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フッ素系ナノコンポジット

木曜日, 6月 8th, 2017

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/webmaga/201706.html

1、はじめに
ナノコンポジットとは、ある素材を1-100nmの大きさに粒子化したもの(フィラー)を、別の素材に練りこんで拡散させた複合材料の総称である。ナノコンポジットの形成により、引張強さ、弾性率、熱変形温度等の様々な物性が飛躍的に向上すると定義されている。フッ素系ナノコンポジットとは素材がフッ素樹脂の場合とフィラーがフッ素系である場合がある。フッ素系ナノコンポジットについては、2013年9月号で紹介した。今回はその後、ここ3年に報告された文献を中心に述べる。

2、フッ素樹脂/無機フィラーナノコンポジット
Hossein Mahdavi らは、下記に示すPVDFにCH2=CHCONHC(CH3)2CH2SO3H(AMPS)をRAFT重合によりグラフト重合したポリマーとPMMA-AMPS共重合体とシリカナノ粒子とのナノコンポジットを作製、プロトン交換膜として調べた。1) その結果、シリカナノ粒子10%を含む膜において出力密度34.3mW/cm2(ピーク電流140mA/cm2)が得られた。

幸田祥人らは、長尺カーボンナノチューブによるフッ素樹脂の高機能化を発表した。2) 50~600μmの長さの長尺CNTを用いることにより添加量を1/15~1/1500で導電性、熱伝導性、機械特性が既存部材より上回っていることを確認している。

G. Paruthimal Karaigunan らは、Ni-W/PTFEナノコンポジットのパルス電流沈着による自己潤滑軟鋼表面コーティングを行った。3)PTFEはNi-W合金マトリックスの中に均一に分散していた。ナノコンポジットコートは、適度な微小硬度、平滑表面、低摩擦係数、高撥水性を示し、3.5%NaCl溶液中でNi-W合金コートよりも高い防錆性を示した。

Barbara Ballarin らは、Auナノ粒子/Rf基含有シラン・ITOのコンポジットを作製し、電気化学触媒活性を調べた。4)その作製法は下図の通り。本コンポジットはメタノール電気酸化において非常に高い活性を示した。

Gregory S. Blackman らは、PTFEと多孔性ナノ構造のミクロフィラーアルミナのナノコンポジットを作製し、機械的強化トライボフィルムとした。5) その結果、劇的な低摩擦性が得られた。

Liqun Zhu らは、P(C8FMA/MMA/BA)/シリカナノコンポジットをIn situ ミニ乳化重合で作製し、ガラス上にコートした(下図)。6)

その結果、シリカ含有量がg当たり0~0.15g添加した系で、可視光透過性が向上した。

Qiuyu Zhangらは、下図のチオール末端枝分かれフッ素化シロキサン(T-FAS)/ポリジメチルシロキサンエラストマー(PDMS)/ヒュームドシリカナノコンポジットを作製した。7)

水接触角165±2度、流出角4±1度、1500粒度のサンドペーパーで45KPa荷重100回摩擦に耐えた。これはT-FAS/PDMSによって形成された相互浸透ポリマーネットワーク(IPN)のお陰である。IPNは自己修復性をも発揮する。種々の保護コーティング剤として期待できる。

坂井らは、PTFE(モールディングパウダー)に長尺(50~600μm)CNTを極めて低い量を添加し、導電性、熱伝導性、曲げ強度、圧縮特性を改良した。8)

Yongjin Li らは、PVDF/graphenoxide(GO)/イオン液体コンポジット(NanoPVDF/IL/GO)をキャスト法で作製した。9)GOナノシートがPVDF中に均一に分散、GOナノシート上にはILがPVDFにグラフトした(IL-g-PVDF)が接着しているNanoPVDF/IL/GOはPVDF/GOやPVDF/IL/GOに比べて直流電導度が劇的に低い。理由はナノクラスターによってGOナノシート間の直接接触が妨害されているから。同時にポリマーマトリックスとフィラー間の強い結合のためGOナノシートの電流漏れからの誘電ロスはほとんどない。従って、高い誘電率と低い誘電ロスを同時に有するポリマーコンポジットが作製できたことになる。

