最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。
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1、はじめに
フッ素の高電気陰性度、脂溶性、ミミック効果などの特徴を活かしたフッ素系医薬・農薬がますます重要性を増している。特に立体選択性を有するフッ素化合物が特異な生理活性や電子的特性を発揮して新たな材料として注目されている。ここでは最近のフッ素化合物の立体選択的合成法について、エナンチオ選択的フッ素化と、含フッ素化合物の立体選択的反応についての文献を紹介する。
2、エナンチオ選択的フッ素化
Xian Jin Youngらは、下図のN-フルオロベンゼンスルホンアミドを用いてオキシインドール2aのエナンチオ選択的合成を行った。1)その結果、下表に示すようにパラ位のRがHやFの時に高い収率が得られ、エナンチオ選択性も70以上であった。
Fedor Zhuravlevらは、下図のエポキシ化合物をガス状の[18F]HFで2のコバルト錯体を触媒としてエナンチオ選択的放射性フッ素化を行った。2)その結果、R’OHとして(CF3)2CHOH、溶媒としてtert-アミルアルコール、塩基としてテトラアミソール、触媒として(R,R)-Co(salen)を用いた場合、放射化学収率(RCY)50%、エナンチオ選択性(ee)68%を得た。また、他の条件は同じで溶媒としてtert-ブチルメチルエーテルを用いた場合はRCYが78%、eeが32%であった。 R’OHとして非フッ素系のアルコールを用いた場合は、ほとんど反応が進まなかった。これはフルオラス効果だとしている。
Dae Young Kimらは、下図の触媒(cat.1)を用いて、下式のエナンチオ選択的合成を行った。3)その結果、1fのArとしてm-キシレン、XがOTfの時、最も高い収率とeeを得た。さらに、2,6-Di-tert-butyl-4-methylpyridineを添加すると収率90%、ee91%を得ている。
3、フッ素化合物の立体選択的反応
仙北らは、下図に示すペンタフルオロベンゼン誘導体の立体選択的電気化学的カルボキシル化反応を報告している。4)Pt負極、Mg正極による電解カルボキシル化で、溶媒はDMF、反応温度‐40℃、電流密度は5mA/cm2で、C3位が高い選択性でカルボキシル化された。
伊藤らは、パラジウム触媒を用いてCF3基含有アリルアミンの立体選択的合成を報告している。5)下図の1aからγ生成物2a、あるいはα生成物3aを合成する場合、下表に示すようにAのPd(OAc)2でDPPEを配位子とした触媒系が高い活性とγ生成物への高い選択性を示した。また、[Pd(π-allyl)(cod)]BF4/DPPF錯体触媒を用いた場合は、γ生成物が容易にα生成物へ転化した。
NiloZanattaらは、下図に4-アルコキシ-1,1,1トリフルオロ-3-アルケン-2-オン(RはEtあるいはMe)から、CF3基含有のピラゾール1,3-あるいは1,5-異性体の立体選択的合成について報告している。6)
その結果、フェニルヒドラジンとの一段合成では1,5-Isomerが選択的に合成され、1,3-Isomerについては9-15のエナミノンを経て選択的に合成できた。
4、おわりに
立体選択的な含フッ素化合物の合成について、エナンチオ選択的フッ素化と含フッ素化合物の立体選択的合成についての最新の文献を紹介した。その背景には医薬・農薬・電子材料からの強い要求があることが伺われ、特許的にも医薬メーカーからのものが目立つ。今後もこの分野に注目していきたい。
文献
1) Xian Jin Young et al Tetrahedron 69(2013) 4933-4937
2) Fedor Zhuravlev Journal of Fluorine Chemistry 156(2013) 130-135
3) Dae Young Kim Tetrahedron Letters 54(2013) 3359-3362
4) HisanoriSenboku et al Electrochemistry 81(2013) 380-382
5) Toshiyuki Itoh et al Journal of Fluorine Chemistry 152(2013) 62-69
6) NiloZanatta et al Tetrahedron Letters 54(2013)4076-4079