Archive for 6月, 2010

2、エレクトロニクス

木曜日, 6月 24th, 2010

2-2 フラットパネルディスプレイ(FPD)
2-2-3 指紋付着防止加工技術1)
1)フッ素系防汚コーティング
 フッ素の数ある特徴の中で、魅力的なものの一つとしてモノをくっつけない性質がある。特に基材の表面に処理すると水や油を撥き、汚れを防止する性質は繊維用撥水撥油剤、SR加工剤、紙用耐油剤、インテリア用防汚加工剤、撥水ガラス、防汚塗料など広く利用されている。
 フッ素系防汚コーティングは、水や油、さらにはドライな汚れ(ソイル)を付着させないことを目的とする。
 まず撥水性は、水より表面エネルギーの低い表面を形成させれば達成できる。従って、ハイドロカーボン鎖を表面に並べてもそれは達成できる。但し、撥く力は弱い。ジメチルシリコーン系ポリマーを表面に処理すると水を撥く力は増大するが、一般にかなりの量をコーティングしないと性能を発揮できない。フッ素の場合は、理想的には単分子層が表面に並べば高い撥水性を得ることが出来るので、少量で済む。繊維処理の場合、繊維の風合いなどを損なわないと言う点でフッ素系は優れている。
 次いで撥油性は、油の表面張力より低い表面を形成させないと達成できない。従って、フッ素の独壇場である。
 そして、ドライなソイルを付着させないためには、水や油を撥く以外に非粘着性が必要である。つまり、表面がいわゆるタッキーネスがあるとどんなに表面エネルギーが下がっていてもソイルは物理的に付着してしまう。
結論として、フッ素系防汚コーテイング剤は撥水撥油性に非粘着性を加味したものでなければならない。
2)フッ素系指紋付着防止技術
 フッ素系指紋付着防止技術は、上記のフッ素系防汚加工剤の応用技術と言っても過言ではない。つまり、撥水撥油性とドライソイル性は必要条件であり、指紋のつきにくさにつながる。さらに十分条件として指紋のふき取り性と機能の持続性(耐久性)が加わる。
2-1) 性能評価法
 指紋付着防止加工剤の場合、撥水性の評価は処理表面に水滴を載せ,その接触角を測定している。また、処理板に水滴を載せて傾けていった時、水滴が滑り落ち始める角度を測定する方法も採られている(転落角)。この場合、角度が小さいほど撥水性は高い。
 撥油性は、指紋防止加工剤の場合、オレイン酸やヘキサデカンなどの油滴加工表面に載せ、その接触角を測定するのが一般的である。また、撥水性同様、油滴の転落角を測定する方法も行われている。
 また、実際に指紋を付着させて、その付き具合や取れやすさを視認性により評価することも行われている。
 耐久性については、耐摩耗性はテーバー摩耗試験やスチルウール試験さらにはネル布などによる摩擦などが行われている。また、耐候性はサンシャイン・ウェザーメータ試験が一般的である。
 ダイキン工業2)3)4)、信越化学5)6)7)、旭硝子8)9)10)などは指紋防止加工剤の特許を出願しているが、その実施例から性能評価基準をまとめてみると、水の接触角は105度以上、オレイン酸・ヘキサデカンの接触角70度以上、転落角は水やヘキサデカンにおいて10度以下と言うのが高性能の目安である。また、指紋の付着防止性は表面硬度も大きな要素であり、一般には鉛筆硬度3H以上は必要とされている。指紋のふき取り性は、ティッシュなどを使用、目視でほとんど見えない状態を合格としている。耐久性については各社それぞれに評価基準を設けているようである。耐摩耗性は表面硬度の影響を受け、この場合も鉛筆硬度で3H以上は必要とされている。ガラス表面では達成しやすいが、PETフィルムなどではハードコートが必須である。また、表面潤滑性が重要である。この性能は指紋のふき取りやすさにも大きな影響を与えているようだ。
2-2)指紋付着防止加工剤
 上記特許から、フッ素系指紋付着防止加工剤の構造が推定できる。1)で述べたフッ素防汚コーティング剤はC6以上のパーフルオロアルキル基が用いられてきたが、指紋付着防汚加工剤の場合、パーフルオロポリエーテル基が用いられている。それは水や油の転落角が低いことと、表面潤滑性を発揮できるからと考える。また、架橋させて表面硬度を上げる必要があり、メトキシシランなどのシラン基が必須である。
パーフルオロポリエーテル基としては図1の構造が特許には例示されている。5)  
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図1 指紋付着防止加工剤の構造
 最近の文献で、渕田は、フッ素系樹脂に特殊フィラーを添加して、凹凸面を作り、接触面積を小さくすることを提案していて、指紋が付着しにくくふき取りやすいとしている。11) また、板倉は、「フッ素系シランカップリング剤が提案されているが、両末端がアルコキシシラン系の方が片末端のそれより耐摩耗性が高い。表面を凹凸にすると指紋がつきにくくなる。さらに、光触媒により指紋を分解する方式が提案され、その際、球状シリカを分散、表面凹部に光触媒を埋め込めば効果的で、バインダーとしてフッ素系が提案されている。」と述べている。12) さらにDICの特許では、多官能(メタ)アクリレート系化合物とフッ化ビニリデン系樹脂とを含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が提案され、高い硬度を有し、透明性に優れ、また、付着した指紋が目立ちにくく、かつ、付着した指紋が拭取りやすいとしている。13) フッ素系シランカップリング剤の両末端と片末端の違いについては表1に摩擦係数と水の接触角、図2にはスチールウール摩耗試験後で、200g荷重をかけたスチールウールで走行させたときの摩耗するまでの走行回数をまとめてある。両末端のものは接触角は多少低いが、摩擦係数は低く、耐摩耗性が優れていることが分かる。耐摩耗性の両末端の優位性は60℃で相対湿度95%、48時間熱試験後でも保たれる。つまり耐久性も優れている。14)

