Archive for 11月, 2015

余談・科学の最近の進歩

月曜日, 11月 16th, 2015

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/webmaga/201511.html

1、はじめに
2006年以来、8年半毎月フッ素関連のトピックスを紹介してきた。そして、株式会社FT-Netの経営に携わる傍ら、個人で「松尾文化研究所」なるものを運営している。これも2006年以来続けていて、こちらは週に1,2回随筆風の文章を書いてブログとして下記のURLに投稿していて、既に550回を超えている。

http://blogs.yahoo.co.jp/mamatsuo3304

内容は文学、クラシック音楽、美術、科学が中心。書籍や演奏、展覧会などで経験したことを綴っている。

今回は、その中から科学の中で物理学、生物学、宇宙学に関する最近の進歩についてのブログ原稿からまとめてみた。

2、物理学の最近の進歩
ノーベル化学賞を受賞したプリゴジン(1917‐2003)の「確実性の終焉 時間と量子論、二つのパラドックス解決」は最近の物理学の進歩を記すものである。

ニュートン力学を主体とする古典力学や量子力学が時間を考慮に入れない平衡状態を扱うものであったのに対し、自然とその申し子である人間は非平衡状態にあり、その状態を扱うことで現実を理解できるとの信念が出発点にある。そして、キーになるのは時間の矢なのである。そして、ポイントは確率論であり、統計集団である。確かに我々の周りを眺めてみると古典力学は理想状態の概念であることは明らかなことは分かっていた。量子力学もアインシュタインの相対性理論も時間の矢つまり一方的な時間の流れは取り入れられていない。プリゴジンがそこに疑問を持ったのは1945年頃、その後、非平衡の科学は発展を遂げていった。勿論、以前にも非平衡の物理学は存在した。最も典型的なのが熱力学第二法則である。エントロピーは増大する、これは宇宙に生じる不可逆過程に基づいている。しかし、ニュートン力学と量子力学の成功は平衡の世界を植え付け、非平衡の世界こそ現実なのにその状態を追求しようとする雰囲気はほとんどなかったのである。古典力学の枠組みの中で不安定性の果たす役割は何だろうか。ここは完璧に理解できなかった。但し、古典力学で用いられてきた軌道記述は熱力学とは両立せず、平衡状態においても非平衡状態においても統計的アプローチを必要とする。量子力学の波動関数も微粒子の世界を描くと言う点で古典力学とは異なるが、やはり同じ状況にある。つまり前者は決定論的法則であり、時間は未来も過去も等価なのである。しかし、現実を見た時、過去と未来は同じであろうか。明らかに違うと言わざるを得ない。

138億年前にこの宇宙はビッグバンにより誕生した。これまでの物理学は時間もここから始まったとする。しかし、その前に時間は存在しなかったのであろうか。プリコジンは、時間は永遠の昔からあり、永遠に続くとしている。これこそ現実である。そして、発展は平衡状態とは相反する。ダーウィンは19世紀に生物の進化論を唱えた。これも古典物理学に反する。そして、20世紀後半、非平衡過程の物理学は発展し、新しい科学が誕生した。自己組織化や散逸構造と言った新しい概念が導入された。非平衡過程の物理学は、一方的な時間(時間の矢)がもたらす効果を記述し、不可逆性に対して新しい意味を付与した。プリコジンは時間の矢を持たない平衡状態の物質は盲目であり、時間の矢と共に物質は開眼すると言っている。

本書は、古典力学と量子力学を改定して、非平衡過程の物理学との整合性を図っている。ポイントは確率論であり、統計的集団であり、さらにポアンカレの共鳴理論が重要であることを主張している。しかし、この本だけでは到底そこまで理解することは困難なので、ここではこの記述だけにして、兎も角今後の物理学が非平衡状態を取り扱い、時間を考慮に入れ、現実世界を真に理解できるものとするべく発展していく状況にあることを述べておくにとどめる。

3、生物学における最近の進歩
「自己組織化と進化の論理」は生理学者で医者のカウフマンの著作。ダーウィンのランダムな突然変異と自然淘汰による選別と言う進化論に真っ向から挑戦する内容。そこには非平衡の物理学も登場して彼の考え方を支援する。

まずは、ダーウィンの考え方だと生命の誕生に地球誕生から40億年では時間が短すぎる。まして、人間が登場することなど余程の偶然が重ならないとできない。そこには見えざる手による自己組織化という考え方が必須であると言う。

ダーウィン主義の継承者である生物学者のほとんどが「個体発生の秩序は、進化によって一片一片つなぎ合わせて作られた手の込んだ機械がこつこつと働いて生み出したものだ」と考えているが、カウフマンは「個体発生で見られる美しい秩序のほとんどは、驚くべき自己組織化の自然な表現として、自発的に生ずるものである」とする。そして、「こうした自己組織化は、非常に複雑で一定状態を維持するような調節的なネットワークにおいてよくみられるものである」と言う。さらに「生命は、カオスと秩序の間で平衡を保たれた状況に向かって進化する。つまり、生命はカオスの縁に存在する」とする。水には、固体の水、液体の水、水蒸気と言う3種類の相があるように、複雑適応系にも、例えば接合子から成体への成長をコントロールするゲノムのネットワークは、凍結した秩序状態、気体的なカオス状態、秩序とカオスの間のある種の液体的な状態の、主に三つの状況において存在できる。そして、「ゲノムのシステムは、カオスへの相転移する直前の秩序状態にある」と言う考え方は魅力的だと言う。カオスの縁の近辺にあるネットワークが複雑な諸活動を最も調和的に働かせることが出来るし、また、進化する能力を最も兼ね備えているのである。

