Archive for 3月, 2011

「フルオログラフェン」

木曜日, 3月 10th, 2011

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。
http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201102/#topic01

1、はじめに
グラフェンとは下図にそのモデルで示すように、1原子厚さのsp2結合炭素原子のシートで、pz軌道が一つ残った構造になっている。端周辺構造は、Zigzag型の端とArmchair型の端が任意の割合で存在する。このグラフェンは、ホール効果が観測され、ポストシリコン半導体として期待されている。1)

FT1
このシートが積み重なってグラファイトができる。2010年のノーベル物理学賞を、グラフェンの単離に成功した英国マンチェスター大学アンドレ・ガイム教授とコンスタンチン・ノボセロフ教授が受賞したことは記憶に新しい。彼らはグラファイトをセロテープで剥がすという単純な方法で成功した。

2、フルオログラフェン
このグラフェンをフッ素化したフルオログラフェンが注目されている。完全にフッ素化した場合の模型を下図に示す。2) この場合、元のグラフェンの構造は維持され、機械的に強く、化学的・熱的に安定で、2Dテフロンと称される。
FT2
これまで、有機半導体として下記に示すパーフルオロペンタセンやパーフルオロオリゴチオフェンなどがn型半導体として報告されている。
FT3
森らはn型半導体としてフルオログラフェンを検討した。3) Fig.1の1に示す、HBCをフッ素化し、2の6F-HBCとして、Fig.2のOFETに導入し、その特性を検討している。6F-HBCの電子電界効果移動性とon/off比はそれぞれ1.6×10-2cm2/V・sおよび104であった。6F-HBCはHOMOとLUMOレベルの両方を0.5eVだけ低下させ、電極からの電子注入を容易にしている。6F-HBCはFace-to-Face結晶構造で、担体輸送においてより有利である。
FT4
FT5
また、6F-HBCを用いてリチウム二次電池の負極活物質に適用し、黒鉛を用いた場合と比べて、エネルギー密度が高くサイクル特性が同等又は向上することを見出している。4)
バルクグラフェンでは量子ホール効果が観測されたが、普通の半導体と異なり、ゼロギャップ半導体あるいは半金属であるため、トランジスタ素子のチャネル物質などにはそのまま適用できない。そこで、グラフェン試料を微細化して電子閉じ込め効果を起こさせバンドギャップが形成できるナノグラフェンが取り上げられ、その応用面での研究が行われてきた。榎らは、そのナノグラフェンのフッ素化についての研究を行っている。1) 下図に示すように、ナノグラフェンにフッ素を導入すると、まず解離したフッ素ラジカルがより反応性の高い端の炭素原子にアタックし、フッ素化され、フッ素濃度で0<F/C<0.4の領域がナノグラフェンの端がフッ素化される領域であるとしている。そして、0.4<F/Cの領域ではナノグラフェン内部の炭素原子へのフッ素付加反応が進行するが、その場合、フッ素との化学結合の形成によりナノグラフェンのsp2炭素はsp3炭素へと変換されるため、sp2炭素のpz軌道の配列構造が変化する。
FT6
このことは、下図の上の図に示すように磁化率の挙動に反映される。まず、局在スピン濃度NsはF/C~0.4までは単調な現象を示す。つまり端の炭素がフッ素化されると、エッジ状態に由来する局在スピンはフッ素の導入とともに消滅してゆく(0<F/C<0.4)。これは端の部位に電気陰性度の高いフッ素が結合することにより、平坦バンドであったエッジ状態がエネルギー的に大きな分散を持つようになり、スピン分極したサブバンドの占有数の差が小さくなることに由来して、系全体がもつトータルの磁化の大きさが減少してしまうものと理解される。一方、ナノグラフェン内部に付加したフッ素は、面内炭素間のπ結合を破壊し、フッ素原子が付加した炭素に隣接する炭素原子にはダングリングボンドが形成される(上図(b))。実際、フッ素濃度がF/C~0.4を超えると、スピン濃度は急激に増加し、F/C~0.8で極大となった後減少し、F/C~1.2で完全にスピンは消失する。これは、ダングリングボンド自身もフッ素付加により失活していくため(上図(c))、急激に増加した後、再び減少するという特異的な挙動が現れる。下図の下の図は磁化過程の測定から求めた分子場係数のフッ素濃度依存性である。分子場係数は、スピン間に働く平均的な交換相互作用の大きさを表している。従って、(0<F/C<0.4)ではスピン間に有限の交換相互作用が働いており、フッ素の導入とともに相互作用は減少するが、F/C~0.4以上の領域では観測されているスピン種は孤立した性質を持っており、エッジ状態由来のスピンとは異なるものであることが分かった。ナノグラフェンが完全にフッ素化されたF/C~1.2の状態では、ダングリングボンド由来の局在スピンも完全に消失する。
FT7
D.W. Boukhvalovは、グラフェンの片側をフッ素化すると安定性が増大し、常磁性から反磁性に変化することを見出している。5) 

3、おわりに
グラフェンをフッ素化したフルオログラフェンを紹介した。グラフェンを安定化し、特異な電気特性と磁気特性を示すことが見出されており、今後エレクトロニクスや磁気エレクトロニクスの分野での応用展開が期待される。

参考文献
1) 榎敏明他 Netsu Sokutei 36(3) 173 2009
2) http://www.manchester.ac.Uk/
3) Takahiko Mori et al Organic Electronics 9(2008) 328
4) 豊田中央研究所 特開2009-151956
5) D.W. Boukhvalov Physica E 43(2010) 199