表1 両末端と片末端アルコキシシランの接触角と摩擦係数
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図2 両末端と片末端アルコキシシランの耐摩耗性

2-3)指紋付着防止加工技術
 上記の指紋付着防止加工剤を用いて基材表面に塗膜を形成する方法について述べる。大別して薄膜コーティング法と練り込み法に分けられる。
2-3-1)薄膜コーティング法
薄膜コーティング法は、加工液を基材表面に塗布して塗膜を形成させる方法で、スピンコーティング法、フローコート法、スプレー法、ロールコートあるいはダイコート法、インクジェット法、ディッピング法、蒸着法、メッキ法などがあり、用途に応じて使い分けられている。
 指紋付着防止加工の場合は、ディッピング法、蒸着法、フローコート法などが使用されている。
 薄膜コーティング法では、0.1%程度の固形分濃度のフッ素系溶液で加工することが一般的である。例えば、ガラス板に0.1%固形分濃度でディッピング処理したとき、目視で指紋の付着防止性能とふき取り性において良好な評価が得られ、さらに水の接触角110度以上、水の転落角15度以下、ヘキサデカンの転落角5度以下が得られている。さらにネル布を用いての10,000回摩擦後も水の接触角105度以上、耐候性試験後も110度の接触角が保持されているとの報告がある。15)
2-3-2)練り込み法
 練り込み法は、基材やハードコート、プライマーなどに加工剤を添加し、処理後に加工剤が表面に移行して塗膜を形成する方法である。加工剤への要求特性としては、添加する母体との相溶性と表面への移行性が重要である。
 練り込み法については、その原理の模式図を図3に示す。16) 加工剤をハードコート剤などと混合した際は、均一に分散されているが、コーティング後は表面に移行してくる。指紋付着防止加工剤の場合、加工剤は分子内にパーフルオロポリエーテル基のほかにUV架橋部位を含み、表面に移行後UV硬化により固定化される。15)パーフルオロポリエーテル基は表面への移行性を高める機能も有する。また、ハードコート剤と混合した際、均一に溶解することが重要で、ハードコート剤との相溶性基が必須である。さらに移行性を高めるために分子量も余り高くないことが必要であり、低分子あるいはオリゴマーが望ましい。
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図3 練り込み法の原理図 

 表面にパーフルオロポリエーテル基が固定されることにより、薄膜コーティングと同様の性能が発揮されるが、実際には薄膜コーティング法の方が性能が高いようである。
3) 非フッ素系との比較
 非フッ素系指紋付着防止加工剤は、付着する指紋を撥くのではなく、溶かし込んで指紋が目立たなくなることを狙っている。模式図を図4に示す。左が非フッ素系加工剤を処理した層での指紋の付着状況だが、指紋を撥くのではなく層の中に溶け込んでいく様子が分かる。17)
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図4 非フッ素系、フッ素系加工剤処理層の指紋付着状態
4) おわりに
 タッチパネルなどの指紋付着防止技術は、現在、初期、耐久性を含めて性能はかなりのレベルまで来ている。フッ素系と非フッ素系があるが、非フッ素系の場合、指紋を加工剤に溶かし込んで見えにくくする方法なので、耐久性という面では指紋を撥いてしまうフッ素系の方が有利と考えている。フッ素系の場合、指紋が付着したとき、見えにくくすること、つまりより強烈に撥くことが今後の課題といえる。
 
参考文献特許
1) 「耐指紋・耐擦傷性の付与と防汚技術」 2010年7月刊行 技術情報協会
2)ダイキン工業 特開平9-157582
3)ダイキン工業 特開11-217558
4)ダイキン工業 特開2000-144097
5)信越化学工業 特開2005-290323
6)信越化学工業 特開2007-145884
7)信越化学工業 特開2008-156454
8)旭硝子 特開2005-54029
9)旭硝子 特開2008-88323
10)旭硝子 特開2006-124417
11)渕田 貴昭 Origin Technical Journal No72 2009 Ⅲ4
12)板倉 義雄 MATERIAL STAGE 9(6) 88 2009
13)DIC 特開2009-263409
14)最新タッチパネル技術 技術情報協会 2009年3月発刊 p167,168
15)伊丹 康雄 MATERIAL STAGE 7(5) 40 2008
16)チバ・スペシャリティ・ケミカルズ 加工技術39(9)567 2004
17)疋田 真也 MATERIAL STAGE 7(5) 48 2008