィリン錯体を用いたオレフィンのエポキシ化がよく知られている。本論文では、スルフィド、アルコール、オキシム、オレフィンの酸化反応、ケトンを過酸で酸化してエステルにするBaeyer-Villiger反応やニトロトルエンの酸化、カルボニル化反応、システインの酸化などの特殊な酸化反応が取り上げられている。その中で一例としてスルフィドの酸化反応を紹介する。Scheme1にILs中でのジベンゾチオフェンの酸化反応を示す。種々のILsを用いた結果をTable3に示す。触媒を用いた場合、ILsが触媒を取り込み、反応を促進すると考えられる。ILsの種類によっても大きく影響を受け、[bmim]BF4と触媒の組み合わせが最も高い収率を与えた。また、Ilsが存在しない場合は4%の収率とのことである。ここで、[bmim]は1-ブチル-2-メチルイミダゾール、[omim]は1-オクチル-2-メチルイミダゾールで、それぞれ[C4mim]、および[C8mim]と表現することもある。
FT1
ILsは、CO2をよく溶かし、捕捉剤として期待されている。Kangらは、1-アルキル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート[amim][PF6]へのCO2の溶解性を調べた。2)アルキル基のブチル基[C4mim]とノニル基[C9mim]についてCO2の圧力と溶解性の関係をFig.3に示す。293.15Kと298.15Kと温度を変えて測定し、ブチル基では過去のデータと一致し一つの曲線上にあることが分かった。また、ノニル基と長鎖のアルキル基にすると異なる曲線を描くことも分かった。このデータをグループ寄与非ランダム格子流体状態方程式(GC-NFL EoS)と関連付け、高圧力、長鎖アルキル基での予測が出来ることを確認している。
FT2
3、イオン液体の応用展開
ILsの応用展開も盛んである。リチウム電池、電気二重層キャパシタ、色素増感太陽電池の電解液として検討されているのをはじめとして、バイオマスエネルギーへの適用、光化学への適用など応用範囲は広がりを見せている。
後藤らは、ILsを用いたレアアースの高度分離プロセスを報告している。3)ILsを用いる最大の利点は金属の液膜分離ができることである。液膜法とは、抽出分離の正抽出と逆抽出の一連の操作を、液膜をはさんだ両界面で同時に行える非常に簡略化された分離法である。ILsの揮発性が極めて小さいこと、即ち蒸発による膜液の損失が抑えられることは膜の安定化に有利であり、特に高温操作が多く、また液膜相と気相が隣接するガスの液膜分離ではその効果は顕著である。ILsは有機溶媒や水に比べて高い粘性や表面張力を示すため、圧力勾配に耐えて支持体の細孔に安定に保持されやすいことも安定化の大きな要因である。そして、分子設計に基づいて物性の異なる液体を合成できるので目的分子を輸送するのに適したILs相を創成することができる。
ILsの不揮発性、難燃性を利用した電解液としての可能性を述べた文献を紹介する。4)表1にいわゆる新エネルギーとして期待されている電気化学エネルギーデバイスの構成要素を示す。このいずれについてもイオン液体が検討されているが、まだ実用化には至っていない。粘性が高い、濡れ性が低い、コストが高いの3点が課題である。粘性についてはイミダゾリウム系ILsが低いが、 熱安定性や電気化学安定性の点で優れている脂肪族第四級アンモニウムイオンILsの低粘度化が検討されてきた。その結果、アニオンとしてBF3(C2F5)やCF3CONSO2CF3のような非対称性のアニオンを用いると粘度が低くなることがわかった。濡れ性については、現在使われているポリオレフィンセパレータにおいて課題であったが、例えばシリカナノ粒子を含有させたポリオレフィン多孔質をセパレータとして用いると濡れ性が改善されるなどイオン液体に適したデバイスの開発により解決の見通しが得られている。コストについては、実用化されれば量産効果などで解決できるとされている。また、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム・ビス(フルオロスルホニル)イミドが低粘性で高いイオン伝導度を有しており、他の殆どのイオン液体電解液中で充放電不可能な黒鉛電極の充放電が可能であるとの報告もある。5)
FT3
次にILsとポリマーを用いた材料開発についての文献を紹介する。6)まずは、ILsとポリマーが完全相溶するケース。その場合モノマーと架橋剤をイオン液体中に溶かして重合するとILsを担持したイオンゲルが得られる。例えばPMMAと[C2mim][ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)アミド(NTf2)]との組み合わせでのイオンゲルは300℃の耐熱性を有する。また、下図のプロトン伝導性ILsとこれを相溶するポリマーを併せ用いると、室温から100℃以上と広い温度範囲で無加湿燃料電池発電が可能になる。
FT4
また、アクチュエーターとしての特性が電極膜の導電性が不足して十分に出せない対策として、カーボンナノチューブとイオン液体を含む膜を形成後に、カーボンナノチューブに対してドーピング作用を有する有機分子を含む溶液を滴下、乾燥することによって解決した特許が公開されている。イオン液体としては、[C2mim]][BF4]が用いられ、高純度単層カーボンナノチューブおよびPVDF/HFPポリマーと混合して膜を形成、有機分子を含む溶液はF4TCNQのCS2溶液が例示されている。7)
さらに、有機EL等の発光表示装置にイオン液体を用いて、有機溶媒を用いた場合の揮発性による発光機能の低下、可燃性などの課題を克服し、発光輝度も向上するという特許が公開されている。イオン液体としては、N,N,N-トリメチル-N-プロピルアンモニウム-ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド)( TMPA-TFSI)が例示されている。8)

4、おわりに
イオン液体がグリーンケミストリーの目玉として登場してから十年以上を経ている。この間、開発は留まるところを知らず進んでおり、基礎的にも応用面でも多大な情報蓄積がなされていて益々大きな可能性が秘められていることは確かである。さらに、カチオン、アニオンの多様性とその組み合わせにより、今後も可能性が益々広がっていくことは間違いないと考える。但し、本文でも述べた課題があり、その結果大きなビジネスには繋がっていない。今後は実用化に向けた取組が功を奏し、グリーンケミストリーの目玉と言う位置づけが具体化されることを期待してやまない。

文献・特許
1) F. E. Kuhn et al Coordination Chemistry Reviews 155(2011) 1518-1540
2) Jeong Wong Kang et al Fluid Phase Equilibria 306(2011) 251-155
3) 後藤雅宏ら ケミカルエンジニヤリング2011年4月号 52-57
4) 松本一 現代化学2010年9月 45-49
5) 江頭港 ケミカルエンジニヤリング2010年10月号49-54
6) 渡邊正義 現代化学2010年9月号 50-53
7) アルプス電気 特開2011-78262
8) 大日本印刷 特開2011-91331