「フッ素化合物の酵素合成」

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1、はじめに
フッ素化合物の合成について酵素を触媒として使用する方法が開発されてきた。特に不斉合成については真価が発揮できそうであり、また特殊なポリマー合成においても興味ある研究がなされているので紹介したい。
2、不斉合成
gem-ジフルオロシクロプロパンが液晶の材料として注目されてきたが、伊藤らは、下記に示す螺旋状のgem-ジフルオロシクロプロパンの誘導体を化学-酵素触媒を用いて合成した。1)
Cyclohexane-1,4-dionを出発物資として、2つのジフルオロプロパン環をシクロヘキサンで繋ぐ構造1を化学触媒を用いて合成した。その後、下図に示すように、酵素触媒Lipaseを用いて光学活性体とすることに成功した。各種Lipaseを用いた場合の光学収率などをTable1に示す。光学的にピュアな化合物が得られている。
FT1

本化合物を下図の9e誘導体とすると優れた液晶性を示すことがわかった。
FT2
北爪らは、イオン液体中でフッ素化合物の不斉還元反応を酵素を用いて行い、下表の結果を得ている。2)この反応では水の存在が重要であることがわかった。
FT3
3、位置選択的合成
Steve S.F. Yuらは、下図に示すようなgem-difluorinated octanesの酵素触媒による位置選択的ヒドロキシル化反応を検討し、11が選択的に合成されたことを報告している。3)
FT4
4、機能性材料合成
Y.Poojaliらは、下図に示すシリコーン含フッ素脂肪族ポリエステルアミドをLipaseを触媒として合成した。4)
FT5
Table3に各種組成のポリマーの分子量と分子量分布(PDI)を示す。
FT6
柔軟なシリコーン部位と剛直なフルオロアルキレン部位が主鎖に並ぶユニークなポリマーでOFODの結晶性の白色固体からAPDMSの増加とともにアモルファス性が増大し、粘性液体からワックス体に変化した。
Debuigneらは、下図に示す、糖とフッ素含有カルボン酸とをLipaseを触媒として反応させ界面活性剤を合成した。ここで、CALBはCandida antarctica lipaseである。反応は80℃24時間で40%程度の転化率であった。界面活性能についてはFigure1に示す。低い表面張力と臨界ミセル濃度cmcが得られている。
FT7
5、おわりに
酵素を触媒として用いたフッ素化合物の合成は、温和な条件での光学あるいは立体選択性の高い化合物やユニークな機能材料の創出などの可能性があることが分かった。今後、重要な分野に発展していくことが期待される。

文献
1) Toshiyuki Itoh et al Journal of Fluorine Chemistry 130(2009) 1157
2) Tomoya Kitazume et al Tetrahedron Letters 47(2006) 4619
3) Steve S.F. et al Tetrahedron Letters 52(2011) 2950
4) Yadagiri Poojari et al Polymer 51(2010) 6161
5) Antonie Debuigne et al Carbohydrate Research 346(2011) 1161

発行:ダイキン工業株式会社 化学事業部 ファインケミカル部 WEBマガジン事務局