「イオン液体電解液」

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1、はじめに
イオン液体のアニオンにフッ素系を用いると安定性が飛躍的に向上し、電解質をはじめとして本格的実用化への道が開けつつある。難燃性、不揮発性であるイオン液体電解液の適用は、最近大きな問題になっているリチウム二次電池の安全性の解決手段として、さらにキャパシタや燃料電池、太陽電池など新エネルギーのキーマテリアルとして期待が膨らんでいる。ここでは、イオン液体の電解液用途の開発状況を最近の文献からまとめてみた。

2、二次電池
リチウムイオン二次電池の電解液には耐電圧性に優れたカーボネート類が使用されているが、揮発性、引火性の問題があり、不揮発性、難燃性電解液の開発が盛んである。イオン液体は常温常圧で不揮発であり、難燃性も有しているので期待されている。イオン液体の電解液としての条件は、電気化学的に安定、低粘性、低融点、デバイス構成材料との親和性が高いことなどであり、下図に示すイオン液体が開発されている。
FT1

ここで、アニオンとしてTf2N-はC2mim+のみならずC3mpy+やC3mpip+などの脂肪族4級アンモニウムカチオンと液体の塩を形成し、熱的にも安定であるという特徴を有し、イオン液体電解液の可能性を一気に高めた。脂肪族4級アンモニウムカチオンはC2mim+に比して還元側での安定性が高い。但し、Tf2N-の塩は低粘性という点で不十分で、1時間で理論容量の充電を行うことのできる電流値1Cに対して0.1Cと低く、充電に10倍の時間を要するという課題が生じた。そこで、アニオンが検討され、上図のFSA-がTf2N-の半分の粘性であり、また、コバルト酸リチウム正極やリチウム金属負極上での電荷移動抵抗が著しく低く、同程度の粘性であっても1桁以上高い電流密度での充電が可能であることが分かった。さらに、FSA-は炭素負極を使用してもイオン液体自身の挿入/脱離反応が起こらず安定した作動が可能である。1)

イオン液体を含むゲルポリマーを電解質としたポリマー電池の文献を4件紹介する。まず、Andreas Hoffmanらは、LiCo1/ 3Mn1/3Ni1/3O2正極と炭素負極のリチウムポリマー二次電池において、イオン液体C3mpy+Tf2N-とPVDF-HFP、エチレンカーボネート(EC)/ビニレンカーボネート(VC)、LiTf2Nの組合せで伝導度2.04mS/secを達成している。2) 次いで、ZhaoynWenらは、リチウム硫黄ポリマー電池において、多孔質のPVDF-HFP膜にC3mpip+Tf2N-を含有させた電解質が高い熱的安定性と高負極酸化電位(>5.0V vs. Li/Li+)、リチウム電極との界面での安定性などの特性を得ている。3)さらに、Weishan Liらは、ナノSiO2粒子とP(MMA-AN-VAc)とイオン液体C4mpip+Tf2N-とLiTf2NおよびVCのゲルポリマー電解質を検討し、1.2mS/secの伝導度値と界面抵抗47Ω/㎝と25日後に118Ω/㎝と優れた界面での安定性を報告している。4)また、Sheng Daiらは、ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレートとポリエチレングリコールジメタクリレートの共重合体とイオン液体C3mpy+Tf2N-の組合せのリチウム架橋性ポリマー二次電池を作製し、イオン液体の量とともにTgが減少し、伝導度が増大することを確かめている。実際には80%のイオン液体を含むLi/LiFePO4のポリマー二次電池で、室温で90mAhr/gの可逆セル容量をC/10の電流密度において得ている。5)

上記ゲルポリマー電解質においては、イオン液体のみではなく、非プロトン性の溶媒との混合系が検討されているが、Fausto Croceらは、リチウム空気電池において、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)とイオン液体C4mpip+Tf2N-およびLiCF3SO3の混合系を検討し、伝導度において3.5mS/secとTEGDMEのみの4倍の値を得た。また、放電過電圧の値もTEGDMEに比して低い値を示した。6) Esther S. Takeuchiらは、脂環式カチオンをベースとするイオン液体とカーボネート溶媒との混合系における電気化学的性質を系統的に調べている。伝導度はイオン液体の置換鎖の長さが短い方が、プロピルカーボネート(PC)よりECの方が高かった。また、脂環式カチオン系では、リチウム塩存在下で5.5Vより高い耐電圧を示した。7)

