Archive for 8月, 2014

「PVDF」

月曜日, 8月 4th, 2014

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/webmaga/201408.html

1、はじめに
PVDFおよびその共重合体は、誘電率が最も高く、圧電、焦電、強誘電性を含む電気活性があり、圧電材料や出力デバイスなどのエレクトロニクス分野で使われている。一方、PVDFは熱的安定性、化学的安定性が高く、機械特性に優れ、耐久性が抜群であるため分離膜の分野で使用されている。本稿では、それぞれの分野における状況、動向について、最新の総説を中心に述べる。

——————————————————————————–

2、エレクトロニクス用途1)
PVDFには、下図に示すように、α型、β型及びγ型の3種の結晶構造が存在する。その中でβ型は、電気陰性度が最高のF原子が一方に並ぶので、双極子モーメントが、単位胞当り8×10-30Cmと非常に高いが、F原子が一方と反対方向にそれぞれ同じように並ぶα型は0であり、γ型も低い。従って、圧電性、焦電性、強誘電性の高いのはβ型である。
FT1
次いで、β型の製造・加工法であるが、α型の機械的延伸、溶融結晶化、溶媒キャスト法、共重合法、フィラーとのコンポジットなどがある。

まずは、延伸法であるが、この場合、高圧、外部電場、超冷却などの条件が必要である。開発例は多くあるが、延伸においては、温度と延伸比Rが重要だとしている。温度は80℃から140℃、Rは1から5において検討され、温度は80℃から90℃、Rは4.5から5が最適であり、抗電界、残留分極、飽和分極を増大させるとβ型が増大する。但しこの方法では圧電性や耐熱性が不十分である。理由は結晶のサイズが小さいからだとしている。

次いで、高圧での溶融結晶化である。下図に示すように、温度と圧力を変えた場合、a‐a’のようにα型結晶カーブとクロスさせるような温度と圧力を選ぶとα型のみが得られ、 c-c’のような場合はβ型のみが得られる。b‐b’の場合はα型とβ型が共存する。
FT2
さらに溶媒キャスト法であるが、電界紡糸による方法が述べられている。この場合、電圧と回転コレクタの回転速度がβ型のコンテントに影響する。さらに、アセトンのような低沸点溶媒を加えるとβ型のコンテントが上がった。また、PVDFのアセトン/DMF溶液をシリコンウエハー表面にスピンコートするとβ型がメインのフィルムが得られた。その他、PVDF溶液からの沈着LB膜の作製、DMF溶液を70℃以下で結晶化させることによる多孔質なPVDFの作製とさらに温度を140-160℃に上げて孔を除く方法などがある。

また、共重合法であるが、共重合することによりPVDFとしてはβ型の方が安定であり、結果としてβ型の製造法の一つになっている。ポリ(フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン)P(VDF-TrFE)、P(VDF-CTFE)が紹介されているが、その圧電性は、いずれもPVDFと同等以上の圧電性を有していた。

最後に、フィラーとのコンポジットであるが、これもフィラーを導入することによりβ型構造が有利になり、圧電性が増大している。カーボンフィラーの場合の原理は下図に示すように水素側がカーボンと相互作用を持つためβ型が有利になる。
FT3
次いで、PVDF特にナノコンポジットを中心とした応用が取り上げられている。PVDFは圧電性や焦電性において、強誘電性セラミックには劣っているが、誘電率が低い、熱伝導度が低い、ソフトで可撓性がある、インピーダンスが高い、比較的低コストであるなどの利点を有していて、主にセンサー、アクチュエーター、電池、フィルター、化学兵器の防護、磁気電気体、最近ではバイオ医療分野で使用されている。この中で磁気電気体は、P(VDF-TrFE) にCoFe2O4のナノ粒子を分散させたものが高い磁気電気効果を有していて、磁気異方性センサーやアクチュエーターとして期待される。次いで、圧電性の向上を狙った高配向繊維状BaTiO3とPVDFのコンポジットやPZTおよびCNTとPVDFのコンポジットが紹介され、圧電性センサーやアクチュエーターとして期待されている。さらに、PVDFとLiBF4のコンポジットがリチウムポリマー電池の電解質として期待されている。また、燃料電池の水素源をNaBH4の加水分解により得る方法においてY-ZeoliteとCoCl2をドープしたPVDFナノファイバーのコンポジットが優れた触媒であることが述べられている。