生物学における非常に大きな謎は、生命が生まれてきたことであり、我々が目にする秩序が生じてきたことである。我々は圧倒的倍率を勝ち抜くことによって生じた存在ではない。宇宙の中にしかるべき居場所を持つ存在であり、生じるべくして生じた存在である。

生命が生まれたのは、自己触媒作用を営む物質代謝を形成するために、分子が自発的に集合した時である。

複雑な系がカオスの縁、あるいはカオスの縁の近傍の秩序状態に存在する理由は、進化が系をそこに連れていったからである。

また、ウイルスと抗体のように互いに進化し合う共進化は進化にとって重要であると主張している。

さらに、綿密に色々な角度から自己組織化について検証している。例えば、ボタンを並べておいて、ランダムに拾い上げ、それを糸で結ぶ。その動作を繰り返すと、糸の数がボタンの数の半分のところで相転移が起こり、巨大な数のボタンが糸で結ばれて釣りあげられる。つまり、生命の誕生もそのような相転移が起こったからであり、それは偶然ではなく起こるべくして起こったのである。そして、自己触媒作用こそが細胞を創り出した基本なのである。

こうした考え方は、将来ニュートン力学や量子力学のような理論化がされると期待されるが、まだそれは成し遂げられていないが、必ずや将来成し遂げられ、その暁には、全体が見渡せ、人間の宇宙における立ち位置が分かってくると期待していると結んでいる。まさに非平衡の物理学の目指すところと一致しており、壮大な世界観が開けてくるような気がした。

4、宇宙学における最近の進歩
村山斉氏の「宇宙は本当にひとつなのか」「この宇宙に存在する私の起源に迫る」が最近の宇宙学の進歩を実に分かりやすく書いている。

まずは、宇宙に星や銀河は宇宙全体のわずか0.5%、原子が4.4%、ニュートリノは0.1~1.5%しかなく、暗黒物質が23%、暗黒エネルギーが73%と訳の分からないものが大半を占めると言うことに度肝を抜かれた。暗黒物質は原子ではないと言う。また暗黒エネルギーはブラックホールではないと言う。それでは何なのか。現在解明中で将来必ずや突き止められるとのこと。
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それから、我々が存在している世界は三次元+時間の四次元の世界であるが、さらに多次元の世界が存在しているという。確かに数学の世界では多次元は当たり前のことではあるが、現実の世界では全くイメージが湧かない。暗黒物質やエネルギーと関係しているかもしれない。また、他の宇宙も存在していることを示唆する。だから「宇宙に何故我々は存在するのか」と言う疑問に素直に向き合うことになる。実に明快な過程である。それは138億年前のこの宇宙の誕生に始まる。実はビッグバンの前にインフレーション期があったと言う。誕生したばかりの宇宙は原子よりはるかに小さい存在であったが莫大なエネルギーを秘めていて、わずか1秒後にインフレーションを起こし、数ミリの大きさに広がる。その後大爆発のビッグバンが発生するとのこと。インフレーション理論は宇宙が均一であることを説明していると言っていて1981年に日本の佐藤克彦氏が唱えたと言う。つまり数ミリ程度に膨張したからアイロンがけでしわを伸ばすことが出来たと言うわけである。但し、皺は完全に伸ばしきれず、残った部分があり、それが星や銀河の誕生につながったとのことである。

その一方で、物質と反物質との問題を指摘している。この世には物質と反物質があり物質と反物質が出会うと消滅すると言う。例えば反物質でできたアイスクリームを食べようとするととんでもないことが起こる。それに触れた途端手は無くなってしまうと言うわけだ。宇宙誕生の頃は物質と反物質が充満していたが、わずかに物質の方が多かったために星や銀河が誕生し、人類誕生につながったと言うことである。これはあのノーベル物理学賞の小林氏と益川氏が提唱したことであることは有名である。

そして、この誕生後の発展にはこれまたノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏や梶田隆章氏のニュートリノが重要な役割を演じているとのこと。

このとんでもない世界を村山先生は明快に説明しているのだが、結局何が分かったのかと改めて問うてみると、何も分かってはいないではないかと絶叫したくなる。つまり、何も実感できないのである。それでも科学は厳然と宇宙の解明に突き進んでいる。もしかしたら現在の人類よりさらに高度な知能を持った生物が登場し、それを解明していくかもしれない。あるいはこの宇宙には既にそういう生物が存在していて解明しているかもしれない。いずれにしても科学は日進月歩進歩していることをまたまた実感できたひと時であった。

5、おわりに
そのほか、わがブログで紹介した数学における「フェルマーの定理の証明」と「ポアンカレ予想の完成」を最近の科学の進歩として付け加えたい。以上、フッ素関連トピックスとは全く異なる世界を紹介したが、最後に本メールマガジンがますます発展されることを期待して筆を置きたい。