Book1最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。
http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201108/#topic01
1、はじめに
フルオロカーボンは、20世紀末のオゾン層破壊問題、今世紀に入っての地球温暖化問題により、厳しい規制を課されてきた。前者ではCFC、HDFCが対象となり、HFC、HFEなどの代替フルオロカーボン類が登場してきた。後者ではHFCも規制対象になりつつあり、HFEも将来的には予断を許さない状況である。そこで、登場してきたのがGWPがHFEより低いCOF2やCF3IおよびハイドロフルオロオレフィンHFOである。前二者は、エッチング剤、洗浄剤として、半導体分野で使われている。HFOは冷媒、発泡剤や溶剤として期待されている。HFOについては、2010年「フッ素関連トピックス三題」の1月号、5月号で紹介したが、本稿では、その後のHFOの進捗状況を中心に述べてみたい。
2、ハイドロフルオロプロペン
これまでHFOとしては、ハイドロフルオロプロペンの開発が中心であり、下記の表に示すような構造が知られており、GWP値、沸点、臨界点、燃焼速度などのデータをHFC-32やHFC-152aと比較して示す。1)、2)
化合物 化学式 GWP Bp(K) Tc(K)
燃焼速度(cm/sec) ISO燃焼性クラス
1234yf CH2=CFCF3 4 245.2 369.3 1.2 2L
1243yf CH2=CFCHF2 19.8 2
1243zf CH2=CHCF3 251.7 389.7 14.1 2
1234ze CF3CH=CHF(E) 6 254.2 384.4 2L
HFC-32 CH2F2 650 221.5 6.7 2L
HFC-152a CH3CHF2 140 248.2 19.8 2
このうち冷媒として期待されるのはGWP が4でHFC-134aより99.7%低いR-1234yfであり、今年4月に米国EPAから最終的な認可を受けた。また、GWPが6と低く、エアゾール用途や発泡剤として期待されるR-1234zeは、燃焼速度のデータはないが、フッ素含有量からISO燃焼性クラスは2Lと推察できる。今年1月に米国EPAがその用途の承認を行い、米国ハネウエル社が2013年後半に商業プラント建設を決めている。いずれも日本と欧州では、すでに商品化されている。また、1243zfについては、HFC-134aとの混合溶媒についてGWPが150以下との記載がある。
商品化に向けた最近の特許としては、R-1234yfを使用した冷凍サイクル内でフッ化水素の発生を抑制し、冷凍サイクルに使用される部品の劣化を抑えて、長期間に渡って安定的に動作可能にするためにエタノールが提案されている。3)
また、ダイキン工業は、R-1234yfとHFC-32混合冷媒を使用した空気調和装置において、蒸発器として機能する熱交換器の除湿能力を確保することができ、再熱除湿運転の性能を向上させることができる装置の提案や4)HFO単一あるいは混合冷媒において冷媒量を減らす試みとしてマイクロチャネル熱交換器の提案などを行っている。5)また、R-1243zfを発泡剤として使用して、高kファクターを有する低密度断熱性熱可塑性発泡体の製造が提案されている。6)また、HFOが重合性であり、ポリマー化して析出することにより冷凍サイクル内で詰まることを防ぐため、ペンタエリスリトールおよびネオペンチルグリコールをそれぞれ炭素数7~9の脂肪酸を反応させたエステル化合物からなる冷凍機油を含有させてポリマーを溶解させる提案がなされている。7)
3、その他のHFO
ハイドロフルオロプロペン以外のHFOも提案されている。例えば、フッ素化プロピンC3HaF(4-a)の特許が公開されている。具体的にはCF3C≡CHであり、樹脂用発泡剤、熱伝達用流体または噴射剤などへの用途が考えられている。8)
また、シス-1,1,1-4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを相溶性の低いポリエステルポリオールと混合してイソシアネートと反応させ独立気泡のポリウレタン発泡体を製造する特許が公開されている。9)
Wallingtonらは、ヘキサフルオロシクロブテンHFCB、オクタフルオロシクロペンテンOFCPおよびヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンHFBDの塩素ラジカル、OHラジカルとの反応性、大気中での寿命およびGWP値を求めている。10)
結果は下表の通りである。
速度定数は下記の反応式から求めた。
反応は700Torr N2 or O2 中、295Kで行われた。
これから大気中の寿命を推算し、GWPを求めた。HFBDについては記載がないが、大気中の寿命から一桁台のGWPが予想される。
4、おわりに
ハイドロフルオロオレフィンHFOの実用化に向けて着実に進んでいるように思える。特に冷媒についてはかなり期待されているようである。また、発泡剤についても開発が活発である。但し、二重結合を有しているので金属などとの反応性、重合性などの問題点があり、そのための対策も提案されている。しかしながら溶媒としての可能性は現時点では明らかではないようである。オゾン層破壊、地球温暖化と次々に課題を突き付けられてきたフルオロカーボン、HFOが救世主のひとつとなることを期待してやまない。
文献・特許
1) J. Steven Brown et al International Journal of Refrigeration 33(2010) 235
2) Kenji Takizawa et al J. of Hazardous Materials 172(2009) 1329
3) パナソニック 特開2011-016930
4) ダイキン工業 特開2010-101588
5) ダイキン工業 特開2011‐94841
6) アーケマ 特表2010-522816
7) パナソニック 特開2011-85275
8) セントラル硝子 特開2011‐38054
9) デュポン 特開2010‐534253
10)T.J. Wallington et al Chemical Physics Letters 507(2011) 19-23