——————————————————————————–

3、膜用途2)

3.1 応用
PVDFは高耐熱性、化学的安定性、膜形成能を有していて、膜蒸留、ガス分離、汚染物質除去、バイオエタノール回収、LiBのセパレータ、コンポジット膜作製の支持体などに応用されている。

まずは、水処理におけるろ過膜であるが、精密ろ過(MF)、限外ろ過(UF)、膜分離活性汚泥(MBR)がある。MFは0.05-0.1μmから10μmの粒子を分離すし、水の濁度を下げる。熱誘起相分離(TIPS)法により作製、機械的強度が高い。パイロットスケールの濁度、15分SDI値、CODにおいてRO膜に匹敵する値が得られており、低塩素濃度水での逆洗で簡単に元に戻るとの報告がある。UFは孔径が0.01‐0.1μmの膜である。水溶液などからウイルス、乳化オイル、金属水酸化物、コロイド、たん白質などを分離する。一般的には非溶媒有機相分離(NIPS)法で作製されるが、溶媒を使った作製法、中空繊維膜法、電気紡糸法などが紹介されていて、タンパク質の分離などに使用されている。MBRは通常の生物学的排水処理と膜分離とを組み合わせたもので、活性汚泥法などの代替として魅力あるものとしている。

次いで、二つの相の接触を維持させる膜接触器であるが、疎水性のPVDF膜がよく使用され、膜蒸留、酸性ガスの吸着、ホウ素や揮発性有機物の分離などの用途がある。下図に酸性ガスの吸着についての原理概念図を示す。PVDF膜接触器の孔径や気孔率により酸性ガスを分離できるとしている。
FT4
さらに、浸透気化によるバイオ燃料の回収、コンポジット膜作製時の支持体、LiBのセパレータなどの用途が紹介されている。

3.2 PVDF膜の親水化

PVDFによる水処理において汚染は課題である。これはタンパク質などが疎水性の表面に吸着しやすいからで、親水性改質剤を添加する必要があった。まずは、親水性改質剤のブレンドによる導入法がある。改質剤としては、PVA、PEGやポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマーがあるが、PVDFに対する相溶性が乏しく、機能が発揮されなかった。そこで、スチレンとPEGMAとのブロック共重合体やPVDFにポリアクリロイルモルホリンなどをグラフト重合したポリマーなどが開発されている。また、TiO2やSiO2などの無機物を添加する方法も検討されている。次いで、PVDF膜の表面改質の方法が述べられている。一つは物理的な表面改質法で、親水性ポリマーあるいは両性ポリマーのコーティングと沈着である。これにより耐汚染性は改良されたが、水分流動率の低下や膜強度の低下などの課題も生じている。二つは化学的な表面処理法である。膜表面を化学処理あるいは放射線処理して親水性モノマーをグラフト重合する。例えば、電子線照射アクリル酸のグラフト重合において、グラフト率18%で水の接触角35度を得ている。しかも共有結合しているため、持続性は永久的だが、PVDFの分解を伴うので実用化は制限されている。

3.3 PVDF膜の疎水化

PVDF膜の問題は濡れ性にあり、物質移動を妨げている。従って、表面の疎水化を強めることが行われている。即ち、PVDF表面の水の接触角は90度であるが、さらに相分離させて118.5度に、PTFEとのブレンドにより114.5度に、そして、PVDF-HFP共重合体化することにより125度まで上げた例が示されている。また、表面粗面化については、ナノSiO2あるいはTiO2のコーティング、プラズマ処理、アルカリ処理などにより、表面を粗面化して超撥水表面を得ている。

——————————————————————————–

4、おわりに

PVDFに関しては特許やその他の文献は多数報告されており、その関心の高さが伺われる。特許では主に、圧電性の向上を狙ったもの、圧電性を利用したエネルギー変換素子、光音響診断装置、積層型発電体、超音波振動子などの用途特許が目に付いた。また、文献では、グラフェンとの複合体、電気紡糸ナノファイバー、PVDF膜の孔制御、PVDF膜表面の疎水化、耐汚染性の改良、中空糸の製造法などが見られた。

文献
1) S. Lanceros-Mendez et al Progress in Polymer Science 39(2014) 683-706
2) Yi-ming Cao et al Journal of Membrane Science 463(2014) 145-165