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「含フッ素アゴニストおよびアンタゴニスト(拮抗剤)」

木曜日, 10月 25th, 2012

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201210/

1、はじめに
アゴニストとは、生体内の受容分子に働いて神経伝達物質やホルモンなどのメッセンジャーと同様の働きをして、結果としてそのメッセンジャーの働きを強めることになる薬である。また、アンタゴニストとは生体内の受容体分子に働いて神経伝達物質やホルモンなどメッセンジャーの働きを阻害する薬のことである。今回は、アゴニストおよびアンタゴニストとしての含フッ素医薬について最新の情報を紹介する。

2、アゴニストおよびアンタゴニストの機構1)
アゴニストは生体分子と比較的似た構造をしていて、素早く受容体に結合して刺激を与える。
アンタゴニストの阻害機構には、「競合阻害」「非競合阻害」の二種類がある。
「競合阻害」の場合、下図に示すようにアンタゴニストは受容体と結合する。それ自体では全く効果は表さないが、メッセンジャーが受容体に結合できないので情報を細胞に伝えることができず、働きを阻害する。
FT1

「非競合阻害」では、アンタゴニストが受容体に結合して、たん白質の構造を変化させ、受容体の形を変えてしまう。その結果メッセンジャーは受容体に結合しにくくなり、その働きが阻害される。

3、含フッ素アゴニスト
特許的には、田辺三菱製薬が下記の合成法で合成した含フッ素ピロロ[2,3-d]ピリミジン化合物をG蛋白受容体であるGPR119受容体アゴニストとして提案している。2)本受容体は膵臓のインシュリン産生β細胞および腸管細胞で高度に発現している受容体である。ヒトGPR119発現CHO細胞に本含フッ素化合物を添加し、GPR119受容体に対する50%効果濃度EC50を求めたところ1μMより低くアゴニストとして活性が高いことが分かった。
FT2

また、岡山大学は、下記の含フッ素化合物を合成し、ステロイドホルモン受容体スーパーファミリーに属する核内受容体の一つであるペルオキソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)ςに選択的なアゴニストとして機能することを確認した。3)即ち、PPARςに対するEC50は11μMであった。
FT3

仏のナント大学のグループは昆虫から得たニコチン性アセチルコリン受容体(nAchR)のアゴニストとして、下図に示す含フッ素キヌクリジンベンズアミドLMA10203を検討している。4)まず、ゴキブリの背の神経節中央にある不対の(DUM)神経細胞のα‐ブンガロトキシンに非感受性のnAchRのアゴニストとして作用できることが分かった。つまり、ニコチンを用いるとゴキブリのDUM神経細胞上に内部電流を誘導することができた。(-10mVの保持電位で1mMのLMA10203に対して-0.23±0.01nA) 
FT4

4、含フッ素アンタゴニスト
特許的には、イーライリリーが、がんの治療に有用な四置換ビリダジンヘッジホッグ経路(ヘッジホッグシグナル伝達経路は、細胞の分化及び増殖を導くことにより、胚のパターン形成、及び成体組織の維持において重要な役割を果たしている)アンタゴニストとして下記のフッ素化合物を提案している。5)
FT5
FT10
また、エフ.ホフマンーラロシュは、バソブシレン介在受容体アンタゴニストとして下記の化合物を提案している。6)つまり、バソプレシンは、主に視床下部の室傍核によって産生される9アミノ酸ペプチドであり、末梢において、神経ホルモンとして作用して、血管収縮、グリコーゲン分解及び抗利尿作用を刺激するが、有害なオフターゲット関連の副作用を起こすので、本化合物はそれを抑制する。
FT6

また、第一三共は、気道収縮作用、炎症作用、咳、粘液分泌に関与しているニューロキニンNK1、NK2受容体及びムスカリンM3受容体拮抗作用剤(アンタゴニスト)として、下記の含フッ素化合物を提案している。7)
FT7

さらに、オプコヘルスは、抗うつ薬の精神薬理作用に関与するセロトニン受容体のうち、唯一のイオンチャンネル共役型受容体である5HT-3受容体アンタゴニストとして下記の含フッ素化合物の塩を含有する薬学的処方物を特許出願している。8)
FT8

スロヴェニアのJane Ilasらは、下記の化合物を合成し、血小板の糖たん白質IIb/IIIa受容体アンタゴニストとしての活性を調べた。9)その結果、Rが下記右の場合にアンタゴニストとして最も高い活性を示すと同時に抗血栓性においても高い性能を示した。ここで、R’はH。
FT9

5、おわりに
含フッ素生理活性物質におけるフッ素の役割は、親媒性による生体への取り込まれやすさ、F原子の高い電気陰性度による周辺官能基の活性化、そして、F原子が小さいことによるミミック効果などである。本稿で取り上げた含フッ素アゴニストおよび含フッ素アンタゴニストとしてのフッ素の役割は、受容体との素早い結合であり、さらに前者においては生理活性の向上を伴うと考えられる。

文献・特許
1) http://kusuri-jouhou.com/chemistry/kousoan.html
2) 田辺三菱製薬 特開2012-20973 
3) 岡山大学 特開2010-275270
4) Steeve H.Thany et al Insect Biochemistry and Molecular Biology 42(2012) 417-425
5) イーライリリー 特表2012-509263
6) エフ.ホフマンーラロシュ 特表2012-510441
7) 第一三共 特開2012-126656
8) オプコヘルス 特開2012-167125
9) Jane Ilas et al European J. of Medicinal Chemistry 50(2012)255-263