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電解液に使用されるフッ素化合物

火曜日, 1月 11th, 2011

最新フッ素関連トピックス」はダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介しています。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201012/

1、はじめに
化石燃料を補完し代替していく新エネルギーは環境問題を克服する点でも注目されている。その中でリチウム二次電池は携帯電話、パソコンなどのモバイル機器の電源として大きな市場を有し、今後の伸長が期待されている。また電気二重層キャパシタもバックアップ電源などに市場を有している。さらに、低コストタイプの色素増感型太陽電池が注目を浴びている。こうした新エネルギーの電解液における、電解質、溶媒、添加剤などとしてフッ素化合物が広く使われている。ここでは、それらを概観し、最新の技術を紹介していく。

2、電解質
リチウム二次電池の電解質としては下表のフッ素化合物が使われている。
FT1
この中で、イオン伝導性の高いLiPF6が大半を占める。その他は、LiPF6の加水分解性を改良したものである。また、同じ理由でLi(CF3)3F3も提案されている。
最近、イオン液体をリチウムイオン電解質として用いることが盛んに検討されている。最大の理由は、イオン液体が溶媒の役割も演じ、その難燃性、低揮発性、熱的安定性故に高い安全性が期待されるからである。
まずは、リチウム二次電池電解質としてのイオン液体の可能性を述べた文献を紹介する。1) この場合、イオン液体に求められている条件は、電位窓が広いこと、粘性が低いこと、さらに低温でも使用できるように融点が低いことが挙げられる。下図に、イオン液体、EMI+とPP13+のTFSA-塩について、電位窓のデータを示す。PP13+のような脂肪族四級アンモニウム塩系イオン液体の方が広い電位窓が得られた。また、サイクル劣化も低いことが分かった。
FT2
粘性について、DEME+系でアニオンの影響を調べた結果を下図に示す。
FT3
FT4
図からアニオンの大きさが小さくなると粘性は低下するが、100Å3より小さくなると逆に粘性が著しく増大することが分かる。
融点については、アニオンのファンデルワールス体積が大きくなるほど低下する。また、カチオンの種類の影響を受ける。
また、イオン液体の還元分解電位がリチウムイオン挿入/脱離の電位に比べて高いため、負極特性が低いという課題がある。Vinylene carbonateなどの有機溶媒を添加して、リチウムイオンのグラファイト負極への可逆的な挿入・脱離を図り、成功したが、有機添加物の還元分解により固体界面層(SEI)が形成され、電極/電解質界面抵抗が増加してしまうケースがほとんどである。従って、イオン液体の使用は実用化されるまでには至っていない。石川らは、有機溶媒の添加なしでグラファイトに対してリチウムイオンを可逆的に挿入/脱離させることが可能であるあることを報告している。2) この論文で、リチウムイオンを可逆的に挿入/脱離できるイオン液体は下記のbis(fluorosulfonyl)imide(FSI)をアニオンとするものであることを結論付けている。このうちEMI+FSI-は粘度が17.9mPa s、融点が-27.4℃と低く、高いイオン伝導率を示すことがわかった。
FT5
EMI系は先にも述べたように電位窓が十分広いとはいえない。従って、実用化までには至っていないが、上記の知見をベースに今後ブレークスルーが期待されている。
また、上図のイオン液体[1]のDEMEBF4を電解質として用いた電気二重層キャパシタを開発し、低内部抵抗と高定格電圧を実現した報告がなされている。3

3、電解液溶媒・添加剤
電解液の難燃性を向上させるためにフルオロエーテルを電解液溶媒として用いる検討がなされている。フルオロエーテルのフッ素含有量を一定以上にすると引火点がなくなるが、LiPF6や電解液溶媒として用いる環状カーボネートと相溶性が低いという課題があった。高らは表面張力を高めると相溶性が高まることを見出し、HCF2CF2CH2OCF2CClFHを溶媒として用いた電解液を提案している。4)、5) 大月らは、(NPFR)n の含フッ素ホスファゼン化合物の添加による電解液の不燃化技術を開発した。6) nが3で、Rがメトキシ基の場合、5~10%添加することで電解液を不燃化でき、電池性能も大きく損なわないとのことである。
宇恵らは、モノフッ素化エチルアセテート、ジフッ素化3-メチル-2-オキサゾリジノン(DFNMOmix)、部分フッ素化メチルプロピルカーボネートのリチウム電池への適用について報告している。
まずは、モノフッ素化エチルアセテートについては、Fの位置の異なる2-フルオロエチルアセテート(2FEA)とエチルフルオロアセテート(FEA)と非フッ素系のエチルアセテート(EA)およびエチルメチルカーボネートと比較している。2FEAとEFAはイオン伝導度が非フッ素系より高く、正極での安定性も高かった。エチレンカーボネート(EC)と等量で混合した場合、リチウム正極でのサイクル特性において2FEA系が最も高い性能を示した。
次いで、DFNMOmixは、4,4′-DFNMOと4,5-DFNMOが3:7の比率の混合物であり、NMOを直接フッ素化して得られた。NMO に比して誘電率とイオン伝導率は低下し、粘度および正極での安定性は増大した。DFNMOmixとECを1:1に混合した系では、電池容量の低下が抑制できた。
また、フッ素化メチルカーボネートであるが、合成は4種類のフルオロプロパノールとメチルクロロカーボネートとの反応により行った。(Scheme 1)フッ素の数が増すにつれて誘電率は高くなる。粘度はPFPMCが他のフッ素化MCよりも低かった。Fig.9に示すように50回のサイクルにおける放電容量はフッ素化
FT6
PMCの方が高く、フッ素の数はあまり影響がなかった。
FT7
ポーランドのZukowskaらは、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(TPFDP)をEC、DMCがあるいはポリエチレンオキサイドジメチルエーテル(PEODME)とリチウムトリフルオロメタンスルホネート電解液に添加したときの効果を報告している。7) まず、TPFDPはECやDMCあるいはPEODMCとの相溶性が高かった。また、伝導度やリチウムイオン輸率も変わらなかった。さらに、TPFDP自身も電解質も分解せず、安定性も高かった。これはTPFDPがアニオンを捕集するためと考えられた。

4、おわりに
主にリチウム電池の電解液として使用されてる、あるいは提案されているフッ素系化合物の最近の状況を概観した。電解質として、溶媒として、あるいは電解液の安定性、安全性を付与する添加剤として、今やフッ素はなくてはならない存在であることを示すことが出来た。今後は、HEVあるいはEVの補助電源や電源として益々重要性が高まることは必須であり、更なる性能向上を目指した開発の中でフッ素の役割は大きいと期待している。

文献・特許
1) 松本一 科学と工業83(11) 515 2009
2) 石川正司 MATERIAL STAGE 10(2) 87 2010
3) 増田現、中村明彦 科学と工業83(11) 522 2009
4) 高明天 MATERIAL STAGE 10(2) 80 2010
5) ダイキン工業 特開2010-10078
6) 大月正珠 MATERIAL STAGE 10(2) 83 2010
7) ブリヂストン 特許4458841 2010
8) Makoto Ue et al Electrochemistry 78(5) 446、450、467 2010
9) Grazyna Z. Zukowska et al Journal of Power Sources 195(2010) 7506