Archive for 4月, 2013

「超撥油性」

月曜日, 4月 15th, 2013

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201304/#topic01

1、はじめに
超撥油性については、このシリーズで2012年2月号において「超撥水撥油表面」と題して取り上げた。超撥水性に関してはフッ素系以外の材料でも達成可能であるが、フッ素の特徴を際立たせるのは超撥油性表面であり、最近、総説をはじめとしてその関連の文献をよく目にする。本稿ではその総説を中心に最新の文献を紹介する。

2、生体に学ぶ超撥油性およびスマート物質に関する総説1)

生物に学ぶという観点での超撥油性およびスマート物質に関した総説である。超撥水性物質については、生体物質において多く見られるが、超撥油性については稀有である。ここでは、まず濡れ性についての理論的な背景と超撥油性物質の位置づけを行い、超撥油・超撥水表面、撥油・親水表面、スマート表面、についての最近の情報をまとめている。さらに超撥油性表面の応用、水中での超撥油表面について言及している。但し、水中での超撥油性表面にはフッ素は関与せず、魚の鱗のような親水性表面が述べられているのでここでは省略する。

理論的な背景としては、粗い表面を考慮に入れたWenzelモデル、Cassie-Baxterモデルがあり、超撥水性を説明してきたが、超撥油性(有機液体の接触角150℃以上)については、最近の修正Cassie-Baxterモデルがある。これは、Wenzelモデルの考え方を取り入れ、さらに粗表面構造のデザインを重要視したもので、生物にヒントを得た図1のオーバーハング構造(赤の部分が固体構造、青の部分が液体)や図2のリエントラント構造が提示されている。超撥油性の場合、オイルよりも低い表面張力が必要で、フッ素系ポリマーのみがこの要求を満たす。
FT1

次いで、超撥油・撥水表面に対するアプローチについて13の方法を述べている。

(1)セルロースに原子移動ラジカル重合(ATRP)でグリシジルメタクリレートを重合し、さらにC7F15COClを処理した系でヒマワリ油の接触角が144度と高い撥油性を示した。
(2)PMMAと末端フッ素ウレタンポリマーを一段注型によりコーティングした。生成フィルムはミクロの結節から成り立っていて、超撥水・超撥油性を示した。
(3)ナノ多孔性ポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)をCuCl2によるCVDプロセスで作製し超撥水・撥油性を達成。
(4)多面アルミナナノワイヤーをパーフルオロアルキルシラン(FAS)のヘキサン溶液にディッピングで達成。
(5)ポリ(ε-カプロラクトン)をエレクトロスピニングした後にパーフルオロアルキルエチルメタクリレート(PFEEMA)をコートして達成。
(6)金アシスト無電解エッチングにより多孔質シリコンフィルムを作製し、フッ素系ポリマーをコーティングして達成。
(7)交互積層法(LBL)によりシリカナノ粒子やポリスチレンナノ粒子を作製し、フルオロカーボン分子で表面改質。
(8)ポリ[2-(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート](PFOEMA)とポリ[3-(トリイソプロピルシリル)プロピルメタクリレート(PIPSMA)とのブロック共重合体(PFOEMA-b-PIPSMA)を作製し、ゾルゲル法でテトラエトキシシランから合成したシリカ粒子にコーティング。
(9)垂直配向カーボンナノチューブを石英ガラス上で金属フタロシアニンを熱分解させて作製し、フルオロアルキルシランをコート。
(10)末端フルオロアルキル基、ビフェニレン含有ビニルトリメトキシシランオリゴマーナノコンポジットをゾルゲル法で作製して達成。
(11)亜鉛、アルミニウム、鉄、ニッケルや亜鉛-鉄合金をパーフルオロカルボン酸のエタノール溶液に浸漬して達成。
(12)パーフルオロオクタン酸銅の懸濁液をスプレーコーティング。
(13)ガラスに蝋燭の煤をデポジットさせて鋳型を作り、それにフルオロカーボンをCVDでコーティングする。

次いで、撥油性―親水性表面についていくつかの方法を列挙している。

(1)パーフルオロアルキル末端のポリエチレングリコールを刷毛で塗る。
(2)高分子電解質とフッ素系界面活性剤の錯体、例えばアクリル酸プラズマポリマーの薄膜にフッ素系カチオン性界面活性剤で錯形成させて達成。
(3)フルオロアルキル化フリップフロップ型シランカップリング剤をガラス表面にコーティング。このシランカップリング剤はフルオロアルカノイルパーオキサイドとトリメトキシビニルシランおよびアクリロイルモルフォリンとの反応により作製する。
(4)パーフルオロオクタン酸イオン-ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)をナノ粒子ポリマーにスプレーコーティングする。
(5)ポリスチレン-モンモリロナイトをパーフルオロポリエーテルアンモニウム塩で処理したものをスピンコートする。

