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フッ素系芳香族ポリマー

水曜日, 10月 6th, 2010

最新フッ素関連トピックス」は9月号からダイキン工業株式会社ファインケミカル部のご好意により、ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容を紹介することにしました。ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。尚、WEBマガジンのURLは下記の通りです。

http://www.daikin.co.jp/chm/products/fine/backnum/201009/」

今月のトピックスは「フッ素系芳香族ポリマー」である。
1、はじめに
フッ素樹脂といえば、テトラフルオロエチレンTFEのホモポリマーPTFEおよびTFEとフッ素系モノマー、炭化水素系モノマーとの共重合体が主流であり、耐熱性、耐薬品性、耐候性、低表面張力、電気絶縁性、低誘電率など優れた特徴を有する。その特徴を活かして、エレクトロニクス、オプトエレクトロニクス、工業・自動車分野、ライフサイエンスなどに広く利用されている。これらフッ素樹脂の共通して足りないところは高Tg性であろう。
 ここでは、高Tgのポリイミドやポリアリレンエーテルなど芳香族ポリマーにCF3基を導入した高機能ポリマーについて、インドのSusanta BanerjeeらがProgress in Polymer Scienceに興味深い総説を書いているので概説する。1)。
2、CF3基含有ポリアリレンエーテル、ポリイミド
 CF3基導入により、嵩高いCF3基がポリマーの鎖パッキングを乱し、電子状態を変えることにより、溶解性、耐熱性、光透過性、難燃性が増大する、結晶性、誘電率、吸水性などが低下する、ガス透過性や電気絶縁性などが付与できる、などの機能が得られる。
 Table1にCF3基を導入したポリアリレンエーテルとポリイミドの例を示す。これはほんの一例で、他にも夥しいCF3基含有ポリマーが知られていることを付け加えておく。
 ポリアリレンエーテルは、優れた熱的・機械的特性を有する。合成法をFig.1に示す。CF3基は、極性基を持たないポリアリレンエーテルにおいて、オルト位、パラ位に存在するとSNAr反応の脱離基(Fig.1ではニトロ基、OH基)を活性化し、温和な条件で合成できる。同様にFig.2に示す脱離基がFとOHの組み合わせによる重合反応の場合も同様である。Fig.3に示す連鎖角を変えたAr部位によりTgが異なり、連鎖角が大きいほどTgは高くなる傾向にある。Table2にその例を示す。
 応用としては、ガス分離膜、光学・エレクトロニクスデバイスなどに展開されている。 
 ガス分離膜ではTable2の8と11の構造のポリマーが高いガス透過性を示した。また、CO2/CH4、O2/N2、He/N2、H2/CH4のガス透過係数と選択性については6~8のピリジンの方が9~11のチオフェンよりも高いというデータが示されている。
 光学・エレクトロニクスデバイスとしては、含フッ素ポリアリールエーテルスルホン(PAES)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)がかなり検討されている。ポリアリレンエーテルの場合は、フッ素含有量を増大させることが検討され、例えばFig.4(ⅰ)に示すポリマーが提案されている。また、Fig.4(ⅱ)に示す高フッ素含有量で架橋できるポリマーも提案され、光導波路として有望と述べている。
 その他、スルホン酸基を導入したポリマーを燃料電池PEMFCの固体電解質として展開すると高耐熱性、ガスの低透過性においてパーフルオロポリマーを凌駕できるとしている。
 また、ハイパーブランチポリマーや、ブロックポリマーについても言及している。 
FT1
FT2
FT3
FT4
FT5
FT6
 含フッ素ポリイミドについては、本メールマガジンでも取り上げている(2008年11月、2009年6月)ので簡単に紹介する。
 まず、ポリイミドにフッ素を導入するメリットとして、近年では、無色、低誘電率、低吸水性で溶媒に溶解可能なことが評価されている。これはC-F結合の低分極率、自由体積の増大による。そして、構造としてはFig.5に一例を示す含フッ素ポリエーテルイミド誘導体への関心がその低溶融粘度、高溶解性、高光透過度故に高い。また、フレキシブルなシロキサン成分を導入した系も高溶解度、柔軟性、加工性故に盛んに開発されている。さらに、高溶解性、高加工性のハイパーブランチポリイミドも注目されている。
FT7
 応用展開では、ガス分離膜と燃料電池の電解質膜が取り上げられている。
 CF3基導入により、耐熱・耐薬品性に加えて溶解性が改善され、ガス分離膜として有利になった。CO2/CH4分離膜においては下記に示すポリエーテルイミドタイプでArとして6FDAを含むものが透過係数57.45barrer、選択性35.46の高い値を示した。
FT8
燃料電池の電解質膜としては、パーフルオロスルホン酸系の課題である、高コスト、高ガス透過性そして低耐熱性を上記のポリアリレンエーテル系同様克服できるとして下図の構造などが提案されている。
FT9
3、フッ素系芳香族ポリマー2010年特許
 2010年に公開されたフッ素系芳香族ポリマーを以下にまとめてみた。
 三星電子は下図の含フッ素ハイパーブランチポリマーを提案し、HPEとHPEFを用いて燃料電池の触媒層、無加湿電解質膜としての特性を評価した。その結果、触媒層としては、Ptの使用を低減でき、電解質膜としては、燐酸を多量に取り込むことができ、無加湿の条件で運転可能であることを確認できた。2)
FT10
 電子写真用定着部材に含フッ素ポリイミドを用い、耐摩耗性と離型性を付与する提案がなされている。3)、4) 例えば、ゼロックスは下記のポリマーを提案している。
FT11
光導波路用材料として、耐熱性、耐湿性に優れ、かつ光通信波長帯(1.3~1.6μm)において非常に高い透明性を有するフッ素化ポリイミドが知られている。日立化成工業は、光増幅効率が高い下記に示すフッ素化ポリイミド前駆体のワニスに、光ドーピング用材料としての希土類金属、特にエルビウムを高濃度で添加し、且つ増感剤としてイッテルビウムを適量共添加して、透明な薄膜を作製し、これを用いた光導波路アンプを提案している。5)
FT12
4、おわりに
 以上、フッ素系芳香族ポリマーは含フッ素ポリイミドを中心にかなり以前から開発されてきており、光導波路やガス分離膜などへ展開されている。近年、ここで紹介したポリアリレンエーテルへのフッ素の導入が盛んに行われており、大きな分野を築きつつある。含フッ素ポリイミドも含めて、用途により利用する特徴は異なるが、従来のTFEをベースとするフッ素樹脂とは異なる特徴を有しており、その動向はこれからも目を離せないと感じている。

文献・特許
1)Susanta Banerjee et al  Progress in Polymer Science 35(2010) 1022-1077
2)三星電子 特開2010-144171
3)富士ゼロックス 特開2010-151969
4)ゼロックス 特開2010-92408、92409
5)日立化成工業 特開2010-27653