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「18F放射性トレーサー」

水曜日, 4月 13th, 2011

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201103/#topic01

1、はじめに
18Fは、その低い陽電子放出エネルギー、サイドエミッションがないこと、および適切な半減期のために、最も広く使用されているPET(陽電子検出を利用したコンピューター断層撮影技術)同位体の1つで、18Fを含んだ18F-フルオロ-デオキシ-グルコース(18F-FDG)などの放射性トレーサーが種々開発されている。PETシステムによる画像診断法は、癌診断あるいは脳機能診断に有用である。
ここでは、最新の特許・文献から18F放射性トレーサーについてまとめてみた。

2、アミノ酸ベースのトレーサー
アミノ酸ベースのトレーサーは腫瘍代謝イメージング剤として臨床適用に有用である。Hank F. Kung らは、下記の二つの新しいフェニルアラニン誘導体FEPとFPPを合成し、現在臨床に使われているFETと比較している。1)
FT1
FEPとFPPの合成は下記のように行った。収率は11~37%、鏡像異性純度90%、比放射能は21~69GBq/μgであった。
FT2
細胞摂取については、下図に示すようにFEPが高い値を示した。そして、ネズミを使っての生体内評価では、有用なトレーサーであることが分かった。
FT3
また、2-[18F]fluoro-L-phenylalanineは人間の生体内血液脳関門での中性アミノ酸運搬の研究における有用な放射性医薬である。他方、2-[18F]fluoro-L-tyrosineは他のハロゲン化アミノ酸と異なり、殆ど定量的にたん白質に取り込まれ、生体内タンパク質合成の造影に対するトレーサーとして有用である。いずれも正常の組織と腫瘍とを区別することが出来るので、それらの摂取のPET研究は脳腫瘍の病性鑑定に対する臨床価値がある。これらの合成法は、いずれも[18F]F2、[18F]AcOFを用いて、L-phenylalanineやL-tyrosineの直接フッ素化により合成されてきたが、収率が低いなどの問題点があった。Johannes Ermertらは、下記に示すようなこれらのエナンチオ特異的な新規合成法を開発した。2)つまり、出発物質に下記に示す1a、1bを用いて、同位体変換を行い、Rh(PPh3)3Clにより脱カルボニル化反応を行い、最後に加水分解してアミノ酸を得るという3段階法である。収率はそれぞれ43%と49%、エナンチオマー純度は94%と高く、PETによる臨床試験に十分有効であった。
FT4
3、コリン系トレーサー
コリン放射性トレーサーは腫瘍学における臨床PET診断に広く用いられている。2-[18F]-2-デオキシ-D-グルコースは高いバックグランドの取り込みを示す。Eric O. Aboagyeらは、新規なコリン系、 [18F]fluoro-[1,2-2H4]choline を合成し、PETイメージングプローブとしての評価を行った。3)下記に[18F]Fluorocholine、[18F]fluoro-[1,2-2H2]choline、[18F]fluoro-[1,2-2H4]cholineの合成法を示す。
FT5
過マンガン酸カリやコリンオキシダーゼを用いて酸化的安定性を調べた結果、[18F]fluoro-[1,2-2H4]cholineは[18F]Fluorocholineに比して高い安定性を示した。そして、いずれのフッ素化コリンもほとんどの臓器に同じように摂取された。また、腫瘍摂取についての時間変化を下記に示す。いずれも[18F]fluoro-[1,2-2H4]cholineが他のフッ素化コリンよりも高い値を示し、60分後の値は非常に高く、生体内での試験に供するに十分価値があることが分かった。
FT6
4、トレーサーの新規製造方法
18F標識化合物の合成は、通常、サイクロトロンを用いて製造した短半減期の放射性同位元素18Fを原料として、自動遠隔操作が可能な合成装置を用いて合成される。近年、18F標識化合物の合成に、反応操作に関して微小な反応流路内で行うマイクロ化学システムを適用した方法が提案されている。4)、5)
本法は、マイクロチップを用いた方法であり、内部に気相の流路を有すると共に、気相の流路の底部に液相を溜めるプール部を有するマイクロチップに液相として18Fイオンを含んだ溶液を導入し、マイクロチップのプール部に毛管力を利用して18Fイオンを含んだ溶液を分散させる工程と、気相の流路に窒素ガスなどを流して、プール部に溜められた18Fイオンを含んだ溶液を蒸発乾固させる工程とを備える方法である。これまでは、マイクロチップ内で蒸発操作を効率良く行うことが実現できていない。ここでは、蒸発操作を含む多段階合成プロセスである18F標識化合物の合成を、効率的なマイクロチップ上の操作として集積化することを課題としている。
模式図を下記に示す。マイクロチップ31は、固相ビーズ充填部32と2つの微細加工溝部33,34、マイクロチャンネル部35より構成される。
FT7
具体的には、サイクロトロンで製造した18Fイオン含有酸素18O濃縮水2mLを導入路37より固相ビーズ充填部32に流し、固相ビーズ充填部32に充填された陰イオン交換樹脂に18Fイオンをトラップさせた。その後、固相ビーズ充填部32に導入路37より0.8mg炭酸カリウム及び4.8mg相間移動触媒クリプタンドを含むアセトニトリル/水(9:1)溶液50μLを流し、18Fイオンを溶離させ、排出路36から導入路38を通して微細加工溝部33に供給した。微細加工溝部33を120ºCに加熱し、導入路38より窒素ガスを流しながら蒸発乾固を行った。蒸発乾固終了後、反応前駆体である2-ブロモエチルトリフレート3μLを含むo-ジクロロベンゼン溶液50μLを導入路38より微細加工溝部33に供給し、100ºCで標識反応を行った。導入路38より窒素ガスを10mL/minで流しながら合成された18F標識フルオロエチルブロミドを蒸留した。蒸留した18F標識フルオロエチルブロミドは、排出路39から導入路42を通り、マイクロチャンネル部35及び微細加工溝部34に供給し、前駆体のL-チロシン及び水酸化ナトリウムを含むDMSO(ジメチルスルホキシド)溶液と接触させ、気液反応を行った。マイクロチャンネル部35及び微細加工溝部34を200ºCに加熱し、導入路42より窒素ガスを流しながら溶媒を留去した。0.15mol/Lりん酸緩衝液を導入路42よりマイクロチャンネル部35及び微細加工溝部34に供給し、排出路41より18F標識FET(フルオロエチルチロシン)を得た。

5、おわりに
18F標識化合物はアミノ酸、コリン、グルコースなどとして、癌診断や脳機能診断に有用な臨床PET診断に今や欠かせないものであり、今後益々その重要性を増していくと考えている。18Fの素性の良いトレーサーとしての特徴とF原子の優れた脂溶性による生体内への効率的な取り込みが相まった結果であり、さらにマイクロチップ法などの有効な合成法の開発も重要である。

文献・特許
1) Hank F. Kung et al Nuclear Medicine and Biology 38(2011) 53-62
2) Johannes Ermert et al Organic & Biomolecular Chemistry 9(2011) 765-769
3) Eric O. Aboagye et al Nuclear Medicine and Biology 38(2011) 39-51
4) JFEエンジニヤリング 特開2010-235462
5) JFEエンジニヤリング 特開2010-260799