さらに、スマート表面について述べている。スマート表面とは可逆的超撥油/超親油性および自己修復性のことで、前者については下記の7方法が挙げられている。

(1)アルミニウム表面でのカウンターイオンをパーフルオロオクタン酸イオン(PFO) とドデシルスルホン酸ナトリウム(DYS)の連続的に交換することにより達成。即ちPFOとDYSを交換することによりヘキサデカンの接触角が160度(超撥油)と0度(超親油)と変わる。
FT2
(2)ナノネイルあるいはハニカム構造の超撥油伝導性コアと液体との間に電圧をかける。
(3)超撥油TiO2にUV照射
(4)ニッケルミクロネイルを超撥油処理して磁場をかける。
(5)銅表面をフッ素化して超撥油表面を作製後、プラズマ処理する。
(6)超撥油表面をエッチングなどで形態を変える。
(7)ポリエステル布を10%フルオロデシルポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(FD-POSS)/90%ポリエチルメタクリレート(PEMA)に浸漬、PEMAのTg以上の温度にする。後者の自己修復性については、FD-POSS/フルオロアルキルシランをコートした表面をUV照射したり、洗濯したり、摩擦すると超撥油性が低下するが、加熱することによりFD-POSSが移動して元に戻ることが述べられている。その場合、極性グループが導入されて超撥油性が低下するとしている。

次いで、超撥油性表面の応用について言及している。以下に列挙する。まずは、超撥水・撥油表面の応用例、(1)防カビ:C6F13C2H4Si(OET)3/銀ナノ粒子処理した綿布(2)反射防止:FASで処理したSiO2フィルム(3)防錆:PFOEMA-b-PIPSMAをコートしたSiO2(4)水や油の上を移動できるデバイス:フッ素化ナノ構造エアロゲル(5)電界効果トランジスタ(FET):超撥水撥油処理した金ナノ粒子(6)防熱:パーフルオロポリエーテル処理セラミックス(7)オイルキャプチャー:パーフルオロデシルトリクロロシランで処理した表面(8)オイル輸送:Cu(OH)2ナノ構造表面にパフルオロチオレートを処理(9)セルフクリーニング:フッ素化自己組織化単層を有するシリコン。

次いで撥油・親水表面の応用例については、(1)防カビ(2)防霧/セルフクリーニング(3)水/オイル分離の3例を挙げている。

最後に、こうした超撥油表面の作製は、最初は生体の模倣であったが、現在ではそれを超えた状況にあるとしている。そして、スマート表面が最も興味深く、センサー、デバイス、自己修復物質など、幅広い応用ポテンシャルがあると結んでいる。

3、その他の最近の文献から
Bormashenkoらは、LDPEフィルムの表面をハスの葉に似せたエンボス加工後にCF4プラズマ処理して、水の接触角180度、ジメチルスルフォキサイド142度、CH2I2143度の超撥水・高撥油性を得ている。2)
また、白鳥らは、TiO2ナノ粒子をアクリル酸、さらにパーフルオロアルキルメタクリレートの分散水溶液のオール水系で処理し、ガラスに塗布することによりヘキサデカンの接触角145度の高撥油表面を得た。3)
さらに、McKinleyらは、C8F17C2H4基で修飾したポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)をスプレイコートして、表面のミクロ構造を変え、超撥油表面(ジメチルスルフォオキサイド、ヘキサデカン)を達成している。4)

4、おわりに
超撥油性に関する中国の優れた総説を中心に最近の文献をまとめてみた。先にも述べたが、超撥油性はフッ素系でないと達成できない。そして、超撥水性よりもさらに興味深い現象であり、今後の応用に期待がかかる。ただ、超撥水性表面において応用展開が遅れている耐久性については超撥油性にも同じことだと思う。総説では、自己修復性やセルフクリーニングが述べられているが、これが達成できれば、耐久性の課題解決につながるのではないかと考えている。

文献
1) Kesong Liu et al Progress in Materials Science 58(2013) 503-564
2) Edward Bormashenko et al Applied Surface Science 270(2013) 98-103
3) Seimei Shiratori et al Applied Surface Science 263(2012) 8-13
4) Gareth H. McKinley et al Polymer 52(2011) 3209-3218