3、キャパシタ
イオン液体は、電気二重層キャパシタ(EDLC)の電解質として広く検討されている。

MaciejGalinskiらは、イオン液体C2mim+BF4-を電解質とし、炭素電極はココナッツの殻を500℃で熱分解したものを使用して、EDLCを作製し特性を調べた。正極、陰極に異なった孔径分布のものを使用したEDLCは3Vで作動し、エネルギー密度68.6Wh/kg、出力密度36W/kgを得ている。8)

S.A.Hashmiらは、イオン液体C2mim+(C2F5)3PF3-とPVDF-HFPとのゲルポリマー電解質を有し、硝酸処理及び未処理のMWCNTを炭素電極に使用したEDLCを作製した。その結果、硝酸処理MWCNT使用の方が高い容量を示し、5℃から90℃の広い範囲で安定的に作動した。電位窓は-2.2Vから2.2Vの4.4Vと広く、イオン伝導度は、0.2mS/secと高い値を示した。9)

Kaixi Liらは、イオン液体C2mim+BF4-を電解質とし、83%のメソ多孔質炭素(表面積1006m2/g)を含みバイモーダル孔径分布(3.5nmと23.8nm)を持つ炭素を電極として、147F/gの容量密度、2mA/cm2の電流密度、20Wh/kgのエネルギー密度、3,100W/kgの出力密度を得た。10)

4、燃料電池
萩原らは、イオン液体C2mpy+(FH)1.7F-とポリヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とのコンポジット膜を無加湿燃料電池用電解質として作製した。11) コンポジット膜は、450Kまで良好な熱安定性を示した。伝導度はC2mpy+(FH)1.7F-/HEMA=9/1で8.9mS/sec(293K)、81.9mS/sec(373K)であった。また、単セルテストでは、無加湿、323Kで32mW/cm2の最大電力密度を観測した。

JoongHee Leeらは、高温用燃料電池の電解質として有望なリン酸をドープしたポリ(2,5-ベンツイミダゾール)膜をイオン液体CXmim+BF4-(Xはトリメトキシシリルプロピル)により機能化したメソポーラスシリカで強化した。12) シリカの孔径3.40nm、孔サイズ90-150nmのUMCと孔径9.60nm、孔サイズ800-1100nmのUSBの2種類を検討し、UMCが高分散性で、最大6.74mS/sec(150℃)とNafionに匹敵するプロトン伝導度を示した。

5、色素増感太陽電池
この場合、イオン液体のアニオンはI-の系がほとんどだが、フッ素系アニオンの系については、Shimin Wangらが報告しているので紹介する。13)

イオン液体C4mim+BF4-やC4mim+PF6-とカーボンドットの複合系を用いて擬固体化太陽電池を作製した。C4mim+PF6-だけではエネルギー変換効率は、1.49%であったが、LiI/I2を加えると2.71%に向上した。

6、おわりに
イオン液体は不揮発性、難燃性などの特徴を有しているが、さらに電解液に固有の条件は、電気化学的に安定、低粘性、低融点、デバイス構成材料との親和性が高いことなどであり、それを満たす化合物の開発が活発に行われている。今後実用化に向け、目が離せない状況が続いていくと予想している。

文献
1) 松本一 ファインケミカル40(7) 39-45 2011
2) Andreas Hoffman et alElectrochimica Acta 89(2013) 823-831
3) Zhaoyn Wen et al Solid State Ionics 225(2012) 604-607
4) Weishan Li et al Electrochimica Acta 89(2013) 461-468
5) Sheng Dai et al ibid. 87(2013) 889-894
6) Fausto Croce et al Journal of Power Sources 213(2012) 233-238
7) Esther S. Takeuchi et al Electrochimica Acta 109(2013) 27-32
8) MaciejGalinski et al Journal of Power Sources 228(2013) 83-88
9) S.A.Hashmi et al Electrochimica Acta 105(2013) 333-341
10) Kaixi Li et al Microporous and Mesoporous Materials 151(2012) 282-286
11) Rika Hagiwara et al Journal of Power Sources 220(2012) 10-14
12) JoongHee Lee et al Journal of Membrane Science 449(2014) 136-145
13) Shimin Wang et al Electrochimica Acta 88(2013) 100-106