「フッ酸回収技術」

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。
http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201211/#topic01

1、はじめに
フッ素製品の原料であるフッ酸の製品製造後の排水からの回収は、環境問題の解決に加えて原料問題の解決につながる。フッ酸は蛍石から製造するが、わが国の蛍石は90%以上を中国からの輸入に依存していて、最近の価格高騰、供給不安などの課題が深刻化している。従って、フッ素製品製造後の排水からフッ酸を回収し、リサイクルすることはますます重要性を増してきている。
半導体製造工場では、シリコンウェハのエッチングや洗浄でフッ素化合物を使用するので工場排水にフッ酸が含有されている。また、液晶ディスプレイの製造プロセスでも各工程基板の仕上げ洗浄にフッ酸を使用する。排水中のフッ酸は、2001年の水質汚濁防止法で決められた排水基準値、8mg/L以下の濃度にしなければならない。ここではフッ酸を含む排水の処理および回収技術について特許、文献などの情報をまとめてみた。

2、凝集沈殿法1)

フッ酸排水処理方法としては、排水に消石灰を反応させて不溶性のフッ化カルシウムを精製させ、これに凝集剤を添加してフロックを成長させ、固液分離させる凝集沈殿方法がある(図1)。この凝集沈殿装置の処理水質としては、数十~数百㎎-F/L程度であり、排水基準値8mg-F/L以下にするためには、図2に示す2段凝集沈殿法やフッ素を選択的に吸着するフッ素吸着剤と凝集沈殿法を組み合わせた高度処理システムが必要となる。また、本法ではフッ化カルシウムと凝集剤の成分を含む脱水ケーキを多量に発生し、セメント原料として回収する場合もあるが、廃棄される場合が多い。また使用済みのフッ酸も廃棄される場合が多い。
FT1
3、晶析法

次に下図に示す、フッ酸をフッ化カルシウムの結晶にして処理する方法(晶析法)を述べる。本法では、100~300µmのシード剤(種晶)表面にフッ化カルシウムを結晶化させ、1㎜程度の粒状結晶(ペレット)に成長させる。この際、沈殿凝集法のような微粒子の発生を抑制することが重要で、pHや撹拌条件の選定がポイントとなる。
FT2
本法は脱水ケーキの発生問題はないが、残留フッ素イオン濃度は同様であり、高度処理手段を必要とする。

4、膜による方法2)

栗田工業は、フッ酸含有排水中に消石灰を投入してフッ化カルシウムを生成させ、前段で低濃度のフッ素及びカルシウムを含有する排水をイオン交換樹脂塔によりイオン交換して、排水中のカルシウムイオンを除去し、後段の逆浸透膜(RO膜)でフッ素イオンを除去する方法を提案している。このとき逆浸透膜の濃縮液とイオン交換樹脂塔の再生排液となる塩化カルシウムを反応させてフッ素を不溶化している。これにより、逆浸透膜の目詰まりなしにフッ素含有水を効率よく処理して水回収率を高めることができるとしている。

5、蒸留法3)

関西大学の山本らは、塩効果を利用した蒸留法を提案している。本法は、半導体製造工場でシリコンウェハの洗浄工程およびエッチング工程で使用されている、通常の分離法では分離が困難なフッ酸や硝酸などの2成分系混合溶液に第3成分として不揮発性の塩を添加することで、分離成分の相対揮発度を上昇させ分離を効率的に行う方法である。具体的には、フッ酸-硝酸系において硝酸セシウムを添加することにより蒸留留出液として硝酸をほとんど含まないフッ酸を回収できたとしている。

6、最近の特許情報

日立プラントテクノロジーは、フッ素含有排水に第1の塩化カルシウムを添加してフッ化カルシウムを生成させる工程と、前記フッ化カルシウムを沈殿除去した処理水中のカルシウムイオンを陽イオンとイオン交換するカルシウム回収工程と、からなり、前記イオン交換の再生処理で生成した第2の塩化カルシウムを前記フッ素含有排水に添加することにより低コスト化を狙った方法を提案している。4)

三菱マテリアルは、排水の水質変動によらずに、フッ化カルシウム濃度が高く、結晶の大きいフッ化カルシウムを容易に回収できる方法および装置を提案している。(下図)5) 即ち、一次処理工程の高純度化槽11に、フッ素含有水(原水)10を導入し、さらに二次処理工程から返送された中和沈澱物17を導入し、フッ素を含む原水によって中和沈澱物17を洗浄(濯ぎ洗い)する。原水を用いて濯ぎ洗いすることによって沈澱物中のCaと原水のフッ素が反応してCaF2が生成し、中和沈澱物のCaF2純度が高くなると共に原水のフッ素回収率が向上する。
FT3
栗田工業は、反応槽におけるpHが安定し、フッ素濃度の低い処理水を得ることができるフッ素含有水の処理方法を提案している。フッ素含有水を反応槽で塩化カルシウムと反応させて不溶物を生成させ、凝集槽で凝集剤を添加した後、沈殿槽で凝集汚泥を固液分離して、上澄水は処理水として取り出し、沈降した汚泥の一部は余剰汚泥として抜き取り、混合槽に返送し、混合槽において返送汚泥に塩化カルシウムを混合した後、反応槽においてアルカリの存在下で、フッ素含有水と塩化カルシウム化合物とを反応させる方法。6)

セイコーエプソンは、少なくともフッ酸、フッ化水素アンモニウム、珪素および水を含む混酸から、フッ酸を直接分離する分離方法を提案している。即ち、混酸を蒸留することによって、フッ酸および水を含む留出液を回収するとともに、フッ化水素アンモニウムおよび珪素を含む缶出液として回収する第1の蒸留工程と、留出液を蒸留することによって、留出液から水を主に分離し、留出液よりもフッ酸の濃度の高い缶出液を回収する第2の蒸留工程からなる方法。7)

ササクラは、ガラス基板をフッ酸でエッチングした場合、排液に必ず含まれるケイフッ酸をケイ酸塩として除去する除去工程と、前記ケイ酸塩を除去した排液を蒸発濃縮することによって生じる蒸気を凝縮させてフッ酸を回収する濃縮工程とからなるフッ酸の回収法を提案している(下図)。8)
FT4
7、おわりに

フッ酸を含む排水を処理し、フッ酸を回収する技術は、主にフッ化カルシウムの形で回収し、硫酸と反応させてフッ酸にするか、フッ酸を直接回収する方法が行われている。また排水といってもフッ酸以外の不純物によって方法が異なってくる。ここでは、現行法をいくつか述べ、次いで最新の特許からフッ酸回収に関する情報を提供した。

最後に、本テーマはDRK-NETの加藤正雄博士から提案されたもので、一部資料の提供もいただいた。ここに感謝の意を表します。

文献

1) 清水和彦 資源環境対策 42(3)42-46 2006
2) 栗田工業 特開平11-221579
3) 山本秀樹 化学工学論文集 33(5)415-422 2007
4) 日立プラントテクノロジー 特開2012-130833
5) 三菱マテリアル 特開2012-148265
6) 栗田工業 特開2012-157865
7) セイコーエプソン 特開2012-183457
8) ササクラ 特開2012-55841