3、非フッ素樹脂/フッ素系フィラー
フッ素系フィラーとしては、フッ素化グラフェン、フッ素化MWCNTなどが検討されている。

Jinquing Wangらはフッ素化グラフェン強化ポリイミドコンポジットを検討し、ドライ潤滑、水潤滑、オイル潤滑のいずれにおいてもポリイミドより潤滑性は改善された。但し、水潤滑の場合、水がポリイミドに吸着し劣化させる現象を観察した。10)

Yao Liらは、フルオログラフェン(FG)/ポリイミドコンポジットフィルムが FGにより機械的・電気的・熱的安定性、撥水性、低誘電率を付与できることを見出した。11)マイクロエレクトロニクスや航空宇宙へ応用できるとしている。

A. V. Maksimkinらは、超高分子PE(UHMWPE)/フッ素化MWCNTナノコンポジットをGrinding→Hotpress→Orientation Stretching加工し、 UHMWPEの引張強度21MPaが132MPaに上昇することを見出した。12)従来のフィラーでは40MPaを超えられなかった。フッ素化MWCNTは核生成剤としても働いている。ユニークなラメラ構造がMWCNT表面に形成、応力をかけるとナノフィブリル構造に変化、引張強度の飛躍的向上につながっているとしている。

Zianqing Zhaoらは、多孔質グラフェンフルオキシドとポリイミドのナノコンポジット(GFO/PI)を作製し、誘電性と機械的特性を改善した。13)PEGをフルオログラファイトの剥脱と多孔質発泡を行う挿入剤として使用。多孔質性とGFOナノシートがコンポジットフィルムの誘電率を減じ(2.29)、機械的特性を向上させた(引張強度159MPa、引張モジュラス4.43GPa)。さらにGFO/PIのTgが355℃から388℃に上昇し、熱膨張率は48.7ppm/Kから24.9ppm/Kに減少した。

4、その他のフッ素系ナノコンポジット
Thayza Christina Montenegro Stamfordらは、コロイド状キトサン/銀ナノ粒子/フルオライドナノコンポジット(CChAgNpFNc)を銀ナノ粒子の形とサイズを変化させて作製した。その方法はキトサン溶液にAgNO3を加え、NaBH4溶液とNaFを加える方法。CChAgNpFNcは黄色ブドウ球菌、大腸菌、フェカリス菌、緑膿菌、カンジダ・アルビカンズに対する抗菌活性がある。14)

5、おわりに
フッ素系ナノコンポジットの最近の状況を概観した。フッ素ポリマーとしては、PTFE、グラフト化したPVDF、Rf基含有アクリル樹脂、Rf基含有シリコーンなど多彩であり、シリカナノ粒子、Auナノ粒子、CNTなどとのナノコンポジットにより、機械的強度、導電性、熱伝導性などが改善されている。また、フッ素化グラフェン、フッ素化CNTなどのフッ素系フィラーとポリイミドなどのエンジニヤリングプラスチックとのナノコンポジットが検討されており、低誘電性、撥水性などの機能を付与して付加価値を高めている。フルオライドナノコンポジットにより抗菌活性を付与した例も紹介した。今後さらに裾野を広げ、発展していくと期待している。

文献

1) Hossein Mahdavi et al Chemical Engineering J.284(2016)1035
2) 幸田祥人他 プラスチックス2015.9 16-20
3) G. Paruthimal Karaigunan et al Applied Surface Science359(2015) 412-419
4) Barbara Ballarin et al Applied Surface Science 362(2016)42-48
5) Gregory S. Blackman et al Tribology International 95(2016)245-255
6) Liqun Zhu et al Progress in Organic Coatings 95(2016) 1-7
7) Qiuyu Zhang et al Composite Science and Technology 137(2016)78-86
8) 坂井徹他 型技術31(9) 50-55 2016
9) Yongjin Li et al Composite Science and technology 138(2017) 98-105
10) Jinqing Wang et al  Composite : Part A 81(2016) 282-288
11) Yao Li et al Composite : Part A 84(2016) 428-434
12) A. V. Maksimkin et al Composite : Part B94(2016)292-298
13) Zianqing Zhao et al Materials and Design 117(2017) 150-156
14) Thayza Christina Montenegro Stamford et al International Journal of Biological Macromolecules 93(2016)896-903